【私立パラの丸高校 ヒーローアカデミア編】 作: 燃える空の色
黒く染まった夜空を押し退けるように、東の空が赤く滲む。暗闇を払うような朝焼けの光に照らされ、ひかるはゆっくりと布団から身を起こした。
しょぼしょぼと目を窄め、ちかちかと緩慢に明滅しながら、ベット上のどこかに置かれているはずのスマホを手探りで探す。
枕の下に潜んでいたスマホを手に取って見てみれば、そこには無数の通知と着信履歴が見て取れた。
「……」
少し躊躇った後、ひかるは折り返しの発信ボタンを押す。数回のコールを経て、耳を劈くような声が飛び込んできた。
『おっはよー!!!!ひかる!!!!!!』
「うるさっ……」
思わず耳を塞ぎ、布団に潜り込みたくなる。
早朝とは思えない大音量に劈かれ、ひかるは咄嗟に耳を塞いで文句を垂れるが、声の主――黒井は気にする様子もなく続ける。
「こんな朝からなんなの?暇なの?」
『いやいやいや!え!?ひかる、今日が何の日か覚えてないの!?』
「別に覚えてるけど…」
視線を横にずらし、壁に掛かったカレンダーを見る。そこに赤いマーカーで大きく書かれた文字を、ひかるは小さく読み上げた。
「『────雄英体育祭!!!』…だろ?」
『そう!うわ〜!!なんか、今から緊張してきた!!』
「忙しなさ過ぎだろ…てかもしかして、それが理由で電話かけてきたの?」
『あ、バレた? ……その、もしかしてさ〜?ひかるも楽しみすぎて眠れなかったりしたんじゃないかなーって』
「遠足前の小学生かよ。って、も?…まさか」
『……えへへ』
「……嘘だろ」
呆れたように息を吐くと、今度は『ごめんひかる…迷惑だった?』と情けない声が聞こえる。
対し再び息をついて、実直な言葉をかける。
「別に怒ってるわけじゃ…ていうか、お前の方こそ、準備とか色々大丈夫なの?」
『あ、うん!もう支度は終わって、今、ひかるの家の前で待ってるよ!!』
「…ハァ!?」
咄嗟にカーテンを開け、窓の下を覗くと、確かに家の前に黒井がいた。
こちらの視線に気づくと、ニコニコと満面の笑みを浮かべて手を振る黒井に、頭痛がある訳でもないのに頭を抱えてしまう。
「あーもう、ちょっと待ってろ!」
『わかった!』
プツリと電話が切れる音がして、誰の声も聞こえなくなった部屋の中、ひかるは思わず項垂れた。
とりあえず、急ぎで身支度を整えなければ。
ベットから降り、のそりのそりと服を着替え、ひかるは支度を開始した。
◇
ひかるが凡その支度を終え、靴を履きながら玄関に向かう。
しかし、背後から声がかかった。
「光、もう行くの?」
「姉ちゃん…」
振り返れば、腰に手を当てた女性が立っている。ひかるによく似た顔立ちの姉――多々美春だ
「なんか、黒井がもう来てるらしくて…」
「ふーん。相変わらず仲良いんだねー、あんたら」
半ば呆れたようにそう言う姉の姿に、ひかるは誤魔化すよう顔を逸らす。
そんなひかるに、美春は僅かに口端を緩め、その背中を押すように優しく手を振った。
「まぁ…それじゃ、行ってきます」
「行ってらっしゃい。雄英体育祭、テレビで見てるから」
その背を見送り、バタン、と扉が閉じる。
誰もいなくなった玄関で、美春は「んーっ!」と伸びをして、暫くゆっくりしようとソファへと歩き出したその時。
「あれ…こんな時間に電話?ひかるが忘れ物でもしたのかな?にしては早い気も…」
ポケットにしまってあるスマホが聞き馴染みのある音を鳴らし、誰かが自身を呼ぶ声の代わりとなって響き渡る。
誰だろうか、軽い気持ちで取り出した画面に表示された名前に、美春の足が止まる。
「…お父さん…?」
驚きに眉を寄せ、通話ボタンを押す。すぐに、懐かしい声が耳を打った。
『―――もしもし。久しぶりだな、美春』
長らく音沙汰のなかった父の声が、朝の静けさを切り裂いた。