感想、お気に入り、ありがとうございます。
ホントのろのろであまり上手でもない文章ですが見ていただけてうれしいです。
これからもよろしくお願いします。
八月の独特な熱気が自分の体に絡みついてきているのを確かに感じている。汗はとめどなく体中から溢れていたるところから流れている。
――疲れたな
審判のコールに従ってコートに戻っている最中、タツキはふとそんなことを思ってしまった。
試合時間は既に2時間を超えており、自身のプレースタイルのせいもあるがとにかくコートを走り続けてきた。精神的にも追いつめられたところから盛り返したのだからはっきり言うと一杯一杯だった。さらに夏の暑さも重なって体力の消費は著しい。
試合中とはいえ、しかもこの試合最大の重要な場面を迎えようとしているのにそんなことを思うのは無理もなかった。
脚は軋み、腕は重く、頭はぼーっとする。肺の中には夏の暑さを纏った気持ち悪い空気が充満し、口の中は先ほど水分補給したにもかかわらず既にカラカラに乾いている。
正直に言えばもうこのまま倒れてもいいといわれたらすぐさま倒れてしまいたい気分だ。
それでもしっかりとした足取りでコートに向かい、今までと同じようにラケットを構えるのは――
「ははは…」
――楽しいからだ。
力ない笑みを浮かべ、しかしその瞳は確かな光を持ち、まっすぐ向かいコートを見る。
見つめた先の向こうコートには同じように自分を見つめている井出の姿があった。
無邪気な笑みを浮かべ、まっすぐなまでの闘争心を身に纏っている。
タツキはその姿から井出が「速く戦いたい」と言っているように感じた。
はは、と小さく笑い構える。
(俺も、早く戦いたい)
いつもは思わない、テニスを始めたばかりのように高ぶる感情が抑えきれなかった。
「プレイ!」
それに答えるように審判のコールが鳴った。
一瞬の間をおいて井出は、大きくトスを上げた。
今まで少し高めのトス。しかしタイミングはばっちりだった。体を大きくしならせて全身を使って、
「ラァッ!」
気迫とともに打ち込んだ。
サーブはフラットサーブ。ただただまっすぐに突き進むボールはコートのセンターに位置するTゾーンに入り込んだ。
タツキはこれに反応する。
バックハンドのスライスで勢いのあるサーブをいなした。
深いスライスはクロスに伸びていき、井出はそれをスピンで返す。
ここからは二人のストローク合戦が始まる。
互いが互いに状況に応じて球種、コースを選択していく。一歩間違えればスキを見せ一気にやられてしまうという緊張感の中、二人の集中力は加速度的にさらに深いところまで入り込んでいる。
それはさながら剣道の達人同士の試合。
押しつぶされそうな気迫と緊張感がコート全体に流れていた。
観客たちは瞬きを忘れたように凝視して試合を見つめている。
この息をのむようなラリーがいつまで続くのだろうか。
そんなことを一人の観客の頭によぎった瞬間だった。
「!?」
――そうきたか!
先に仕掛けたのは井出だ。
速いストロークの応酬の中、タイミングを崩すようなドロップショットを打ってきた。
タツキはそれにしっかり反応を見せ、ダッシュで取りに行く。
それと同時に――
「井出も前に詰めたぞ!」
うまいドロップショットで打ち返しても確実に体勢を崩す。
井出はその瞬間に決めるつもりだろう。
さあ、どうする?と観客たちは息をのむ。
タツキは終盤の疲れを見せない俊敏かつ力強い走りでボールに追いついた。
そしてそのままスライスで堅実に返そう、そう思った瞬間だった。
「!?」
タツキの頭に中盤での井出の豪快なドライブボレーがよぎった。
だからラケットの面をとっさに変えて――ドロップショットで返した。
力のなく緩いボールはぎりぎりネットを越え、ネット手前で落ちる。
リスクのあるショットだったがこれで井出に一気に決められることはない。
――このポイントの戦いの場をネット際に移したのだ。
井出はもともとネットに詰めようとしていたためドロップショットに追いついた。
井出の選択はシンプルにオープンコートへスライス気味のボールを打ち返した。
急いで体制を戻していたタツキはそのボールに追いつき同じくオープンコートへのボレーを打ち込む。
ここからはボレー勝負へと展開していく。
そしてこのボレーというのは、ネット際での反応の速さがモノをいう。
井出の野性的反応ともいえる「勘」
タツキの最大の武器である天性の「超反応」
どちらに軍配が上がるのか。
結果としてこのポイントを奪ったのは――
「0-15」
――タツキだった。
