転生したせいか魔物形態がおかしい 作:どぅるどぅるどぅ
アキンド邸 客用私室
「アイアン殿!アイアン殿ー!」
騒がしい呼び声のすぐ後、ドアが品性のかけらも無い連打を受ける。
休んでいたアイアンは身を起こし、与えられた客人用の私室の扉を開ける。
「どうした?ウール殿。何かあったのか?」
笑みを浮かべながら落ち着いて尋ねるアイアンと比して、ウールは未だ焦った様子で返す。
「親父殿の記録から、屋敷の何処かに隠された部屋があるらしい!しかもそこには、親父殿の所有する魔人がいるようなんだ!」
「なにっ!?」
屋敷のどこかに元人間が閉じ込められていると聞けば、優しげに笑っていたアイアンの顔もキツくなる。
「何処にいるんだ、その人は!」
「すまない、分からないんだ……どうやら何処かに居るらしいという事しか、掴めなかった……。」
「ならば、探そう!」
アイアンとウール、そして生き残り、家の暗部と関わりのなかった使用人達は、必死で邸宅の隠された部屋を探す。
そして、隠された部屋が見つかったのは、完全なる偶然からだった。
当主の執務室の至る所をホウキでつつき回していた使用人が居り、アイアンが執務室にその時偶然入ったことによって、強化されたアイアンの聴覚が謎の空間があることを見破った。
「おそらくここだ。ウール殿。」
「なるほど。しかし……ただの壁にしか見えぬ。」
「どうやら、ここから細い階段が伸びているらしい。」
「時間は貴重だ。謎解きの暇は無い。アイアン殿、この壁を突き破ってくれて構わない。」
「了解した!変身!!」
仮面ライダーBLACKへと姿を変えたアイアンは、壁に向かって全力で拳を振るう。
突き破られた穴からは、確かに不穏な空間が広がっていた。
アイアンは手刀を壁に叩き込み、そのまま壁をカッターのようにすぅーっと切り裂いた。
人が通りやすいよう四角く切り取り、集まったその様を見ていた使用人達やウールへアイアンは視線を流す。
「先ずは俺が一人で降りる。安全を確認したら呼ぶぞ。」
「分かった。頼んだぞ。アイアン殿。」
埃の溜まった階段をゆっくりゆっくり、警戒しながら降りるアイアン。狭い空間に、コツコツと足音が響く。
そして、遂に階段の底へ辿り着くと、そこには六畳ほどの空間があった。
そしてその中心には、白い布をかけられた、大型の何かがあった。
警戒しながらアイアンはその物体に近付き、布を掴むと、ばさっと勢いよく引き剥がした。
「これは!!!!」
一方、執務室では、地下から響いてきたアイアンの大きな声に、緊張の糸が張り詰めた。
ウールが額に汗を浮かべながら、階段へと声を投げかける。
「アイアン殿!!何かあったのか!?無事か!?」
その呼びかけの返答は早かった。
「あぁ!何も問題はない!!危ない物はここには無い!」
「それでは、我々も降りて大丈夫か!?」
「あぁ!だが、足元には気を付けてくれ!」
アイアンの返答を受け、ウールはゆっくりと階段を降りる。
そして、降りた先で見たものは、ウールに衝撃を与えた。
それは、アイアンの魔人態のような、大きな赤い目と触覚を持っていた。だが、その形がおかしかった。
とても横幅が狭く、車輪の様なものが二つ付き、表面は生物的な甲殻が覆っている。およそ人とは思えぬモノであった。
「なんと惨い……人がこんな姿になるのか……?」
ウールは、そのモノを見て、深い悲しみを覚えた。
そして、ふとこれを見たアイアンの反応が気になり、アイアンへと注意を向けた。
しかし、アイアンは驚いた様子はなく、相槌でも打つようにうんうんと頷いている。
そのモノに触れながら。
何か話し終えたかのような雰囲気を感じると、アイアンはウールの方へ体を向けた。
「ウール殿、彼は俺と同じように改造を受けたらしい。だが、彼は人ではなく、馬に魔石が入れられたようだ。彼はこの姿となるも、彼自身の叡智を失いはしなかったようだ。賢い子だ。奴らは、彼の扱い方を知らず、置物かなにかのプレゼントとして彼をこの屋敷へ贈ったようだ。」
「これが……馬なのですか……?」
「このような姿だと、馬とは分からんが、人を乗せる存在である事は間違いない。俺はどうやら彼と意思疎通を図れる。懐いてくれた様だ。」
「なつく、ですか……」
