Step By Step   作:栄吉

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いらっしゃいませ。

なかなか暇がなくようやく更新できました。
テニスは試合表現が難しいです……



Step6 全日本ジュニア二回戦 その二 逃げるな

打ち込んだのはスライスサーブだ。流れ着くようにコートに滑り込む。

 

「はっ!」

 

そのサーブにいち早く反応し打ち返してくる。

しかし先ほどまでの二球とは違い山なりの速いスピンでクロスに返してきた。

 

――向こうからペースを落としてくれるならありがたいことだ。

なぜ攻めてこないかはわからないが今のタツキにとって速いペースよりかはゆっくりとしたペースの展開のほうがいい。先ほどのようにエース級のボールを打ち込まれないからだ。

タツキは深く入り込んできたボールを同じように深いボールでクロスに打ち返す。

 

と、井出は少し前に出て、

 

――ライジングだと!?

 

バウンドした瞬間に打ち込んできた。

そしてそのまま前に出てくる井出。

不意を突かれたタツキは井出の位置を一瞬で確認して急に早くなったテンポを遮るためにスピンで深く緩やかに打ち返した。

ペースを速め、前に出ている井出は一気に決めに行くことができないはずだ。

だがタツキのその判断は狂わされた。

井出は素早いバックステップでボールの落下地点に戻ると、ジャンピングスマッシュを決めてきた。

 

「くッ!」

 

次に備えていたタツキはスライスで何とか打ち返すも、すでにネット前まで詰めていた井出にボレーで決められてしまう。

 

(くそっ! まだだ!)

 

タツキはボールを追いかけるが目の前を黄色い線が横切り、

 

「0-40」

 

続けてはなったのはサイドにフラットサーブだ。

勢いのあるサーブで攻撃の手を緩めたいという思いがあったが、そんな思いなど関係なしに井出は打ち込んでくる。

弾丸のごとく加速するリターンにタツキは苦しげにスライスでつなげる。

浅めに帰ってきたそのスライスを、

 

「はあっ!」

 

スピンで思い切り打ち込んできた。

少しでも自分の体勢を戻す時間がほしいためまたもやスライスで応酬するタツキ。

しかし波に乗っている井出にそれが通用するわけもなかった。

 

「ゲーム井出 ゲームカウント5-1」

 

審判のコールが鳴る。

結局ノーポイントでゲームを奪われてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこからは一方的な展開になった。

調子を上げていく井出はほとんど自分のミスも出さず、出したとしてもそれで調子が崩れることなく好調を維持してプレーをしていた。

一方タツキは自慢の守備力を発揮することなく、速い展開で決めこまれていた。

気づけば――

 

『ファーストセットウォンバイ 井出 カウント7-5』

 

一ゲームもとることができずに相手にセットを許してしまった。

観客は昨日の賑わいを彷彿とさせる歓声を上げている。

 

「くそっ……」

 

コールと歓声にかき消されてしまう呟き。

 

――一体どうすればいいんだ?

 

スコアでは圧倒的に勝っていたはずなのに気づけば圧倒的に負けている状況ではないか。

自分が打つどのボールも対処され攻撃される。しかも全然ミスをする気配がない。

それどころかどんなボールもコートに吸い込まれるように入ってくるのではないかとさえ思えてしまう。

タツキにとっては未知の相手だ。

自分の守備力が働く以前に決められてしまう、いや働く土壌さえ作らせてもらえない。

 

――結局何をどうしたらいいのかわからない。

 

今までどんな相手と戦ってきても、粘って粘ってボールを返し続ければ相手がミスしてくれたりして何とかなっていた。

テニスはこちらがミスらなければ負けない。

どんなボールでも追いついて打ち返し続けていたら負けないはずなんだ。

 

(じゃあ、どうすればいいんだ?)

