【私立パラの丸高校 ヒーローアカデミア編】   作: 燃える空の色

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5月頃に書き始めたこの作品ですが、気づけばもう今年も最後。
ここまでお付き合い頂きありがとうございました!
そして来年もよろしくお願いします!
良いお年を!
ちなみに僕は20点くらいでした。


21.雄英体育祭第一種目 後編

 

 

 青く澄んだ空が地平線まで広がり、上がりはじめた気温が肌を包む。まさに運動日和と言うべき今日の日――雄英高校体育祭会場のひとつでは、観客と生徒たちの熱気が容赦なく渦巻いていた。

 

『さぁ、先頭は難なく一抜けしてんぞ!!後続連中も負けねぇように突き進めェ!!!』

 

 会場に響き渡る実況の声。

 それを耳にした瞬間、ひかると黒井は思わず顔を見合わせ、揃って焦りを滲ませた。

 

「ひ、ひかる、どうしよう!?みんなどんどん先に行っちゃってる!?俺たちも早く行かなきゃ!!」

「いや、どうするって…」

 

 雄英体育祭第一種目、二つ目の障害として。

 二人は大きな壁―――大きな穴にぶち当たり、その場に立ち竦んでいた。

 

「どうしようもないだろ…」

 

 そう言って、ひかるの視線が大穴を覗く。

 底が見えない程の深さ、それでいて大きさもかなりある。

 一体どうやってこんな穴を掘ったのか、そしてこの穴が再利用される機会はあるのだろうか。

 若干の現実逃避も含めた無駄な思考、けれども当然、現実は甘くない。

 二人を置いて、他の生徒たちは次々と障害を乗越えていく。

 

「ていうか、見里と平のやつ、ずるいだろあれ」

 

 さっきまで一緒に行動していた二人の姿は、もう既にそばには見えない。

 双方ともに移動に適した"能力”を持ち合わせていない二人が、どうやってこの大穴を乗り越えようとしたのかと言えば――、

 

「じゃあウチら先行ってるわー」

「お願いね、ゾオン系幻獣種トリトリの実モデルガルダを食べた世界線のウチ」

『QQQQQQQ!!!』

「えぇ……」

 

 "海賊系冒険バトル漫画”だった世界線の平の背に乗って、この嘘みたいな穴を悠々と飛び越えてしまった。

 定員の問題でひかると黒井は置いてけぼり。今は成す術なく見送るだけだ。

 

「でもあの鳥みたいな見た目のへー子、なんかドローンみたいなのに攻撃されてる!」

「あー、まぁ空飛べたらすぐゴールできちゃうしな。それ対策だろ」

 

 遠目には巨大な鳥と大量のドローンが正面衝突し、何人かの生徒が余波に巻き込まれているのが見えた。

 空をひとっ飛びできる"個性”を持った生徒向けの障害といったところだろうか。

 その攻撃された生徒の中に毒島たちもいた気がするが……気のせいだろう。

 

「ただでさえ絶望的な状況なのに、早速空路が絶たれたな…まぁ、元々飛べないけど」

「やっぱりこのロープを頑張って渡っていくしかないよ!!ひかる、頑張ろ!!」

「えぇ……」

 

 ふんすと息巻く黒井。しかし、ひかるはいやに消極的だ。

 足場と足場とを繋ぐロープを前にして、二人は顔を見合わせる。
 目の前のそれは、恐らくちぎれるようなことはないにしても、どうも頼りなさげな一本。しかも風が吹くたびにひゅんひゅん揺れている。

 

「……マジでこれ渡んの?」

 

 ひかるがぼやく。

 対照的に、隣は逆にやる気をみなぎらせた様子で、

 

「大丈夫!ほら、みんなだって渡ってるし!」

 

 そう言って指差す。

 黒井の指の先に視線を追っていくと、泣きながらロープの上を這いずって進んでる生徒や、"個性”を使って猛スピードで渡っていく生徒など色々な様相が拡がっていた。

 もちろん、足滑らせて落ちそうになってる生徒も。

 

「……余計に怖ぇよ」

 

