【私立パラの丸高校 ヒーローアカデミア編】   作: 燃える空の色

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20.雄英体育祭第一種目 前編

 

 

「って、狭っ……!?」

 

 雄英体育祭――第一種目、障害物競走。

 ミッドナイトの合図とともに生徒たちが一斉に走り出したはいいものの、生徒の数に対して入口はあまりにも狭すぎた。押し合いへし合い、まるで満員電車のようにひしめき合う生徒たち。

 

「ってことは〜」

「ここが最初の――」

「――ふるい、ってことか……!!」

 

 数名がその事実に気づいた瞬間、場の空気が一変し、ピリリと張りつめる。

 

「ぴかるん、ジャンプ!」

「うわっ……!」

 

 次の瞬間、地面を伝って氷結の波が広がった。

 咄嗟に反応できなかった生徒たちの足は瞬く間に氷のブーツに閉じ込められていく。

 

「うわ寒〜。え、ぴかるん大丈夫そ?」

「気温差えぐ〜」

「あ、うん。助かったわ……ありがとう」

 

 当然のように冷気を避けたのは見里と平。ひかるも寒さに震えながら、間一髪で氷漬けを免れる。だが辺りは一面の氷景色。犠牲となった生徒の数は多く、大胆な妨害と言えた。

 

「えーやば。えてかこれ誰の"個性”?」

「ウチのクラスじゃないよね」

 

 一体誰の仕業か、二人の疑問からひかるも考えてみるが、少なくともC組にそんな"個性”の持ち主はいないし、他のクラスだとそもそも"個性”をそこまで把握していない―――否。

 そういえば、一人だけ心当たりがある。

 ここまで強力な氷系の個性”をもつ生徒の希少性を考慮すれば、恐らく間違いなく、

 

 

「多分、A組の…轟、だと思う」

「あー、あの紅白イケメンくんかー」

「めっちゃビジュいいよね。えー、"個性”まで鬼強いとかチートやん」

 

 

 度々黒井や闇川の話題にも上がる、一年A組でもトップクラスの実力を誇る生徒。

 ひかる自身が彼と対面した経験はないが、以前、USJの時に遠目だが彼が脳無を氷漬けにしたのを見ている。

 それだけでなく、いつぞやの実践訓練の時に彼が対戦相手を建物丸ごと凍らせて封殺したとも聞いた。

 そんな彼であれば、これだけの人数を一瞬で足止めすることなど容易いことだろう。

 

 

「えてか待って、めっちゃ寒いんだけど」

「でもさっきまで暑かったし、むしろいい感じじゃね?」

「あー確かに?いやでもやっぱ寒いわ」

「よくそんな余裕そうに話せるな…」

 

 凍結を避けても、寒気は肌を刺し続ける。足元の氷は滑りやすく、危うくバランスを崩したひかるは――

 

「寒っ……!」

 

 そのまま勢いよく尻もちをついた。

 冷気と痛みに体が震え、その震えに呼応するように仄かな光がひかるの体から漏れ出す。ほのかな温かみを帯びた光に包まれ、寒さは幾分和らいだが、

 

「あ、おい! こいつの周りちょっと暖かいぞ!」

「ほんとだ、暖かい!なんか眩しいけど…!」

 

 瞬く間に周囲の生徒たちが群がってきた。

 ――お前らは虫か。じゃあ俺は誘虫灯か。

 現実逃避のように、ひかるの頭にツッコミがこだまする。

 

「ぴかるんめちゃ人気やん(笑)」「夏の夜のコンビニみたい(笑)」

「いや、ちょ、助けっ…!!」

 

 ギャル二人は面白がって眺めるばかり。集まった人波にもみくちゃにされ、ひかるは半ば意識が飛びそうになる。

 そんな時――

 

 

『おおッとォ!?ここでA組黒井、首位独走中の轟に迫るゥッ!!?』

『こんな序盤で対戦していいようなカードじゃねぇが、まぁ面白くはなるだろう。 だが、これじゃ周囲のやつらも迂闊に近づけないな』

 

 

 突如響いた轟音とともに教師たちの実況が飛び込んできた。

 ひかるたちがグズグズしてる間にも、続々と進んで行った前方集団の中に黒井の影もあったようで。

 巨大な氷塊がブラックホールによって粉砕され、呑み込まれていく光景がいやでも目に付いた。

 

