壁の外に咲く花   作:ナムルパス

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第2話 秘めた刃

森の夜は冷たく、闇は深い。

月の光さえも、濃い霧に遮られ、焚き火の明かりだけが人の存在を証明していた。

 

レオンは火のそばで小枝を削りながら、クリスタの背中に視線を向けた。

その向こうでは、ユミルが腕を枕に眠っている――はずだった。

 

(寝てる……いや、違う。息が浅い。……起きてる)

 

レオンの目にはわずかな違和感が引っかかっていた。

だが彼はそれを追及しようとはしなかった。

 

それよりも今、彼の頭に引っかかっているのは、今日エレンと対峙した時のあの感覚だ。

何かが“繋がってしまった”ような気がする。

 

(俺たちは敵じゃない、そう言った。でもあいつの目は、戦いを覚悟してた。あれは――牙だ。逃れられない闘争心)

 

「レオン、眠れないの?」

 

声をかけてきたのはクリスタだった。

 

「……いや、少し考え事をしてただけだよ」

 

クリスタは隣に腰を下ろし、小さく笑った。

 

「レオンってさ……いつも周りを気にしてるよね。自分のことより、他人の動きとか、空気の流れとか」

 

「……そうしないと死ぬからな。俺の戦い方って、周りを活かすタイプだから」

 

「でも、誰かに頼ることも大事だよ?」

 

レオンは笑みを返した。

 

「それは、誰かを本当に信じられた時だけだ」

 

「……そっか」

 

クリスタの瞳がわずかに揺れた。

 

「ねぇ、レオン。ユミルのこと、どう思う?」

 

突然の問いだった。

 

「どうって……あいつは、自由すぎて読めない。でも、ああ見えて仲間思いだよ。お前のこと、すごく大事にしてる」

 

「……うん。私も、そう思う」

 

クリスタの声が少しだけ震えていた。

 

(……何か、あるのか?)

 

レオンは思わず問いかけそうになったが、言葉を飲み込んだ。

 

 

翌朝、東の森の奥へ進行中――

 

前方を進む斥候班から、急報が飛び込んだ。

 

「煙弾だ! 赤色……大型個体の接近!」

 

「全員、戦闘態勢! 前方に巨人が出現した!」

 

駆け足で進んだ先、森の開けた場所には――異形の巨人がいた。

牙獣ではない。明確に“知性”を持つ巨人――身の丈およそ12メートル。異様に伸びた腕と、歪んだ顎。

 

「知性巨人!? なんでこんな場所に……」

 

アルミンが叫ぶが、すでに巨人はこちらへ突進してきていた。

 

「クリスタ、下がって!」

 

ユミルが叫び、彼女を庇うように前に出る。

その動きには、常人離れした反応速度があった。

 

レオンの目が鋭くなる。

 

(今の動き……普通じゃない。あの速度、あの距離感……訓練兵レベルじゃない)

 

ライナーとベルトルトも同時に動き出し、左右から挟み撃ちにしようとするが――

 

「レオン、こっちを!」

 

アニの声。彼女は立体機動装置を巧みに操り、巨人の目の前を横切って注意を引いた。

 

(よし……ここで動きを封じる!)

 

レオンは跳躍し、巨人のうなじへと急降下――

 

だが、巨人は突然、後方へと跳ねた。人間らしからぬ判断力と敏捷性。

そして逃走。

 

「……あいつ、知性があるのか?」

 

アニが低く言う。

 

「いや、知性というより……訓練された動きに近い」

 

レオンは悔しげに唇をかんだ。

 

(エレンも巨人化できる。あの巨人も、同じ“人間”なのか?)

 

ふと視線を戻すと――ユミルの姿がない。

 

「……クリスタ、ユミルは?」

 

クリスタは何かを言いかけて、唇を閉じた。

 

「……あっちに……行ったよ、巨人の進行方向」

 

「一人でか?」

 

「……ええ」

 

レオンの目が細くなる。

 

(ユミル……お前は何者だ?)

 

 

その頃、森の奥。

 

ユミルは誰にも見られぬ場所で、木に背を預けて座っていた。

 

「……っつーの、危なかった。あそこで私が変身してたら、間違いなくバレてたな」

 

誰も聞いていないはずの空間に、ぽつりと呟く。

 

「でも、クリスタにはもう気づかれてるよな……あの子、優しすぎるくせに、目が鋭いんだよ」

 

手のひらを見つめながら、ユミルは微笑した。

 

「それでも、あの子が“何も言わない”って選んでるなら……私はそれに甘える」

 

 

その夜。焚き火の周り。

 

クリスタがそっとレオンの隣に座った。

 

「ねぇ……レオン」

 

「ん?」

 

「人って、秘密を抱えてても……許されると思う?」

 

唐突な問いだったが、レオンはすぐに答えた。

 

「何を守るための秘密か、による。自分のためだけなら、いつか裏切りになる。でも誰かのためなら……それも戦いだ」

 

クリスタは微笑み、うつむいた。

 

「……ありがとう。やっぱり、レオンは優しい」

 

(……レオンはきっと、気づき始めてる。ユミルのことも、ライナーたちのことも)

 

(だけど、今は誰も責める気はない――だって、それでも“仲間”だから)

 

クリスタはそう思いながら、焚き火の揺れる炎を見つめ続けた。

 

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