小説を書くのは難しいと思っている今日この頃です。
では、どうぞ。
試合が終わったタツキはナツ、爽児そして三浦コーチに挨拶してから、報告をしに受付に向かった。
公式戦では試合で使うボールは新球――つまり新しく缶からあけたボールを使う。つまり、試合前にはどちらかの選手にまだ空いていないボールが二個入った缶を渡され、試合後は勝った選手がボールと缶を報告とともに返しに来るという風になっている。
一回戦で勝ったタツキも当然ボールと缶をその手に持って受付に向かった。
「八番 大倉達樹、6-0、6-0で勝ちました」
「はい、お疲れ様です。次の試合は明日になります」
「わかりました」
受付のお姉さんに軽く頭を下げてから受付に貼られている対戦表を確認した。
確認するのは次の対戦相手を決める井出義明VS高島健人の試合だ。
二人ともノーシードであるが、トーナメントは一度負けたらそこまでなので見て損はない。
さらに井出に関していえばシードこそはついてはないものの、先の関東予選ではベスト4。
実力的にはシードが付いていてもおかしくない選手だ。
対戦表を見てコートを確認し、そのコートに向かおうと思ったとき、肩をたたかれた。
ん?と首を回してかを後ろに向けると、
――ぷに
「……ナツ、なにしてんの?」
「……あははは! ひっかかったねたっちゃん!」
罠のごとく指を仕掛けていたナツに頬をつかれた。
ナツは成功したことがうれしいのか大爆笑している。
どうやら後をついてきたようだ。
タツキはそんな夏に、はあっとため息をつきながらも、何かに気付いたように口角を釣り上げた。
ニイィっと。
「あははははにゃああああッ! いひゃいよ、たっひゃん!」
「やられたらやり返さないといけないんだよ、ナツ?」
「ひょんにゃあ、たっひゃん、ごめんなひゃい、だきゃらはなひへ! (そんなぁ、たっちゃん、ごめんなさい、だから離して!)」
「え、断るよ」
「ひょんにゃああああ!? (そんなああああ!?)」
ナツの両頬をつまんでさっきのお返しだと引っ張るタツキ。
ナツの両目に小さな滴がたまってきているのに気付いているが、そんなナツが面白いのか笑いながら遊んでいた。
「おーおー、伸びるねー」
「あひょばにゃいでよぉ (遊ばないでよぉ)」
「ぐーっと」
「にゃああ、のばひゃないで―― (いやあ、伸ばさないで――)」
「よっと!」
タツキは伸ばすだけ伸ばしてからナツの頬を両手から離した。
一気に元の場所に戻ったナツの両頬は心なしかパンッという音が聞こえた気がする。
ナツは赤くなった頬を撫でながら涙目でタツキを見た。
「もう痛いよたっちゃん!」
「あはは、ごめんごめん、つい面白くて」
「やだ、許さないもん!」
「えー」
「えーじゃないよ!? なんかしてくれないと絶対許さないもん!」
拗ねてしまったナツ。
タツキは遊びすぎたなと少し反省をした。
「じゃあ、うめえ棒おごってあげるよ」
「10円だよ!? ダメ!」
「じゃあ、ゴリゴリ君」
「50円しか上がってないよ!? ダメ!」
「えー、じゃあどうすれば許してくれるの?」
「え? うーん、うーん、っとね、……じゃあ、プールに連れてってよ!」
「プール?」
訝しげな顔でタツキは聞き返した。
「うんプール! 確か、この大会が終わった後に練習休みになるでしょ? その時に連れてってよ!」
「プールね」
そういえば、とタツキはこの夏を思い返してみた。
今年は全日本ジュニアに出るため夏休みに入ってもプールとか海とか花火とか、夏っぽいことをしていないことに気付いた。
毎年、タツキ、ナツ、爽児の幼馴染の三つの家族と一緒にバーベキューに行ったり、家族旅行に行ったり、海に行ったりしていたけど行ってない。
しかも、ナツと爽児は大会に出るタツキのために練習も一緒にしてくれたりしてくれて……夏休みらしいことしていないのではないだろうか?
