壁の外に咲く花   作:ナムルパス

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第4章 約束の光景
第1話 揺れる日常


牙獣襲来から数日後。戦いの傷跡が未だ各地に残る中、前線から離れた拠点区で、104期生たちは短い休息を得ていた。

 

「……本当に、平和ね」

 

夕暮れの訓練場。クリスタがそっと呟く。

 

レオンと二人で歩くのは、久しぶりだった。戦闘の最中、互いに命を懸けた場面もあったが、こうして静かに隣を歩くと、それがまるで幻だったかのように思える。

 

「ようやく落ち着いたな。みんな、休めてるか?」

 

レオンが言うと、クリスタはふっと微笑んで首を横に振った。

 

「私は、レオンのことが心配だったよ。あの時……倒れて、動けなくなって」

 

「大げさだな。傷は浅いよ」

 

そう言うレオンに、クリスタは少し拗ねた顔をする。

 

「嘘。あれ、かなり危なかった。……本当に、無事でよかった」

 

彼女の声に、レオンの胸が少しだけ熱くなる。

 

――と、その時。

 

「レオン」

 

冷ややかな声が割り込んできた。

 

振り返ると、そこにいたのはアニだった。

 

髪をひとつにまとめ、訓練後の汗を軽く拭ったその姿は、妙に整っていて――それが逆に緊張を誘った。

 

「少し、話がある」

 

「……ああ」

 

レオンが頷き、視線をクリスタに戻す。

 

「ごめん、ちょっとだけ」

 

クリスタは小さく頷いたが、その目には少しだけ影が差していた。

 

 

 

 

 

木立の奥。人目の少ない場所に入ると、アニは立ち止まり、レオンを振り返る。

 

「……あの時、迷ったな。お前」

 

「……ああ。あの牙獣に“何か”を感じた」

 

レオンの素直な言葉に、アニはしばらく沈黙した。

 

やがて口を開く。

 

「……それでも、私はお前が選んだ刃を信じる」

 

その声は、今までにないほど真剣だった。

 

「私も……きっと、同じだった。もしあれが“かつて人間だった”のなら、斬る理由を何度も探してた」

 

レオンは目を細める。

 

「ありがとう、アニ」

 

その一言で、アニの頬がほんのわずかに赤くなる。

 

「……それだけだ。じゃあな」

 

そっけなく背を向け、アニはそのまま歩き去っていった。

 

 

 

 

 

だが――その場面を、クリスタは偶然、見ていた。

 

木立の外から、視線を落としながら、そっと息を吐いた。

 

「……仲良いんだね、レオンとアニって」

 

その声は、誰にも届かないほど静かで、そして――ほんの少し、寂しさを含んでいた。

 

 

 

 

 

数日後。

 

「今日は私に付き合って!」

 

クリスタが珍しく積極的にレオンを誘った。

 

小さな村の市へと向かう二人。穏やかな陽光の下で、クリスタは花を見たり、小物を見たりと、楽しげに微笑んでいた。

 

そんな彼女に、レオンも少しずつ心を和らげていく。

 

「なぁ、クリスタ。今みたいな時間が、ずっと続けばいいのにな」

 

その言葉に、彼女は一瞬だけ表情を止めたあと、ゆっくりと笑った。

 

「うん、そうだね。……ずっと、一緒にいたい」

 

その言葉は、紛れもなく“想い”だった。

 

 

 

 

 

だが、その場面を、今度は――アニが遠くから目撃していた。

 

市の裏手。立体機動装置の点検をしていたアニは、何気なく視線を向けた先で、楽しげに笑い合う二人を見ていた。

 

その無言の瞳が、静かに、何かを飲み込んだ。

 

(ああ、あいつ……あんな顔もするんだ)

 

冷たい風が、アニの頬を撫でた。

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