 とは言いつつ、立ち止まってても仕方ない。

 ひかるは渋々ロープを握る。思った以上にザラついてて、手のひらに食い込む。揺れが直に伝わってきて、胃がキュッと縮んだ。

 

「よし!いくよ、ひかる!」

「お、おう……」

 

 声を合わせて渡り出そうとして、ひかるが不意に下を見る―――断崖絶壁の下、暗闇に覆われた地の底。死を予感させると共に、言いようのない恐怖をもたらすそれに、ひかるの体は大きく光を放つ―――、

 

「――やっぱ無理だろ」

「ええぇ!!?」

 

 全身を襲う恐怖に、ただの少年であるひかるが抗うすべを持つはずもなく。

 というか、普通にさっきから手足が震えて止まらないし、こんなところを真正面から乗り越えるとか馬鹿だろマジで。

 冷静な判断――諦めとも言う――でそう断定したひかるによって、二人はしばらくの停滞を余儀なくされた。

 

 

▽▼▽▼

 

 

 場面は変わり、最前線。

 ひかると黒井が手をこまねいている後ろで次々と障害を乗り越えて言った生徒たち。

 轟焦凍は先頭を独走しながら、後続――爆豪、そして姿を消した黒井たちの動向を警戒しつつ、次の障害へと突き進んでいた。

 

「一位のやつ、圧倒的じゃんか!」

「 "個性”の強さもあるが、それ以上に素の身体能力と判断力がずば抜けてる」

「あのブラックホールの子も停滞してるし……これはもう、決まったようなもんかな〜」

「そりゃそうだろ。あの子、フレイムヒーロー"エンデヴァー”の息子さんだよ」

「ああー…道理で!」

 

 圧倒的首位を誇る轟の姿に、観客席、それもスカウトのために訪れたヒーローたちの席では、賞賛の声が止まないでいた。

 無論、彼らの視線はなにも轟だけに向けられている訳では無いが…それでも、明確に一人だけ突出している轟に注目が集まるのは当然の摂理だった。

 

 歓声に沸く観客席に呼応するように、会場全体を熱狂が包み込む。

 その熱意に応えるようにして、実況席も唸りを上げた。

 

『先頭が一足抜けて下はダンゴ状態!上位何名が通過するかは公表してねぇから、安心せずに突き進め!!』

 

『そして早くも最終関門!!隠してその実態は―――…』

 

 小競り合いが続く中、轟たちが次の関門へと到達する。

 しかし、目に映る限りでは辺りに障害と言えるようなものは見当たらず、一面には地面が広がるのみ。

 あからさまなその光景に、轟が警戒を深めると、待ってましたとばかりに実況が解説を始める。

 

『一面地雷原、怒りのアフガンだ!!地雷の位置はよく見りゃわかる仕様になってんぞ!!目と脚酷使しろ!!』

 

『ちなみに地雷!威力は大したことねぇが、音と見た目は派手だから失禁必至だぜ!!』

『人によるだろ』

 

 ――第一種目最終関門。

 ロボ地獄(インフェルノ)落とし穴(ザ・フォール)と続いて最後にまちうける障害は―――一面の地雷原。

 単純が故にわかりやすい、それでいて規模のでかい雄英ならではの障害だ。

 

「エンタメしやがる…!」

 

 先頭ほど不利になり、後続が逆に有利になる障害物。

 さすがテレビ放送されるだけのことはあると、轟は嫌味半分に苦言を呈し――、

 

「はっはぁ俺は―――」

 

 背後から声が飛び、

 

「関係ねェッーーー!!!」

 

 ――爆音と衝撃と共に、爆豪が轟を抑えて首位に躍り出た。

 

「――てめぇ、宣戦布告する相手を、間違えてんじゃねえよ!!」

『ここで先頭が変わったーー!!喜べマスメディア!!お前ら好みの展開だああ!!』

 

 白熱する首位争い、後続に続く無数の強者達。

 雄英体育祭、第一種目。

 この障害物競走は、とうとう佳境を迎えようとしていた。

 

 

◇◆

 

 

 一方その頃。

 

