Step By Step   作:栄吉

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いらっしゃいませ! 栄吉です!

今回は少し文章の感じを変えてみました。
……というか主人公であるタツキの心理描写を多く取り入れてみました。
少しでもよく変化していればいいと思います。

それではどうぞ!


Step5 全日本ジュニア二回戦 その1 不安

午前10時になった会場ではまだ午前だというのも関わらず太陽は夏の日差しをまき散らしている。

気温はすでに30度を超え立派な炎天下である。各所では冷房をガンガンに使用しているようだが、ここテニス会場においてはその炎天下の中で試合をするため文明の利器の恩恵にあずかることはできない。

 

「あっついなぁ」

 

太陽を憎々しく見つめる赤きクセッ毛の少年――タツキは先ほどまで滞在していた建物が恋しくなっていた。

選手たちが休憩したり、炎天下の日差しから逃げたり、雨が降ってきたときに一時撤退する場としての利用が主な建物。そこにタツキも先ほどまで例にもれず暑さから回避するために待機していた。

冷房から発せられるひんやりとした冷たい風が体をゆるりと撫でるあの場所はまるで天国だった。

おそらくほかの選手もそう感じてたはずだし今も感じているのだろう。

 

コンクリートから湯気が出ていると錯覚するほどの熱気が漂う会場。

しかし、そんな会場だが、各コートには試合観戦をするために頭にタオルを置いて観客席に座っている者達がいる。選手の家族かコーチか、はたまたテニス関係者か暇な老人か。実際のところはどういう者たちなのかはさっぱりわからないが、そんな観客がひときわ多いコートがあった。満員とまではいかないが、見渡してみればある程度は埋まっていると感じるほどには人が集まっていた。

 

(うわあ、予想以上に多いなあ)

 

タツキは自分がこれから試合をするコートを見てため息を漏らした。

そう、観客の多いコートというのは全日本ジュニア12歳以下の部第二回戦、大倉達樹VS井出義明の対戦カードが行われるコートである。

 

昨日行われた第一回戦では井出がその超攻撃的なテニスで見事大逆転勝利を飾って観客を魅了した。

その試合を実際に見ていたタツキはじかに観客たちの魅了を感じていたのでおそらく今日の試合も大勢の観客が来るのではないかとは一応予想はしていた。だが、正直なところ、ここまで多いとは思ってみなかった。

 

(しかも、ここにいる人たちのほとんどがあいつの応援なんだろうね)

 

コートに入り、軽く体を動かしながら『あいつ』を見てみた。

抜けたような明るい茶髪気味の髪がまるで寝起きのように乱雑している。が、その一方で大きい目は冴えわたるようにパッチリ開いており笑みを浮かべながらも真剣な表情をしながら入念に体をほぐしていた。

 

こんだけ観客が入っているのに緊張を感じている様子もない。

こいつはこういう状況に慣れているのだろうか。

そう思いながらも昨日の試合の観客数を思い出してみれば、もしかしたらほかの大会でもこんなことがあったのかもしれないな、と判断した。

 

(まったく、うらやましいね)

 

自分はこんなに緊張しているのに、と震える足に手を添える。

初の全国、そして初めてこんな大人数が見ている中試合をするのだ。

 

(緊張で体が動かない、なんてことがないようにしっかりほぐさなくては)

 

そう思い、入念に体を伸ばした。

そしてお互い体をほぐし終えてからコートに入り七分間の練習に入る。

タツキは、井出のボールを打ち返しながら昨晩タクマに聞いたことを思い出していた。

 

 

『ああっ? 井出のことを教えろだ?』

『うん。タクマさん関東予選の準決勝で試合したでしょ? だからその時の感想というか、どんな感じのプレーをしてたか、みたいなことを教えてほしいなって思って』

『そういや、お前の明日の相手は井出だったな。あー、感想は……んー厄介な奴だった』

『厄介?』

『おう。あいつはとにかく攻めてきやがる。序盤からガンガン打ち込んできやがって、んでもってよくミスしてた』

『え、ミスしてたの?』

『ああ。俺のサーブをリターンエース狙って来たり、強引なアプローチを打ってきたり、結構無理な攻め方してたからな』

『うわ……それはずいぶんと難しいことしてきたんだね』

『……だが、序盤はミスってたはずなのに徐々に調整してきて、無理な攻め方だったのがいつの間にか入るようになってきやがったよ』

『…………』

『終盤になると動きも速くなってくるしボールも早くなってくるしで、すっげー厄介だ』

『タクマさんがそこまで言うなんてね』

『ふんっ。ま、それでもその攻撃をぶち破って俺が勝ったがな』

 

タツキは逞の話を含め、自分が知っている情報と調べた情報をまとめた。

 

――井出義明

 

今年から頭角を現してきて埼玉ジュニアではベスト4、関東ジュニアでもベスト4と、そのほかにも様々な大会で上位に食い込んできている超新星。

だが、同時にむらっ気があるようで明らかに格下の相手でもひどい負け方をすることもあるという。

プレースタイルは難しいボールでもガンガン打ち込んでくる、超攻撃的オールラウンダー。前に前にと攻めてくるそのスタイルはどことなく爽児を想起させるという。

さらに厄介なのは試合開始後はガンガン攻めてきてよくミスをするが、試合が進むにつれてその精度がどんどん上がってくる尻上がりのプレーヤー。終盤に至っては別人のような動きを見せることもある。

