とても遅くなってしまいました。
久しぶりなんで少し違うところとかあるかもしれないですけど暖かい目で見ていただけたら幸いです。
井出義明から見て大倉達樹という選手はやりやすい選手だと感じていた。タツキのプレーは基本守備一辺倒。粘って粘って、とにかく返して返してを繰り返す。そこにショットの精度に違いがあるが基本的には練習の出されたボールを打ち返すという作業に似ていた。
いや、前の関東ジュニアの際の試合を見ていたとき似ているというのをなんとなく感じ取った。
試合独特の展開とか打ちにくさとか癖とかがあまりない、とてもシンプルで単純なプレースタイル。
それは実際にボールを打ち合っている現在、確信に変わっていた。強いて言うならやはりボールの球威とかスピンの変化、スライスのキレなどはさすがに練習みたいな打ちやすいものではなかったが、それも含めてなんとかなるな、というのが井出にはあった。
だからこそ序盤は自分のミスで自滅していたが、相変わらずの守備的プレーでとくに変化があるわけでもないのでタツキの打つショットに慣れてきて見事逆転に成功。さらにあと1ゲーム取れば勝ちというところまで追い込んだ。
そう。追い込んだのだ。
なのに現在の状況はその時には想像していなかったものになっていた。
セットカウント 1-1
ゲームカウント 6-5
「むう、急に攻めてきたなぁ」
確かに井出が追い込んだでいた。誰もがこのまま井出の勝ちだと思っていた。
しかしここでタツキは今までの自分のプレーからの脱却を試みた。今までの守り一辺倒ではなく強気なショットで攻めてきたのだ。安全策のショットとかではなく最初から思いっきり、力づくで奪いに来ている。
(展開についていけてなかった…いや、違うな。完全にやられた)
急に攻めに転じられたからではない、ただ単にタツキの攻撃が井出の攻撃を上回った。至った手単純かつ当たり前の結論だ。
井出は小さく息を吐いた。その表情は真剣そのもの…と思いきや笑みが浮かんでいた。
(あそこから急にプレースタイル変えて強くなるなんてすげーな! 俺も負けてられねーや)
それは年相応の無邪気な笑顔、しかしその中には確かな闘争心もみなぎっている。
井出はベンチから立ち上がりコートに向かった。
まさかの逆転を許してしまったがまだ負けてない。
それにピンチは好きなほうなのだ。
(さあ、もっとひりつく試合をしようぜ!)
観客のざわめきは静まり静かな声で近くの人同士で話し合っている。先ほどまでは逆転に次ぐ逆転劇、初めに井出の大逆転から今度はタツキの逆転によって観客たちもヒートアップ。山あり谷ありの急展開ドラマを見せられているようで大興奮で見ていた。
「いやー怒号の試合展開ですな!」
「まったくです。ことごとく予想を裏切られる!」
「これが小学生の試合だから驚きだ」
「うちの孫にもやってもらいたいのだが…」
「この試合はいったいどうなるのか!?」
小学生の試合を見る観客は普通は試合関係者、つまり親とか親戚とか友達とか、あるいは試合会場の近所のおじちゃんおばちゃんかだ。だがこの試合は試合関係者もさることながら近所のおじちゃんおばちゃんが多かった。
そんな観客の中にいるタツキの応援をしているナツ、爽児、三浦は額に汗をかきながら真剣なまなざしでベンチに座っているタツキを見ていた。
「いける! いけるぞタツキ! このままいけば勝てるぞ!」
「うんうん! たっちゃんならいけるよ!」
ついにあと1ゲームまで追い詰めた。その展開に二人は興奮を隠せなかった。
冷静そうに見える三浦もその実は同様に不思議な高揚感と期待を胸に抱いている。
今まで指導者として何人もの小学生の試合を見てきたがこんなに興奮する試合は久しく見ていなかった。
顔を真っ赤にして話し合っているナツと爽児を横において三浦は追いつめられてからの試合展開を思い返す。
セットカウント1-1
ゲームカウント5-0
圧倒的に井出がリードしている状況でタツキのプレーが変わった。
今までの守り重視の安全策ショットではなく攻めの、強引な攻撃的ショットを打っていくようになった。しかもそれをコースを狙って、というのだから三浦は驚いたものだ。
今までどんなに言っても打つことのないショットを、しかもこんな土壇場の状況で出すのだから、ミスって負けることを恐れている少年のプレーではなかった。
そうしてもぎ取った第3セットの第6ゲーム。
しかしそれでも窮地に追い込まれているのには変わらない。
観客も、三浦自身も厳しいというのが頭の中にはあった。
ところがここから、タツキのテニスはさらに変化を遂げた。
タツキがトスを上げ思いっきりサーブを打つ。これもまた今まで違うサーブだ。威力を増したサーブは井出のコートに突き刺さった。
しかし井出も負けていない。持ち前の感覚でそのサーブに対応し打ち返してくる。
ここからはタツキと井出のラリーが続く。
先ほどのゲームとは打って変わってのラリー戦。
しかも今までのゲームとは違ったかなりレベルの高いショットの応酬だった。
オープンコート狙いは常に行われそれに加え前への揺さぶり。
トップスピンだけでなくフラットとスライスを混ぜ常に先手を取ろうとするラリーだ。
この長いラリーの最中、二人が狙っていたものは実は違っていた。
井出はスキを見てフラットで一気にエースを決める。
それは今までのゲームからも井出が見せてきたものだ。
ではタツキはどうか?