 

どんなに追いかけても打ち返してもそんなの関係ないといわんばかりに決めてくる井出。

こちらはミスしてないのに、打ち返し続けているのに、なぜか決められてしまう。

こんなんじゃ――

 

「しょうがないじゃないか……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おいおいタツキの奴どうしちまったんだよ!?」

 

観客席で爽児は思わず声を荒げた。

隣に座るナツは普段であればそんな爽児に驚いてしまうだろうが、ナツにとってそれどころではなかった。

 

「たっちゃん……」

 

二人の視線の先にいるのはいつもの動きを忘れたのかと錯覚するほど動きの悪くなったタツキがいた。

井出が打ち返したボールを打ち返す動きも反応が悪い。

ワンテンポ遅れて動き出しているかのようで当然まったくボールに食らいつけていない。

試合展開はだいぶ早く今現在で第二セット 4-0で井出ががぜん有利といった状況だ。

 

「第一セットとは動きが別もんだぞ!」

「も、もしかしてけがしてるのかも……」

「そんな場面あったかよ!」

「わ、わからないけど!」

「わからないなら口出しするなよ!」

「爽ちゃんがうるさいからじゃん! 爽ちゃんこそ静かにしてよ!」

「なんだと!」

「二人ともやめなさい」

 

このままでは喧嘩に移りそうだと思いコーチである三浦は二人に声をかけた。

三浦の静かだが威厳のある一声で二人は急に静かになる。

が、爽児はやはり黙ってられないようで三浦に尋ねた。

 

「コーチはタツキがどうしてあんなに動き悪いと思うんだよ?」

 

三浦はその質問にコートから目を離さず静かに答えた。

 

「簡単だ。ただ、飲まれているだけだよ」

「飲まれているだけ?」

 

ナツが首をかしげて聞き返す。

 

「そう、飲まれているだけだ。この空気に。観客に。そして対戦相手である井出君に」

 

二人は息をのんだ。

 

「タツキは試合前から必要以上に後半から上がってくる井出君を警戒していた。まあ、意識しすぎていたんだ。前日の逆転劇も印象に残っていたんだろう。おそらく今この現状がタツキにとって一番なってほしくなかった展開なんだろう。圧倒的有利な状況から逆転され、どんどんテンポも動きも上がってくる井出君に対抗できないと思い込みただただ飲まれている」

「そんな…じゃあどうすれば…」

「こればかりは自分で乗り越えるしかないだろう。結局は気持ちの問題だ。気持ちを取り戻せば、まだ試合は分からない」

 

そういう三浦だが顔が若干こわばっていた。

今見ている限りだと気持ちを取り戻す前に負けてしまう、そう思えてしまうからだ。

今言ったセリフに嘘はない。

実際タツキと井出の実力はタツキのほうが地力は上だとみている。

しかし相性が悪すぎる。

メンタルが強く、失敗をものともせず攻め続けられるその精神力はシコラーであるタツキにとってみれば天敵だ。

シコラーの副産物として出る相手のイラつきというのは思った以上に相手の自滅を誘えるものだ。

感情的になりやすい小学生ならなおさらだ。

だが、井出には全くきかない。

そういう面では確かにタツキにとって今までの相手とは異なるのだろう。

 

(とはいえこれからはこういう相手も増えてくる)

 

成長するにしたがって感情的になる選手は減ってくるし、返すだけだとやはりコートの広さから考えて限界が出てくる。

だからこそタツキには攻撃という考えをもっと持ってほしいと三浦は考えていたのだ。

成長するにしたがって、上のレベルの戦いになるにしたがってミスよりも決めてポイントを奪うことのほうが多くなってくる。

それに対応できなくなってしまうのだ。

試合を見る限り、タツキは攻めの姿勢を見せてはいない。

考える余裕がないのか、端から選択肢にないのかわからないが。

 

(まあ、負けてしまってもこれで成長してくれたら……)

 

攻撃の重要性をこの試合を通じて理解してくれたら、負けても価値のある試合になるだろう。

そう、三浦は負けてもいいと思っていた。

決して口に出さないが、この年齢の敗北はさらなる成長につながる。

もちろん勝たしてやりたいが、これをばねにして這い上がっていけばいい。

そう考えていた。

 

しかしタツキの幼馴染であり親友の爽児は違った。

 

「逃げるなよッッ!!」

 

爽児の声がコート中に響き渡った。

 

 

 




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