壁の外に咲く花   作:ナムルパス

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第6話 谷間の血戦

地響きと共に、谷が“吠えた”。

 

 ガリアの谷は、その名に反して静寂とは無縁だった。崖に囲まれた地形は音を反響させ、牙獣たちの咆哮が岩壁を這い、空を震わせていた。あらゆる方向から唸り声が迫る。まるで――この地全体が生きているかのようだった。

 

 「来るぞ――全方位!」レオンが叫ぶ。

 

 リヴァイ班が即座に立ち位置をとり、立体機動装置を構える。彼らの背に、アニ、クリスタ、ユミル、そして精鋭斥候班が続いた。

 

 最初に現れたのは、全身を節のような装甲で覆った“爪牙型”の牙獣だった。巨人よりやや小柄だが、そのスピードは常軌を逸していた。

 

 「ミケ! 右翼を任せる!」ハンジが叫ぶ。

 

 「了解だ」

 

 ミケは獣のような動作で跳び出し、匂いを嗅ぎ取った瞬間、牙獣の前に立ちはだかった。リヴァイも同時に動き、地面を滑るように爪牙型の背後を突いた。

 

 「今だ、レオン!」

 

 「行くぞ――!」

 

 レオンは高速で旋回し、刀身を叩きつけた。鋼の装甲が割れ、牙獣が悲鳴を上げて崩れた。

 

 だが、終わりではなかった。咆哮がまた――。

 

 「……違う、これは……言葉?」

 

 クリスタが耳を澄ませ、ゾクリと背筋を凍らせる。

 

 谷の奥から現れたのは、体格こそ一般巨人並だが、肩に黒いマントを羽織り、片目に眼帯を付けた“異様な存在”だった。

 

 「人……? いや、牙獣……?」

 

 そいつは言葉を発した。

 

 「レオン・アルヴィス……来たか」

 

 レオンの目が見開かれる。

 

 「……誰だ、お前は」

 

 「俺は“ヴァルト”。牙獣の誇りを知る者だ。そして、王の剣となる者」

 

 その瞬間、ヴァルトは超速で飛び出した。まるで立体機動を使っているかのような動きでレオンに肉迫する。

 

 「来るぞ!」リヴァイが割って入る。

 

 刀と爪が交錯し、岩を砕いた。

 

 「リヴァイ兵長!」ペトラが叫ぶが、ヴァルトの攻撃は速すぎた。だが――

 

 「止めるな、俺がやる!」

 

 レオンが強引に割り込み、ヴァルトと刀を打ち合う。衝撃で岩が崩れ、崖が崩落を始めた。

 

 「撤退経路が……!」オルオが叫ぶ。

 

 「アニ、クリスタ、谷の側面から回って!」ハンジが指示を飛ばす。

 

 

 

 ***

 

 

 

 一方その頃、アニとクリスタは別方向の谷間で小型牙獣の群れに包囲されていた。

 

 「こっちは私が抑える! アニは回り込んで!」

 

 「そんな暇、あるか!」

 

 アニは右肩を庇いながらも高速で一体を仕留めた。クリスタも装備を巧みに操り、頭部を削ぐ。ふたりの連携は、もはや一糸乱れぬものだった。

 

 「……なんでこんなに息が合うのかしらね」

 

 「訓練の成果、ってやつかもな」

 

 だがその背後に、異様な存在が立つ。

 

 牙のように裂けた口を持ち、異形の腕を持つ“亜種”――

 

 「クリスタ、伏せろ!」

 

 ユミルが咄嗟に飛び出し、牙獣の攻撃を身を挺して弾いた。その瞬間、ユミルの瞳が紅に染まり、何かが滲み出る。

 

 「……くそ、抑えろ……今は、まだ……!」

 

 その様子にアニが気づく。だが、言葉にはせず、ただ剣を構えた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 谷の中心部では、レオンとヴァルトの一騎打ちが続いていた。

 

 「どうして俺の名を知っている……!」

 

 「お前が“成功体”だからだ。牙獣にも、巨人にもなりきれぬ“境界の者”」

 

 ヴァルトの爪がレオンの頬を裂く。

 

 「だが、その力こそ、王の器を持つ証だ!」

 

 レオンは反撃し、胸元を深く斬り裂いた。

 

 「俺は誰の器にもならない――俺は、俺だ!」

 

 その言葉に、ヴァルトが一瞬、沈黙する。

 

 そして笑った。

 

 「そうか。それならば、その意志で“王”を殺しに来い。牙の王は、すでに目覚めている」

 

 そう言い残し、ヴァルトは谷の深奥へと跳躍して消えた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 戦いが終わった谷には、硝煙と血の匂いが漂っていた。

 

 牙獣兵団の前衛は撃退された。だが、リヴァイ班を含む兵士たちの多くが負傷し、撤退を余儀なくされた。

 

 レオンは、崩れた岩の上で拳を握る。

 

 (ヴァルト……そして、“牙の王”)

 

 アニが背後に立ち、言った。

 

 「……次は、あいつを仕留める」

 

 クリスタも、ユミルも、沈黙のまま頷く。

 

 谷は、まだ全てを見せていない。

 

 だが確かに、一つの“扉”が開いたのだった。

 

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