 

聞けば聞くほど厄介な相手ではないか。

タツキはそう思わずにはいられなかった。

 

井出との試合でポイントとなるのはおそらく後半。

井出が上り調子で精度を高めて攻め込んでくる場面だろう。

井出の超攻撃的プレーを自分が守りきることができるかどうか。

タツキのディフェンスと井出のオフェンス、どちらが上か。

カギを握るのはそこになるはずだ。

 

とはいえ自分の守備力に自信のあるタツキだが、不安はできるだけなくしておきたい。

となると、ベストはポイントとなる場面を迎えないことだ。

そうなると、もう一つのポイントは試合の前半。

井出がミスをし取りこぼしやすい序盤を確実に取ることだ。

 

そしてそのためには―――

 

練習を終え、両者ネットに集まる。

コイントスを行い、結果井出がサーブ権を獲得した。

 

『只今より全日本ジュニア二回戦を行います。審判台より左側のコート八番大倉達樹選手、STC所属。右側コート五番井出義明選手、さいたまジュニアTC所属。先ほどのコイントスの結果井出選手がサービスを選びました。この試合は三セットマッチで行います。三セットマッチ、井出サービスプレイ』

 

ふうぅと息をつき、ボールを数回ついてから、高らかにトスを上げ打ち込んだ。

井出のサーブはセンターに伸びてくる。

タツキはそのサーブに素早く反応し、深く跳ね上がるスピンボールで打ち返した。

ベースライン手前で跳ね上がったボール。

それを井出はウッとつまりながらも強引に打ち込もうとし、

 

『アウト。0-15』

 

ボールはコートから外れてアウトとなった。

 

井出は小さく舌打ちをしてから次のサーブを打ってきた。

今度はワイドに、外へ逃げるスピンサーブだ。

鋭くサービスコートに落ち、跳ね上がるボールは逃げるようにして飛んでいく。

反応したタツキだったが当てて返すことが精いっぱいだ。せめてもとおもい深めにコントロールした。

だが、思ったより深いボールにならずベースラインとサービスラインの間にボールは落ちた。

井出はコンパクトに体をひねり、しかし膝をしっかり曲げ力をためて、

 

「ハアッ!!」

 

オープンコートに打ち込んできた。

だが、タツキは自前の身体能力からくる俊足と反応を生かし、瞬時にボールに追いつき打ち返した。

打ったボールはスライス。地面を這うように伸びあがるスライスはコート深く、ベースラインの手前で着地し、反応した井出だったがはそれをネットに引っかけた。

 

『0-30』

 

くそっと小さく呟き、わずかに悔しそうな面を見せている井出。

そんな彼を見てタツキは不敵な笑みを見せる。

 

ここまでの二ポイント。

深く跳ね上がるスピンと深く低いスライスでミスらせた二ポイント。

それはタツキの思い通りのプレーだった。

 

そもそもテニスにおいて攻撃というのは簡単に二種類に分けられる。

アプローチショットを打ってから前に詰めてくるか、強引に一撃で決めるか。

つまり、二手で決める、一手で決めるかという違いだが、それぞれには打つタイミングがある。

 

前者は浅めのボールを。

後者は高めのボールを。

 

アプローチショットというのは浅く低い打点のボールをその低い弾道で浅く、コースを狙って打ち返すことによって攻めるチャンスを生む、前に詰めるためのショットだ。相手がその低い弾道の球を走りながらギリギリのコースで打ち返すとどうしてもラケット面が下から出るためボールはわずかに浮き、それを前に詰めていることを生かしボレーで決める。

これが二手で決める典型的な例だ。

 

一方、一撃で決めるというのは、強いボールをコートにぶち込むことだ。では、強いボールとはどのようなボールか、というとフラットで一直線に伸びていくボールが一般的だ。それを威力を高め叩き込むのだから自分より高めのボールがベストなのだ。

 

相手がどんなボールでもガンガン一撃で決めてこようとするのなら、それをミスらせるボールを打たすまで。

それが序盤をこちらが制するためにタツキが考えた試合展開だった。

 

(攻撃っていうのは決まりだすと嫌な展開になる。井出の場合それを存分に感じさせるタイプだからこそ、まず当面の対策は気持ちよく攻撃を決めさせないことだ)

 

昨日の試合、そしてタクマの話から察すると、どんどん調子が上がっていくタイプだ。

そういうタイプは流れに乗りやすい。

試合の流れに乗られたらその流れを取り戻すのに苦労するが、このままずっと流れに乗らせなければ、上がってくる調子もそこまで厄介なものにならないだろう。

 

タツキはそう結論付けてレシーブの構えをとった。

 

