オルクセン競馬史   作:Tesuta2199

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すいません。興が乗って本日二話目投稿します。


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 ティリアン競馬場の主、スプリングオブリバティが八七九年の五月頃オルクセンを出発して、入れ替わるようにとある男と一頭の牝馬がティリアン競馬場のとある厩舎に到着した。

 ブロッシュ師は最近戦績が下降気味の厩舎である。

 過去にはエルフィンドクラシックでも良い戦績を出した馬などを輩出したが、現在では下火になっており、預けられている馬も数少ない。

 その門を叩いた一人のオスタリッチ人がいた。

 その姿をリリッシュ師は彼の容姿を事細かく書き記している。

 

 『ブロッシュの所に見慣れない人族の男がいた。背が高く、顔は整っているが、儚いというよりかは幽鬼のように生気がない男だった。ブロッシュの所にいる厩務員に訊ねると「とある筋で※テキ(※調教師の事を差す)を紹介させられてここに来たオスタリッチ人で、名前はマイケルという」と話を聞いた。最近様々な国家人族が来るようになったので、我々白エルフも忌避することなどは無くなり始めていたのだが、その男を見た時、薄ら寒い感覚に陥った。のちに思えば、あの男を通して“セレクレイト”の恐ろしさを感じ取っていたのかもしれない。』

 

 マイケル・セレームはオスタリッチの没落貴族である。

 彼の父は侯爵であるが、事業に失敗し、多額の借金を抱えてしまった。

 帝国内でも要職に付いてるわけでもなく、優秀な男でもなかったため、オスタリッチの皇帝は彼の父に貴族としての素質なしとして領地を没収している。

 侯爵は絶望し、酒に溺れ、流行り病であっさりと亡くなっている。

 侯爵と戦略結婚した夫人は実家に戻り、マイケルと侯爵と絶縁して連絡は取り合ってくれなくなった。

 マイケルは成人していたが、乗馬以外に特にこれといった技能は無く、残された数少ない財産で、愛馬であるセイレーンを世話していた。

 多数いた馬は差し押さえられてしまったが、セイレーンだけは手放さなかった。

 そしてセイレーンのお腹の中には子供がいた。

 父はオスタリッチでも有力な馬で、もし牡馬が産まれ、レースを勝ち続けたら立派な後継種牡馬として売れるだろうと侯爵は自慢気に話していたが、彼はそれを見ることは出来なかった。