タツキがこのラリーで狙っているもの。
それは――
外に逃げていくスピンが上手くコーナーに決まりタツキは苦し紛れにスライスで返した。
チャンスだ!と井出は前に出てそのスライスをたたいた。
低く伸びるボールであったが多少のコントロールミスはあっても決められないボールではない。
その通りで井出のボールはタツキが好き位を見せたオープンコートに突き刺さる。
(決まった!)
井出は一瞬思ってしまった。
そのせいで井出は気づかなかった。
――コートの端から端へ移動しているタツキの存在に。
「!?」
なんでそこにいるんだよ!?という井出の驚きをしり目に、タツキはボールに追いつく。
低い体勢を維持し体の柔軟性を使ってギリギリのところで井出のボールを打ち返した。
体制維持ができなかったため速いボールではないが浅く力のないボール。
それでも井出のたっていた場所からは離れており、また一瞬気を抜いた彼では追いつけるはずもなかった。
タツキが狙っていたのはチャンスボールではない。
絶好のカウンターの機会だ。
先のゲームの最後のポイントでタツキは自分に合ったプレーに気付いた。
攻めるわけでもなく、かといって守り続けるわけでもない。
自分の中のリスク感情が成り立つプレースタイル。
タツキは顔に希望を浮かべ審判のコールを耳に入れた。
タツキのプレーは今までの超守備的テニスではなく、かといって第6ゲームで見せた強引なショットを連発する攻撃的プレーでもない。
――大倉達樹という少年が持つ天性の強みである人並み外れた超反応と柔軟性。
――それを最大限に生かしたプレー。
――それは…
――カウンターテニス!
今までの驚異の守備的にテニスを行えたのは、そしてそれで関東2位に慣れたのはひとえにタツキの超反応と柔軟性が支えたものだった。
相手がボールを打った瞬間それを理解する速度が他人よりも早く、そしてどんな体制でもしっかりと打ち返せるだけの柔軟性を持つ。
それにより超守備的テニスが成立していた。
それを生かしたうえでのカウンターテニス。
オープンコートに打ってくる相手のボールを瞬時に把握し、そのコースに向けて全力で走り出す。そしてそのボールをどんな体制でもオープンコースに返す。
これがタツキの見つけた新しいテニスだった。
三浦は改めてコートにいる自分の教え子を見た。
一時は負けると思っていた試合をここまでひっくり返した。しかも思い切って自分のプレーを変えて土壇場でドンピシャなテニススタイルを手に入れた。
もちろんこれから成長していく過程でまた変化するときはあるかもしれない。どこでどうなるかなんて小学五年生の段階ではわからないからだ。
しかし今確かに自分でもがき見つけ出した答えというのをその手に収めたタツキに、なんだかうれしく思うのだった。
(さあ。勝ってこい!)
審判のコールが聞こえると同時にコートのベンチにいる二人の少年が立ち上がった。
ありがとうございました!
テニスの試合描写というのは同じような感じになってしまうのでどこまで続けたらいいのかというのが難しいですね。
二回戦は次で終わりにしようかと思ってます。
さて、どうなるでしょうか?