というわけで本日三回目です。
これで以前の作品に投稿していた投稿数と並びました。
これにて以前の作品については忘れさせていただきます。
これからはぜひ、この作品をよろしくお願いします。
新横浜駅から新幹線で数時間。
夏休みに入り八月を迎えたある日、大阪府某所にあるテニスコートにタツキを含むSTCの中の今大会出場者が集まった。各々調整を済ませあとはアナウンスを待つだけといったところだ。
夏の暑い日ざしと日本特有の熱を持った風が肌をなでる。
約20面以上ある整備されたハードコートは圧倒的な存在感と緊張感を放っている。国際試合も行われプロも試合する日本有数のテニスコートはさすがの一言だ。
全日本ジュニアテニス選手権
各地域大会を勝ち上がり、ジュニアランクの高い選手しか出場することすらできない日本最高峰のジュニア大会。年齢制限別に種別が存在し、上から18歳以下、16歳以下、14歳以下、12歳以下となっている。
その種別の中で各都道府県からシングルス64名、ダブルス32組の選手たちが頂点を目指して最大約一週間にわたる試合を行っていく。
STCからはそれぞれの種別に出場する選手がいる中、タツキとタクマの二人は年齢からも分かる通り12歳以下の部に出場する。
そんな彼らは各々の調整法で時間を潰したいた。
あるものはラケットの手入れをし、あるものは目をつぶって精神統一、またあるものは音楽を聴きながら本を読んでいる。
そんな中、タツキは周りをきょろきょろ見渡していた。
それに気づいたタクマはいぶかしげに尋ねる。
「なにきょろきょろしてんだよお前は」
「んー、ここにいる俺たちと同年代の奴らとこれから戦うんだなーって思ったら、誰が相手か気になっちゃって」
「いや、お前顔分かんねーだろうが」
「まあ、そうなんだけどね」
ははは、と顔を高揚させて笑いながらそれでも見渡すことを忘れない。
タクマはふん、と鼻を鳴らした。
「なんだお前、緊張してんのかよ?」
「緊張か……うん、緊張してると思う。だって全国は初めてだし、大阪も初めてだし」
「大阪は関係ないだろ。……ったく、堂々としてろよ。あわてなきゃなんねーほどできることなんてねーだろうが」
「……そうだね。なんか緊張のせいで興奮してたみたい。タクマさんはその点堂々としている……っているかリラックスしすぎな感じだよね」
話の途中であくびをしているタクマを見てタツキは笑った。
だが、逞の言葉を聞いた瞬間を表情が変わる。
「あん? 去年来てるしな。それにどうせ俺が優勝するにきまってるからな」
カチーンとタツキの頭の中はなった。周りにいるSTCのメンバーはまた始まったと苦笑いし始めた。
「いやいや、俺を忘れてもらっちゃ困るよタクマさん。俺が優勝するし」
「はんッ、さっきまで緊張してたやつがよく言う」
「もうおさまったし。コンディションばっちりだし。敵に塩を送ってくれてありがとうタクマさん」
「別にお前が万全だろうと何だろうと俺が勝つのは決まってるから問題ねーし」
「何言ってんのタクマさん、俺がこの夏どれだけパワーアップしたか知らないの? タクマさんなんて瞬殺だよ」
「今まで勝ったことないやつが何言ってんだか。今何敗目だっけな、たしか400敗目だっけか?」
「違うし! 349敗目! でもこの大会で勝つから問題ないよ!」
タツキの言葉を聞いたタクマは獰猛な目つきでニィっと口角をあげた。
「俺とおまえが当たるとしたら決勝だが、そこまで来るってことだな?」
「当り前。どんな試合も負けるつもりはない」
「フンッ、じゃあせいぜい決勝まで上がってこいよ」
「タクマさんこそ、調子崩したとか言って負けないでよ」
「ああっ? 俺が負けるわけねーだろ!」
「いーや、わからないよ? トーナメントじゃシード選手が初戦敗退とかよくあるし」
「それいったらお前もシードじゃねーか!!」
この全日本ジュニアテニス選手権12歳以下の部では今年度の大会成績によるジュニアランクを参考にしてシードがつけられている。
去年も全日本ジュニアに出場し今年と同部門においてベスト8の成績を残し、さらに数々の大会でもその名をあげているタクマは今大会第二シード。
また去年は全日本ジュニアに出場はしていないもののその他の試合で多く活躍してきたタツキは第十四シードだ。
トーナメントでは二人が当たるとしたら決勝ということになる。
もっともタツキは順当に行ったらその前に第一シード選手と第四シード選手にあたるのだが。
「関係ないよ。俺は勝つよ、全部ね」
「……まあいい。ここで何言っても始まんねーしまずは――――」
タクマはちらっと時計台を見る。
直後、アナウンスが鳴り響いた。
『九時になりました。各選手は指定のコートに入って練習を開始してください』
「――――一回戦勝つか」