『後続もスパートかけてきた!!だが足を引っ張り合いながらも…先頭二人がリードかぁ!?』

「嘘だろ……先頭もうそんなとこまで行ってるのか…」

 

 漸くザ・フォールを乗越え、息を荒らげていたひかると黒井の耳に、盛り上がりを見せる実況が、嫌なくらいに現実を伝えてくる。

 

「やばいよやばいよひかる!?どうしよう!?轟たちと凄い差をつけられちゃった!?」

「あーもう、落ち着け。どうしようもないだろもう…!!ほら、行くぞ!!」

 

 慌てる黒井に向け、自分への言い聞かせも含めて宥めながら、ひかるも先頭目掛けて走り出し、この状況をどう打開するかを考える。

 素直にこのまま走り続けたところで、"個性”をフルに活かした轟たちに勝てるわけが無い。

 かと言って、ひかるの"能力”ではどうしようも無いことだ。

 そう、ひかるは一人では、どうしようもないほどに、無力なのだから…。

 

(……?)

 

 ふいに生じる、違和感。  

 自身が無力であることなんて、ひかるはとうに承知していることで、こういった思考も初めてでは無い。

 だと言うのに、ひかるの中のなにかが、違和感を訴えている。

 違和感、違和感、違和感。

 その正体も、原因も、何についてかも。

 一切が不明なまま、泥沼に足を取られているかのような不快な感覚。

 あともう少し。

 けれど、あまりにも遠い何か。

 何か、何かきっかけさえあれば、このモヤをはらえるような―――、

 

【BOOOOMMB!!!!】

『おおっとぉ、ここで大爆発だァァァァっ!?』

「!?」

 

 意識の水底に沈んでいたひかるを、喧しい実況と、そしてそれ以上に大きな爆発音が強制的に釣り上げる。

 現実に晒されたひかるの視界を覆い隠すのは、数百メートル先から溢れ出る趣味の悪いピンク色だ。

 

『1年A組闇川ァ!ピンモン片手に地雷原を悠々と踏み抜いて行くゥゥ!!ヘヴィィ!!』

『どこから取りだしたんだ、あいつ』

「、、、照れる」

 

 遠目には、爆煙を背にストローぶっ刺したピンモンを啜り走る闇川の背中が、異様な程に目立って見えた。

 

「え、めっちゃ強キャラじゃん。かっこよ」

「すごいねりこてゃ!」

 

 地雷系なのに何処か泰然自若としたその姿に、二人揃って感嘆の唸りを上げる。

 

『先頭爆豪・轟!!最終関門を今抜けそうだが――……』

「……って、見てる場合じゃなかった」

 

 さっきの思考の続きだが、ひかるの能力が当てにならない以上、そうなれば黒井に頼る以外の選択肢は……。

 

「緑谷……?」

 

 思考を再開させようとするひかるの視線の先に、続けざまに新たな異変が現れる。

 ひかるにとって、この体育祭で一位を目指す理由となった張本人――緑谷出久が、その手に持った緑色の装甲を使って地面を掘り返し、その傍には未起動の地雷が山のように積もっている。

 

そして――、

 

【BOOOOOOOOOMMB!!!!】

『後方で大爆発!?故意か偶然か、A組緑谷、爆風で猛追ーーー!!?』

「緑谷まで…!?」

 

 そばに居たひかるを吹き飛ばし、緑谷の体が地雷の爆破によって宙に舞う。

 USJ事件の時と同様、新たに策をろうしたらしい緑谷は、一息に先頭二人に肉薄する。

 

『つーか……抜いたあああああーー!!』

「えええええ!?ひか、ひかる、緑谷が!?!」

「…どうすれば……」

 

 いつの間にか、ゴール目前へと近づいた先頭二人に加え、その二人を追い越します緑谷。

 このままでは、1位の座はどう考えてもあの3人の誰かのものになってしまう。

 ―――それどころか、もしかすれば予選落ちの可能性すらも。

 オールマイトに任されたというのに、黒井が堂々と優勝宣言までかましてしまったというのに、予選落ちだなんて―――、

 

 

 

「ひかる……」

 

