転生したせいか魔物形態がおかしい 作:どぅるどぅるどぅ
薄暗く湿った洞窟の奥深く。その中に男達の叫び声が木霊している。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!やめてくれ!!」
「痛い!!痛い!!」
岩肌に囲まれた空間、その真ん中には、石造りの生贄用の祭壇のようなベッドが二つほど置かれ、その上に裸に向かれた男達が縛り付けられ、周りを囲む全身を白装束で包んだ三角頭巾の人型達に腹部を開けられている。
「貴様らはこれから、魔の力を宿し、人の新たな段階へと到達するのだ。そして、我々
三角頭巾が、盛大な祝詞を上げると、それぞれの男の腹部にそれぞれ黒い石と白い石をねじ込む。
「ぐわぁぁぁぁぁ!!」
「ぐうぅぅぅぅぅ!!」
男達は余りの痛みに叫ぶが、腹部に石が入った途端、石は肉体へと急速に同化し、異常な速度で腹に開けられた穴が肉で閉じていく。そして、その治る痛みもまた強烈なものだった。
しかし、男の片割れは、あまりの苦痛に目からも鼻からも、全身ありとあらゆる場所から体液を流している。その身は、腹部から変色、膨張し、一刻一刻と人ではなくなっていく。そして、膨張した肉体は拘束を突き破り、一瞬で周囲に居た三角頭巾を蹴り飛ばした。
そして、その男はもう一人の囚われた男、黒い石を埋め込まれた男の拘束を破り解放すると告げた。
「逃げろ!!アイアン!!このままでは俺は俺でなくなってしまう!!そして、ヤバい気配が接近しているのを感じる!きっと俺達と同じことをされ、改造された奴だ!!まだ俺の正気がほんの少しでも残っているうちに、俺が足止めをする!!逃げるんだ!!アイアン!!」
アイアンと呼ばれた男は、ふらつき、涙を流しながら部屋を出た。流れ込む風の大元を目指すように、駆け出した。親友への一時の別れの言葉を放ちながら。
「ぐっ!分かった!ニール!!絶対に、俺がお前を戻してみせる!!だからどうか死なないで、待っててくれ!!必ず、お前を助けに来る!!」
「アイアン、俺は、お前と幼馴染で良かった!楽しかった!!」
アイアンは駆ける。親友の言葉を守るため。アイアンは駆ける。親友を必ず取り戻すため。
そしてアイアンが洞窟の外に出た時には夜であった。そしてアイアンの体も、夜闇に紛れるように真っ黒になっていた。触覚の生えた頭部、体の各部を覆う甲殻、関節部を繋げる節。その身は、まるで人型のコックローチのようだった。
アイアンは、前世の記憶を持って生まれた。ナーロッパの世界の住人だ。
特にチートとか、転生特典みたいなものを貰えた記憶はないが、幼い頃から独学で計算が出来たし、文字の読み書きもすぐ出来るようになり、天からの恵み物として大事にされ、6歳の頃にはは村を含めたその地域の領主の養子として迎え入れられた。
そこで出会ったのが、領主の息子であるニールだ。彼もまた賢く、貴種として剣を学び、それでいて柔和。だが遊ぶ時は本気で遊ぶ、非常に快活で、一生懸命な子どもだった。アイアンはニールを支える人間として教育を受け、ニールは良い領主となるように共有を受けたり、二人で剣の腕を競い合ったりしながら、幸せな異世界生活を送っていた。
だが、アイアンとニールが齢18の頃に、ニールの父が行方不明になり、有力な冒険者に捜索を頼んだ。
その結果、仕事の移動中に何者かに誘拐され、惨殺されたことが確かめられた。
これを機に、ニールは新たな領主として突如働くこととなった。あまり大きな領土ではないが、少しでも領土が欲しい周辺の貴族達の攻撃を何とか二人と父の助力をしていた部下達で退け、ようやく安定が見えてきた所であった。
そして、突然、魔物……といっても、街道に出てくる通常の厄介なゴブリンやコボルトとは比べ物にならない、初めて見た魔物が、ニールの縁談帰りの馬車隊を襲い、二人を残して部下達はあっという間に殺されたのだ。
意識を失った二人は、何処かわからぬ洞窟に連れ込まれ、狂気の集団により人体実験を行われた。
そして、変容する自分達の身体を見て、あの魔物が元は人であったことに気付いた。
初めて会ってから15年、ずっと共に成長してきたニールとアイアンは、突然引き裂かれた。
