魔力量が全ての剣の道に絶望した少年は弓の道を極めるようです。 作:とろろうどん温玉
イチイ・バウには2つの才能があった。ひとつは剣、もうひとつは弓、はっきり言って弓の方が剣の才能を上回っていたが、イチイはこの弓の才能を伸ばそうとは思わなかった。
なぜなら彼の生まれたバウ家は代々魔剣士を輩出してきた武家でありそこに生まれた彼は剣の才能をよく鍛え弓の鍛錬を疎かにしていた。
イチイが12になった頃には彼はこのミドガルでも一二を争うと噂される程の魔剣士に成長しすっかり天狗になったイチイは「魔力量の多さだけが強さの条件ではない」と豪語する。そんな彼のもとに王女との御前試合の招待状が届く。
これは中流貴族であったバウ家としては凄まじい快挙で、イチイの両親は息子の才能を喜んだ。
これがイチイの人生を変えてしまうとも知らずに・・・・
イチイが13になる頃には自分の弱さに打ちのめされていた。
理由は、アイリス王女との御前試合。
最初は持ち前の剣技でアイリス王女の剣をいなしたが次第に莫大な魔力の籠った剣戟に押され敗北。ここ1年ほぼ同じパターンで負け続けている。
もっともこれでも王国最強と呼ばれるアイリス王女相手に善戦する剣士として魔力量が少ないながらも一目置かれるようにはなったのだが。
しかしそんな評価はイチイにとってはなんの慰めにもならない、今まで「剣技があれば魔力量の差は覆えすことができる」と信じて鍛錬してきたイチイの剣は結局は「凡人の剣」の域を出なかった。
その事実を痛感し、自身の鍛錬場である森林で1人うずくまっていた。
(もう無理だ。いくら剣技を鍛えたところで魔力量の差を覆えすことはできない)
ガサッ
自分の目の前の草むらの中に何がが落ちた音がした。近寄って見てみるとそこには一匹の鳥が首元から血を流して死んでいた。しかし奇妙なのはその鳥の傷口は矢で射抜かれたようになっているのに鳥には矢が刺さっていなかった。
「それは、わしが仕留めた鳥じゃ」
背後からの老人の声にイチイは驚き振り向いき混乱する、突然話しかけられて驚いたわけではない自分が普段使う鍛錬場は木と草むらに囲まれた場所であり目の前にいる老人は一切の音も立たてず、現れたのだ。
既にイチイはこの老人から並々ならぬ何かを感じ取っていた。
「おっとそう警戒するでない、驚かせたのは悪かった。」
「この鳥は、じいさんがやったのか?」
「そうじゃ、わしが射抜いたのさ」
「射抜いた?」
イチイがそう思うのは無理もない、なぜなら老人は弓矢を持っておらずそれどころか、百歩譲って弓矢を持っていたとしてしわがれた枯れ木のように細い腕に弦を引く力があるとは思えなかった。
「その目は、さてはお前さん、信じておらんようじゃな」
「当たり前だ弓を使わずにどうやって鳥が射抜けるんだ?」
「その考えは、所詮射之射《しゃのしゃ》しか知らん者のの考え、所謂凡人の考えじゃ」
"凡人"その言葉を聞いてイチイはムキになり遠くの空に飛ぶ鳥を指差し老人に問いた。
「ならあそこの鳥も射抜けるのか?」
「当然じゃ」
「な?!」
ありえない、と思った。弓の才を持つイチイでさえ今自分が指差した鳥が虱程の大きさに見えるほど遠くにいる鳥を射抜く自信がなかった。
(それを弓矢を使わずに?)
「では、今からやってみせるからよくみておれ」
老人は鳥が飛ぶ方向に身体を横に向け足を開き左手を握ったまま突き出し、右手を左肘の所まで運び、その姿は矢をつがえているようだ。老人は右手を静かに引く、イチイはギリッと弦がはる音が聞こえた気がした。そしてひょうと老人が右手を解放すると、遠くの空で飛んでいた鳥が石のように地面に落ちて行った。
「これが弓の極地、不射之射《ふしゃのしゃ》じゃ」
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