【私立パラの丸高校 ヒーローアカデミア編】   作: 燃える空の色

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04.ひかるとマサ、合否を知るやつ

 

 

 また、夜が明けた。

 カーテンの隙間から漏れる陽光を浴びて、ひかるは目を覚ます。

 半年間ほど続いた緑谷たちの付き添いのせいで、早起きの癖がついてしまったらしい。

 のそっ、と起き上がり、身支度を整え、利光たちにリードを繋いで外に出る。

 

「……眩しい」

 

 雄英高校の入試から、数日が経っていた。

 毎朝の日課になった散歩のついでに、いつもの海浜公園を訪ねてみているが――緑谷も、オールマイトも、あれから一度も姿を見せていない。

 学校では黒井がいる手前、彼のことを話題に出すわけにもいかず、

 せめて「受験、どうだった?」の一言だけでもと思っていたが…結局その機会もなかった。

 

 今日こそは、と思いながら、ひかるは歩く。

 もとは夜型だった彼も、今ではすっかり健康体だ。

 そういう意味では、オールマイトと緑谷に感謝すべきなのかもしれない。

 

「……って言うか、結局OFAはどうなったんだろ。ちゃんと継承できたんだよな……?」

 

 話を聞く限りでは、どうやら緑谷は個性の器になるためにトレーニングを重ねていたらしく、未だ個性を受け継いではいなかった。

 もしかすれば、受験当日に受け継いだのだろうか。

 残念なことに、ひかるもひかるで限界まで知識を詰め込もうとしていたため、当日の朝は海浜公園に訪れていなかった。

 最悪、器が成らず、無個性のまま実技試験に挑んだのかもしれない。

 もし、そうなら……自分は、一体どう声をかけるべきなのだろうか。

 ひかるの頭の中で、ぐるぐると、悪い妄想ばかりが広がっていく。

 そうしたまま歩いていって、気づいた頃には、何十回も目にした光景がこの目に映ると、そう思っていた。

 しかし、違った。

 そこに拡がっていたのは、記憶した景色とは違った、日の出に照らされ、燦々と煌めく美しい水平線だった。

 

「……すご」

 

 試験の数日前まででも、ゴミや廃棄物はそれなりの量が残っていたはずだ。

 それらを全部、たった一人で片付けたというのだろうか。

 思わず、ひかるは息を飲む。

 個性を持たない、ただの少年が。

 根性と、夢と、努力だけで、これだけのことをなしたということに。

 緑谷出久という男の、執念に。

 

「あれ、多々くん…?」

 

 背後からかけられた声に、ひかるは思わず肩を跳ねさせた。

 振り向くと、そこにいたのは――緑谷出久だった。

 

「緑谷か…ビクッた」

「ご、ごめん。急に話しかけちゃって、ちょっと久々に来てみたら、多々くんの姿が見えたから……」

「あー、いや、勝手に驚いたのは俺だから…」

 

 そう話を遮ると、今度は沈黙が場を支配する。

 

「……緑谷、ちょっといい?」

「ぇ、あ、うん!いいよ、どうしたの?」

 

 勇気を出して問えば、今度は少したどたどしい返事が帰ってくる。

 緑谷に、聞きたいことがある。もしかしたら、あまり良くないことかもしれないけど。それでも、聞かなければいけなかった。

 

「どうだった?」

「……え?」

「ヒーロー科入試。受けたんだろ?」

 

 そう聞くと、緑谷の表情が、僅かに曇る。

 彼はぎこちなく笑みを作りながら、ぽつりと答えた。

 

「あはは…僕、OFAを、全然使いこなせなくて。みんなみたいに、戦えなくて。結果0Pだよ。あれ以降、オールマイトからも連絡が来ないんだ」

 

 ──多分、見限られたんじゃないかな。

 

 そう口にする緑谷を前に、ひかるはなんて言ったらいいか分からなかった。

 無論、慰めるべき場面なのは分かっている。

 けれど、今の緑谷に何を言ったところで、傷口に塩を塗るのと何も変わらないだろう。

 ましてや、ひかるには、例え使えなくても力がある。

 少なくとも、今のひかるに緑谷の肩を支えてやれることはできなかった。

 