「うおおおおおおお!」
「なんだよ今のボレーの打ち合い!」
「一瞬すぎて何が何だかわからなかったぞ!?」
まるで打ち合わせをしていたかの如くのボレー合戦はタツキの超反応が上回って勝負を決した。
「うひゃーまじかよ」
息を切らし手の甲で汗を流しながら井出は思わずつぶやいた。
ボレーが圧倒的に得意で自信があるというわけではないが、それでも今のはボレーのうまさ下手さというよりかはボールへの対応で負けたのだ。
それに関しては自信のあった井出からしたらびっくりだ。
「よっし!」
一方タツキはガッツポーズをしながらセンターラインへ戻っていく。
タツキがうれしいのはポイントをとれたというのもあるが、ボレー合戦に行く前でのドロップショットを選択したことが上手くいったという点についてだ。
理論的に考えていたわけではないけど感覚的に感じていた。
今の自分の状態から言ってリスクを冒したのにポイントをとられてたら確実にメンタルをやられていた。
次のポイント。
井出はまたも大きなトスを上げサーブを打ち込んできた。
同じようにセンターのTゾーン。
タツキは今度もきちんと反応してスピンで打ち返していく。
「!?」
今度も井出が、しかし先ほどと違っていきなり仕掛けてきた。
タツキのスピンに対してサイドにドロップショットを打ってきたのだ。
「おいおいまじかよ!」
「こらおったまげたぜ」
先ほどのゲームと同じ展開に観客はあっけにとられた。
同様にタツキ自身も全く頭の死角から狙われた感じだ。
持ち前の反応で動き出したがそれでも若干のロスがあった。
「くそっ」
「15-15」
タツキのダッシュはボールに追いつくことなく、審判のコールが鳴る。
「あの坊主やり返しやがったぜ!」
「大した肝っ玉してるな!」
「いいぞ!井出!」
「大倉!お前もやり返してやれ!」
先ほどと打って変わって電光石火。しかもさっきやられたドロップショットでやり返したそのプレースタイルは観客の心を鷲掴みした。
今のは自分が勝手に二球連続はないと思い込んでいたせいだろう。
「へへっ」と井出は笑みを浮かべているのを見てタツキは「負けず嫌いかよ」と呟きながらも顔は笑っていた。
「上等!」
第3ポイント。
今度の井出もまた先ほどと同様に大きなトスからのフラットサーブを繰り出してきた。コースは同じようにセンターのTゾーン。
しかし先ほどまで違って、
「はやっ!?」
タツキの超反応をもってしても反応しきれずノータッチでのエースを決められてしまう。
「30-15」
井出は調子を上げていていた。
先ほどのドロップ逆襲を決めどんどんテンションをあげている。そしてこのポイントもサーブ一発で決めて見せた。
さらに調子を上げてしまう。
タツキは小さく息を吐いて構えた。
第4ポイント。
井出の超高速フラットサーブが今度はサイドコーナーに決まった。
集中していたタツキは先ほどのサーブよりも速いサーブだったが反応ししっかり打ち返した。
スライスで打ち返されたボールは鋭い槍のごとくこれまたコーナーに突き刺さる。
井出はそれに追いついてスピンで今度もコーナーを狙って打ち返した。
調子を上げている井出はガンガン攻めてきている。
それはドロップショットという奇策を用いた先ほどまでと違って、単純な力として。
このままだとまた井出の勢いにやられてしまう。
タツキはコーナーに入り込んだショットをもう一回井出の方に打ち返す。
井出はそのボールを今度はオープンコートに思い切りぶち込んできた。
その時、井出は「やべっ」と呟き、
…と、その一瞬早くタツキはそのコートに走り出しており井出のショットを逆に井出のオープンコートに打ち込んだ。
「30-30」
静寂の中で審判がコールすると観客は湧き出した。
「きたあああああ! 電光石火のカウンター!」
「今度は井出が大倉の術中にはまったか!?」
「今日はこの展開よく見るな!」
ここまでの逆転劇にを演じたタツキの新たな武器。
タツキの超反応と柔軟性を駆使したカウンターテニスがさく裂した。
単純に攻めよう攻めようの姿勢でいる井出をうまく利用したカウンターだ。
「ここで出るのかよ」
勢いに乗りかけていただけに井出は悔しそうな表情でタツキを見つめた。
「よし…あと2ポイント」
タツキは小さな声で勝利までの道しるべを確認した。
ありがとうございました。
いやー終わりませんでしたね…
なんでここで切ったんだよ、と思う方もいるかと思いますがご容赦を。
次回で確実に終わります。
というかホントはやく原作入りたいです…