 ゴールへ向けて走る足を止めて焦りを見せるひかるを横目に、黒井も思索をめぐらせる。

 ――この状況を覆えせるとしたら、それはきっと、自分の"能力()”だ。

 黒井正義は決して馬鹿では無い。

 自信を持って、アホではあるが、馬鹿でも愚かでも無い。

 少なくとも、適応力や戦闘IQという点においては、黒井正義は決して誰かに劣るようなことは無い。

 

 だからこそ、黒井正義は考える。

 折角ひかるが勝利への欲を出した珍しい機会なのだ。それを叶える為ならば、自らのどんな努力も厭わない。

 ―――故に、黒井正義の脳みそは、「ひかるを勝利へと導く」と言う目的を達成させるため、この場における最適解を導きだした。

 

「――あ!じゃあこうしよ!!」

「え、なに?」

「いいから!」

「え?ちょ、まっ……!!」

 

 困惑気味に眉を顰めるひかるを抱き寄せて横抱きにし、自らの"能力”を発動する。

 

「―――"超重力天体飛翔(ブラックホールワープ)”!!」

 

 鈍い黒光が煌めき、その軌跡が宙に弧を描いた。

 まるで世界を塗り潰すかのような"黒”がコース上を奔り、誰もが視線を奪われる。

 先程の緑谷の快進撃でさえ見劣りするほどの速度で飛来し、その黒光は瞬きの内に先頭へと――、

 

 

◇◆

 

 

『緑谷間髪入れず後続妨害!なんと地雷原即クリア!イレイザーヘッド、お前のクラスすげぇな!!どういう教育してんだ!』

『俺は何もしてねぇよ。奴らが勝手に火ィ付け合ってんだろう』

 

 ――声が聞こえる。歓声が聞こえた。

 身体が熱い。爆炎に晒されたからか、或いは走り続けたからか。

 切れた息を振り払いながら、ゴール目指して必死に足を前へ前へと動かす。

 そう、ゴールはもう目前。

 この数週間、何度も夢見続けてきた結末が。

 憧れ(オールマイト)に到達する為の最短ルートに。

 

『さァさァ序盤の展開から誰が想像できた!?』

『無視かよ』

『今一番にステージに―――』

 

 そう、今、ついに自分が、そのゴールへと―――!!

 

「――――ぁぁぁぁぁ」

『?……おい、おいおいおいおい!?嘘だろ、おい、まじか!?』

 

 ―――声が聞こえる。叫びが聞こえた。

 誰の声か、それが何故なのか。

 分からない、分からないが、気にしている余裕は無い。

 ゴールまで、あと、ほんの数メートル――そんな時だ。

 視界の端に、光が見えたような気がした。

 けれど、それはただの光ではない。

 光は二つ―――聞こえる声、それも悲鳴の種類と同じだ。

 一つは、太陽のように輝く明るい光。

 二つは、闇のように鈍く輝く、黒い光。

 

 そして気づく。

 その光が見えたのは、視界の端ではない。

 自身の真横、今まで自分が走ってきた道を通過し、そしてこれから走る道を先回りするようにして、その二つの光は自身を追い抜かし直線を描く。

 

『はぁ!?――――はぁぁぁぁぁ!!!!??』

「えっ、あれ、……黒井くん!?に、多々くん!!?」

 

 ゴールにたどり着き、歓声のただ中であるステージへと入り、気づく。

 ステージには、既に先客がいた。

 それも二人―――クラスメイトと、奇妙な繋がりのある友人が。

 まさか、先程の光は……!!

 

『――ななななんとなんとォ!!!??緑谷まさかの大逆転劇と思いきや、最後の最後でA組黒井正義が、普通科C組の生徒を抱えてゴールだァ!!?なんだそりゃあ!!?しかもなんでお姫様抱っこォ!!?』

『……ハァ、何やってやがる、あいつら。ていうか、判定どうなるんだこれ』

「これもこれで私好み!!2人で1位よ!!」

『らしいぞ。あの人、流石に好き勝手しすぎじゃねぇか?』

 

 声が聞こえる。けれど、それは決して朗報を告げるものではない。それは敗北通知だ。

 困惑に首を振り、視線が右往左往へと移動する。

 顔を上げた向こうには、黒井に横抱きにされながら困惑した表情を浮かべているひかると、ひかるを抱えながら喜びに身を任せてはしゃぐ黒井の姿があった。

 次第に、意識が現実に追いついて、ようやく現実を理解した。

 無意識に拳を握りしめ、食い込む爪の痛みが脳を揺らし、悔しさが胸に滲み、自然と視界が熱を帯びる。

 そして、自然と―――、

 

(―――すみません、オールマイト……!!)

