【私立パラの丸高校 ヒーローアカデミア編】 作: 燃える空の色
急遽告げられた、最下位は見込みなしの除籍決定宣言。
それは到底、入学初日に行われるようなそれではなく――、
「最下位除籍って、入学初日ですよ!? いや初日じゃなくても、理不尽すぎる!!」
みんなの声の代弁者、麗日の糾弾の声がグラウンドに響く。
そんな真っ当な意見を受けて尚も動じず、相澤は子慣れた様子で生徒たちに向き直り、
「自然災害…大事故…身勝手な敵たち…いつどこから来るか分からない厄災―――日本は理不尽にまみれてる。そういう理不尽を覆していくのがヒーロー」
「―――放課後マックで談笑したかったならお生憎これから三年間雄英は全力で君たちに苦難を与え続ける。」
「"Plus Ultra"さ。全力で乗り越えて来い」
最後に校訓で締めくくった相澤の煽りの言葉。
良くも悪くも、その言葉に心震わされ、生徒たちは各々がこの試練に立ち向かおうと、覚悟を決め始めた。
「、、、、、」
しかし、ただ一人。
闇川りこだけが、不満気な顔を隠せずにいた。
□第一種目:50m走
「うりゃ!!」
ブラックホールワープの要領で高速移動────記録:0.9秒
「、、、毎朝走ってるから」
「関係なくねぇか?」
連続で起爆を繰り返し、その反動を利用して跳ぶ────記録:4.8秒
□第二種目:握力
「ふんっ!」
黒井は手にブラックホールを作り、全力で吸引―――記録:測定不能。
「えいっ」
闇川は使い方が特に思い浮かばず素の身体能力で握る―――記録:10キロ。
□第三種目:立ち幅跳び
「"
ブラックホールを用いた疑似できな飛行―――記録:測定不能
「、、、、、、」
起爆、起爆、起爆。
落ちる直前の起爆を繰り返し、跳び続ける。
―――記録:測定不能
□第四種目:反復横跳び
「"
左右に小型ブラックホールを配置し、少しの力で吸引、僅かに動きをサポートする。
―――記録:70回。
「これはちょっと、、、」
闇川の個性を使うには幅が狭すぎるため、素の身体能力で挑む。
―――記録:52回。
□第5種目:ボール投げ
「黒井は記録変わんねぇだろ。飛ばせ」
「はーい」
黒井の番を飛ばし、闇川が円の内側に足を踏み込み、手渡された小さなボールを両手で握って、そっと息を吐く。
正直、こんな仲間を蹴落とすような真似に、進んでやる気はでない。
「けど、、、手を抜くのは、違うと思うから」
大きく振りかぶり、投げる―――同時に響く爆音。今日1番の大火力だ。
風圧が砂埃を生み出し、周囲で様子を見ていた他生徒たちが軽く吹き飛ばされる。
―――記録:520m
「あの女子もすげぇなぁ!」
「地雷系……いい!」
全体でも上位に来る火力を披露した闇川に対し、周囲の視線は軽く釘付けとなる。
しかし、そんな周りの様子を気にもとめず、闇川は淡々と円の内側から出て、少し不満気な顔をして俯いていた。
「すごいよりこてゃ!前見た時よりも、爆発の火力が上がってるね!!」
そんな闇川の元にズカズカと近寄り、黒井が声をかける。
「ありがと黒井くん、、、でも、爆発頭くんに負けちゃった」
そう言ってちらりと視線をウニのようにトゲトゲとした髪の少年…爆豪勝己へと向ける。
確かに、どちらも爆発に関する個性であるため、200m近く結果に差ができてしまったのが悔しいのだろう。
「悔しい、、、」
「まぁまぁ、別に戦ってるわけじゃないんだし…」
「違う。わたしが悔しいのは、努力を重ねることを怠った過去の自分自身、、、」
「ストイックだね〜」
そう悔しそうにする闇川を宥めつつ、黒井の視線は別の所へ…緑谷出久の元へと向けられていた。
「緑谷のやつ、大丈夫かな。さっきから一回も個性使ってないけど…」
「ていうか、緑谷って無個性なんじゃなかったっけ」、なんて風に考えていても、時間は無常に流れるもの。
「次、緑谷。早くしろ」
「は、はい!!」
そうしている間にも順番は進み、早くも緑谷の手番へと到達する。
「頑張れ、緑谷……!」
「、、、あのモジャモジャくん、黒井くんの友達?」
「うん!さっき初めて喋ったけど、中学一緒だったんだ!!」
「そうなんだ、、、じゃあ、わたしとも友達だね」
「うん!!」
(((えぇ…?)))
