壁の外に咲く花   作:ナムルパス

10 / 46
第10話 選ばれし者

――夜明け前。空はまだ深く、静寂が世界を包んでいた。

 

だがその静けさを破るように、訓練兵団の東方監視塔で火の手が上がった。

炎、巨人の咆哮、牙獣の咆哮、そして……人の悲鳴。

それはまるで、選ばれし者を試すかのような“審判の夜”だった。

 

⸻

 

「敵、来たか」

 

塔の屋根に立ち、レオンは呟く。

 

アニ、ライナー、ベルトルト、クリスタ、サシャ、そしてアルミンとジャンまでもが集結していた。

皆、あの“監視者”の言葉を思い返していた。

 

『次は、“本物”をぶつける。牙獣群、巨人群、そして“自我を持つ混合体”。――耐えられるかな?』

 

それはただの脅しではなかった。

この襲撃は、明確な“意思”のもとに放たれている。

 

「敵数、確認。牙獣六体、巨人八体、混合体一体……!」

 

アルミンが双眼鏡を通して状況を叫ぶ。

その表情には恐怖と困惑が入り混じっていた。

 

「くそ……どうやってここまで接近を許したんだ!」

 

「逆に言えば、意図的に『見逃されていた』ってことだろうな」

 

ジャンの皮肉に、誰も反論できなかった。

 

牙獣――元は人間だった獣。

巨人――世界の理不尽そのもの。

そして、混合体――

 

「……あれは……!」

 

サシャが口元を押さえた。

 

そこに立つ“混合体”の姿は、どこか人間の姿を保っていた。

一見すれば、20代の男性。

だが肌は灰白色、腕は巨人の再生構造、背中には牙獣特有の黒い脊椎露出。

そして何より――彼の目は、“理性”を持っていた。

 

「……喋ってる……?」

 

風を通して届いた声は、確かに人語だった。

 

『レオン=クロフォード。確認。排除対象に該当』

 

「……名前を、知っている……?」

 

「まさか……あいつ、“かつての仲間”か?」

 

ライナーが言葉を飲む。レオンの目がかすかに揺れた。

 

「……あれは、ケイン・ラドフォード」

 

「知ってるのか……?」

 

アニの問いに、レオンは短く頷いた。

 

「あいつは……俺と同じ、“牙獣計画”の生き残りだった。……だが、俺よりも深く、取り込まれていた。完全適合体、人工混合種第一号」

 

静寂の中で、ケインの声が響いた。

 

『選別対象に告ぐ。レオン=クロフォード、およびその周辺人物は、全て“組織の財産”である。引き渡しを要求する』

 

その言葉に、クリスタが一歩踏み出す。

 

「誰が……誰を財産って言ったのよ!」

 

怒気に満ちた声。だが、ケインは淡々と告げた。

 

『拒否、確認。排除を開始する』

 

咆哮が夜を裂く。

 

――戦闘が、始まった。

 

⸻

 

巨人が塔を包囲し、牙獣が高速で駆け回る。

その中央に、混合体ケインがいる。

 

「アニ、ライナー、ベルトルトは外周の牙獣を引き剥がせ! サシャとジャンは巨人の足を狙って時間を稼げ!」

 

レオンの指示に皆が動く。

彼自身は、中央にいるケインに向かって走った。

 

「久しぶりだな、レオン」

 

ケインが笑う。

 

「だが、お前は“拒絶”した。“選ばれし存在”でありながら、何もかもを否定した。――だから、死ね」

 

「お前に殺される理由はない。お前はもう、“自分”じゃないだろ!」

 

レオンの刃が唸り、ケインの腕を切り裂く。

だが、すぐに再生する。

 

「貴様のような不完全体に、俺が遅れを取るはずがない……!」

 

ケインの腕が伸び、鉄塔の骨組みをも引きちぎる。

一撃、二撃――レオンは紙一重で回避する。

 

「……!」

 

その時、アニの蹴りがケインの側頭部を直撃した。

 

「よそ見してる暇はないでしょ」

 

すかさず、レオンが背後から斬撃を叩き込む。

 

だが――ケインはその刃を“素手”で止めた。

 

「強いな、お前たち。だが無意味だ。俺はもう“人間”じゃない」

 

「……なら、俺は“人間”で構わない」

 

レオンは刃を捨て、ケインの胸に拳を叩き込む。

 

その拳に、過去も怒りも悔しさも、すべてを込めて――

 

「お前を止める、それが俺の答えだ!」

 

一閃――ケインの胸の核が砕けた。

 

混合体は叫び声と共に崩れ落ちる。

 

戦場が静かになった。

牙獣たちは制御を失い、巨人も活動を停止していく。

 

「……勝ったのか……?」

 

ジャンの声が虚空に溶けた。

 

⸻

 

翌日。戦いの痕跡は、またも“揉み消された”。

 

公式発表は「演習中の事故」。

ケインの死も、牙獣の存在も、何一つ公には残らなかった。

 

だが――

 

「君たちは、よくやってくれた」

 

そこに現れたのは、調査兵団副団長――エルヴィン・スミスだった。

 

「真実を知っている者がいる限り、闇はいつか終わる。君たちはその“希望”になり得る」

 

「だったら……聞きたいことがある」

 

レオンが前に出る。

 

「牙獣計画、そして“混合種”について、調査兵団は何を知ってる?」

 

エルヴィンは一瞬だけ目を伏せ――そして言った。

 

「……お前が“選ばれし者”であることは、こちらも承知している。だが、信じたい。お前が人間として抗う限り、我々はお前を信じる」

 

その言葉に、レオンは小さく頷いた。

 

「なら、俺は人間として戦う。もう二度と、同じ過ちを繰り返さないために」

 

⸻

 

そして――その夜。

 

一人の男が、廃屋の中で目を覚ました。

 

「……エレン・イェーガー、目覚めたか」

 

声をかけたのは、あの“監視者”だった。

 

「君には特別な因子がある。君なら“新たな段階”に到達できるはずだ。巨人でも、牙獣でもない、“第三の存在”に」

 

エレンの瞳がゆっくりと開かれる。

 

「……俺は……」

 

その言葉の先にあるものが、“次章”を決定づけていく――

 




第1章 完
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。