壁の外に咲く花   作:ナムルパス

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第12話 旧監視施設への潜入

湿った風が吹き抜ける森の中。南方の旧監視施設へ向かう調査班は、重苦しい沈黙の中を進んでいた。

編成されたのは、レオン、アニ、ライナー、ベルトルト、ミカサ、そしてリヴァイ班から一部支援兵。巨人討伐だけでなく、牙獣に関する極秘調査任務が課されている。

 

「施設まではあと半日……だが、警戒しろ。あの場所は調査兵団の監視網すら届かない」

 

そう口にしたのは、リヴァイに同行を命じられたモブリットだった。彼の表情は険しく、何かを知っているようでもあった。

 

「ライナー、様子は?」

 

「異常はない。ただ……空気が妙に重い。動物の気配すら、ほとんど感じられない」

 

ライナーの言葉に、レオンの胸中に何かが引っかかる。

それは“牙獣”と呼ばれる存在を初めて目にした時と同じ、言葉にならない“違和感”だった。

 

「アニ……お前も、何か感じるか?」

 

「……私も。何か、地面の下から……響いてくるみたい」

 

視線を交わす二人。だが、アニはその目線をすぐに逸らした。距離が近づきすぎることを、どこか恐れているようでもあった。

 

一方、ミカサはずっと黙していた。エレンとは別行動を取っていた彼女だが、視線の先は常にレオンに向いている。

 

(この任務……危険が“多すぎる”。エレンなら絶対止めてた)

 

そう思いながらも、彼女は己の役割を果たす決意を固めていた。

 

 

旧監視施設。

 

灰色の石造りの建物は、深い森の中で朽ちかけていた。外観は既に苔とツタに覆われ、入口も半ば土砂に埋もれている。

だが、地中に続く階段が見つかると、レオンたちは即座に警戒態勢を取った。

 

「……この空間、自然崩壊したようには見えない」

 

アニが呟いた。

彼女の視線は、壁面に刻まれた“焼け跡”と、剥がれた金属製の名札――そこには、かすれてはいたが「X1試験区」と読める文字が刻まれていた。

 

「人体実験施設……」

 

レオンが小さく呟いたその瞬間、彼の背後で“風”が揺れた。

 

「下がれ!」

 

ミカサの声と同時に、床を破って飛び出したのは、牙獣だった。

 

ただの生き物ではない。皮膚は部分的に筋繊維が露出し、人間の骨格に近い形状を保ったまま、獣のような脚と腕を備えている。

そして、その背中からは異様な“管”のようなものが複数伸び、うねうねと動いていた。

 

「くっ……なんだ、これは!」

 

ライナーが斧を構え、真正面から牙獣の攻撃を受け止める。だが、その一撃は巨人の拳にも匹敵する重さだった。

 

「レオン、後ろ!」

 

アニの声と同時に、レオンは身を翻して斬撃を放つ。ブレードが牙獣の関節を切り裂き、黒い体液が飛び散った。

 

「普通の巨人と違って……“意思”がある!」

 

ミカサの叫びは的確だった。

牙獣は獲物を選ぶように目を動かし、時に罠のような動きで分断を仕掛けてくる。人間の知性に近い“判断力”があるのは明らかだった。

 

戦闘は熾烈を極めた。

しかし、チームワークの差が勝敗を分けた。ミカサとレオンが前線で動きを止め、ライナーとベルトルトが横から斬撃を入れ、アニが確実に弱点を突いて牙獣の脳部を貫いた。

 

牙獣の体が崩れ落ち、地下に静寂が戻る。

 

「……終わった、か?」

 

モブリットがそう言いかけた時、壁の奥から機械的な音が鳴り響いた。

 

「何かが動き出した」

 

レオンが警戒態勢に入る。

その時、背後のアニがぽつりと呟いた。

 

「……これは、“起動装置”。誰かが、この施設を“守らせていた”」

 

一同が凍りつく中、壁の奥に隠された扉が音を立てて開いた。

 

現れたのは――保管庫。

 

そこに並ぶ無数の培養カプセル。内部には、完全に変異する前の牙獣と見られる人型の生物が、静かに沈んでいた。

 

「これが……牙獣の“正体”?」

 

レオンは一歩踏み出し、記録端末らしきものを手に取った。

 

「“第六次人類実験:対象は統合脳機能の変質に成功。強化外殻および戦闘記憶の植え付けにおいて安定化”。……これは、兵器化された“人間”だ」

 

「人体実験の……成れの果て」

 

ミカサが吐き捨てるように言ったその時だった。

 

「ならば、“人間”に戻す方法もあるのかしら?」

 

影の奥から現れた女の声――

現れたのは、憲兵団の制服をまとった女兵士。見覚えがあった。中央第一師団所属――マルロの上官、ヒッチ・ドリス。

 

「どうして、ここに……」

 

「命令よ。貴方たちが“何を掘り返すか”、確かめるようにって。……ああ、それとね、裏切り者がいるって話。ここに」

 

その言葉に、全員の視線が揺れた。

 

「どういう意味だ?」

 

レオンが問いかける。

 

「私に言わせれば――“牙獣を操ってる”誰かが、あんたたちの中にいるってことよ。そうでなければ、さっきの襲撃……あまりに都合がよすぎる」

 

沈黙が場を支配する。

 

アニの横顔は、表情を消していた。ライナーは目を伏せ、ベルトルトは息を止めていた。

 

そして、ユミルの言葉が脳裏に蘇る。

 

「深入りしすぎるなよ。大事なもんまで壊すぞ」

 

レオンの中で、確信が輪郭を持ち始めていた。

 

「……この中に、敵がいる」

 

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