「黒井のやつ、もうあんな前に行ってんのか……」

 

 のんびり構えていた自分たちとは対照的に、A組を筆頭とした先頭集団は遥か先へ進んでいる。

 しかし、それはある種当然とも言える事実。

 ここは雄英高校――トップヒーローを志す者たちの戦場。そしてなにより、ひかる自身もまた、普通科の身でありながらその中で一位を狙っているのだから、こんな所で立ち止まってはいられない。

 

「先行ってる!」

 

 光を収め、ひかるは人だかりを掻き分けて走り出す。

 

「ぴかるんやる気じゃん」

「負けてられんね」

 

 その背中を追うように、見里と平も薄い氷上に足を踏み出した。

 雄英体育祭は、まだ始まったばかり。

 一回戦で敗退なんて、そんなつまらないことはごめんだ。それに、勝負事には全力で取り組むのが筋というもの。

 普段なら汗をかきたくないからと言って避ける走行も、二人は甘んじて受けいれることにした。

 

 

 

 

 

 轟の背を追うA組を中心とした生徒たちと、逆に氷漬けにされ足止めをくらった生徒たちで二分化されている中。

 黒井は背後を何度も振り返りながら、他の生徒と同じように轟の後を追っていた。

 

「ひかる、大丈夫かな……?」

 

 その思慮の先にあるのは、恐らく轟の氷に巻き込まれたせいか、轟を追う前方集団の中に姿のないひかるの事だった。

 

 

「うーん、ひかるもすぐに追ってくると思ったんだけど…」

 

 何度振り返ってみても、黒井の後ろにいるのは敵意に溢れた同じクラスの生徒がほとんど。

 中には他クラスの生徒もそれなりにいるが、やはりひかるの姿はない。

 もしかすれば、轟の氷に巻き込まれたか、あるいは別の障害によって足止めされているのかもしれない。

 

 

「――――"超重力天体(ブラックホール)”展開、対象:氷結!!」

 

 黒井が腕を振るう―――前方にブラックホールが発生。同時に、何かが砕け散る音が響く。

 

「さっきからしつこいよ〜」

 

 考えながらも走る黒井の元に、先程から連続して襲いかかってくる地を這う冷気。

 それらを片手間に吸い込みつつ、先程からちょくちょく妨害を挟んでくる轟をどうしたものかと思案が続く。

 

「ひかるが来るまでここでみんなを足止めしてた方がいいのかな? でもあんまりやりすぎると後々大変になっちゃうし…うーん」

 

 第一種目、とあるのだから当然二種目三種目もあるわけで。そして例年の雄英体育祭の傾向から、その中のひとつ―――場合によっては次の種目で、バトルロイヤル染みた競技がある可能性が高いのではないかと考えている。

 それが純粋なバトルであるならともかく、例えば妨害アリの競技性だった場合、敵を多く作ってしまっては非常に不利となる。

 それも考慮すれば、ここで大きく妨害に出るというのはあまり得策とは言いがたかった。

 

「とりあえず、ひかると合流してから考えよっと」

 

 その為には、まずひかるが前に出てきてくれなくてはならない――――別に、ひかるのことを信用していないわけではないし、ある程度の困難なら自力で乗り越えられるだろうが――――それでもやはり心配が勝つ。

 黒井が何度も何度もチラチラと不安げに後ろを確認していると、

 

 

「他人の心配なんて、余裕そうだな黒井ィ!!」

「えっ――、峰田!?」

 

 黒井の頭上を、氷上に投げ捨てた紫の球体の上を跳ねるようにして移動する小さな人影―――紫の変態、峰田が高速で追い越し、その異様な速度で轟へと迫る。

 

 

「轟のウラのウラをかいてやったぜ、ざまぁねぇってんだ!喰らえ、オイラの必殺!!!」

「あーーーー!!」

 

 何やら技名のようなものを叫び、轟に攻撃を仕掛けようとした峰田。しかし、黒井が突然驚いたような声を上げて、

 

「なんだよ黒、井っ―――!!?」

 

 咄嗟に、峰田が黒井に苦言を呈そうと振り向く―――その横っ腹を、突如現れた鋼鉄の腕がぶん殴った。

 

 

