オルクセン競馬史   作:Tesuta2199

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だ、蛇足…。


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 星欧の夏は、他の大陸から見ても過ごしやすい土地柄である。

 冬は厳しいが、その分湿気は少なく、風も北の大地から涼しい風が流れ込んでくるため、日差しが強くても過ごしやすい時期でもある。

 八八六年の夏も同様で、王者ルーエデューも放牧地にてしばしの休息を得ていた。

 実は、ヴンダヴァールノヴァも同時期に同じ育成牧場にて放牧療養をしていた。

 名は“ノルデンヴァイデ”北の牧場と名付けられたこの育成牧場は、エルフィンドの激戦地アルトカレ平原に新設された競走馬専門の育成牧場である。

 オーナーはオルクセンの貿易商、馬狂いと呼ばれたヒューブリテ氏で、当時オルクセンにあった氏の個人的趣味であった育成牧場を本格的に稼働させ、手狭になったため、移設した経緯がある。

 ティリアン競馬場とシェーンシュケント競馬場のちょうど中間地に位置しているため、この当時は委託金さえ払えば、誰でも預けることが出来た。

 当時世界最先端の調教方法、獣医、技術を身に着けた厩務員が駐在し、多忙な厩舎のバックアップに当たって、オルクセン競馬の根底を支えていた。

 そして、その中から新たな世代の種牡馬たちを探し、将来は自家の繁殖牝馬にその優秀な種を付けるための候補探しを行っていたのだった。

 

 ノルデンヴァイデの創設メンバーで初代牧場長を務めたダークエルフのメルミドック氏は語る。

 

 『当時のオルクセン競馬は、ハッキリ言って他国と比べたらまだまだ未発達でした。黎明の三頭で、ダービー馬だったオプティマールも当時はオルクセン競馬最高傑作と呼ばれていましたが、他国と比べたらまだまだ未熟でした。事実凱紀門賞を狙いにグロワールに遠征しましたが、当時の最強と呼ばれた“灰色狼”ファントムペインの足元にも及ばず、それを機に、皆が強い血統を掛け合わせて更に強い馬を産み出そうと躍起でした。確かに、イレギュラーとも言える馬は存在しましたが、必ずしも強い馬から強い馬が生まれるという訳ではありません。事実、黎明の三頭は、子出しが成功するまでに時間を要しましたし、その同期で無冠の王子と呼ばれたセイントレイヴンは初年度産駒ノーブルサクラメントです。彼女の血は残せませんでしたが、彼女の全弟キリシュヘルトはG1を2勝してその血を現在でも残しています。ルーエデューもドライヴィも見るまではそこまで期待していませんでしたが、いざ目にしてみると当時の競馬の常識が根底から崩れるような気がしましたが、ドライヴィは競走馬としての理想的な馬格でしたが、ルーエデューのような馬が馬の究極体なのかもしれません。その時は半信半疑ですが、その後、怪物と呼ばれるような馬は、必ずルーエデューかドライヴィのような馬格で、その産駒も必ず結果を残して、次世代に血を繋げていました。…すいません、老人は話が長くなり過ぎてやや説教臭くなってしまう。とにかく、当時、ルーエデューとドライヴィは同じ馬運車に運ばれて牧場に来ました。私は、ドライヴィを見て“これが二冠馬か!”と見間違えてしまった位には、ルーエデューの馬格は秀でているようには思えませんでした。彼の馬格はどう見てもマイラーで、おおよそ長距離には向かなそうな気がしました。』

 

 当時三冠に王手がかかっていたルーエデューだが、下馬評でも三冠を得るには難しいというのが他の評価であった。

 当時の彼を知る長命の者たちは、彼を「まるで牛」だと評価しており「確かに怪物級の力を持つが、ルーエデューに3000mは遠すぎる」というのが見立てであった。

 実際ファルケンハインステークスの人気は三番人気に譲ることとなるのだが、この体格が原因で、この放牧地でちょっとした事件が起きた。

 

 事件は早朝のことであった。

 その日、ノルデンヴァイデの職員が様々な事情で、人手が少なく、警備が薄手になっていた時であった。

 まさに猫の手も借りたい状況の中で、ドライヴィの馬房の近くに見たことも嗅いだこともないエルフの職員が立っていたのを一人のコボルト族の厩務員が見かけた。

 しかもドライヴィに鞍を乗せており、調教に向かおうとしている風にも見えたが、こんな朝早くから騎乗しての調教の予定はない。

 『アンタ、誰だい?』と声を掛けた時だった。

 そのエルフは突如としてドライヴィに鞭を振るうとやや乱暴に走らせ始めたのだ。

 当然皆が驚く。幾ら他所の馬とはいえ、そこまで乱暴に扱う教育はこの牧場ではしていない。

 ということは。誰かが叫んだ。

 

 『馬泥棒だ!!!!!!!!!!!!!!!』

 

 ドライヴィをやや乱暴に連れ去ろうとした痴れ者を捕えようと追いかけたが、やはりこの時、無冠と言えどもクラシックの星の一頭。

 追いつくことかなわず、ドライヴィは連れ去られてしまった。

 この大胆不敵な犯行は、すぐに近くに設けられていた駐在所に厩務員が駆け込んで、地方警察の手に委ねられることになるのだが、事件が動いたのは三日後の出来事だった。

 警察署に一人の小さなコボルト族の子供が一通の手紙を届けに来たのだ。

 目深の帽子を被ったエルフに駄賃を握らされて、警察署に手紙を届けるように指示を受けたと、証言しており、その内容は驚くべきものだった。

 『二冠馬ルーエデューを預かった。一週間以内に今までの獲得賞金一億ギニーを、アルトリアの町はずれにある廃教会までに持ってこい。さもないとルーエデューの命はない』という内容であった。

 警察署員は呆気にとられた。

 犯行グループはルーエデューを攫う予定だったらしいが、間違えてドライヴィを盗んでしまったのだ。

 この当時、名札は付いていたのだが、ドライヴィ、ヴンダヴァールノヴァとルーエデューの名札が入れ違えてしまうミスを犯していたのだ。

 不幸中の幸いといえば聞こえがいいが、それでも連れ去られたのはクラシックの有力候補の一頭、捜査は署員他、軍も動く事態となり、アルトリア地方は世に見珍しい競走馬誘拐事件の騒動の地になってしまった。

 

 その頃、ルーエデューは牧草地で草を食んでいた。

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