 

 観客席で見ていた師に向けて、頭を下げていた。

 

 

◇◆

 

 

 

『さぁ続々とゴールインだ!順位などは後でまとめるからとりあえずお疲れ!』

 

 爆音のような歓声が耳を打つ。土煙の中、ひかるは黒井の腕の中でようやく呼吸を整えた。

 

「え、いや、あれ……。嘘だろ、勝った優勝した?え、こんなあっけなく?」

「わーい!!やったー!!ひかる、俺たち1位だって!!!」

「ちょ、黒井…」

 

「えーすご」「おめー」

「、、、ふたりとも、凄い、、、」

「最後の最後で追い抜くとか、目立ち過ぎだろ……!!」

 

 続々と生徒たちがゴールへとなだれ込み、ステージは一気に賑わいを増していく。

 その中心で、未だ現実を飲み込みきれていないひかると、ひかるを抱えたまま全力で喜ぶ黒井のもとに、見里や闇川たちが集まってきた。

 

「あ、いや…俺も驚いてて……」

「え、なんで!?1位だよ!?ひかるも喜ぼ!!」

「お前ほんともっと遠慮しろよお前…」

 

 楽観的に喜ぶ黒井にジト目しつつも、こうして周りに囲まれて、ひかるはようやく、この現実を受け止め始めた。

 

 ―――勝った…一応優勝、した……のか?

 

 正直、ずると言ってもいい結果ではあるが、確かに勝利は勝利。優勝は優勝だ。

 カメラが立ち並び、世界中の人々や大勢の観客が見守る中で、ひかるは分不相応にも第一種目優勝という名の冠を戴いた。

 例えヒーロー科の助けありきとはいえ、普通科の生徒が一種目でも1位を取るようなことは、ひかるの記憶の中ではただの一度もなかった。

 それを証明するように、今も観客たちは異様なまでの盛り上がりを見せ、カメラというカメラがひかるを追っている。

 ―――次第に、胸が熱くなるような思いがした。同時に、頬も。

 

「黒井、ちょっと…」

「え、どうしたのひかる?」

 

 身に余りすぎる注目に耐えきれず、ひかるは視線を避けるようにして黒井の背に逃げ込んだ。

 

「ぴかるん猫やん」「かわちい」「ひかるから来るの珍し〜」

「あーうるさいうるさい」

 

 からかう声を背中で受けながら、ひかるは黒井を軽く小突く。

 無駄に大きな体格が、今はありがたい盾だった。

 黒井の影に潜みながら、ひかるがキョロキョロと辺りを見渡していると、こちらに歩み寄る緑色の影に気がついた。

 

(……あ)

 

 そこでようやく、ひかるは当初の目的――何故1位を目指したのかを思い出した。

 元はと言えば、体育祭で目立って欲しいのに余りやる気を見せない緑谷を奮い立たせるために何かしてくれ、とオールマイトに言われたのが始まりだったはずだ。

 しかし、実際は第一種目で優勝目前だった緑谷を直前で追い抜かし、彼が輝くはずだった舞台を奪ってしまっている。

 

(………完全にやらかした)

 

 言い訳の余地もない大失態。


 どう謝ればいいのか。
そもそも、許してもらえるのか。

 ひかるが黒井の背後で情けなく身を縮めている間にも、緑谷は歩みを止めず、ついに目の前までやって来た。

 

「く、黒井くん!多々くん!」

 

 ビクリと肩を揺らして、ひかるは恐る恐る黒井の背から顔を覗かせる。 

 