「峰田ぁぁぁっーーーーー!!?」

『ターゲット…大量!』

 

 星になった峰田に手を伸ばす黒井を傍に、他の生徒たちがその元凶に注意を向ける。

 峰田を吹き飛ばしたその鉄腕の持ち主――黒井も数ヶ月前に見た、少し古めかしいデザインのロボ。

  つまるところ、入試の仮想敵だった。

 

 

『さぁいきなり障害物だ!まずは手始め……第一関門、ロボ・インフェルノ!!』

 

 

 その実況と共に、生徒たちの前に立ち塞がるは無数の巨大ロボ。

 数ヶ月前、入試の時に黒井がフィールドごとブラックホールで吸い尽くした0Pヴィラン含む仮想敵達が、団体様でご登場のようだった。

 

「えぇ、入試の0P敵!?」

 

 視界いっぱいの緑、視界いっぱいの鋼鉄。

 見るものを圧倒する巨人の軍勢――その圧巻の光景に、黒井の声から困惑と驚愕が滲み出る。

 

「嘘だろ。ヒーロー科、あんなのと戦ったのか……ていうか、どっから金出てんだよあれ」

 

 呆然と立ち尽くす黒井の背中に、ふと声がかかった。

 そのやけに気疲れした声に気づき、黒井はパッと背後を振り向き笑顔を見せる。

 

「あ、ひかる!!よかったぁ、轟の氷に巻き込まれちゃったのかと!」

「それより酷い目にあってたけどな」

 

 対し、ひかるは苦笑い。

 なんだか酷く疲れた様子だが、轟の氷以外での障害でも食らったのだろうか。

 先程ひかるの放つ光を、黒井のブラックホールが僅かに吸いこんだのを感じたため、もしかしたらそれも関係があるのかもしれない。

 

 

「まあなんにせよ、ひかるがこっちまで来てくれてよかった!せっかくやる気を出してくれたのに、こんな最初の方で脱落とか嫌だもんね!」

「それはそう。 ……てかそうだ、黒井お前、さっき宣誓の時に俺の事巻き込んで――」

 

 黒井の言葉に同意しつつ、先程の一幕を思い出したひかるが一言、黒井に文句でも言おうとしたその時。

 

「うぉっ!?」

「え!?なになに!?」

 

 突如、前方に聳える0P敵の足元から冷気が溢れ、すっぽりとその全身を覆い即座に巨大な氷像と化す―――瞬間、巨体は地面へと倒れ込み、大きく大地を揺らした。

 

 

『1‐A 轟!!攻略と妨害を一度に!こいつぁシヴィー!!』

「いや、え、やば。なんかもう、ずりぃだろ、あれ」

 

 高層ビル程度のロボが一瞬にして凍りつき、その動きを停止させる姿―――轟の"個性”の、その圧倒的な力の一端を見せつけられ、ひかるは最早ドン引きの域に達していた。

 隣に立つ黒井(ブラックホール)の事は棚上げである。

 

 

「あ、切島たちがあの下通ろうとしてる!ひかる、俺たちも!!」

「あーやめといた方が良さげかも」

 

 ひかるが絶句する間に、轟が作った安全な道を進もうと動く生徒が複数人。

 その後に続こうと提案する黒井の肩に、しかし待ったがかかる。

 

「え?」

「あ、見里に平…」

 

 二人が振り向くと、そこには飛び出そうとする黒井の肩を掴む少女――見里と、その横で0P敵を見上げている平が、ほんの少しだけ息を切らした様子で、

 

「やっと追いついたわー」

「ぴかるん結構足速いんね」

 

 パタパタと手で顔を扇ぎ、轟の発した冷気を全身で浴びて涼んでいた。

 先程まで寒いだなんだと言っていたが、やはり走った後は暑かったのか、随分と心地よさそうに見える……と、どうでもいい思考は放棄し、先程の見里の助言について問う。

 

「やめといた方がいいって…なんで?」

「んーウチが言うより見た方が早いかも。ほら」

 

 と言って指さした先、切島が先頭を切って轟の後に続き――、

 

「……あー」

「なるほどね〜」

 

