壁の外に咲く花   作:ナムルパス

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第10話 レベリオ潜行

 谷底の作戦本部に、張り詰めた空気が流れる。

 

 牙獣“スレア”の遺した言葉を受けて、調査兵団は次なる目標を定めた――“レベリオ”。かつて巨人や牙獣の実験が極秘裏に行われていたとされる、旧マーレ地区の地下研究施設。

 

 

 

 「……では、選抜部隊を発表する」

 

 ピクシス司令の声が響く。

 

 「リヴァイ班よりリヴァイ、ペトラ、オルオ、エルド、グンタ。第104期よりレオン、アニ、クリスタ、ライナー、ベルトルト。補佐としてアルミン、ミカサ、ジャン」

 

 名が呼ばれるたびに、緊張が顔を走る。

 

 「ユミルは?」

 

 クリスタが問いかけた。ピクシスは目を細める。

 

 「彼女には別任務を――情報収集と後方警備を任せる」

 

 それは、遠ざけるための措置にも思えた。だが、クリスタはそれを受け入れた。

 

 

 

 出発は翌朝。レベリオまでは東の岩山を越えて三日。道中は牙獣の活動域でもあるため、完全な潜入行動となる。

 

 「……この空気、嫌いだな」

 

 馬を駆るオルオが吐き捨てた。

 

 「何がだ?」とリヴァイ。

 

 「何も見えねぇってのが、逆に不気味だ。スレアの後ろにはまだ“王”がいる。しかもそいつは……人類のどこかにいるんだろ?」

 

 

 

 夜営地に着く頃には、空に星が滲んでいた。

 

 レオンは焚き火を見つめながら、ある“違和感”に意識を向けていた。

 

 「……レベリオという名前に反応した、あいつらの顔」

 

 思い出すのは、ライナーとベルトルトがその名を聞いたときの“呼吸の乱れ”だ。

 

 アニが隣で静かに呟いた。

 

 「ライナー、変だったわね」

 

 「……やっぱり、気づいてたか」

 

 レオンはアニと目を合わせる。

 

 「……俺が知ってるのは、あいつらの“戦い方”だ。人間離れしてるっていうか、なんというか……あいつらが戦場で“躊躇しない”理由が、少しだけ分かった気がする」

 

 アニは表情を変えず、短く頷いた。

 

 三日後、潜入部隊はついに“レベリオ遺跡”に辿り着いた。

 

 岩山の裏側、廃村の地下に隠された黒い鉄扉。それはあまりに人工的で、時代にそぐわない存在感を放っていた。

 

 「開けるぞ」

 

 リヴァイの合図で、ペトラとエルドがレバーを引いた。

 

 ――ギィィ……

 

 開かれた扉の向こうは、漆黒の闇。まるで“この世の理”を否定するような気配が、地下から吹き上がってきた。

 

 内部はかつての研究施設そのものだった。

 

 錆びた器具。ひび割れた培養槽。崩れかけた観察台。

 

 アルミンが資料を読み取りながら、震える声で言った。

 

 「……これは、“巨人の脊髄液”を用いた生命工学の記録です。“意識ある獣体兵器の生成”……? これは、牙獣のことだ……!」

 

 「じゃあ、牙獣は……やっぱり“作られた存在”ってことかよ……」

 

 ジャンが顔をしかめる。

 

 その時だった。

 

 施設の奥で、“何か”が動いた音が響いた。

 

 

 

 ――コッ、コッ、コッ……

 

 「誰かいる!」

 

 ミカサが素早く前に出る。レオンとアニも構えた。

 

 現れたのは、白い外套を羽織った老婆だった。

 

 その背には、奇妙な赤黒い装置が埋め込まれている。

 

 「……あの声の……正体……か……」

 

 老婆は、か細く口を開いた。

 

 「お前たちも……“王”の声に呼ばれた者たちか……?」

 

 

 

 ***

 

 

 

 彼女の名はグレタ・シュテイナー。

 

 かつてマーレにて巨人研究に従事していた科学者であり、牙獣生成の実験に加担した張本人だった。

 

 「……牙獣は“王”の意思によって創られた。王とは、人ではない。だが……人の姿をしている。かつてマーレ政府が接触した“知性巨人の原点”」

 

 「原点……?」

 

 レオンが思わず声を上げた。

 

 グレタは、ゆっくりと顔を上げる。

 

 「……その存在は、幾人もの“子”を残した。牙獣とはその末裔。そして、“彼”が今も求めているのは……“王家の血”と、“巨人の力の記憶”……」

 

 クリスタの顔が凍りついた。

 

 

 

 ――“王家の血”。

 

 

 

 グレタは最後にこう言い残した。

 

 「“選ばれし牙”はすでに目覚めの時を迎えている。お前たちは、“あの子”に追いつけるか?」

 

 その瞬間、奥の壁が爆発音とともに崩れ――巨大な牙獣が姿を現した。

 

 黒い毛皮、四肢の鋭爪、そして……背に生えた白銀の翼。

 

 「……飛行型牙獣だと!?」

 

 リヴァイが叫ぶ。

 

 レオンは無意識にその姿を睨みつけた。

 

 その“顔”が――どこか、“人間の少年”に見えたのだ。

 

 

 

 ――“あの子たち”とは、この存在か。それとも……

 

 

 

 人類の過去と現在が、牙をむきはじめていた。

 

 

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