せっかくなので二話目もいっちゃいます!
読んでもらえたらうれしいです。
名門南テニスクラブ――通称STC(South Tennis Club)
今まで多くのプロを輩出し、神奈川県内はもちろん全国的に見ても有名な名門テニスクラブ。
室内外に多数のコートが完備され、ナイターや無料壁打ちコートなんてものもある。
室外コートでは還暦を越えたお年寄りからダイエット目的のOLまで多くの老若男女が気軽に楽しくテニスをすることのできるレッスンコートとなっていて、室内コートはテニス選手として強くるために世界に通用する選手を育てるプログラムと環境を提供しているジュニア育成アカデミーとなっている。
ジュニア育成アカデミーではコートが六面ありAからFまで実力順で割り振られている。練習の様子や大会の成績を加味してコーチが選手のレベルを判断し、その選手にあったコートで練習をするようになっている。
そこのジュニア育成アカデミーに所属しているタツキは室内コートのCコートで練習していた。
練習している者たちの熱気と真剣さが広がっている。
向こうコート中央からコーチが左右への振り回しを目的とした球出しを行い、そのボールをコート上のコーナーに置かれたコーンに向けて打ち込んでいく、よくある練習であり、よくやっている練習だ。
全日本ジュニアまであとわずかとなった今日において、これと言って特別な練習はしない。いつも通りの練習を反復して行う。それは特別緊張し、意識しないようにするほかにスランプや調子を落とすといったマイナスの面を抑えるためでもある。
いかに全日本といえどもやるのはいつもの試合と変わらない。
変わるのは相手が強くなるくらいで、別に未知のことを行うわけではない。ならば、いつものように力を出し切って試合を行うのがベストである。問題なのは変に緊張して、いつも通りのプレーができなくなることなのだ。
とはいえ、そのいつもどおりが難しいのだが。
しかし、だからと言って全部同じでは何も変わらない。
タツキの打ったボールが左のコーナにおかれているコーンを倒し、三浦コーチは声をあげた。
「いいぞタツキ! 気を抜くなよ! 常にこの一球が試合における攻撃への転換と思うんだ!」
「はい!」
攻撃という意識を持つこと。
数日前の試合、同門であるタクマとの関東予選決勝戦で、タツキは攻撃の手を大幅に捨て徹底的なディフェンシブプレーでタクマに負けた。今までの試合も全部そのプレースタイルで負けている。
ここから脱却するにはなにかを変える必要があると胸に刻まれた試合だった。
「あ、すまん!」
三浦コーチが出した球が誤って先ほどまでの球出しよりもコートの外に行ってしまう。
それタツキは瞬時に反応し打ち返す。
「ナイスだタツキ! その反応も、どんなボールでもあきらめずにとるお前のプレースタイルもお前の武器だ! そこに攻撃の手を加えろ!」
「はい!」
自分の今までのプレースタイルを否定してはいけないし、するつもりもない。
今までだってこのプレーで勝ってきたし、このプレースタイルが好きなのだ。
もちろんいろいろ言われることもある。
タツキの行っているのは相手選手たちにとっては一番嫌がられる、どんなボールもとにかく拾って拾って拾いまくるプレーであり、それをテニスでは『シコる』といい、それを行うものを『シコラー』と呼ぶ。
タツキは今大会において神奈川県二位の地位を確立した。
しかし、その二位がシコラーでしかも、よっぽどのことがない限り攻めてこない超守備的なプレースタイルというのだから、あまり評判は良くない。
要は攻める度胸もないということでチキンと呼ばれたりもする。
でも、タツキにとってはそれでも、なんといわれても好きなのだ。
全力でボールを追ってあきらめないこのスタイルが。
「さあ、あと二十球だ! 全力で打ち返してこい!」
「はい!!」
「ねえたっちゃん」
「んうぅぅ……んうぅぅ」
「ねえたっちゃんっ」
「んーむにゃむにゃ」
「ねえたっちゃんてばっ!」
「ぐがっ……むにゃむにゃ」
「う~~起きないよう……」