 恐らくこの結果は狙って起こされたものなのだろう。轟によって氷漬けにされた0P敵の脚元を、何人の生徒かが進もうとした時だった。

 不安定な体制で凍らされたが故か、0P敵が二体まとめて倒壊。

 切島含めた一部生徒が巻き込まれた形となった。

 

「いや死ぬだろあれ。大丈夫なのか」

「あ、切島は『硬化』の"個性”持ちだから大丈夫!それより、俺達もどうにか乗り越えていかなきゃ!」

 

 切島たちへの心配はそこそこに、轟にばかりいい所を取られては行けない。そう意気込み、黒井はあのロボをどう乗り越えるか考える。

 

「あ!いいこと考えた!」

「え、なに……いややっぱいいわ。なんか嫌な予感す「"超重力天体(ブラックホール)”展開!!」っておい」

「あ、マサ待って」「見えちゃったかー、未来」

 

 

 

 次いで響く轟音、まるで世界が悲鳴をあげるかのように鈍い音が聞こえ―――聞こえるはずのないその音と共に、空が裂けた。

 それを巻き起こした存在は、それと共に現れた存在は、影だ、闇だ、球体だ。

 否、それは影ではない。ただ闇ではない。決して通常の球体ではない。

 それは―――全てを呑み込み、光さえ逃さない重力の坩堝にして、万星の捕食者。

 

 

 「―――対象:0P敵!!」

 

 

 鈍い重音とは反対に、明るく響く声。

 けれどもその声は、確かな死刑宣告に過ぎなかった。

 その言葉を合図とし、空にぽっかりと開いた穴が吸引を始め――数十近くの0P敵、その全てが、文字通り空へと堕ちる。

 

「お、おいあれ!」

「ヒーロー科入試の時の……まさか」

「え、なにあれ。知ってんの?」

 

 天地がひっくり返り、空へと落ちていく巨人たち。その異様たる光景を目にし、生徒たちの反応は様々だ。

 驚きに声も出ないもの、恐怖に震えるもの、かつて見た覚えのあるもの、事態を呑み込めずにいるもの、そして。

 

「……」

 

 宣戦布告を受けたとばかりに、その光景を睨みつけるもの。

 

 

 

「よし!ひかる、今のうちに行こ!未来にしょー子も!!」

「えぇ……」

「おけ」「マサ助かる〜」

 

 

 周囲の生徒が呆然とその光景を見上げている中、黒井はひかるの手を引き意気揚々と駈け出し、同様にギャル2人も走る。

 

「"超重力天体”解除!」

 

 四人が障害を全て通り抜けると共に―――空を舞う無数の巨人が、轟音と共に大地に沈んだ。

 

 

『っは、――ハぁァァぁァァァ!!?!?おい、おいおいおい!!?一体どうなってんだよお前ん所の生徒はよぉぉぉぉ!?!?』

 

『いや…あれに関しちゃ元からだな。戦術としてはクレバーだが、まぁ理にはかなってる。―――っていうか山田、お前なに驚いてんだ。入試ん時にも見ただろうが』

 

『いやいやいや、あん時とはワケがちげぇだろ!?バカみてぇにデケェ0P敵が、何十体も吸い込まれちまったんだぞ!?』

 

『それこそ今更だ……だが、まぁ確かに、0P敵だけを吸い込んだのは流石だが、いささか規模がデカすぎるな。ヒーローとしてやっていく中では、できる限り市街地に被害を出さず速やかに鎮圧する技術も求められる。あいつはとにかく力技で解決しがちだから、そこが課題だな』

 

『ここぞとばかりに解説センキュゥゥゥ!!』

 

 些か引き気味の解説、つられてひかるの頬も引つる。いやだがしかし、これを責められる者はいないだろう。

 チラリ、ひかるが観客席に目を移す。

 先程の光景にザワつく観客やヒーロー達が最初に目に入り、次に恐ろしく口を回している経営科の生徒たち。

 そして最後に……

 

 

「―――(怖!!!黒井少年、前も思ったがとんでもないな!!怖!!!)」

 

 あからさまにドン引いている、オールマイトの姿。通常時のフォルムとはいえ、『平和の象徴』がガタガタと震えるその様に更にひかるの頬が引き攣る。

 

「お前、先生(プロヒーロー)にも引かれてんじゃねーか」

「え、そう?」

 

 流石に派手にやりすぎだ、と暗に告げたつもりの発言だが、黒井は何処吹く風。

 それどころか続けて、

 