「あ、緑谷…その、ごめん、なんか……黒井はともかく、俺まで……」

 

 怒っているかもしれない。

 落ち込んでいるかもしれない。

 

 そう思うと、ひかるは緑谷の顔を見ることができなかった。

 しかし緑谷は、ひどく驚いたように目を丸くした。

 

「あ、いや!違うんだ。ぼ、僕は……!その、たしかに悔しかったけど……でも、言わなきゃって思って……!」

 

 緑谷はひかるの言葉を遮るように一歩踏み出し、胸の前でぎゅっと拳を握る。

 悔しさを飲み込みきれず震えているのが、遠目にもわかった。

 

 緑谷は一度息を吸い、しっかりとひかると黒井を見る。

 そして――

 

「二人とも、一位おめでとう!」

 

 満開の笑顔を浮かべて、そう告げた。

 

「緑谷…」

「ありがと!!!」

「お前はもうちょっと遠慮しろよ。…っていうのも野暮か…」

 

 再びジト目……けれどすぐに収め、ひかるは黒井の背から出て黒井へと向き合い、そして小さく笑いかけた。

 

「……ありがとな、黒井」

「―――!?ひ、ひかる〜〜〜!!!」

 

 感極まったとばかりにひかるに飛びつく黒井を受け止め、ふわついたオレンジ髪を優しく撫でる。

 

『くぅ〜〜〜!青春って感じでいいわぁ!!青臭い!!―――それじゃ、第一種目はようやく終了ね。結果をご覧なさい!』

 

 その間にも生徒たちは次々とゴールし、

 最後の一人が到達したところで、ミッドナイトが高らかに告げ、空中に浮かぶスクリーンに順位が表示された。

 

 ―――堂々と、1位に並ぶ多々光と黒井正義の名前。

 

「あ、見てみてひかる!1位だよ俺たち!」

「うちら10位か〜」「まぁまぁ」

「、、、悔しい」「十分だろ」

 

「予選通過者は上位5()2()名!残念ながら落ちちゃった人も安心しなさい!まだ見せ場は用意されてるわ!!」

 

「――そして次からいよいよ本戦よ!!ここからは取材陣も白熱してくるよ!気張りなさい!」

 

「さーて、第二種目よ!!私はもう知ってるけど〜〜〜…何かしら!?言ってるそばから――」

 

 宙に表示されているスクリーンにダイスが表示され、再び回り出す。

 

「―――コレよ!」

 

 スクリーンには大きく、こう表示されていた―――"騎馬戦”。

 

「騎馬戦…?」

「わっ、楽しそう!」

「チーム戦か〜」

「個人戦じゃねぇけどどうやるんだよお"お"お"」

 

 スクリーンに表示された三文字に、生徒たちが思い思いの反応を返し、それに応えるようにミッドナイトが鞭をしならせ、説明を続ける。

 

「参加者は2〜4人のチームを…」

「参加者は2人から4人のチームを自由に組んで騎馬組んでよろしで、あとはだいたい普通の騎馬戦のルールでおけ。あー、けどさっきの結果で割り振られるPが違うくて〜そのP稼ぎまくったら勝ち的な?騎馬戦の組み方しだいで総ポイントとか変わる系」

「あんた本当、私が喋ってんのにすぐ言うね!!…えぇそうよ!!そして与えられるポイントは」「下から」「5づつ!52位から5P、51位が10P…と言った具合よ。そして―――、」

 

 言葉を溜めて、全ての生徒が次の言葉を今か今かと待ち望み―――、

 

「―――1位に与えられるPは、2人合わせて1()0()0()0()()!!」

「上位のやつほど狙われちゃう―――…下克上サバイバルよ!!」

 

 ―――瞬間に、その場にいる全ての生徒たちの、飢えた肉食獣のような視線が一つに集中する。

 

「え、は?」

「よーし、頑張ろ!ひかる!」

「……嘘だろ……」

 

 

 雄英体育祭、第一種目。

 障害物競走――1位、多々光と黒井正義。

 

 順調な滑り出しを得た二人。

 けれど、雄英体育祭は、まだ始まったばかりだった。

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