オルクセン競馬史   作:Tesuta2199

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薬が効いてきたので、ようやく書けました。
ありがとう、いい薬です。


6

 八八七年。

 年を明けてからは、去年と比べて国内も安定しており、人々も新年を無事に過ごせていた。

 走る者、身体を休めて英気を養う者、それぞれの立場の者がしのぎを削りあっていたが、注目はやはりルーエデューとヴンダヴァールノヴァ両陣営であったが、チャンピオンであるルーエデュー陣営のプレッシャーはかなりのものであった。

 調教が始まれば、調教を確認しに来る取材班に毎度囲み取材を受け、似たような取材を受けてはストレスが溜まるのが人である。

 リーレン調教師も愛飲していたアルコール類もこの時期からかなりの量が増えており、またグリムヒルト騎手もまたこの時期から重度のヘビースモーカーへと変わっている。

一方でヴンダヴァールノヴァ陣営であるディレック師、ジミー騎手、若手のデービット騎手も同様の囲い取材はあったものの、扱い方に関してはこちらの方が上手であった。

 ディレックの師もまたメディアのあしらい方は名人芸の類で、それを教え込まれていたディレック師もまたそのあしらい方を習っていた。

 要点だけを語り、事実は言うが、本心は言わない。

 だからと言って、真実ばかりを語っては陣営の不利になり得る。

 故に、時折嘘を交えては他陣営を出し抜こうとも考えている。

 これは戦術の類である。馬が走る本番以外にも既にレースは始まっているのだ。

 

 デービット騎手も若輩ながら先輩たちの後ろ姿を見て日々成長している。

 自分もいつかはG1を勝ちたいと思うものの、なかなか思うように事が行かない時の方が多かった。

 それは、父ショーン・ブリメイの威光が原因だったかもしれないが、それは彼の口から直接語られることはなかった。

 しかし、当時の資料を読み漁ると、あっさりと若手の中で重賞初勝利を一番先に収めていたが、それ以降の戦績はパッとしない。

 騎乗回数は、師のディレック師のおかげで稼げている状態ではあるが、花と呼ばれた世代の中では、最終的に勝利回数は大きく下回っていた。

 焦りもあったのか、戒告の数は他と比べたら非常に多い。

 しかし、これは素行が悪かったからではない。

 師は語る。

 

 『デービットは素質がありました。ですが、少し冒険心があるといいますか、生粋のギャンブラー体質ですね。戒告上等で、斜行して、騎乗停止ギリギリを攻めます。でも私はそれを辞めろとは言いませんでした。確かに危ない行為から目を背けていると言われたら何も言い返せません。ですが、彼がレースに出て、誰かに不利を被っていても、決して人馬を貶す事はしませんでした。それは他の騎手にも言えることです。私は、そんな彼の騎乗スタイルにある意味、信頼を置いてました。勝つか負けるか。負けると分かってても必ず掲示板内には残そうとする。それは厩舎、馬主、馬自身にとって、とても良い結果になるからです。ベストは勝利ですが、それ以上に、我々は労働者でもあり、雇い主に還元しなければならないのです。』―――――――――――――――ディレック師は語る。「月刊オルクセンギャロップ『馬車馬の馬は誰なのか?』より」

 

 この言葉の通り、デービット騎手の勝利回数、戒告の数は反比例しているが、2,3着、または掲示板内の数を調べると、これはどの世代の騎手よりもダントツに多い。

 なんなら若手獲得賞金数では、カラン騎手、ミリアム騎手を凌駕している。

 これを驚異と言わなければ、何と例えるべきであろうか。

 魔術師の子は、今まさに真価を発揮しようとしている時であった。

 

 四月大統領杯。

 両雄相見える。

 この日もパドックを埋め尽くさんとばかりに人が集まっていた。

 “三冠馬”から“四冠馬”となっていた“神の子”ルーエデュー。

 そして父は超越者。母は無敗の女帝。

 神の子に対峙するは、苦難を超えてきた“超新星”ヴンダヴァールノヴァ。

 この日のオッズは完全に二頭に分かれており、三番人気の二冠馬ドンロレンスキーですら初の二桁オッズになっていた。

 馬体も甲乙つけがたく、皮膚も薄く張りつめているようで、まさに大理石の彫像の如くと当時の新聞でも書かれていた。

 そしてルーエデューの鞍上は、ここまでクラシックロードをコンビで組んできたグリムヒルト騎手。

 対する鞍上は、なんとデービット騎手であった。

 この日、ヴンダヴァールノヴァ陣営に思わぬピンチが訪れていたのだ。

 この日の前日、土曜開催の第5Rにて、未勝利戦で騎乗していたジミー騎手が落馬負傷。

 足に重い捻挫を負ってしまい、その後のレースを全て乗り替わる事態になっていた。

 そのため、ヴンダヴァールノヴァの鞍上代打を検討しなければならないが、それなりに力のある騎手は「あの馬で出るのが怖い」と漏らすほど、当時のルーエデューの神聖さに参っていた様子だった。

 しかもヴンダヴァールノヴァで惨めな負け方をすれば、叩かれ、炎上するのは必須。

 どんなに大金を積まれても断りたい案件であった。

 普通は、前日に主戦騎手が怪我すれば、陣営も焦るだろう。

 実際、馬主サイドは青白くなったと証言されているが、ディレック師は他の騎手に騎乗依頼して断られてもあっさりと引き下がってすぐに去っていったという。

 それはまるで確認事項をマニュアル通りに行っているように。

 そして小一時間すると、厩舎で待機していたスタッフに、何事もなく口を開いた。

 

 『厩舎に戻ってきて、左腕をズボンのポケットに入れながら、右手で顎を撫でながら、皆を見てこういうんですよ。「明日のドライヴィに乗るのはデービット以外あり得ない」って。嬉しさよりも「このおっさんは頭いかれたのか?」と思いました。ドライヴィとルーエデューの戦いは、生半可な覚悟では出来ません。ずっと負けてきた相手を打ち負かすために、その日まで死に物狂いで調整しましたからね。ですが、ディレックさんは「今日のお昼はミートソーススパゲティがいい」みたいなノリで話してましたからね。乗らされるこっちとしてはもう少し神妙に話してもらいたいものでしたがね』――――――――――――――――――デービット元騎手が語る。週刊「オルクセンジョッキーシリーズ神話編」より。

 

 他から見れば、無謀とも言えるものだった。

 若手騎手の中でも、有望株とはいえ、それでもこの間初めて重賞を勝ったばかりの騎手に、これほどの逸材馬の背中を預けるのは、誰にでも出来るわけではない。

 だが、ディレック師は、そこまで可笑しい選択をした訳でもなかったのだ。

 この時、デービット騎手は、ディレック厩舎の馬すべての調教に関わっており、ヴンダヴァールノヴァの背にも何度も乗ったことがある。

 どの馬よりも乗りやすい、とディレック師に語ってもいたし、挑戦者としては、例えこれで負けようともそれは神の思し召しだと割り切って、デービット騎手に経験を積ませたいという気持でもあった。

 勝負師デービットもさすがに即決するのは難しかったと後に語っているが、それでも自分以外にヴンダヴァールノヴァの背を預けたいと思える騎手も居なかった。

 ならばままよと、決意し、師の作戦と、自分の経験をすり合わせながら、大統領杯に臨んだという。

 

 かくして、現在でも物議を醸す、オルクセン史上最高とされるレースが始まろうとしていた。




上半期G1はほぼ負けでしたorz

唯一の神予想は、この前の府中牝馬ステークスです。
下半期はもう少し勝ちたいわね。
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