 そして出産の時。

 マイケルは何度か出産に立ち会った位で、知識などは全くない。

 なけなしの財産で、農夫に頭を下げて出産を手伝ってもらい、牝馬が無事生まれた。

 だが、セイレーンは産後の肥立ちが悪く、数日後この世を去る。

 マイケルは泣き、己の不幸を嘆いた。

 大事なものが全て手元からなくなってしまい、一時期彼は自死を考えた。

 だが、彼にはまだ一頭の幼駒が残されていたのだ。

 出産を手伝ってくれた農夫が、彼を憐れんで、しばらく家に置いてくれることになった。

 生まれた幼駒も乳母である農耕馬に乳を飲ませてくれることになった。

 この農耕馬は輓馬であったが、慈愛が深く、幼駒を我が子のように愛した。

 そんな輓馬に育てられた幼駒はすくすくと成長していったが、お世辞にも馬体は素晴らしいとは言えなかった。

 農夫の息子はオスタリッチの競馬場で厩務員をしており、帰省した際に幼駒を見せたが、返ってきた返答はマイケルが期待していた物とは程遠かった。

 息子はマイケルに幼いから分からないが、馬体は貧弱すぎる、仮に競走馬になっても勝てる馬ではないと断言されてしまった。

 マイケルは再び落ち込んだ。

 自分には運もツキもないのかと嘆いていた。

 それでも幼駒はマイケルを見つけるたびにピョンピョンと跳ねまわりながら喜んで近づいてくる。

 そんな彼女にマイケルは親愛とも情愛とも呼べるものを抱えるようになる。

 そしてマイケルは彼女に“セレクレイト”と名付け、自らが馬主となり、調教師となり、厩務員となり、騎手になることを決めたのだ。

 二歳になると、本格的な調教を始めた。

 マイケルに本格的なレース経験はないが、アマチュアが集まった野良の競馬では良い戦績を収めている。

 馬を育てることに関しては、農夫の息子に教えてもらいつつ、教本を読んで覚えた。

 見様見真似で始まったセレクレイトの調教だったが、マイケルは驚愕した。

 今まで乗ってきたどの馬よりも乗り心地は良く、まるで自分の手足のようにセレクレイトは動いてくれる。

 鞭も叩いたことはない。

 鞭を見せるだけで彼女は主人がどのようにしたいのかを理解していた。

 競走馬にレースは理解できぬとされているが、セレクレイトだけは競馬を理解していたと当時のレースを見ていた者たちは皆口々に語る。

 実力を確認するのと、いつまでも農夫に世話になりっぱなしなのもいけないと考えたマイケルは残った少ない財産を賭けて野良で行われていたレースに出場する。

 皆が賭け金を持ち寄って、勝った者が賭け金全てを獲得するもので、横一線にスタートラインに並んでから舗装されていない草原で行われているものだった。

 中には違反ギリギリのレースも存在し、素性の悪い者も数多く参加していたが、マイケル騎乗のセレクレイトはこの野良レースを文字通り蹂躙した。

 馬体が貧弱のセレクレイトを見て、一緒に出場した野良の騎手たちはこぞって彼らを侮辱した。

 没落貴族の坊ちゃんが、生活苦から脱出するために賭けに出たと後ろから指を差して嘲笑した。

 しかしレースが終わってからは、あまりの強さに皆が驚愕し、畏怖した。

 二歳馬にして無類の強さを誇り、これは非公式になっているため、勝ち鞍とはならないが、野良でのレース20戦20勝をしている。

 獲得賞金は不明であるが、約1000ラングは稼いだとされる。

 やや無理な騎乗ペースではあったが、背に腹は変えられない事情もあったため、稼ぎに稼いだが、21戦以降は野良競馬の元締めである香具師から殿堂入りという名の出禁を食らうが、香具師はセレクレイト初戦の際にかなり私腹を肥やしたため、恩義を感じており、オスタリッチ競馬への参戦を自分が使える筋を使って、彼らを後押しした。

 オスタリッチでは、香具師の知り合いである調教師の所に間借りさせてもらう形で所属していた。

 調教などには口を出さないが、名義だけを貸すというギリギリな行為ではあったが、マイケルはこの調教師に関して『私たちの仲を切らなかった恩人』と語っている。

 そしてオスタリッチ競馬の表舞台に立ったマイケルとセレクレイトは、ここでも蹂躙した。

 初戦で大差勝ち。次走中一周の重賞を七馬身差で勝利。次走中三周でまた重賞を9馬身差で勝利。

 突如として現れた怪物に、オスタリッチ競馬関係者は戦慄した。

 重賞の中には秋に向けて始動したオスタリッチダービー馬も存在したのだ。

 そのダービー馬すら見劣りのする牝馬が赤子のように捻る。

 オッズは徐々に下がり、秋に行われるオスタリッチクラシックの最後のレースであるコラジョーソ大賞典を、数々のクラシックホースたちを置き去りにして大差勝ち。

 野良競馬と比べると流石にペースは落ちたが、初年度は七戦七勝。内G1が二勝。

 影を踏んだものは誰一人もいなかった。

 こうなるとオッズ大変不味くなり、公平なレースと収益が見込めなくなり、オスタリッチギャロップ(オスタリッチの競馬協会)は早々にセレクレイトを殿堂入りという名で、引退を促した。

 獲得賞金の二倍を払うとマイケルに打診したが、マイケルはこれを拒否。

 マイケルはオスタリッチからエトルリア王国への移籍を選択する。

 エトルリア王国とオスタリッチ帝国は仮想敵国同士ではあるが、民間での交流は存在していた。

 オスタリッチの調教師からエトルリア王国の調教師を紹介してもらい、そこでも同様の契約をした。

 当初、外国人の騎手と外国馬がエトルリアのレースを走ることは異例でもあったが、エトルリアギャロップ(エトルリア王国の競馬協会)の規定賞金額を満たしており、出走できる事からこれを拒否することはなかった。