アイアンはニールを取り戻す為、魔の教団を滅ぼす戦いに身を投じる事となる。
だが、今は、アイアンは少し木の洞の中で身を丸めて、休息を取った。
戦いの為に……。
「はっ!?」
翌朝、目を覚ましたアイアンは、自身の体が肌色であることを認識した。
そして、おぞましい体験と、ニールの事などを、領地へ早く戻り報告しなければならないと考えた。
だが、自身のいる場所が分からない。木々は隙間なく生い茂っており、街道はとても近くにあるようには思えない。そうして、どうするか考えていると、樹上から敵意を感じた。
即座に身を転がすと、自身がさっきまでいた場所に鋭い爪をもったリーガルピューマが居る。
地面には深く爪痕が残っており、回避しなければ頭部を唐竹割りにされていたかもしれない。
「くっ!!剣もなく、素手でこいつの相手など出来ん!だが、環境が悪すぎる……。」
悪態をついていると、正面からその全身のバネを活かしてリーガルピューマが飛びかかる。
足元は悪く、先程のようにローリングでの回避は難しそうだ。
瞬間、アイアンの見る世界がゆっくりになる。それなりにこれまでも従者として鍛えてきたが、これ程までのゾーン状態に入ることは初めてだった。
アイアンはゆっくりと迫り来るリーガルピューマの力を受け流し、体を逸らす。
次の瞬間には、リーガルピューマは木に頭から突っ込み、動かなくなっていた。
「今のは……一体……?」
これまでのアイアンであれば、およそリーガルピューマの突進を真正面から反応することは出来なかっただろう。
「もしや、石を入れられたことで、素の肉体の反応速度も上がったというのか……?」
「俺は……人間では無くなったのか……?」
「何にせよ、今は飯を食わねば……。」
アイアンは、リーガルピューマの爪を使い、リーガルピューマを捌いた。
改造されたアイアンの肉体は容易く死体から爪を引き抜いた。
そして、あたりの木を蹴り折って薪を作り、火を付けた。
香辛料も何も付いていないただの生肉だが、空腹は不味い肉食獣の肉すら美味しく感じさせた。
カロリーを補給したアイアンは、優れた感覚をもとに森の中を隠れて進む。
精神を集中させ、周囲の音を聞けば、遠く流れる水の音すらも耳が拾う。
其方の川を目指して進むと、人や馬の歩く音が聞こえた。街道が近いらしい。
「はァ……親父はなんであんな連中と商いなんかするのかねぇ……。」
くたびれた声は若く、商売相手に不満を持っていることがわかる。
また、俺達を実験した連中もまた生物であるのなら、生活には水が必要なハズである。
そこでアイアンは、自身が奴らの拠点の近くまで戻ってきて居ることに気付いた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
突然悲鳴が響く!さっきの商人の物だ!
急いで声の元に近寄ると、3mはある人型のオークもどきのような魔物が荷馬車の前に立ち塞がっている。
アイアンは、あれは奴らが改造した人間だと一目でわかった。
オークもどきは、まず足を潰そうというのか、馬に向けて拳を振り下ろそうとした。その時!
「待て!!」
突然響く声、オークもどきの後ろには、上半身が裸の男が仁王立ちしている。
その男を見ると、オークもどきは身体を即座にその男ーーアイアンへ向け、顔をニヤリと歪ませる。
「ニゲダシタジッケンタイ!キサマハミツケシダイ、ショブンダ!!」
聞くに耐えない大声を発し、恐ろしい俊敏さを持ってオークもどきはアイアンへと近付く。
リーガルピューマの攻撃をものともせず避けたアイアンですら、その疾さは驚異的であった。
振るわれた拳を紙一重で避け、オークもどきの脇腹に蹴りを入れ反転する。
バッシン!!
非常に大きな衝撃音がなる。しかし、オークもどきにダメージが入った様子はない。
オークもどきも向き直り、先程よりも疾く拳が飛んでくる。
アイアンは拳を身体を転がして回避する。
アイアンはこのままでは自分に有効打が無いことを悟る。
(このままでは……!!)
「フン!!アラタナジッケンタイハ、サイコウケッサクニシテハ、ヒンジャクナヨウダナ!」
さらに、アイアンに追撃の拳が迫る!
アイアンはこの死の寸前に、自身の腹部から力が湧き出ていることを感じる。
(何だ!?この、熱は!?)