「……ごめん、変なこと聞いて」

「ううん。…OFAを使いこなせなかったのは、僕の責任だから。それよりも、多々くんは?普通科受けたんでしょ」

「あぁ、まぁ多分、合格ラインギリギリくらい」

「そっか」

 

 緑谷は小さく笑って、再び俯いた。

 その笑顔が痛いほどに、ひかるの胸を締めつける。

 

「黒井くんは、どうだったの?」

「え?」

「先生から聞いたんだ。うちの高校から雄英を受けたのは四人いて、ヒーロー科が三人。その中の一人が黒井くんだって。それにほら、同じ中学からってことで、一緒に入試の説明受けたから…」

「あー…実技は問題ないだろうけど、多分筆記がやばそうみたいなことは言ってたと思うけど…」

 

 試験の帰り道に黒井から聞いた話を答えるが、先程の緑谷との話の後では、この話題はなんだか気まずいように感じた。

 そんなひかるの様子を感じとってか、緑谷は話題を少し変えてくる。

 

「そういえば、ひかるくんって、黒井くんとすごく仲がいいよね。学校でも一緒にいるのよく見かけるよ」

「まぁ、結構長いこと一緒にいるし…」

「幼なじみなんだっけ。すごいなぁ…僕、かっちゃんとあんなふうになれる気なんて、全くしないよ」

 

 頬をかく緑谷に、ひかるは曖昧に笑った。

 

「……まあ、爆豪はな」

 

 ひかるが苦々しげにそう返せば、緑谷はクスリと頬を弛めて、二人の間に、少しの笑いが生まれる。

 

「二人は仲の良い…友達なんだね」

「あー…うん、まぁ」

 

 次いで言われた、友達という言葉を、何故か、ひかるは素直に肯定することはできなかった。

 友達、親友。ひかると黒井、二人の関係を指す言葉として、周りからそれらはよく用いられる。

 別に、それを否定する訳では無い。

 気恥しくはあるが、ひかるはたしかに、黒井と仲が良いと断言出来る。関係が何かと問われれば、それは友達だと答える他ないだろう。

 

 ただ…なんだか、少し。友達と、その一言だけでまとめるのは、違う気がした。

 

 それが何故か、であれば一体なんなのか。

 ひかると黒井の関係は、一体、なんなのだろうか。

 ひかるにとって、黒井はなんなのだろうか。

 黒井にとって、ひかるはなんなのだろうか。

 ひかるは、その答えを出すべきなのか。

 

 少しの沈黙が続く。

 

 場を支配する静寂、けれど、ひかるは一人思考の渦に沈む。その横顔を、緑谷はじっと見つめていた。

 

「それじゃあ、僕帰るね。オールマイトは今日も来てないみたいだし。……多々くんも、また学校で」

 

 ふいに、緑谷が言う。

 

「あ、うん。また」

 

 僅かに涙を堪えながらも、背を向けて歩いていく緑谷を見送って、ひかるもまた帰路に着く。

 その脳裏には、先程の疑問が焼き付いていた。

 

「俺と、黒井は…」

 

 友達と、口に出そうとした。

 けれどやはり、喉の奥で、声が掠れるように止まってしまう。

 なんでかは分からない。けれど、今。ひかるに、答えを出すことは出来なかった。

 

 

 

 

 雄英高校受験から、およそ数日。

 雄英から合否が届いたという黒井の言を受け、ひかるは黒井の家にお邪魔していた。

 

「ひかるくん、いらっしゃい。ごめんなさいね、今うち何もないんだけど…」

「あ、大丈夫です。コンビニ寄ってお菓子買ってきたんで」

「あらそう?じゃあ後で適当なジュース、創造して持ってくわね〜」

「いいよ、別に…ていうか、勝手に部屋入ってくんなよ!」

「もう、正義。そういうのは自分で部屋の片付けできるようになってからいいなさい!…それじゃ、ひかるくん、楽しんでね」

 

 そう言って、黒井のお母さんは台所へと消えて行く。

 少なくとも料理で鳴ることは無いであろう効果音が鳴り響き、黒井母の楽しげな声が聞こえてくる。

 

