壁の外に咲く花   作:ナムルパス

15 / 46
第5話 兵団の影、牙の真実

戦闘の余韻が、空気を重たく濁していた。

森を抜け、仮設野営地へと戻ったレオンたちの面持ちは沈んでいる。仲間の死、牙獣と巨人の連携、そしてエレンたちとの確執――あまりにも情報と感情が錯綜していた。

 

「……このままじゃ、またやられる」

 

ライナーが呟いた。無表情なその顔には、何か別の焦りが滲んでいた。

レオンはその横顔を見て、小さく息を吐く。

 

「お前ら、何か知ってるんじゃないのか」

 

その問いに、ライナーもベルトルトも一瞬だけ反応を見せる。

アニは、静かにレオンの隣に立ち、周囲を伺うように目を細めていた。

 

「今は……言えない。だが、気づいてるなら、それ以上深入りするな。命が惜しいならな」

 

ベルトルトの低い声。それが警告とも懇願ともつかぬ響きを持つ。

 

レオンは静かに拳を握った。

彼の直感が叫んでいる――あいつらは「壁の敵」でも「味方」でもない。

その狭間に立ち、何かと戦っている。

 

そこへ、地面を震わせるような蹄の音が近づいた。

野営地の入り口に現れたのは、調査兵団の象徴――黒装の騎馬兵たち。

その先頭、あまりにも有名な男が馬から降りる。

 

「兵士たち。お前らが“レオン”か」

 

低い声。鋭い眼光。

リヴァイ兵長だった。

 

「初めてだな。俺はリヴァイ。調査兵団の兵士長。――お前らの噂、聞いてる」

 

レオンが一歩進み出る。

周囲の空気が変わった。

 

「……その様子じゃ、戦場を見たな。牙獣と巨人の共闘も」

 

「見ました。異常な連携でした。牙獣は……単なる獣じゃない。意思を持ち、戦術を理解している」

 

リヴァイは腕を組み、短く頷く。

 

「だろうな。実は、俺たちも似た報告を何度か受けていた。牙獣は巨人と同じ“源”を持ってる可能性がある」

 

「源?」

 

「“力の源”だ。巨人化の能力と、あの獣じみた異形は何かでつながっている。そう考えた方が自然だ」

 

レオンの背筋が凍る。

リヴァイの口調には冗談も感情もなかった。

 

「……憲兵団と駐屯兵団も調査に入ってる。今、ここに来る」

 

その言葉の通り、しばらくして別方向から二つの騎馬部隊が到着した。

白装束の憲兵団。鎧を身に纏った駐屯兵団。

 

憲兵団の指揮を執るのはナイル・ドーク。

駐屯兵団からはピクシス指令が、部下のハンネスを伴って姿を現した。

 

ピクシスがレオンに目を細める。

 

「ふむ。お前が“牙獣殺し”の異名を持つ若者か。確かに……ただの訓練兵じゃなさそうだな」

 

「光栄です、司令官」

 

レオンは形式的に礼を取る。

だが、彼の視線は自然とリヴァイへと戻る。

 

「……兵長、ひとつ質問をしてもいいですか」

 

「ああ」

 

「もし、巨人も牙獣も“人間が作った”としたら、どう思います?」

 

その場の空気が一瞬で張り詰めた。

 

リヴァイは目を細めた。

 

「お前……どこまで知ってる?」

 

「俺は知らない。ただ、気づいたんです。牙獣の核の位置、反応速度、明らかに“訓練された兵士”と同じ。……そして、巨人と同じ“再生能力”を持ってる」

 

ピクシスが煙草をふかしながら呟いた。

 

「やはり、そうか……。実は、我々の中にもその可能性を示唆する報告がある。旧都市の地下で行われていた、“人体実験”の記録がな」

 

「……牙獣は、その実験の成れの果てかもしれない」

 

リヴァイが呟く。

 

「だとすれば、これまでの常識はすべて覆る。巨人とは、天災ではなく“兵器”だ」

 

憲兵団のナイルは声を荒げる。

 

「そんなことはありえん! 壁内の民がそんな非道を……!」

 

「民じゃねえ」

 

リヴァイが睨む。

 

「やったのは、王政、いや……その影に潜む“古い力”だ。今なお続く“選別”のために、獣を生み、巨人を操ってる」

 

全員が黙った。

 

そして、レオンの脳裏に浮かぶ――

アニ、ライナー、ベルトルト。

“巨人と同じ目”をした、かつての仲間たち。

 

「俺たちは、巨人と戦ってるつもりで……人間が作った化け物と戦わされてたのかもしれないんですね」

 

リヴァイがにやりと笑う。

 

「だから面白えんだろ。この地獄はよ」

 

その夜、作戦会議が開かれた。

三兵団の連携で、牙獣の生息地を割り出し、壊滅作戦を決行する方針が決定された。

 

「明朝、出撃だ」

 

リヴァイの声が、すべての兵士の背筋を正した。

 

レオンたち第104期生も、前線部隊に編成された。

 

その夜、レオンは一人、暗がりの中でアニに言う。

 

「俺、お前らが何者でも、すぐには憎めないと思う」

 

「……なんで?」

 

「それだけ一緒に戦ってきたから。だけど、それでも――いつか、向き合わなきゃならない。正面から、お互いに」

 

アニはしばらく何も言わず、夜空を見つめていた。

 

「……そのときは、手加減しないでよ」

 

「当然だ」

 

互いに顔は見えなかった。だが、心の奥で確かに何かが交差していた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。