第1話 孤独な入団者
訓練兵団本部の門が開く音とともに、新たな104期生たちが列をなして入場する。
背筋を伸ばし、緊張した面持ちで歩く少年少女たちの中に、一人だけ異様な雰囲気をまとった青年がいた。
レオン・ヴィスナー。
無言。無表情。周囲と視線を交わすこともなく、整然と列の最後尾に並ぶ。
「なんかあの人……雰囲気違くない?」
「うん、ちょっと怖いかも……」
ざわつく周囲の声も、彼には届いていないようだった。
「そこの貴様らァアア!!並びが揃ってないぞォオ!!」
サシャがパンを口にしたまま怒鳴られ、コニーが巻き添えで土下座する中、レオンはただ直立不動でその様子を見下ろしていた。まるで関心がないかのように。
やがて訓練が始まり、身体能力テストが行われる。
走り、跳躍、模擬戦闘。どれを取っても、レオンの動きは他の訓練兵とは別格だった。
「すげぇ……。あいつ、立体機動も使わずに教官の腕取ったぞ……!」
模擬格闘の実演で、教官キースの攻撃を一瞬で見切り、肩に手刀を打ち込んだレオン。
静かに退く彼を見て、誰もが言葉を失った。
ただ一人、アニ・レオンハートだけが腕を組んだまま呟く。
「……やりすぎ」
その言葉に、教官が口角を持ち上げた。
「面白い……貴様、名前は?」
「レオン・ヴィスナー、です」
「貴様、どこでそんな戦い方を学んだ?」
レオンはほんの一瞬だけ、表情を曇らせた。
「……独学です」
それ以上何も語らなかった。
その夜。食堂の隅にひとり座っていたレオンの前に、トレイを抱えた少女が座り込んできた。
「なあなあ、アンタってすっごい強いんやろ? 立体機動も使わんと、教官ぶっ倒したって話、ほんまやったん?」
レオンは目だけを向けて、そのまま黙っていた。
「お、お礼っちゅうか……これ、うちのパン。さっき余計に取ってしもてな。…ほら、しゃべるきっかけってやつ!」
無造作に差し出されたパンを、レオンは黙って受け取る。
「……別に隠すことでもない。昔、内地で殺し合いに巻き込まれただけだ。そういう場所に生きてた」
サシャはパンを口にくわえたまま固まった。
「……なんか、思ってたんと違ったわ。もっとこう、“熊と素手で戦ってた”とか、そんなんかと…」
「熊より人間の方が厄介だ。何考えてるか分からないからな」
「なるほどなぁ…。アンタ、けっこう怖いこと言うな」
「なら、もう話しかけない方がいい」
「ううん。逆にちょっと興味湧いてきたかも。うち、強い人って好きやから」
レオンはわずかに目を細めただけで、何も答えなかった。
そのやり取りを遠くから見ていたクリスタは、ふわりと笑って小さく呟く。
「サシャって、ほんと誰とでも仲良くなれるんだね……」