「うん!」
二人はラケットバックを背負ってその場を立ち去る。
お互い離れたコートに向かうため背を向けあって別れた。
初めての全国大会。
へんに緊張して気持ちが高揚していたようだ。
いつもならあんなに動き回らないのについ落着きを失ってしまった。
――ちょっと悔しいけどタクマさんのおかげで助かったかな。
自分がいつか倒したい人。
その人と最高の舞台で戦いたい。
そして勝ちたい。
その思い一心でこの日まで練習を頑張ってきた。
……だからこの一回戦を落とすわけにはいかない。
改めて気合を入れ、体を軽く動かし始めた。
柔軟運動を最後にし、コートに入る。
与えられている練習時間は七分だ。
その時間を利用して、硬くなっている体をほぐすと同時に今日の状態を確かめた。
「……うん、問題ない」
小さくつぶやくようにもらす。
ショットの精度も問題なく違和感も感じない。
体も徐々にほぐれてきたようで動きに滑らかさも出てきた。
残りの時間も自分の動きとショットの確認に使い、やがて時間となる。
『只今より全日本ジュニア12歳以下の部、一回戦を行います。審判台より左側のコート七番市島幸樹選手、かがわTC所属。右側コート八番大倉達樹選手、STC所属。先ほどのコイントスの結果市島選手がサービスを選びました。この試合は三セットマッチで行います』
向こうコートのベースラインに立つ市島からのサーブ。
タツキはそのサーブを打ち返すレシーブだ。
テニスは一セット六ゲーム、一ゲーム四ポイント先取のゲームだ。
サービス権は一ゲームごとに交互に与えられる。
ポイントをとる手段としては相手がミスるか、相手のコートで二回バウンドをするかだ。
つまり、二回バウンドするまでに返さなくてはいけない。
タツキはベースラインに立ってサーブを受けるように構える。
ボールを数回地面にたたきつけてから、ボールを宙に放り肩に担いだラケットを振り落した。
市島のサーブはコースきつめに打ち込まれ―――
『フォルト!』
審判台から声が放たれる。
市島は気を取り直してポケットに入れてあるもう一つのボールを取り出して構えた。
サーブは二回打てるようになっており、二回ともミスると相手にポイントが行く。
一回目のサーブがもしネットにかかったり、サービスコートと呼ばれるレシーバーのコート中央で区切られている線よりネット側のコートに入らなかったりした場合はもう一度チャンスが与えられる。
一回目のサーブをファーストサーブといい、二回目に打つサーブをセカンドサーブという。
一般的にファーストサーブは自分のマックスのサーブを、セカンドサーブは確実に入れられるようなサーブを打つ。もっとも全国レベルではセカンドサーブもかなり速く厳しいコースを狙うサーブになるのだが。
「はっ!」
息を吐くと同時に放たれたセカンドサーブはスピンサーブで山なりにコースを狙ったサーブであった。
しかしスピードも変化もそこまでのものではない。
タツキはそのサーブをスライスでコーナーに突き刺す。
市島はそのボールに追いつくが、キレのあるスライスのため地面を這うように伸びていき、打ち返したボールはネットに捕まった。
『0-15』
コールが鳴り響く。
テニスにおいてポイントの数え方は15、30、40、ゲームとなっており、コールを鳴らすときはサーブ側のポイントを先に行ってレシーブ側のポイントはその後に言う。
もともとは時計を意識してあったらしく、15、30、45、ゲームであったが、45のコールが言いにくいということで40となったそうだ。
タツキは小さくガッツポーズしてベースラインに戻り構える。
市島のファーストサーブが入った。
コーナーよりやや甘めだが速く回転の少ないフラットサーブだ。
伸びるように直線状に放たれたサーブをタツキはしっかり反応し、スライスでストレートに返す。
さきほどの一球と同じくキレのあるスライスだが、市島はそれをスピンで返してくる。
と、そこで浅いスライスを打ち返してきた。
地面を這うスライスはあまりバウンドせず滑り込むようにコートに駆け込んでいく。
市島は苦しそうに前に出て地面につくギリギリのところで当てて返した。
そこでタツキはスピンを深めのオープンコートに打つ。
それを追って返す市島だったが大きく跳ね上がるボールに対応できず、打ち返したボールはコートの外に飛んでいった。
『0-30』
一息ついてガットを整える。
タツキの真骨頂は粘りのディフェンステニス。
それ出さずに自分のショットで相手をミスらせているということは自分の技術のほうが上なことを指す。
そのプレースタイルから実は弱いのではないかと何度か言われたことのあるタツキだが、実はそうではない。
サーブが弱いとか、ショットが弱いとか、ボレーが下手とか、そういうわけではないのだ。