自身の体の内側から湧き上がるパワーを押さえつけようと、体を縮め、両腕を折り曲げ、全力で力を入れる。
端見には防御姿勢のように見える体勢を取ったアイアンに、容赦なく命をもぎ取らんとする拳が当たる瞬間。
アイアンの体が光に包まれた!
アイアンの身体は、光の中で一瞬黒い虫の様な姿になったかと思うと、再度大きな赤い目が光り、頭部には白と赤のラインが光とともに走り、左の胸の殻に不思議なマークが光とともに刻まれる。
オークもどきは、アイアンの変化の際生じた衝撃によって吹き飛ばされた。
「イッタイナンダ!?!?」
光が収まるとそこには、黒い鎧を纏い、関節部は茶色の生物的な繊維質で覆われている。大きな目は赤く、二本の触覚が伸びている。
その姿はまさに……「BLACK!?」
そう。その姿はまさに仮面ライダーBLACKであった。
仮面ライダーBLACK、悪の秘密結社ゴルゴムと戦った、最後の昭和ライダーである。その続きが、公式チートBLACK RXである。
アイアンは前世で小さな子どもの頃、何故か焼いてあった仮面ライダーBLACKのDVDを暇つぶしに見させられていた。
その後歳を取って改めて見返したこともなく、ただの淡い思い出の中の一つとして埋もれたヒーローでしかなかったはずだった。
故に、自身が転生した異世界で、まさか淡く見覚えのある姿に自分が変化するとは思ってもいなかった。
だが、そのアイアンの困惑の時間を待たず、オークもどきは再度攻撃を仕掛けてきた。
「キョウダンニ、サカラウオロカモノ!ココデシマツスル!」
アイアンはその威嚇の声で、気を取り直すと、遅遅としながら近付く巨腕を弾き、くぐり、オークもどきの脇腹と腹直筋の隙間に拳を叩き込む。
「グオォォッ!」
オークもどきは重いその一撃にくぐもった声を上げる。
そして、アイアンはそのまま空中後ろ回し蹴りをオークもどきの頭部へ叩き込んだ。凄まじい連撃だ!
顔を蹴飛ばされ吹き飛んだオークもどきは、急いで起き上がる。
少し距離の開いた二者は、お互いに構えながら、じりじりと街道上で円をつくるように、次の攻撃の機会を伺う。
「シネェェェ!!」
そして、業を煮やしたオークもどきが、アイアンへ突貫する!
アイアンもまた、後ろ脚を蹴り出し、オークもどきへ急接近!
圧倒的な速度で懐に潜り込んだアイアンは、オークもどきの腹へ勢いそのままに強烈なパンチ!
「グゥッ!」
「これで終わりだ!」
パンチの威力に動きが鈍くなったオークもどきに、アイアンは必殺の構えをとる!
「ライダァァァァ!!パンチッッッッ!!」
両足で地面を蹴り、オークもどきへ真っ直ぐ飛びかかるアイアン!その拳は、眩い光を纏いながら、オークもどきの胸元に沈み込む!!
「ヌワァァァ!!」
吹き飛ぶオークもどき!!アイアンはさらに空中で縦に一回転し、必殺の技を出す!
「ライダァァァァ!!キックッッッッ!!」
「アガァァァァァッッッッ!!」
必殺の二連撃を叩き込まれたオークもどきは、吹っ飛び、街道脇の大きな木に体をぶつけて止まる。
「キサマハ……ニゲツヅケルウンメイニナル!ココデシネナカッタコトヲ、コウカイスルガイイ!!」
オークもどきは捨て台詞を吐くと、盛大な爆発と共に散体した!