「申し訳ない。良ければ、彼を俺に譲ってくれないだろうか。こいつがいれば、俺は何処までだって行ける。そんな気がするんだ。」
「それは……かまいませんが……。」
「ありがとう、ウール殿。」
アイアンは、ウールに人造魔物を譲り受けた。
そして、早速、アイアンはその人造魔物に名付けた。
「バトルホッパー!宜しく頼む!」
アイアンの言葉に返すように、バトルホッパーの赤い目が点滅した。
時は過ぎ、その日の皆が寝静まった夜。屋敷に突然の轟音が響いた。
「なんだ!?」
アイアンは飛び起き、音の出処へ向かう。そこはウールの部屋であった。
「ウール殿!!」
アイアンがウールの名を呼びかけるも、反応が無い。使用人達も少しずつ集まる音が聞こえる。
アイアンは緊急事態と判断し、ウールの部屋の中へと突入すると、部屋の壁は大きく裂かれ、外の景色が広く見える。
「アイアン殿ー!!」
遠くから小さな声で自身を呼ぶ声が聞こえる。
アイアンは目を凝らすと、ウールが大きなコウモリに掴まれ、飛び去って行くのが見えた。
「みんな!ウール殿が攫われた!!」
アイアンの報告に、屋敷全体に動揺が広がる。
「俺はすぐに出る!屋敷を頼むぞ!!」
そう言うとアイアンは、一心不乱に地下へと駆ける。
「変身!!」
地下に向かいながら姿を変えたアイアンは、バトルホッパーに腰掛けると、バトルホッパーは準備万端だとでも言うように、目を光らせた。
「行くぞ!バトルホッパー!奴を追う!」
アクセルレバーをぶん回し、地下から轟音が響く。
そして、地下のスロープを駆け上がると、屋敷の床をぶち抜きながら、バトルホッパーとそれに乗ったアイアンが飛び出す。そのままドアへ向かえば、準備のいい使用人が屋敷の厚い扉と門を開け放ってくれている。
その隙間を猛スピードで風のように通り過ぎていく。
「はぁ、また屋敷に穴が空いてしまいましたな。」
家宰の小言は、その背に置いていかれた。
石畳の上を疾風が駆け抜ける。
泥酔し、家の壁にもたれて眠る冒険者達が、突然強い風を受けてゴロゴロと転がる。
そうして、ウールが連れ去られた方角へと向かうと、城壁の門の前で兵士が集まっている。
アイアンは一度止まると、彼らに話しかける。
「アキンド家のウール殿が連れ去られた!私はアイアンだ!門を開けてくれないだろうか!?」
「我々は、アイアン殿の名を叫ぶ声が聞こえ、何事かあったのかと警戒しておりました!そういうことならお早くお通り下さい!」
守衛はほんのわずかなやり取りで、門を開ける許可を出してくれた。
「ありがとう!恩に着る!」
再び轟音が鳴り響くと、既に門の前にはアイアンの姿は無かった。
後輩の守衛や兵士達が門を開けた兵士に尋ねる。
「今の、どう見てもアイアン様ではありませんでしたよ?門を開けてしまって大丈夫だったんですか?」
「大丈夫だ。先日、アキンド家で騒ぎが起きていただろう。俺は警戒についていたからな。見たんだよ。戦いを終えたあの黒いやつが、アイアン様へと変わるのを。」
「へぇ……。とはいえ、怖いですね……。アイアン様があんな化け物になってるなんて……。」
「化け物だと?あれは鎧だよ。戦う為のな。」
先輩の兵士は、ニヤリとしながら、つい先程までアイアンの背があった場所を見ていた。
「アイアン殿ーー!!」
バトルホッパーは土を巻き上げながら、圧倒的な速度と走破性により、ぐんぐんとコウモリ魔人にアイアンは近付いていく。
「こしゃくな!騒ぐな!小娘!」
「うっ!」
コウモリ魔人は、アイアンの名を叫び、位置情報を提供し続けているウールをさらにきつく掴みあげる。
「やめろー!!」
そのまま追い続けると、アイアンの目前には谷が見えてきた。
先行していたコウモリ魔人は、谷の上空に辿り着くと、おもむろに足に入れた力を緩めた。
「魔の教団に仇なす愚か者ども!谷底に諸共沈むがいいわ!」
そうコウモリ魔人が大きな声を上げると同時に、ウールは体を離され、宙を舞だした。
「ウール殿!!」
アイアンはバトルホッパーを加速させると、その上に立つ。
「ホッパー!お前は落ちないように急ブレーキをしてくれ!」
そう言われ、崖際で急制動をして止まったバトルホッパーから、アイアンは慣性をそのままに谷へと飛び込んで行く。
「ウール殿!!」
「アイアン殿!!」