そう思うと、なんだか申し訳なく思うと同時に、うれしい思いと感謝の念がわいてきた。
「……うん、そうだね。じゃあ、この大会終わったら行こうか、いろんな場所に」
「いろんな場所?」
「プールに、海、あとは……まあ、とにかくいろんなところに行こうよ!」
ナツは一瞬嬉しそうな顔したけどすぐに,でもと言い出した。
「私たちだけで海行くのって怒られないかなあ?」
「大丈夫だよ、俺たちだってもう11歳だし、もしなんか言われてもこっそり行けばばれないよ」
「えーこっそりいくの!?」
ナツはびっくりしたように言った。
「大丈夫だって。何度か言ってる場所にするし」
「うーん、でも、お母さんに悪いよお」
悪いことをしている気分になってしまったようだ。
ナツは顔を俯かせた。
しかし、そんなナツを見てタツキは意地悪い笑みを浮かべた。
「ふーん、じゃあナツは留守番ね」
「え?」
「俺たちは海楽しんでくるから」
「やだよ! わかった! 私も行くよ!」
タツキはにやりと笑う。
感謝の念がわいてきてはいたが、どうにもナツの顔を見るといじめたくなってしまう。
ついついいじめたくなってしまうのだ。
「じゃあ、あとで爽児にも伝えておくか」
「―――え?」
「ん? 爽児も一緒に行くんだろ?」
「あ、ああ、うん、そうだよ!」
「よし、じゃあ、そろそろ行こうか」
タツキはそう言って歩き出した。
その後ろをナツは不思議な顔をしてついていく。
なぜだろうか。
一瞬がっかりした自分がいることにナツは疑問を感じた。
――爽ちゃんだけ仲間はずれにするなんて可愛いそうなのに。
勝手に二人で行くと思い込んでいた自分に違和感を感じつつ、怒りも感じた。
大切な幼馴染を仲間外れにしようとしていた自分に腹がったたのだ。
しかし、
「ちょっぴり残念だなあ」
胸のどこかで感じた気持ちをぽつりと漏らした。
その言葉は会場に流れた一陣の風に紛れて消えていった。
タツキとナツがコートにつくとそこには爽児がたっていた。
爽児も二人に気付いたようだ。
「ナツ、お前タツキを呼びに行くためにタツキの後追っていったのにこんだけ時間かかるって何してたんだよ……」
「あはは、ごめん爽ちゃん」
「ったく」
「爽児、今どんな感じ?」
爽児はタツキに視線を向けた。
「セットカウント1-1で今ゲームカウント5-4だ」
「……結構競ってるね」
「――いや、スコアはタイだがこの試合はほぼ井出の勝ちだ」
「え?」
爽児は顎で試合を見ろと促す。
タツキはそれに従ってコートに視線を向けた。
高島のフラットのファーストサーブがコーナに突き刺す。
速く伸びるボールを井出はダウンザライン(ストレート)に打ち込んだ。
高島のサーブからリターンエースを決めるといわんばかりのショットを、高島が井出のボールの威力を利用した速いボールで打ち返した。
しかしもうすでに井出は前に詰めていき―――
「ドライブボレー!?」
高島の速いストロークをノーバウンドで強引に打ち返した。
速い展開についていけない高島は動くことも出来ず、井出のドライブボレーが決まる。
すると周りの観客から拍手と歓声が鳴り響いた。
『か――ッ! いいねえ!」
『井出――ナイスボールだ!!』
『井出君カッコいいッツ!!』
試合中でたった一ポイント決めただけでしかもジュニアの試合でこの盛り上がり。
まるでプロが華麗な技ありショットを披露した時のようなその歓声と拍手はいったい何なんだ。
「ねえ爽児、これって……」
「あの井出ってやつが観客を魅了してんだろうよ」
「はあ?」
タツキの顔に爽児は真剣な表情で答えた。
「そもそもこの試合、少し前まではこんな展開じゃなかったんだ」
「こんな展開って、井出が攻めている状況ってこと?」
「いや、井出が決めている状況だ。井出の相手の高島っていう奴はどうもカウンタープレーヤーでな。俺が来たのは第二セットの始まりだが、その時も井出の攻めてくるボールをでカウンターで決め返していた。そのまま同じような展開が続きカウント5-2。これは井出が負けたなって思ったその時だった。――急に動きが速くなった」
「……手を抜いていたってこと?」
「いや、それはない。速くなったことに本人も気づいてないくらいだし、なんつーか本能で動いているみたいな感じだった。そんであとはそのままガンガン攻めるプレーで試合展開が速すぎて相手もついていけないみたいだ」
「そして観客たちは攻めて攻めての大逆転を起こそうとする井出のプレーに魅了されていると?」
「ああ。ただ、攻めるには攻めるんだがミスも多くてスコアはタイってことになっている」
「そうなんだ」
タツキはコートを見てみる。
井出がリターンダッシュで前に詰めてボレーで決めた瞬間だった。
『ゲームセット アンド マッチウォンバイ 井出 スコア 0-6 7-5 6-4』
周りから拍手と歓声が鳴った。
タツキは今気づいたがこのコートだけ観客が多かった。
おそらく井出に魅了された観客たちなのだろう。
「さすが関東予選ベスト4ってところか」
「うん」
タツキは井出のことを会場で顔は見たこと何度かあるが、試合は見たことなかった。
わずか数球しか見ていないがタツキははっきりと感じた。
――強い!