神奈川にあるとある小学校のとある教室に二人の生徒がいた。
一人の女子生徒――――ナツは寝ているもう一人の男子生徒――――タツキを起こしているがなかなか起きない。
別に今日は何かあるわけではない。練習があるわけでないし、遊ぶ予定が入っているわけでもなく、買い物に行く予定もない。
ただ、小学生であるナツの心理としてなんとなく学校に遅くまで残っているのは悪いことと思っているだけだ。
「おーいたっちゃんー、おーきーてーよー」
「ううぅぅん……」
もう一度起こしてみるが、やはり起きることはなく、それどころかすやすやと気持ちよさそうに寝ている。
「う~~、……でもそういえば最近練習大変だったもんね」
思えば最近のタツキは練習中に笑っていることがなくなった。練習はいつものメニューをしているのだが、気合やら緊張やら不安やらがが入り混じっているのだろう。それに、ほかの人は知らないかもしれないが、隣に住んでいるナツはタツキが毎朝は走っているのを知っている。
「もう、しょうがないなー。五時までだからね」
下校時間は五時までだ。とはいっても聞こえていないだろうが。
ナツはくすっと笑いながら起こすのをやめてタツキの顔を見る。
長い睫に高い鼻、寝ている上からでもわかるくらい切れの長い目。そしてその上にかかるパーマがかっているかのごとくうねっている赤みがかったクセッ毛。
周りの女子がよくこのクラスでかっこいい男子なんて話している中で爽児をよく取り上げているが、ナツには正直よくわからなかった。
「……たっちゃんだってかっこいいじゃん」
確かに爽児の顔は大衆受けする顔だ。なんというか、王子様のような顔立ちをしているのだ。それは少女たちに人気なのはわかる。きりっとした目つきに高い鼻、時折見せる少年のような笑顔がギャップを生んでいる。しかも運動神経抜群でスポーツ万能。明るくてクラスの中心にいる爽児が持てるのも仕方ないだろう。
それに対してタツキがクラスの中で決して明るく中心に立つ目立つキャラじゃないのも知っている。陽気でよく笑う少年だが基本仲のいい友達としか話さないので固定メンバーが決まっているのだ。その者たちしかタツキの性格を知らないのでほかの人から見ればすこし影の薄い暗いやつ思われるのも仕方ないだろう。
だが、それはつまりみんな知らないだけなのだ。
タツキがどれだけすごい少年なのか。
毎日毎日テニスを頑張って練習して、いつでも努力し続けている彼のかっこよさを知らないだけなのだ。
「きっとテニスをしているたっちゃんを見ればきっとみんなもびっくりするだろうなあ」
テニスをしているタツキは全然違う。
いつもはのほほんとしている少年だが、テニスをすると一転、キレ長い目は鋭くなり真剣で少し緊張した空気が流れるのだ。
おそらくあの姿を見ればクラスの女子も見直して―――
「ん……あれ?」
ふと、胸にもやっとした何かを感じた。
ナツは胸に手を当ててみる、があの感じは一瞬だけでもう消えていた。
「なんだったんだろう?」
首を傾げながら考えた。
と、時計が目に入り長身が12と5を指していることに気付いた。
「あ―ッ! たっちゃん! たっちゃん! いい加減起きてって!! もう下校時間だよ!!」
「う―――ん……あれ、ナツだ。おはよう」
体を思いっきり揺さぶられ、ようやく起きたタツキは目をこすってから体を伸ばした。
おでこには机の腕寝るとできる独特の赤い跡がくっきりと残っておりナツは笑いそうになったが、時間がないのでこらえた。
「おはようじゃないよ!? ほらはやく! 帰るよ!」
「え、あ、もうこんな時間かー。起こしてくれてありがとナツ」
黒いランドセルに机の中身を一気に入れて、立ち上がる。
「じゃあ、帰ろっか」
「うん!」
二人は教室を出ていった。
夕日が教室に差し込み、出ていく二人を赤く照らす。廊下に伸びる影はくっきりとしていてなんとなく時間を忘れさせる、のどかな感覚を持っていた。
ナツが胸の違和感に気付くのはもう少し後の話だ。
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