「……やっぱすごいな」

 

【 ――呼称:黒井母

    能力:万物創造

    解説:大体なんでも作れる。】

 

 

「ひかる〜早く〜!」

「あ、ごめん」

 

 急いで階段を駆け上がり、連れられるままに黒井の部屋へと入る。

 既に何度も来たことはある空間だが、それでもやはり、友人の部屋というのはどこかワクワクするものがある。

 ひかるがこっそりベットの下やクローゼットの中を覗こうとしているうちに、黒井が机をガサゴソと漁り、取り出した封筒を床に叩きつけてくる。

 

「じゃじゃーん。なんとなんと、これが雄英高校ヒーロー科の合否結果です!!」

「どういうテンションとノリなの?それ」

 

 ひかるが間髪入れずツッコミを入れるが、その視線は床に置かれた封筒に釘付けだ。

 何を言おうが、結局はひかるも男の子。

 気になるものは気になるのである。

 

「いやぁ〜、受験の合否見るのって、結構緊張するね…!」

 

 そう言っておきながらも、黒井はキラキラと目を輝かせて、楽しそうに封筒を眺めていた。

 

「だな……全くそうは見えないけど」

「え?」

「え?じゃねぇよ。そんな余裕そうにしといて何言ってんのお前」

 

 どうやら、本人にその自覚は全くないようだが。

 

「はいはい、じゃあ、見るよ!!」

「……おう」

 

 黒井が封筒を破り、中のものを取りだそうと力を込める。

 中からそれが現れようとして、僅かに、ひかるもまた息を飲む。

 なんてったって、友人の合否結果だ。

 本人よりも緊迫した面持ちのまま、その光景を眺めていると…

 

「あれ、なにこれ?」

「…円盤?」

 

 中から現れたのは、小型の薄い円盤のような機械だった。

 黒井がその円盤を持ち上げジロジロと眺めているが、うんともすんとも言う様子がない。

 

「うーん、これが合否?丸だし合格ってこと?」

「いや、流石に変だろ。なんか仕掛けとか…」

 

 そう言って、ひかるが黒井の手の中にある円盤をつかもうと手を伸ばすと――、

 

『───私が投影された!!!』

「「うわぁ!!?」」

 

 円盤から光が溢れ、空中に見覚えのある顔が……オールマイトの姿が投影された。

 突如現れ叫び出した筋骨隆々の男を見て、2人は無様な声を上げて尻餅をつく。

 

 

「プロジェクターかよ…金かかってんな……」

「わ、すごい!!オールマイトだ!!なんで!?」

「あー…そういや、確かに」

 

 最近だと結構な頻度であっていたから、オールマイトがみんなの憧れで、滅多に会える存在では無いという事を忘れていた。

 それに、なんで彼が雄英の合否に関わっているのだろうか。

 

『はじめまして、黒井少年!!…と、恐らく多々少年!!』

「え、俺?」

「わぁ〜!やっぱりオールマイトだ!」

 

 すごいすごい、と目を輝かせ、興奮を隠しきれずにいる黒井。

 対照的に、ひかるが困惑していると、投影されたオールマイトが手に持ったメモを読み、喋り出す。

 

『えーごほん。私がこうして合否を伝えているのは、他でもない、雄英で務めることになったからなんだ』

 

「マジか…あー、そういう」

 

「え!?そうだったの!?」

 

 ひかるにとっては合点がいく話だが、黒井からしてみればそうではない。自分の敬愛するヒーローがこの街に居たという事実。そして、雄英で教師を務めるということに対し、どこか悔しげに、そして同時に嬉しげに表情をコロコロと変えている。

 そんな黒井の様子も知らず、オールマイトは手に持ったカンペを読み上げようと元より深い顔の皺をさらに深めていた。

 

『それで、結果だね。…筆記は怪しいが、実技は135P!!すごいね君!?────当然、合格さ!!』

 

「やばいなお前。二重の意味で」

 

「え〜そうかな〜」

 

 照れ臭そうに頭を搔く黒井に「半分褒めてない」と伝えるかひかるが迷う横で、オールマイトが不敵な笑顔を向けて宣言する。

 