残念ながら、この場にひかるはいない。
故に、初対面で直接ツッコミを入れてくれる者が居ない以上、この二人の会話はまとまりや常識というものを知らないのだ。
そんな後ろのやり取りも知らずに、緑谷は一人焦っていた。
「(このままだと、僕が最下位──)」
「緑谷くんはこのままだと不味いぞ…」
「ったりめーだ、無個性の雑魚だぞ!」
「無個性!?彼が入学時に何を成したか知らんのか!?」
「は?」
「……そろそろか」
緑谷が円の内側に踏み込み、深呼吸。
腕を振りかぶり、個性を発動しようと力み――
「――記録46m」
結果何も起こらず、ボールはふわふわと放物線を描き、無様に落下する。
「な…今、確かに使おうって……」
突然の困惑。
緑谷は確かに今、オールマイからさずかった"個性”を使おうとした。
けれども現実はなにも起こらず、まるではなからそんなものは無かったのではと否定されたような恐怖に見舞われる。
「"個性”を消した」
「!?」
困惑する緑谷に、答え合わせのような相澤の言葉。
呆れた様子の相澤は続けて、
「つくづくあの入試は合理性に欠くよ。おまえのような奴も入学出来てしまう」
「消した……!そうか、あのゴーグル…そうか…!」
観ただけで人の"個性”を抹消する"個性”を持つヒーローなんて、この世界にたった一人しか存在していない。
「抹消ヒーロー、イレイザーヘッド!!!」
その名を聞いて、他の生徒たちがザワザワと騒ぎ始める。
「イレイザー?俺知らねぇ」
「名前だけは見たことある!アングラ系ヒーローだよ!」
「りこてゃ、知ってる?」
「、、、前読んだ雑誌に、少しだけ乗ってた気が…」
緑谷を除いて、誰もその名以上のことをはっきりと知らないマイナーヒーロー。
緑谷の話が本当ならば、自分たちの教員を名乗ったこの男は、"個性”を消す"個性”というあまりにも強力すぎる力を持つらしい。
それを証明するかのごとく、緑谷は個性を発動しようとし、そして不発に終わったのだと言う。
「見たとこ…"個性”を制御出来ないんだろ?また行動不能になって、誰かに救けてもらうつもりだったか?」
「そっ、そんなつもりじゃ…」
「どういうつもりでも、周りはそうせざるをえなくなるって話だ。」
相澤先生の首元に巻かれた布がまるで意志を持ったかのように動き、緑谷を縛り、引き寄せる。
「昔暑苦しいヒーローが大災害から一人で千人以上を救い出すという伝説を創った」
そう言われ、緑谷の脳裏に過ぎるのは、過去に何千と繰り返して見た動画、その風景。
焦土に染った都市、響き続ける阿鼻叫喚。
倒壊するビルの下敷きになった、涙を流す数え切れない数の人々。限りなく広がる血潮の海。
そして、その全てを笑顔で救い出す、怖いもの知らずの英雄の姿。
「同じ蛮勇でも…お前は一人を助けて木偶の坊になるだけ。緑谷出久、お前の"力”じゃヒーローにはなれないよ」
ふらっ、と相澤の髪が降ろされ、緑谷に巻かれた布が相澤の元へと回帰する。
「…個性は戻した…ボール投げは2回だ。とっとと済ませな」
緑谷が2球目のボールを受け取る後ろで、生徒達がざわめきだし…同時に、相澤もその背を見つめていた。
―――ここで性懲りも無く玉砕覚悟の全力か…はたまた萎縮して最下位におさまるか…
―――どちらに転んでも見込みはない
「……」
そんな周りを気にもとめず、ブツブツと、緑谷は何かを呟き続け、再び円の内側へと入り込む。
もう一度、全力を出そうと、大きく振りかぶる。
「見込み、ゼロ…」
その手から、ボールが放たれようと―――
───相澤先生の言うとおりだ
「まだ…」
「───!?」
───これまで通りじゃ、ヒーローになんてなれやしない
「まだだ!!!───まだ!!!!!」
──僕は人よりも何倍も頑張らないと…ダメなんだ!
「最大限で…最小限に…今──」
──僕にできることを!!!
緑谷の指先が、翠緑の光を纏い―――ボールが、大気を突破って飛翔する。
「あの痛み…程じゃない!!」
―――記録:705.3m
全体でもトップに入る、好成績。
─── 力任せの一振りじゃなく指先にのみ力を集中させたのか…!!
「先生…!」
青紫色に変色した指を、ギュッと握りしめて。涙を堪えながらも笑顔を浮かべて、緑谷は相澤へと向き合う。
「まだ……動けます!!」
「…こいつ──!!」
「え!?え!?どうしたの!?何がどうなったの!?」
「わからない、、、けど、あのもじゃもじゃ頭くん、凄い、、、」
突如叩き出された好記録。
周囲の人間がそれに驚き、緑谷の元へと注目が集まる。
そして、その中の一人。
爆豪勝己が、まるで信じられないものを見たとばかりの惚け面を晒し出していた。
「どーいうわけだ、コラ!!ワケを言え、デクてめぇ!!」
「うわぁぁぁぁ!?」
鬼の形相をした爆豪勝己が、手のひらで小さい爆発を繰り返し、全身という全身で怒りを現しながら緑谷へと襲い掛かる。
「──んぐぇ!!」
しかし、その手が緑谷の元に到達することはなく。
相澤の元から伸びる布が爆豪を拘束する。
「ぐっ…んだこの布、固っ…!」
「炭素繊維に特殊合金の繊維を編み込んだ「捕縛武器」だ…ったく、何度も個性を使わすなよ…」
「俺はドライアイなんだ」
「(((個性すごいのに勿体ない!!)))」
──人物名:相澤消太(イレイザーヘッド)
個性:抹消
解説:視たものの個性を消す。瞬きすると解ける。
「時間がもったいない。次、準備しろ」
爆豪が大人しくなったのを確認して、相澤先生は個性を解除し、淡々と次の作業へと移る。
「っ……」
それでも、やはり。
爆豪勝己は、緑谷を睨みつけていた。
その後も、緑谷は特に成績を残すことなく、黒井と闇川は順調に記録を伸ばしていき、全種目を終了───
「んじゃ、パパっと結果発表」
トータル再開が除籍と宣言されたが故に、この場において最も平均した記録が低い者…緑谷出久だけが、泣きそうな顔をして次の言葉を待っていた。
「ちなみに除籍は嘘な」
そんな緑谷たちを前にして。さらりと、相澤そうが言い放つ。
「君たちの最大限を引き出す、合理的虚偽」
「「「はーーーーーーー!!!!??」」」
雄英高校ヒーロー科、その受難。
A組全員、第一関門突破である。