アイアンは空中でウールの手を掴み、その身を抱き締め、自身の体を下にした。
そしてそのまま、2人は谷底へと落下。
谷にドバァン!と大きなものが水へと落下したような音が響いた。
「ふふふ!奴らを始末した私が教団の更に上位の魔人となることは間違いない!!ははははは!!」
その空には、上機嫌なコウモリ魔人の大きな笑い声が響いていた。
アイアンの背中に強い衝撃が伝わる。
しかし、ここでこの衝撃に気絶すれば、間違いなくウール諸共溺れ死んでしまうだろう。
アイアンは根性で気を持ち、その脚力で水を蹴りあげると、岩窪のような小さな洞窟へとその身を隠した。
その腕に抱かれたウールは、衝撃から気絶しているようだが、呼吸はある。
「ウール殿、ウール殿」
「んっ、ぐっ!いたぃ……」
「しっかりしろウール殿!」
アイアンの声掛けにより、ウールは何とか意識を取り戻した。
が、その身はどこかの骨を折ったのか苦しそうであった。
「アイアン殿……ここは……。」
「谷の脇にあった洞窟だ。ここなら少しなら休めるはずだ……。俺も限界だ。少し休む。一刻ほど経ったら起こしてくれ……。火の準備をしに行く……。」
「分かった……。あんな高さから落ちたんだ。少し休んでくれ。私が攫われたばかりに……すまない……。」
「良いんだ。守ることが、出来たの、なら……。」
そう言うと、アイアンは、岩壁にもたれながら姿を人間のものに戻し、静かに目を閉じた。
月が15度程傾くと、アイアンの目がぱっちりと開いた。
すっくと立ち上がるその姿は、まるで先程までのダメージが残っていないようだった。
「アイアン殿……しっかり休まれたか……?」
だが、濡れたまま、怪我をしていたウールの様子は芳しくない。
アイアンはその姿を見ると、すぐに姿を変えた。
「ウール殿。ここは体を休めるには向いていない。先ずは谷の上に上がろう。私の背をしっかり掴んで居てくれ。」
「あぁ……。何とかしがみつくさ……。」
ウールを背負い、左手をウールの臀部の下に置き、しっかりとその身を支えたアイアンは、右腕、両足の三本を使い、そのパワーで岩壁につま先、足先を突き刺しながら、どんどんと上がっていく。
何とか谷の上に辿り着くと、そこにはバトルホッパーが待っていた。
「待っていてくれたか、ホッパー。」
更に、バトルホッパーの足元には、乾いた木の枝が沢山転がっていた。
「ありがとうホッパー、薪まで用意してくれるとは。俺達の無事を信じてくれていたんだな。」
アイアンは手早く薪を組み上げると、指先にエネルギーを集中させた。
そして光った指先を薪に突っ込むと、みるみるうちに枝が燃え上がった。
「ウール殿、暫し体を温めて欲しい。そしたら、ホッパーで街へ戻ってくれ。俺は奴を追う。またしても俺の友を傷付けた奴らを、許すことは出来ん。ホッパー、彼女を守ってくれ。頼んだぞ。」
アイアンの指示を聞いたホッパーは、覚悟を示すようにその目を点滅させた。
「アイアン殿……。私を守ってくれて、本当にありがとう。そして、どうか無事に戻ってきてくれ。奴を倒して。」
ウールの目を真っ直ぐ見たアイアンは、ゆっくりと頷く。
そして、明鏡止水、全身の強化された感覚器官をフル動員して、コウモリ魔人の痕跡を探る。
「見つけた!」
ばっと一方向へ目を向けた後、アイアンはウールへ向き直る。
「それでは行ってくる!」
次の瞬間、アイアンは土を蹴り、木を蹴り、空気を蹴りつけながら、木々の中へと姿を消して行ってしまった。
「ホッパー、君もありがとう。君がいなければ、私は志半ばで命を落としてしまうところだったよ……。」
残された一人と一匹は、薪を囲み、ひとまずの休息を取り始めた。
「!こっちの方か!」
森林を猛スピードで駆け抜けるアイアン。
段々と強くなるコウモリ魔人の痕跡を辿ると、不気味な洞穴が山に空いているのを見つける。
そこから、コウモリ魔人の気配ががんがんに匂い立っている。
アイアンは躊躇せず、その中に踏み入ると、洞穴の天井からぶら下がるコウモリ魔人がアイアンを出迎えた。
「まさかあの高さから落ちて生きているとは!たが、ここで死ねぃ!魔王候補!」
天井から身を翻し降り立ったコウモリ魔人は、すぐさま地面を蹴りあげ、アイアンに向けてドロップキックを放つ!