(このまま主導権をとり続ける!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

試合展開はタツキの理想通りに進んでいた。

試合はテンポ良く進み、開始から30分を迎え、ゲームカウント5-0で第6ゲームに入ろうというところだ。

強引に攻める井出はタツキの攻撃しにくいボールに翻弄させられほとんどのボールをミスでポイントを献上してきてこの試合展開だが、タツキのサーブゲームでこちらが有利なのにプラスして今まで通りのプレーをすれば第一セットは取れる、と感じている一方でわずかな不安も抱いていた。

 

(ミスがコート内に近づいてきている……)

 

タツキが打つ攻撃しにくいボールにはじめはコートから大きく外れていたボールだったが徐々にコート内に近づいてきており、先ほどもタツキ自身入ったのでは、と思うくらいギリギリのボールを打ち込んできた。

井出に対してはリズムよく攻撃させてはいけないので、今の対策があっているはずだし、波に乗らせないように決められた次のポイントにも気を付けてはいる。

 

(……だが、もしあのボールがあの勢いで入ってきたら、間違いなく厄介な戦いになる)

 

厄介な戦い。

つまり、タツキが試合でのポイントとなると考えていたタツキの盾と井出の矛の戦いだ。

 

(そうなると、このセットは落としたくないな)

 

どう転ぶか、想像できないだけに早めにアドバンテージがほしい。

 

タツキはセンターにスピンサーブを打ち込んだ。

センターへのサーブは角度をつけての攻撃が難しいためリターンエースが狙いにくい。さらにスピンはスピードがそこまで速くないため、サーブの威力を利用したリターンはしにくいのだ。

 

しかし、そんなタツキの考えなどお構いなしにセンターへのスピンサーブを思いっきりコーナに叩き込んできた。

小さい体を全身めいっぱいに使って振りぬいたリターンはするどく、速い。

瞬時に反応し打ち返すが、いいボールだったので返球が浅くなってしまった。

井出はそれを見逃さずオープンコートに深いスピンボールを打ってきた。

タツキは自前の脚力を生かしてスライスで打ち返す。

と、井出はすでに前に詰めておりスライスをボレーで叩き込む。

さすがのタツキも追いつかなかった。

 

『0-15』

 

審判のコールが響く。

軽く舌打ちしながらもタツキは深呼吸を一回。

そして大事なのは攻撃の流れを作らせないことだと思い返して気合を入れた。

 

(次が重要だ)

 

タツキが次に打ったのはセンターへの速いフラットサーブだ。

思いっきり振りぬいてコースを狙ったサーブはうまくサービスコートを駆け抜けた。

自信最高のサーブであると感じたタツキだが、次に帰ってきたボールに驚きのあまり目を見開いた。

 

井出は一瞬でタツキの渾身のサーブに反応しフォアハンドでまたもやコーナーに打ち込んできた。

リターンエース狙いと取れるその打球は、タツキのサーブの威力を利用してさらに加速している。

だがタツキも負けてはいない。

打ち返されたボールをしっかりと捉え深いスピンで井出のミスを誘う。

 

「――なっ!?」

 

が、井出は前に詰めかけてきてノーバウンドで打ち込んできた。

加速するかのごとくボールはオープンコートに伸びていく。

 

『0-30』

 

審判のコールと同時に観客から興奮の声が響いた。

 

『うおおおおっ! ドライブボレーだぞ!』

『ようやく目が覚めてきたか坊主!』

『このまま逆転だ!!』

 

嫌な感じだ。

周りの声援がコート上を揺らしている中、タツキは顔をしかめた。

それはこの歓声のことを指しているわけではない。

たしかにこのすがすがしいほどの井出に対する声援には思うところがないと言ったらウソになるが、タツキが感じているのはそこではない。

 

――打たせないようにしている球を打たれてきている。

 

あくまでも一撃で決められないように考えながら打ってきたサーブもまるでチャンスボールと言っているかのように打ち込んでくる。

そのせいでサーブゲームだというのに有利に試合を進めることができないし、相手にリズムを与えてしまっている。

 

(くそっ、あと一ゲームでセットが取れるっていうのにこの不安感は何なんだ?)

 

自分が圧倒的にリードしているはずなのに、なぜか頭に浮かぶビジョンには追いつめられている自分がいる。

自分のどのショットも通じなくなるのではないだろうか。

 

(いや、こんだけ打ち込まれているから不安になるだけだ! 大丈夫だ、きっとヤマ勘が当たっただけだ!)

 

もう後がない井出がせめてもとコースを勘で選び、それがたまたまあったからあんだけ力強いリターンが打てたんだ。

タツキは不安な自分に言い聞かせた。

というか、それ以外理由が説明できない。

自分の渾身のサーブを素であのリターンができるとしたら、自分とはかけ離れた実力者になってしまう。だが、いままでのラリーでそう感じさせる何かはなかった。

 

タツキは瞼を閉じ心を静めた。

あわてないで、落ち着いて、まずはこのゲームをとるために全力を尽くす。

自分のやるべきことを確認し、瞼を開け向こうコートで構えている井出を見る。

 

――よし、行くぞ!

 

タツキは高らかにトスを上げた。

 

 

 

 




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