壁の外に咲く花   作:ナムルパス

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第4話 見えざる戦線

辺りに立ち込める煙の匂い。

焼けた木材と土の混じる匂いが、戦いの余韻を告げていた。

 

「エレン……!」

 

誰かがその名を呼んだ。

煙の向こうから現れたのは、かつての同期――エレン・イェーガー。その背後にはミカサ、ジャン、コニーが続く。

 

「久しぶりだな、レオン。……ここで何をしてる?」

 

エレンの声は低く、棘があった。

 

「牙獣を追ってた。廃村で戦闘があった。……そっちは?」

 

「巨人討伐だ。ついさっき、この森で遭遇したばかりだ。……そっちが連れてきたわけじゃないよな?」

 

その言い方に、レオンの眉がピクリと動いた。

 

「俺たちは牙獣を追ってただけだ。巨人は関係ない」

 

「ならいい」

 

エレンはそれ以上何も言わず、レオンの横を通り過ぎて行く。

 

ミカサはエレンの背を目で追いながら、レオンに視線を向けた。

 

「……あなたが、彼の邪魔にならないことを願うわ」

 

ただの忠告だった。けれど、そこには確かな敵意が宿っていた。

 

「敵だ!」

 

森の北側――巨木の根元から、突然巨人の咆哮が響いた。

 

「今度は……通常種じゃない……!」

 

ベルトルトが呟く。彼の顔は青ざめている。

 

森の奥から現れたのは、異形の巨人。そしてその脇に並ぶのは、あの牙獣だ。

 

「共闘……してる?」

 

アルミンが声を震わせる。

 

巨人と牙獣。互いに意思の通じない存在だと思われていた。だが、今この場で、両者は連携して前線に迫ってきている。

 

「考えられない……!」

 

レオンが歯を食いしばる。

 

「来るぞ!」

 

戦闘が始まった。巨人たちが前線を突破し、牙獣が機動兵の背後を狙う。

 

「くそっ……やるしかねえ!」

 

ジャンとコニーが前に出る。ミカサはすでにエレンの背を守る位置へ飛んでいた。

 

「エレン、今だ!」

 

ミカサの指示に応じて、エレンが巨人化する。

 

――雷鳴のような音とともに、蒸気が森を満たす。

 

そして立ち上がる、15メートル級の進撃の巨人。

 

「……見たの、初めてだ」

 

クリスタが呟く。彼女の横で、ユミルが静かに息を呑んだ。

 

レオンは状況を見極めながら、牙獣の動きを追っていた。

だがそれ以上に、彼の視線はアニ、ライナー、ベルトルトに向かっていた。

 

(あいつらは……なぜ、動かない?)

 

巨人と牙獣が共闘する異常な事態。だが、ライナーは無表情のまま斧を持ち、動こうとしない。

 

「アニ、動けるか?」

 

「当たり前でしょ」

 

アニが飛び出し、牙獣の横腹に蹴りを叩き込む。

 

「やるな!」

 

「感心してる暇があったら援護して!」

 

レオンもすぐに続き、牙獣の背後に斬撃を加えた。今度は手応えがある。

 

「核が移動してる……!」

 

「え?」

 

「今の牙獣、うなじじゃない! 腹部の中心……!」

 

そう言ったレオンの眼光が鋭くなる。

 

「これは……まるで、“人間”の設計だ」

 

「退け、レオン!」

 

前方からミカサの声が飛ぶ。彼女の刃は、牙獣の肩を切り裂こうとしていた。

 

レオンは咄嗟に軌道をずらし、ミカサの動線を空ける。

 

「ミカサ、お前……!」

 

「エレンを守るためなら、誰であろうと排除する。あんたがどう動こうと関係ない」

 

冷たい声。殺意に近いものがそこにあった。

 

「俺たちは味方だろうが……!」

 

「今のエレンにとって、味方は“目的を共有する者”だけよ」

 

そう言い残し、ミカサは再び空へ舞った。

 

突如、牙獣が高く咆哮を上げる。

 

「逃げる……?」

 

「いや、これは……仲間を呼んでる」

 

ライナーがぽつりと呟いた。

 

次の瞬間、森の奥から新たな影が複数――牙獣に似た異形の生物が姿を現す。

 

「数が多すぎる……!」

 

エルドが判断を下す。

 

「ここは撤退だ! 負傷者を優先しろ!」

 

部隊は分かれ、それぞれ脱出ルートへ退避を始める。

 

エレンは巨人化を解除し、地上に戻っていた。

その横に立つミカサの目は、なおも警戒を解いていない。

 

その夜。

野営地で、レオンは火を見つめながら考え込んでいた。

 

(牙獣の進化……巨人との連携……そしてアニたちの沈黙)

 

「……俺は、何を信じるべきだ?」

 

「迷ってるの?」

 

アニが後ろから静かに現れる。

 

「いや。迷ってるんじゃない。確かめてるだけだ。お前が、何を見て、何を黙っているのかをな」

 

アニは火を見つめながら、口の端をわずかに上げる。

 

「全部が分かったとき、あんたは私を殺す?」

 

「そんなこと、したくない。……でも、世界が俺たちを分けるなら、俺は“自分の正しさ”を選ぶ」

 

「ふぅん……意外と、意地っ張りなんだね」

 

その頃、クリスタはユミルとテントの中にいた。

 

「さっきの戦い、見たよ。あんな動き……人間じゃない」

 

「……そうかもな」

 

ユミルはクリスタから目を逸らす。

 

「でもな、クリスタ。私は……あんたを守るためなら、何だってする。たとえ、それが――」

 

「知ってるよ」

 

クリスタの声は優しかった。

 

「だから私は……何も言わない。言えない。ただ、あなたの隣にいたいの」

 

ユミルの目が見開く。そして、ふっと笑った。

 

「……やっぱ、あんたは変な奴だよ」

 

その夜。

一人、廃村の井戸跡を見下ろしていた人物がいた。

 

「……あそこに“鍵”がある」

 

エレン・イェーガーの目は、深く静かな闇を見つめていた。

 

その背後に立つミカサが、彼を守るように立っている。

 

「エレン、もうすぐ……?」

 

「もうすぐだ。すべてが、始まる」

 

彼の眼には、確かな殺意と決意が宿っていた。

 

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