「このまま轟ごとみんな吸い込んじゃって邪魔しちゃおっか?」

「あー、やめといたほうがよさげ。」

 

 なんとも魔王染みた提案を、しかし見里が即座に却下する。

 またさっきのように何か起きるのだろうか。ひかるが気になってきいてみると、

 

 

「いやあんまやりすぎると視聴率下がるし観客のみんなも萎えちゃうから」「あーたしかに」

「どこ気にしてんだよ」

 

 どう考えたって出場選手が気にすることでは無い、なんなら未来視とも全く関係がない。

 というか、既に黒井がやらかしてるのだから、今更ではなかろうか。

 脳内で連続してツッコミをいれるひかるを他所に、

 

「視聴率的にもー、とりまこのまま次の障害まではガンダでおk」

「わかったー!」

「了解道中膝栗毛」

 

「もうギャルじゃなくてディレクターじゃん…」

 

 流石のリーダーシップと言えようか、ギャルと言う最大のアイデンティティの代わりに新たな称号を得た見里の指示を受け、黒井が大きく腕を掲げて、

 

 

 

「よし!このまま一位もとるぞー!おーーーーー!!」

「「お〜〜」」「……ぉ、…おー」

 

 音頭に合わせて声を上げるギャル二人。その場のノリと空気に逆らえず、ひかるも顔を真っ赤にしながら、弱々しく腕を突き出した。

 

 

 

 

 

「…何やってんだあいつら」

 

 一方その頃。轟と黒井達、そして他の一部生徒が進んでいく中で、取り残された生徒たちは黒井によって地上に叩きつけられたロボット達の壁をどう乗り越えようかと言ったところだった。

 毒島は隙間からみえる黒井達の姿に若干引き気味にしつつ、

 

「ていうか、黒井も多々のやつもさっさと行きやがったし…黒井はともかく、多々は普段こういうの目立ちたがらないだろ…どういう心境の変化だよ…ガハッ!!」

 

 毒を吐くと共に毒を吐き出す。

 相も変わらず、なんとも地味というか汚いというか、絶妙に使い所のない己の"能力”にほんの少しばかり辟易とする。

 

「っていうか、そもそもなんで雄英なんかに入っちゃったんだろ…学力的にも将来的にも別にいいってわけじゃなかったし、家もそこそこ遠いのに……りこがあんなこと言うから……」

 

 

 そう言って掘り起こすのは、凡そ半年近く前の記憶。

 あれはそう、いつも通り三人で帰路についている時の話だっただろうか。

 受験生と言うこともあってか、その時の会話は進路についての話題を主としていたはずだ。

 毒島としては、家から近い進学校を。華月のやつは吸血鬼のくせに制服が可愛いからとか言って宗教学校に通おうとしていた気がする。

 そして、闇川は――

 

「……はぁ……めんど…グハッ」

 

 こんな時に何を思い出しているのか。現実逃避から我に返り、とりあえず適当に誰かの後をついて行こうと周りを見渡す。

 

 

「黒井のやつすげーな……俺も速くいかねぇと」

 

 まず最初に目に映ったのは、やけにふわふわとした濃い茶髪をした、チャラそうな雰囲気を纏った生徒だった。

 

「あぁ、あのバカそうな面してんのは早川か…ゴボッ。…そういや、あいつの"能力”ってなんだったっけ…」

 

 口から漏れ出た毒を拭いつつ、過去の記憶を掘り起こす。

 なにせ生まれ変わって早十数年。「前」でも今世でも、正直そこまでの関わりがあった訳ではないので、"能力”も印象も薄い。とはいえ、余程地味か隠しているわけでもない限り知らないはずはないのだが―――、

 

 

 

「よし、そんじゃ―――"加速MAX(アクセル全開)”!!」

 

 

 

 意気込んだような声。

 瞬間、早川の姿が掻き消え、次いで爆音―――そして、嵐の如く巻き起こる風圧が周囲を襲う。

 

「うわっ……!!??」

 

 砂塵に呑まれ、毒島の視界は瞬時に悪化。

 周囲にいた生徒たちもまた悲鳴を上げて、誰もが早川の姿を見失う。

 一体何が――考えるまでもない。

 答えは単純、この一瞬の内に、早川が全力で駆け抜けていっただけにすぎない。

 ただ、それが規格外な速さであったと言うだけで。

 