雄英(ここ)が、君のヒーローアカデミアだ!!』

 

 そう言って、おそらくスタッフのような人物がカメラを切ろうとしたのだろうが、その直前に制止の声をかける。

 

『あ、忘れてた。…多々少年、色々あって連絡できなくて悪かったね。君も普通科合格だってさ、おめでとう!!』

 

 それだけ言い残すと、今度こそぷつりと電源が切れる。

 なんで黒井の合否結果を見て自分の結果を知らなきゃないのか。なんか雑だったし。いや、手間は省けだけど。

 どこか納得いかないような、合格して嬉しいような、なんとも言えない気持ちに包まれる。

 

 そんなひかるの様子を知ってか知らずか、黒井は向日葵が咲いたような笑みを浮かべ、僅かにはねる毛先を振るわせて喜びを露わにする。

 

「やった、合格だって!ひかる!!!」

「ハイハイ、聞いてたって…おめでと、黒井」

「ありがと!ひかるも、おめでと!!これで一緒に行けるよ、雄英!!」

「そうだな…なんか俺だけ雑だったし、なんでお前のところに俺の合否がついでに出てきたのかって不満はあるけど……」

 

 そう言って僅かなため息を漏らすが、黒井はそんなひかるのことをニヤニヤ見つめ、楽しげに頬を綻ばせていた。

 

「なんだよ、気持ち悪いな」

 

 ジトーっと黒井を睨むが、黒井は何処吹く風のまま、むしろいっそう楽しげにひかるを見つめている。

 

「いやー、ひかるが嬉しそうだなって!」

「はぁ?」

「だってさ、ひかる。すっごい笑顔じゃん!!」

 

 そう言われて、気がつく。

 口元が、僅かではあるが三日月形に歪み、ひかるの顔には不格好な笑顔が浮かんでいる。

 急いで口元を隠すが、既に手遅れ。黒井はにやにやといやらしげにひかるの顔を見つめていた。

 

「あ、いや、これは…」

「照れんなよ〜」

「照れてねぇし」

「いや照れてるでしょ」

 

 必死に弁解しようと言葉を紡ごうとするひかるだが、何を言おうと言い訳にしかならない。

 赤く染った頬を黒井につつかれ、逃げるように顔を背ける。

 

「ねぇねぇ〜」

「あー、あー、あー。合否わかったんだからもういいだろ…!ほら、スマブラ持ってきたから!」

「えー、仕方ないなぁ〜」

 

 無理矢理話題を逸らし、ひかるはホッと息を吐く。

 黒井に言われるまで自覚できなかったが、どうやら自分が思っていたよりも、雄英に受かったことが嬉しかったらしい。

 

 ……それとも、黒井と同じ高校に受かったことが、だろうか。

 ちらりと、黒井を横目に見る。

 呑気な笑顔を浮かべたまま、どのキャラクターを使うか熟考しているアホ面を眺めていれば、不思議と何もかもがどうでもよくなってくる。

 

 劣等感も、嫉妬も、不満も。

 全部、より大きく、より強い感情に呑み込まれる。

 

 自分が今、こうしていられるのも、黒井のお陰なのだということを、ひかるはよく知っている。

 そして、それは「前」からずっと変わらないことだということも。

 

 この世界に来てから、ひかると黒井は、前とはまた違う関係性になった気もする。

 ただの友達とも、親友とも違うような、「名前の無い関係」から。

 ひとつ、「幼なじみ」という名称が生まれた。

 勿論、それだけでひかると黒井の関係が変わったり、態度が変わったりなんてことは無い。

 ただ、一緒にいた時間が増えただけだ。

 それでも、確かに、「前」の世界と、今の世界との乖離点は増えて行く。いつの日か、一致しているところなんて、なくなってしまうのではないかと。そう考えたこともあった。けれど。

 

「どうしよ、何使おうかな〜!やっぱり、ここは無難に……」

「あ、じゃあ俺こいつ」

「え〜ずるいー」

「なにが?」

 

 

 2人で過ごすこの日々だけは、きっと変わらないものなのだろうと。

 ひかるは、そう願っている。

 

 

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