オルクセン競馬史   作:Tesuta2199

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 この騒動は、オルクセン競馬界に激震をもたらしていた。

 それと同時に、ようやく落ち着き始めていた差別的感情も再び沸き始めていた。

 ドライヴィの馬主は、新興勢力であるオークの資産家であったが、これを機に、他のエルフ系の厩舎に預けていた馬を全て引き上げ、他厩舎に預託するに至った。

 当然の反応ではあるが、これが一部で燻っていた競馬関係者のエルフ達の感情が爆発するキッカケにもなり、暫くの間はエルフ系の資産家以外の馬を預からないと公に話す者も続出していた。

 しかし、悲しいことに、この判断に至った厩舎の大半は、これを機に歴史上から消え去っている。

 これは実力のあるエルフ系の厩舎が、決して一時の感情での行動に移らずに、声明もストライキもサボタージュを行わず、あくまで厩舎の存続を優先しての行動であったが、それはそれ、これはこれと語る馬主も多かった事も起因しており、ELFに嫌悪感はあるものの、エルフに嫌悪感を抱く者は徐々に減り続けていた。

 つまり時勢を読み切れない者が淘汰されただけの出来事であった。

 

 しかし、時間はそんなことなどお構いなしに進んでいく。

 夏は過ぎ、八八六年十月ファルケンハインステークス当日に移る。

 ドライヴィは件の事件にて出走を回避した。

 元々距離の長さに懸念しており、陣営は年内の休養を宣言。

 他陣営は、二強の内の一強が消えたことにより、最後の一冠を獲るために躍起になる。

 しかし、そんな少ない希望ですら、打ち消す存在が、ティリアン競馬場に現れた。

 当時、実況を担当していたハアシム氏の書籍にはこう書かれている。

 

 『パドック解説をする際に、私と当時の新聞社の人と移動した。その日は盛況で、やはり三冠馬誕生の瞬間を見ようと、多くの観客が競馬場に押し寄せてきていたんですが、私たちが特設席に行く前にどよめきが聞こえてきた。何事かと準備をしていたが、スタッフの一人が駆け込んで、興奮気味に話していました。「今日の勝ちはルーエデューで固い。」競馬には絶対はありません。何故ならどんなに強い馬でも、無敗で勝ち続ける馬など片手に数える位です。そんな馬でも「今日は絶対に勝てるだろう」と断定するのは難しい話なのです。故にルーエデューも同様です。まだ若駒でありながら二冠馬の彼ですが、絶対に勝つとは断定できません。アトムボーイに敗れたレースもありますし、アクシデントで負ける事など、勝負の世界ですからあってもおかしくはないのですから。しかし、そのスタッフの今まで見たことない興奮具合を見ると、相当の仕上がりなのだと想像に難くなく、パドック解説の時間になりますと、私は新聞記者と共にパドックに移りました。その日の天気は比較的曇りになりやすいベレリアント半島ですが、雲一つない晴れ模様で、天から降り注ぐ太陽の光も、夏から和らいで秋模様の優しい光でした。しかし、その太陽の輝きよりも遥かに光を放っていたのが一頭降りました。あれは忘れもしません。ルーエデュー、神の降臨です。』―――――――――――ハアシム・カザーン書籍「我が人生、競馬実況道也」より

 

 氏の言葉通り、この時の記録は事細かく記録されている記憶媒体は多い。

 『太陽の光を一身に集めている』『あんなに醜いと言われていたのに、あの日を境に馬が変わったように素晴らしい馬体に変化していた』等、今までルーエデューを酷評していた者達は軒並み称賛していた。

 それほどの好馬体はのちに現れるまで長い時間を要したとされるほどで、この日のオッズは1.2倍と大変人気を博していた。

 

 レースは序盤からルーエデューの一人舞台であった。

 どんなにペースを揺さぶられようと、どんなに前を壁に囲まれようと、いつものようにマイペースに走り続けた。

 それは最終直線に入っても変わらない。

 いつものように加速を始め、大外の外ラチギリギリを攻めて、歓声を一斉に浴びる。

 二着より三馬身。

 オルクセン競馬初の三冠馬はここに誕生したのである。

 

 いつもならばすぐに帰ろうとするルーエデューであったが、この日に限っては、馬場に残り、鳴りやまぬ歓声のシャワーを一身に味わっていた。

 この日のみウィナーズサークル内で撮影が成功されており、優勝レイが背中にかけられていたルーエデューと関係者の写真は、競馬博物館に飾られている。

 その姿、正しく“神”

 写真の下には『halleluiah』と書かれたブロンズ製の看板が設置されており、長い間、来場した観客たちに触れられており、酸化被膜が削られ、金属本来の輝きを放っている。

 この色は、あの日、パドックで輝いていたルーエデューの馬体と同じ色なのかもしれない。

 

 三冠馬誕生は競馬界を活気づけた。

 ルーエデューのような馬を産み出したい。ルーエデューのような馬を調教したい。ルーエデューのような馬に乗りたい。

 新世代の競馬関係者の目は輝き、今までルーエデュー憎しといった声はこの日を境に一斉に消え去った。

  人とはまこと愚かな存在で、ミーハーなのだと思わざるを得ないが、名実共にオルクセン競馬の主はルーエデューになった。

 そうなると、次の目標を定めなければならないが、直近では十一月のエルフィンドカップに出走予定であり、回避も出来たが、古馬との戦いは避けられないのと、思った以上の疲労とダメージがない事から出走を表明。

 古馬陣営はこここそ三冠馬ルーエデューを負かすことが出来るチャンスとばかりに出走を表明し、新世代VS古馬世代の戦いは早くも行われることとなった。

 

 結果は圧勝である。

 当時、先輩であるダービー馬アンドレアルや二冠馬ドンロレンスキーなど赤子の手を捻るが如く打ち負かし、三冠馬から四冠馬の戴冠を呆気なく成功させると、既にゲフ・リーレン調教師の眼差しは海外へと向かっていた。

 『来年は海外遠征を行い、オルクセン三冠馬の強さを世界に知らしめたい』

 エルフィンドカップ終了後に冷めやらぬ熱気の中で、新聞記者達に高らかに宣言すると、各新聞社は軒並み掲載した。

 そして目標は来年十月の凱紀門賞と決まり、それまでの調整を行うために、国内路線で整えてから六月にグロワールに向かう事となった。

 直近のレースは新設された大統領杯。

 それまでは休養を行い、大事に調教を行おう、そう決まっていた。

 しかし、神を負かさんとあの馬が帰ってきたのだ。

 

 八百八十七年三月の王室大賞典。

 条件戦をクリアしたその馬は、颯爽と現れると、クラシック上がりの古馬にしては明らかに格の違いを見せつけた。

 クラシック戦線では惜しい戦績であったが、それは時代が悪かったと片付けるにはあまりにも口惜しい。

 新たに厩舎を移してから虎視眈々と調教を続け、初のG1を戴冠したその名は“ヴンダヴァールノヴァ”

 誘拐事件以降、鳴りを潜めていた彼は、神に立ち向かう反抗者としてターフに凱旋してきたのである。

 陣営も大統領杯に参戦を表明。ヴンダヴァールノヴァは再びルーエデューに立ちはだかる事になった。




今年のクラシック戦線、物語多すぎておもろいです。

あ、競馬は負けてます。
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