 

【――人物名:早川瞬

    能力:速度強化

    解説:自身の速度を強化できる。調整可。】

 

 

「……思い出した…そういやあいつの"能力”そんなんだったな…そのくせ朝マックして遅刻してたな…怖」

 

 あれでは参考にならないし、ついて行くなんて以ての外だ。

 服に着いた砂をはらいつつ、他に誰か居ないか――先程まで早川のいた場所から視線を移す。

 

 そして次に目を引いたのは、金髪金目の、派手な容姿をした少年。

 少年は倒れ伏した巨大なロボの壁によって防がれた道をどう通り抜けるべきかと悩んでいるようだった。あの少年もまた「前」の世界からの同級生で、多少交流があったはずだ。

 そして、彼の"能力”はそういえば――、

 

「あ、おい!!」

 

 少年が走っていく先、重厚な機械音と共に、0P敵の巨拳が迫る。

 圧倒的な質量の暴威に、晒されれば一溜りもないだろう。

 咄嗟に叫び、少年に危険を促すが、少し遅い。

 鋼鉄の拳は、瞬きの後に少年を穿つことだろう。

 咄嗟に、毒島が目を閉じる。

 

「あ、蟻だ。こんなところでなにしてんだろ」

「って、は……!?」

 

 突如、少年が地面に屈み込み――少年を捉えた巨拳に対し、更に横から別の鉄拳が到来。

 叩き降ろされた拳の軌道が僅かに逸れ、つい先程まで少年の頭が滞在していた空間を抉りとる。

 そして勢いそのまま、鉄拳は倒れ伏す巨人を突き破り大破――後には僅かな道が残る結末となった。

 

「ラッキ〜」

 

 立ち上がった少年は、いつの間にか目の前にできていた突破口に対し喜びの表情を見せ、軽快なステップで走り出して言った。

 

【――人物名:豪田運仁

   能力:豪運

   解説:豪運】

 

 

「チート過ぎんだろ……!!」

 

 早川に続いてのまさかの突破方法に、空いた口も塞がらず――ついでに、その空いた道を通って進む。

 ちゃっかりその恩恵に下りつつ、それでもやはり、同級生たちのあまりの規格外具合に吐いた毒が止まらない。

 ゲホゴホと毒を撒き散らしながら走っていけば、数分と足らずで次の障害が見えてくる――そして、先行したほとんどの生徒がその場に足踏みしているのに気づく。

 

 

 

 

『オイオイ、第一関門チョロいってよ!!んじゃ第二はどうさ!?落ちればアウト!!それが嫌なら這いずりな!!

 

 ―――ザ・フォール!!』

 

「……嘘だろ」

 

 

 辿り着いた先、目の前に広がっていたのは、断崖絶壁のステージだった。

 下が見えないほどの深さまで掘られた地面と、ところどころ残された柱状の柱と繋がったロープを見るに、まさかこれを渡れというのだろうか。

 

 急いで周囲を見渡す。

 まず初めに目に入ったのは、先行していた轟と黒井達2グループ。

 黒井達はここで足踏みしている様子であり、未だに突破口を持っていないようだ。

 対照的に、轟は"個性”の氷を利用した移動法を利用しているようであり、とても真似はぇきない。

 他にいい手はないか。

 先程のように周囲を見渡せば、突如「ケロ」とカエルの鳴き声のような声が響き、自然と其方へと目が移る。

 そこでは、蛙のような容姿をした少女が、蛙のような飛び方と姿勢で綱を渡っていた。

 あれならまぁ、真似出来ないことは―――、

 

「無理無理無理無理、いや、ほんとどうにかしてんだろ!!」

 

 さすがに命の危険を感じ、この縄を伝って向こう岸まで渡るという案は即却下。

 ならばどうするか、というかそもそもとして――、

 

(てかやべぇだろこんな体育祭…さっきも誰か死にかけてたし……よくこんなん放送できるな……さっさと敗退しよ)

 

 よくよく考えてみれば、自分がこの体育祭で頑張る理由などない。

 というか疲れるし汗かくしダルいしで、本当はサボりたかったのが本音だ。

 なら、もうここで敗退してもいいのではないだろうか。第二関門まで来たら大したものだろう。未だに第一関門でてこずってる者だっているのだ、普通科である毒島が第二関門で落ちたところで――、