「あ……アナタは……。」
すると、馬車の方から声がかけられる。
「!無事だったか!?」
「はい……。助かりました……。あの化け物は……。そして、アナタは一体……?」
「俺は、サンゴッド領の家宰、アイアンだ。」
アイアンの名を聞いて、商人は驚愕の声を上げる。
「アイアン様!?確かアナタは死んだハズでは!?」
「俺は、魔の教団と名乗る奴らに改造され、逃げ出し、なんとか生き残った。」
「!! 魔の教団!!」
「すまない、君は、何か知っているのか?俺を改造し、魔物を作り出す奴らのことを。」
「詳しくは知りませんが……、私の父は彼らに何故か協力しています。私は彼らに物資を届けているのです。」
「踏み込むようですまないが、君は奴らに協力的では無いのか?」
「当然です!彼らはいつだってここに物資を置いていけという指示だけ寄越す。顔の見えない相手に、帳簿も付いていないやり取りをするなんて、商人として有り得ない!」
まさしく憤慨という様相で声を上げる商人。更に怒りは続く。
「それも、あのような化け物を作っているですって!?何故父はそんな奴らの支援をしているんだ!!」
商人は、真っ直ぐな人間のようで、父に対する怒りが増し続ける。
アイアンはその様子を見て、一つ提案した。
「俺も、奴らに体を改造された。何故こんな目に合ったのか知らなければならない。俺の友、ニールも俺を逃がして、奴らに捕まってしまった筈だ。助けなければならない!何故君の父が奴らを支援しているのか、それを共に探らせてくれないか?きっと繋がりから、奴らの狙いが分かるはずだ!」
商人はアイアンの強い決意を秘めた眼差しを見て、息を飲む。そして、その正義の怒りと共に、アイアンの提案に乗った。
「勿論です!!父は立派な人だった!そんな父が何故奴らを支援するのか、私は知らなければならない!!誇り高きアキンド家の次期頭領として!」
若い商人と、黒い姿のアイアンが手をがっちりと握る。
「私はウール・アキンド。アキンド家の次期頭領!」
「俺はアイアン・サンゴッド!サンゴッド家当主、ニールの友!」
「よろしく頼む!アイアン殿!君の力を持って、我が父の狼藉を止めるのに協力してくれ!」
「勿論だ!ウール殿!きっとこれから、あのオークもどきのような魔物人間が襲いかかってくるはずだ!俺が露払いをする!そしてどうか、ニールの救出を手伝って欲しい!」
「当たり前です!」
ウール・アキンドとアイアン・サンゴッド、今、正義に燃える男達が、闇を払うために動き出した!
??? 魔の教団 本部にて
「……。グリードンがやられたか。」
「はい。魔の帝王様。」
「何故、奴は魔石による洗脳を受けなかった?」
「ハッ!分かりかねます……!ニール・サンゴッドとアイアン・サンゴッドに入れた魔石は、およそ二度と現れることない最高のものです。きっと、過剰な適応が、自然な形で彼らに力を与えるという結果を齎したのでしょう!」
「フン!だとすれば、そのようなリスクに気付かず、やすやすとアイアン・サンゴッドの逃亡を許す貴様らは、とんだ無能だな。」
「ハッ!申し訳ありません!!」
「我が配下に、貴様の様な無能はいらん!」
次の刹那、一刀のもとに魔の帝王の側仕えの上半身が切り分けられる。
「な……。ガボッ!」
血を吹き出し、倒れる側仕え。彼もまた改造された魔物人間であり、強靭な体を持っていたハズであった。だが、今その姿は無惨な死体となってしまった。
「我々、魔の教団は、魔王を作り出す。私のような偽物では無い。太古の魔王をだ!」
魔の帝王は宣言する。
「次期魔王を決める儀式を行わねばならない!!太古の魔王様の魔石を取り込んだ者達を争わせ、勝った者に負けた者の魔石を取り込ませる。そうすれば、魔石に宿る魔王様の力と記憶が呼び起こされ、いにしえの、本物の魔帝国をこの世に再建することが出来る!!か弱き人族が世界を支配する現状から、魔族が支配する世界へと変えることができるのだ!!さぁ、魔族達よ、道具を使え、体を使え、疾く魔王候補を捕まえるのだ!!」
「「「「ハッ!!」」」」
こうして、魔の教団の本部、またの名を魔族帝国は、本格的な活動を始めた。
サンゴッド領 キングスムーン
この街は、サンゴッド家の持つ二つの大きな街の、片割れである。サンゴッド領は、政治的中心である街のサンゴッドと、経済的な中心であるキングスムーンの大きな二本柱で主に成り立っている。
