壁の外に咲く花   作:ナムルパス

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第2話 氷の横顔

アニ・レオンハートは、強い。

 

誰もがそう言う。実際、事実だった。

 

訓練では常に上位。感情を抑え、理詰めで状況を制するその姿は、「冷たい」「怖い」とすら言われることもあった。

 

だが――そんな彼女に、脈打つ“熱”があることを知っている者は、ごくわずかだった。

 

その“熱”は、静かに、確実に、レオン・ヴィスナーという存在に向けられている。

 

 

 

 

 

「最近、お前……クリスタと、よく一緒にいるな」

 

訓練後の片隅。誰もいない倉庫の裏。

 

アニは壁にもたれながら、レオンにそう言った。

 

「ん? まあな。少し話す機会が増えただけだよ」

 

レオンは淡々と答えるが、その目はどこか気恥ずかしげで――

 

それが、アニの胸をざらつかせた。

 

「ふぅん……そう」

 

それ以上は言わなかった。言えなかった。

 

本当は、聞きたかった。

 

「どっちが大事なんだ?」

 

そんな問いをぶつけてしまいそうで、口をつぐんだ。

 

沈黙。

 

倉庫裏に風が吹き込む。木の葉が揺れて、小さな音を立てる。

 

アニは、風に揺れる金髪を掴んで、無意識に結い直す。

 

「お前、気づいてるか?」

 

「何を?」

 

「……クリスタ。あいつ、ずっと前からお前のこと、見てた」

 

その言葉に、レオンの眉がわずかに動く。

 

「……知ってたよ。でも、俺も……」

 

レオンが言いかけて、言葉を濁す。

 

その曖昧さが、余計にアニを苛立たせた。

 

「お前、はっきりしないんだな」

 

「悪いかよ」

 

「……悪くはない。でも、覚悟がないのは嫌いだ」

 

その一言に、レオンの表情が変わった。

 

(あ……)

 

言い過ぎたかもしれない。

 

そう思って視線をそらそうとした瞬間、レオンが言った。

 

「覚悟がないわけじゃない。ただ……どっちも大切なんだよ、アニも、クリスタも」

 

それは、あまりにも誠実で、そして――ずるい答えだった。

 

アニは黙って、レオンの顔を見つめた。

 

冷たく、鋭く。けれど、そこに宿る熱を、レオンは確かに見ていた。

 

 

 

 

 

その夜。

 

アニは自室で、一人ベッドに座っていた。

 

訓練着のまま、片膝を抱えてぼんやりと天井を見つめる。

 

「……何やってんだろ、あたし」

 

呟きは、誰にも届かない。

 

恋なんて、柄じゃない。弱さだと思ってた。

 

けど――心は勝手に揺れる。

 

あいつが笑えば、気になる。あいつが他の子と話せば、胸がざわつく。

 

それはまるで、刃物のように、心の奥を傷つけていく。

 

アニ・レオンハート。氷の壁を築いた少女が、少しずつ、自分の“気持ち”という名の火に焼かれていた。

 

 

 

 

 

翌朝。

 

食堂の片隅で、アニはレオンと再び顔を合わせる。

 

隣には、当然のようにクリスタがいた。

 

「おはよう、アニ」

 

クリスタが微笑む。

 

その笑顔が、あまりに優しくて――少しだけ、辛かった。

 

「……あんたって、本当にいい子ね」

 

思わず、そんな言葉が口をついて出た。

 

クリスタがきょとんとする。

 

「え?」

 

「なんでもない」

 

アニは視線をそらして、皿の中のパンをちぎった。

 

だが、誰にも気づかれないように、その唇はわずかに、震えていた。

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