 最初はオスタリッチの競馬で勝ち続けていても我が国の競馬には勝てまいと思っていたエトルリア王国の競馬関係者だったが、初戦でその考えは打ち破られた。

 文字通りの無双である。

 大差、大差、十馬身、大差、大差、五馬身、七馬身、大差…。

 かなり短いレース間隔で走っていたが、春までに十二戦十二勝内G1二勝している。

 五馬身差まで追い込まれているのは、当時エトルリア王国の最強馬“イーブリト”がようやく食らいついての五馬身差だった。

 このレースには逸話がある。

 常識外れの破竹の勢いでエトルリアの競馬を蹂躙するオスタリッチの馬を包囲すべく、エトルリア王国競馬界は絶対王者のイーブリトをレースにぶつけた。

 レースはエトルリア王国大賞。

 国内最高峰のレースを万全の態勢で、セレクレイトを迎え撃つ。

 この際、本来ならば違反であるが、セレクレイト以外の騎手たちにはとある指示が調教師からもたらされた。

 イーブリト以外はセレクレイトを徹底的にマークし、これを囲むように包囲し、進出させぬこと。

 一種の八百長ではあったが、当時のエトルリア王国競馬界の必死さが感じた。

 ゲートにも細工がしてある。

 わざとセレクレイトを最内枠に入場させ、ゲートを開ける際は他の馬と比べてワンテンポ遅く開くようにしていた。

 当然レース時はセレクレイトは出遅れた。

 いつもなら先行しての競馬だが、この日は最後方でレースを行うこととなった。

 当然鞍上のマイケルは焦るだろう。その場にいた皆がそう思っていた。 

 レースは作戦通り、セレクレイトを厚く囲むような展開であった。

 場内にいた者の中にはブーイングを上げる者さえいるぐらい、異様なレース展開であった。

 最終コーナーに入ると、外で控えていたイーブリトが一気に前に進出する。

 得意の差し脚が炸裂してはさしものセレクレイトも勝てまいと皆が思った。

 しかしだ。

 ほんの隙間を見つけたマイケルはセレクレイトに鞭を見せて指示を出す。

 次の瞬間には、男馬を跳ね除けて鋭い差し足でイーブリト諸共抜き去ってしまう。

 結果は五馬身差の勝利。

 不利があったとはいえ、この勝ちはエトルリア王国競馬史上における最大の汚点となったのだ。

 この不正が判明するのはのちの世であるが、この話を聞いたオスタリッチの競馬関係者は歓喜した。

 『エトルリア王国の鼻を明かし、恥をかかせた!セレクレイトは“オスタリッチの至宝”だ!!』 

 皆が口々に語ると、セレクレイトは英雄視されるようになる。

 一方エトルリアギャロップは早々にマイケルとセレクレイトを出禁とする。

 名目上は国内馬の保護としているが、露骨な不正をした上での敗北は、エトルリアにとって後ろめたさもあったのだ。

 さて、三度目の出禁を食らったマイケルとセレクレイトはどうしたものかと考えている時だった。

 隣国オルクセンでも平地競走が始まったことをふと思い出した。

 もしそこで出禁を食らっても、今度はグロワールかキャメロットで走ればいい。

 そう考えたマイケルは、もらった獲得賞金をエトルリアの調教師と山分けしてエトルリアから去ったのである。

 こうしてセレクレイトはオルクセンにやってきた。

 星欧競馬関係者は皆口々にセレクレイトを畏れ、こう名付けた。

 “オスタリッチからの脅威”と…。




セレクレイトの元ネタはキンチェムですが、ハンガリー語で愛してるって名前で調べたらセレクレイトになりました。
おめーさてはセクレタリアトも文字ってんな?って思うでしょう。
ガチ偶然なんです。
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