アキンド家は、ここキングスムーンで古くから商人をしている一族である。規模はキングスムーンの中では大きくはないが、歴史的な商家であり、キングスムーン内の小さな商いをある程度取り纏める立場である。
ウールとアイアンは、手を結んでから約一週間程かけ、ここキングスムーンへと辿り着いた。
ニールとアイアン達が襲撃されたことは、キングスムーンで既に広まっており、アイアンの帰還は街の人々の明るいニュースとなった。
先代の領主が亡くなり、経済の要所であるキングスムーンが周囲の貴種達の攻撃の的となった時、ニールとアイアンは巧みな戦術や根性を見せ、ノブリスオブリージュに務めている様を、以前町民達は見ていた。
そんな領主達の行方不明は、街の人々に不安をもたらしていた。
「アイアン様!!ご無事でしたか!」
「アイアン様!!」
「アイアン様!!」
街を歩けば、各所から声が飛ぶ。
アイアンは、前世の知識を駆使し、経済政策に非常に精を出していた。そんな折で、商人の街、キングスムーンは、基本的な活動拠点となっていた。
アイアンは平民上がりで、平等に人々に接し、生活を豊かにする為に努めて来た姿を、ニールとアイアンが成人したての時から見ていた町民達は愛していた。
「ありがとう。皆。だが、ニールはまだ俺を襲った奴らに捕まっている!彼を助ける為、今は動かなければならない!今は先を急がせてくれ!」
町民達の歓迎を受けるも、それをいなし、ウールとアイアンは真っ直ぐアキンド家の屋敷へ向かう。
アキンド家の正門に着くと、ウールの姿を確かめたのか、屋敷の使用人が門を開ける。
「ウール様、よくお戻りになられました。」
「ありがとう、父上は在宅か?」
「えぇ。おりますよ。」
「父上と話さなければならないことがある。少し失礼するぞ。」
ウールとアイアンは、ドカドカとアキンド家へ入っていく。
そして、当主の執務室に叩きつけるようなノックをし、返答を待たずに飛び込んだ。
「親父殿!説明していただかなければならない事がある!」
「何だ……騒がしいぞ。ウール。」
執務室のデスクには、顔に厳しい皺を刻んだ壮年の男が、手を組み腰掛けている。
「親父殿!あなたはどんな存在と取引しているのか知っているのか!?私は化け物に襲われた!それを助けてくれたのがアイアン殿だ!あのような……人を魔物に変える連中を、何故親父殿は支援している!?」
ウールの父は、ウールとアイアンに視線を向けると、ゆっくりと間を置いて話す。
「アイアン様……。ウール、知ってしまったか……。お前は私のかわいい娘だ。奴らは人の居る所なら何処でも潜んでいる。私は、いや、アキンド家が現在の立場に至るまでには、多くの困難があった。それは、暴力で解決せねばならないようなことも。その時助力してくれたのが、彼等だ。彼等は我が家の暗部だ。彼等は、我が家を守ってくれている、ひとつの力なのだ。」
「あのようなおぞましい力が、必要だというのですか!?」
「そうだ。富をなし、子を守る為には、力が必要なのだ。人の身では到達出来ぬ力がな。」
そういうと、ウールの父はおもむろに立ち上がる。
「今にわかる。ウールよ。人の弱さをな。アイアン様……私は、彼等の影響力の元にある。アナタを倒し、彼等に引き渡す。そうすれば、私はこの家を守ることが出来る!更なる力を持つことができる!」
ウールの父は、大声を出すと、その姿を変えてゆく。纏っていた高級そうな服がはち切れ、破れ、その隙間から甲殻と発達した筋肉が飛び出す。
「ウールよ!みているがいい!優れた力というものを!」
「そんな……!親父殿!!」
「くっ!?家族の間にこのような不和をもたらした魔の教団め……許せん!!」
「さぁ!死ね!アイアン!我が家の礎となれ!」
頭部を蜘蛛のような姿に変えたウールの父が、デスクを弾き飛ばしながらアイアンへと飛びかかった!
アイアンは体をひねり、両腕を折り曲げ、渾身の力を込める。ギリギリとその拳から音が鳴る。
「変身!!」
掛け声ととに、アイアンの体は光に包まれる!
次の瞬間には、アイアンの姿は仮面ライダーBLACKのものへと変わっていた。
「アイアン!やはり貴様も改造されていたか!力を与えられ、恩義も返さぬとは、恥知らずな男よ!」
「ウールの父よ!あのような人を人とも思わぬ連中に恩義など感じるか!あなたは洗脳されている!」
「知るかァッ!」
蜘蛛人間と化したウールの父は、狭い執務室内で全力でその拳を振るった。
体にその拳を受けたアイアンが、執務室の壁を突き破り飛び出す。
廊下で体勢を整えていると、それを待たずに蜘蛛人間が鋭いチョップを振り下ろす!