 

 

「あ、すみ」

「げ。りこ……」

 

 諦めてさっさと敗退しよう、そう考えたその時。

 彼女の肩に声がかかる――どうしようもなく聞き馴染みのある声だ。それこそ、もう十数年も聞き続けている。

 

 

 ―――振り向きたくねぇ〜〜〜〜

 

 

 ここで振り向けば絶対逃げられなくなる。絶対何かと理由をつけてガチらなけらばいけなくなる。嫌だ、めんどくさい。

 けれども、けれども―――、

 

「すみ、どうしたの…?」

「くっ……!!」

 

 地雷系な癖してやけに純真無垢な瞳が毒島を襲う。ここで「めんどくさいし怖いから敗退するは」なんて言おうものなら、目の前の少女は一体どんな表情をするのか…引き留めるだろうか。あるいは肯定するのだろうか。

 どちらにしても毒島のSAN値は削れる。

 仕方がない、背に腹はかえられない……そんな断腸の思いで、毒島は背後を振り返る。

 

「よ、よぉりこ…」

「よかった、すみもここまで来てたんだね。さっきから全然見つけられなかったから、まだ最初の方にいるのかと、、、」

 

 安心して胸を撫で下ろす闇川。

 言えない、ついさっきまでこのままフェードアウトしようとしてたことなんて言えない。

 下手な笑顔でその場を繕いつつ、とりあえずの会話を続けようとすると、

 

「あ、二人とも!!」

「うわ」

「キューちゃん、、、」

 

 嫌なくらいに煩く響く高い声。

 耳を劈くこの声の持ち主は、目の前の少女と同じく、毒島と深い関わりのある人物。

 吸血鬼なのか人間なのかよく分からないアンバサダー―――白髪八重歯にコウモリの羽根、加えて日光で灰になる―――華月だった。

 華月は二人を見るなり大声で、

 

 

「二人とも、私が運んでいこっか!!?」

 

「わたしは大丈夫だから、すみを…」

 

「え」

 

「わかった!!!」

 

「いやワタシは」

 

「それじゃ、わたしは先に行くから、二人もあとから着いてきてね」

 

 勝手に決められる毒島の未来、そしてそんな彼女を取り残して、闇川は数歩後ろに下がる―――助走をつけ、そして跳躍。

 空中へと投げ出され、そのまま深い深い奈落へと落ちていく闇川―――起爆、起爆起爆起爆。

 連続して引き起こされる爆発。

 爆音が大気を揺らし、爆炎が奈落の暗闇を映し出す。

 映像的にも見映えするど派手なそれを、カメラは大きく映し取り、

 

『闇川、自爆による華麗なジャンプで障害物を軽々クリアァァ!!?』

『前々から思っていたが、ありゃ見た目よりもよっぽど器用だな。全身を起爆させつつ、任意の方向へと体勢を崩さずに跳ぶ…簡単そうに聞こえるが、相応の体幹やバランス感覚、繊細な威力の調整が求められる。』

『地雷系なのに意外と繊細な闇川ァ!!しかし、その後を続々と他の生徒たちが追い続けるゥ!!!』

「嘘だろ、いやまじで嘘だろ」

 

 あの奈落に自分からバンジーしにいく勇気もそうだが、不安定な体制から自爆で無理矢理渡りきるなどと言う力技を実行する脳筋具合に、思わず頭が痛くなる。そんなふうに毒島がドン引きしていると、突如襲いかかる浮遊感。

 

「って―――はぁぁぁぁ!!?」

 

 華月が毒島を抱き寄せ、背中に生える翼を大きく広げ飛翔。

 見た目よりもずっと力強いその翼によって、結構な速度で空を駈ける。

 

「急すぎるだろ……!!てかクソ高ぇし、怖すぎんだろうが……!!」

「あー!楽しいーー!!灰になる〜〜〜!!」

「なるなよ…!?絶対ここで灰になるなよ……!!?」

 

 日光の元に晒され徐々に浄化されていく華月。やべぇ、死ぬ。そんなことを半ば確信しつつ、毒島は盛大に毒を吐いた。

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