少し顔がこわばるタツキ。
「ねーねーたっちゃん、なんかあの井出君って人のプレーって爽ちゃんに似てない?」
ふと、急にナツが横から声をかけてきた。
タツキと爽児は二人顔を合わせる。
「似てる……か?」
「なんとなくは……似てるかもね」
「えー似てるよ絶対!」
爽児はなんだかいやそうな顔して聞いてみた。
「いったいどこがだよ?」
「だって、前に詰めるとき笑ってるもん!」
「はあっ?」
――笑ってる?
「俺がいつもあいつみたいに笑ってるって?」
「うん! なんかギリギリのプレーを楽しんでいるみたいに笑ってる!」
ナツの言葉を聞いて爽児はううっと引き下がった。
「まあ、確かに爽児は笑っているね」
「おい、タツキまでもそういうのかよ」
「いや、なんかそう考えると明日は爽児みたいなやつと戦うのかあって思ったら少し気が楽になったよ」
すると爽児は少し睨むようにタツキを見た。
「ほう、それってつまり俺とだったら楽勝ってことなのか?」
「いや、違うって。ただ、さっきの話聞いたり、試合見たりしたらなんだか未知の相手なきがしてね。そういう意味で気が楽になったってだけ」
タツキは苦笑いする。
そんなタツキに対して爽児は表情を元に戻して
「それなら別にいいんだ。とにかく明日絶対勝てよ!」
「もちろん。確か、タクマさんが関東予選で当たってたし、あとでちょっと聞いてみるさ」
「おう、俺とナツも今日は同じホテルに泊まるから一緒に聞いてやるよ」
「うん! 明日こそは最初から応援するよ!」
「二人ともありがとう」
二人に感謝をしてタツキは周りを見渡してみる。
そこでは数時間前とは違う会場の雰囲気を感じた。
次の試合に向けて集中している選手、もう負けて泣き崩れている選手いろんな選手が今、この会場にいる。
タツキが先ほどコートに向かう途中にも対戦した市島がベンチに座って泣いているのを見た。周りでコーチや親が慰めているのを振り払ってただただ泣いている市島の姿を見たのだ。
タツキにはあまり見慣れない光景だった。
関東予選でも泣いている人は見なかったし、もちろん神奈川予選でも見なかった。
だから自分たちにはなじみのない光景であると思い、同時に彼らは本当に終わったんだと感じた。
「――――ッ」
トーナメントの怖いところだ。
一回負けたらいかにほかに残っている選手よりも実績や実力があるからと言って、もう一度試合させてはくれない。もうその時点で終了なのだ。あとは指をくわえて観戦するか、帰って寝るしかない。
それは一種のサバイバルのようだ。
勝たなければ生き残れない。
負けたら終わり。
まさにサバイバルだ。
そしてタツキは生き残ったのだ。
ご利用ありがとうございました!!
というわけで、STCメンバー以外の初の原作メンバーが登場しました。
もし、感想や意見がありましたらよろしくお願いします。