むしろ全国的に見ても上の方だろう。
だが、特筆して上というわけではないというだけだ。
関東予選で二位に慣れるほどのパワーもテクニックもない。
ただそれだけなのだ。
整ったガットを見ながら思った。
あまり大したことないようだ。とりあえず油断はしないでこのペースで行こう。
タツキは気持ちを入れた次のボールに備えるために構えを直した。
「あ―――もう、爽ちゃん! 早く着てって!」
熱気と人にあふれる大阪にある全日本ジュニアの試合会場に甲高い女の子の声が響き渡る。
周りはちらちら視線を送っていたが、そんなの関係ないとばかりにナツは声をあげた。
「早くしないとたっちゃんの試合終わっちゃうよ!!」
そんな少女をうっとうしく思いながらついていく少年こと爽児は額に落ちる汗を腕で薙ぎ払った。
「だあああ、わーってるっつーの!! そんな大声出すなって!!」
「爽ちゃんだって大声出してるじゃん!」
「うるせえ! 俺はいいんだよ!」
「なにそれ!? って、そんなことはどうでもいいから早く走ってよ!!」
「いや、お前のペースに合わせてんだからな!?」
夏が必死に腕を振りながら走っている横で、爽児はまだまだ余裕そうに走っていた。
夏も女子では早いほうだが、さすがに男子でもトップの速さを誇る爽児には勝てないし追いつかない。
「も~~~ッ、爽ちゃんが寝坊するから遅刻したんだよ! たっちゃんの試合終わってたらどうするの!?」
その言葉を聞いて爽児は頭をかいた。
実際、今日は集合時間に遅れて新幹線に乗れなかった。
仕方なく次の新幹線で来たわけなのだが。
「あーはいはい申し訳ございませんでした!! つーか、遅刻突っ立ってまだ一時間たってないんだぞ? 試合が終わってるわけねーだろうが!」
「う~~それでも!」
せっかくのタツキの初の全国大会。
絶対見逃したくないと思っていたナツにとっては何てことしてくれたんだ!と思うのは無理もない。
「わかったわかった! 本当にごめんなさい―――って、ナツ! タツキが試合してんのあそこのコートじゃないか!?」
「ああ――!! うん、あのコートだよ!」
「よし急げ!」
「あ、待ってよ!」
爽児は今まで抑えてた走りを開放して思いっきり走り出した。
爽児とてタツキの初全国の試合を見たくないわけではない。
いや、むしろ見たいのだ。
寝坊した理由だって前日の夜にもし自分が全国大会に出場したら、と考えていたら興奮して眠れなくなっただけだ。
後ろで叫んでいるナツを無視してタツキが試合しているコートに到着する。
と、ちょうどいいところに三浦コーチがいたので爽児は近づいて行った。
「コーチ、どんな感じ?」
「ん? おお池か! ナツはどうした?」
三浦コーチが質問したところでナツが到着した。
ぜーはーぜーはー荒い息をして手を膝に当てて中腰で立っている。
「もう、そう、爽ちゃん、おいて、いかないでよ……」
「あーわりーわりー、で、コーチどんな感じ?」
適当に言い放つ爽児にため息をつき、三浦コーチは視線をコートに戻した。
「どうもこうも、タツキが圧倒しているよ」
ナツと爽児は審判台の横に添えられているスコアを見てみる。
セットカウント 1-0
ゲームカウント 3-0
「え、もう!?」
「はやくね? まだ一時間たってないけど」
「タツキのスライスが予想以上に相手に苦手意識を与えてな。ほとんど相手のミスだ」
「ふーん」
「まあ、タツキの動きも普段以上にいいし、ショットも安定しているからひとまずこの試合は安心だろう」
三人が話している間にタツキがゲームをとったようだ。
「本当はこういう場面で攻めるテニスも試してくれるとうれしいんだが、やはりすぐには使うことができないみたいだな」
タツキの試合は基本的に相手のミスでラリーは終着していた。
相手レベルよりタツキのほうが高かったというだけのことだが。
しかしそんな試合だが、劣勢になるラリーは何度かあった。
相手のリズムにラリーが乗ってしまい、完全に受け身の状態。
もちろん、そんな状況こそタツキの得意とする場面であるが、以前のタクマとの試合同様攻守交代を追越えそうなボール打たずに堪えるだけで終わってしまった。
結果として、相手がミスってタツキのポイントとなったが、結局夏の練習はいかせてないみたいだ。
『ゲームセット アンド マッチウォンバイ 大倉 スコア 6-0 6-0』
試合が終わりナツと爽児、三浦コートは周りと同じように拍手を送った。
歓声と拍手がまじりあうコート外で三浦コーチはタツキに目を細めていた。
「このままではいつか大きな壁にぶつかるぞ、タツキ」
三浦コーチの呟きは周りの歓声と拍手の中に消えていった。
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