「貴様の非道!許せん!」
そのドロップキックを、アイアンは上段回し蹴りで横から弾いた!
ドロップキックの方向をズラされたコウモリ魔人の足は洞穴の岩壁に当たり、それを削り飛ばした。
距離の出来た双方は洞穴の中でお互いに構え、回りながらじわりじわりと隙を探る。
「きぇあ!!」
地面を蹴りあげ、コウモリ魔人が滑空するように距離を詰め、勢いののったパンチを放つ!
両腕をクロスしてガードしたアイアン、しかし、その身は強い衝撃により後方へと吹き飛ばされる。
堪えるように踏ん張った足のラインが、地面に走る。
「しぇあ!!」
更に、距離を詰めるコウモリ魔人。激しいキックやパンチを紙一重で弾き、躱すアイアン。
そして、コウモリ魔人は全力を込めた右ストレートを放つ!
それをスウェーして避けたアイアンは、その放たれた右腕に隠れるよう、左フックを放つ。
「たァッ!」
アイアンの左フックは、コウモリ魔人の頭部にクリーンヒットした。
「くっ!ならばっ!」
よろついたコウモリ魔人は、口を開け、超音波攻撃を放った。
「ぐぁっ!」
突然訪れた脳を犯されるような不快な音の衝撃に、耳を抑えるアイアン。
「さぁ!死ねい!」
片膝を折って苦しむアイアン目がけ、コウモリ魔人が口を開き、その喉元に食らいつこうとする!
「ぐっ!!」
その攻撃を何とか左腕を噛ませ受け止めたアイアン。
「だが、これで、貴様は超音波を放つことは出来んな!」
そんなアイアンの右腕には、既に光が宿っていた。
「ふぁっ!?ふぃふぁった!?(なっ!?しまった!?)」
コウモリ魔人が気付いた時にはもう遅い。
「ライダー!パンチ!!」
恐ろしいエネルギーのパンチが、コウモリ魔人のボディーに突き刺さる。
弾き飛ばされ、よろつくコウモリ魔人。顔を上げた時には、光り輝く足裏が既に目の前に来ていた。
「ライダァァァ!!キィィィック!!!!」
衝突した瞬間、重厚な音を立て、コウモリ魔人が吹き飛ぶ。
「ば、バカなぁぁ!まだ、まだワタシはぁぁぁ!!」
コウモリ魔人の体を、膨大なエネルギーが巡る。
そして次の瞬間、エネルギーに耐えられなかったコウモリ魔人の体内の魔石が膨張し、コウモリ魔人の体を爆発四散させた。
「はぁっ!はぁっ!恐ろしい敵だった……。」
肩で息を吐くアイアン、一つの戦いを終えた戦士は、一人、街の方へとゆっくり歩き出した。
キャッキャッキャッキャッ
ウールの誘拐、殺害未遂を解決し、ウールは体を休める為医院へと入院していた。
そこに、アキンド家の繋がりのある商人等から頂いたフルーツを大量に詰めた籠をもって、アイアンが現れる。
「体調は大丈夫か?」
「えぇ。まだ若いですし、みるみる回復していってますよ。」
「それは良かった!」
「ウール殿への見舞いの品が沢山届いたよ。見てくれ、この山盛りのフルーツを!」
アイアンとウールは、病室でにこやかに話し出す。
「有難いですね!人の繋がりというのは……。」
「こうして、ウール殿が気にかけられていることから、ウール殿のお父上の本来の人柄の良さを感じる……。」
そして、ウールの父親の話になると、少しだけ空気が重くなった。が、ウールはアイアンに向けて真剣な顔で言葉を放つ。
「人の繋がりを守る為、どうか力を貸して下さい。今回のことで、強く思い直しました。やっぱり、アイアン殿は必要な人です。街や世界の為にも、私の為にもね。」
そう言うと、ふっと笑うウール。
つられて、アイアンも笑みを浮かべた。
「あぁ!俺も繋がりを取り戻さなければならない!奴らと戦い、人の繋がりを守ってみせるさ!」
固く拳を握るアイアン。その瞳に、いっそう強い覚悟が灯った!
熱く、危険な戦いは続くぞ!アイアン!