アイアンは、そのチョップを両手でなんとか受け止める。
「私が宿したスキュラの力、とくと味わうがいい!!」
蜘蛛人間は、チョップを受け止めがら空きのアイアンのボディへ、すくい上げるようなショートキックを放つ。
アイアンの体は階段の手すりを突き破り、一階の広間へと落下する。
「グゥッ!強い!」
「弱いな!まだこの体に慣れていないと見える!ここで始末させてもらうぞ!」
蜘蛛人間は、パンチやキックを織り交ぜながら、止まらぬ連撃を繰り出す。
アイアンはそれらを弾くも、防戦一方だ。
「こしゃくな!」
すると、蜘蛛人間は口から糸を吐き出し、アイアンの右手を体に縫いつけた!
使える腕を減らされ、アイアンはローリングの回避も使用する程に追い詰められる。
ローリングから立ち上がる瞬間、蜘蛛人間はアイアンの足元へ糸を吐き、その左足を地面と接着した。
「さぁとどめだ!愚か者は死ぬがいい!」
その瞬間、蜘蛛人間の体に火の玉がぶつかり、動きが鈍る。
「アイアン殿!今のうちに!」
ウールが魔法のスクロールを使い、ファイアーボールを打ち出したのだった。父を攻撃した子の顔には、苦渋が浮かんでいる。
「助かる!」
アイアンは、右手と左足に凄まじい力を込め、糸の拘束を振りほどいた。
そのパワーは、甲殻が1.5倍には膨れ上がったことからもわかる。
拘束を解いたアイアンは、蜘蛛人間の顔面へスーパーマンパンチを食らわせる。
「グオッ!」
怯んだ蜘蛛人間に、アイアンは凄まじいコンビネーションをヒットさせる!
右の三日月、左のストレート、右のチョップ、左の後ろ回し蹴りと決まる。
「なんてパワー!バフォメット様が仰った通りか、魔王の器!」
「喰らえぇ!」
連撃を受け、身動きの取れない蜘蛛人間へ、地面を両足で蹴り飛び上がったアイアンの拳が迫る!
「ライダァァァァ!パンチッッッッ!!」
必殺の拳を受けさらに吹き飛ぶ蜘蛛人間。広間に転がり、よたよたと立ち上がろうとする。そこへ、
「ライダァァァァ!!キックッッッッ!!」
必殺のキックが胴に飛び込む!
「くっ!帝国、バンザァァァイ!!」
蜘蛛人間は最期の言葉と共に、爆発、屋敷の床と壁を吹き飛ばし、死滅した。
アキンド邸には、眩しい夕陽が差し始める。
屋敷に出来た穴を見ながら、ウールは涙を零す。
「親父殿……。」
人間態へと戻ったアイアンは、ウールの傍に立ち、その肩に優しく手を置く。
「君の父の命を、俺は奪ってしまった……。」
アイアンの後悔を含んだ声を聴き、ウールはアイアンの顔へ瞳を向ける。
「あなたは……。父と同じく力を得た者。しかし、あなたは父と違い、闇に取り込まれてはいない。私のような悲しみを持つ者が二度と現れぬよう、どうかその力を正しく使って下さい。闇を払う力を……。」
ウールの言葉を聴き、アイアンは力強く、ゆっくりと頷いた。
「俺は……奴らを……許さん。」
二人は、傾いていく影を、ただ眺めていた。
??? 魔の教団 本部
「スキュラがやられました。」
「そうか。奴らの家は長く我々に隷従して来た。魔王候補にいたずらに情報を与える訳にはいかぬ。奴の娘を攫い、始末しろ。」
「ハッ!」
魔の帝王は部下に指令を与えると、おどろおどろしい玉座からゆっくりと周囲を見渡す。
そして忠臣の一人に目を止めた。
「モヨコヤニ、奴の仕事の後詰を任せる。魔王候補を捕らえても構わん。」
「承知いたしました。帝王様。このモヨコヤニ、必ずや魔王候補を捕らえ、儀式を開始する準備を整えさせていただきます。」
モヨコヤニと呼ばれた女は、傅いている状態からすっくと立ち上がると、背後の闇へ解けるように消え去った。
「魔王候補……精々魔王様誕生の為の生贄が、我らに逆らうなど……許せるものか……。」
魔の帝王は、小さくひとりごちた。
空間には、ひんやりとした空気が漂い、足元に満ちていた。