ヤンデレのヒーローになるって感じのデク、 作:んをわるりら
自分でも大人気ないなと思った。
出久の話を聞き、行く宛もない、完全孤立状態であることを確信。
事実、出久は公園のベンチと、水圧の弱い公園の水道のみで一夜を乗り切ったと言っていた。
その上で、自分の家へ招き、この家以外にお前の行くことのできる場所も、寝食を、安全にできる場所もないことと認識させる。
結果、私の家でしかまともな生活ができないことを悟った出久はすんなりと、私の家でお世話になることを選んだ。
元々、出久に選択肢がないことを分かっていての、出久を家に連れ込むという策略。
やっていることが詐欺師となんら変わりない。
本当にヒーローのやっていることなのか、と自分でも疑問に思う。
たかが1人の少年のために、あれやこれやと作戦を立てて、たとえそれが詐欺まがいの行為であっても実行する。
手段を選ばないとはこのことだろう。
だが、それほどまでに、道を外れない真っ当な手段以外を選ばざるを得ないくらいに、目の前の緑髪緑眼の少年が気になってしまう。
初めて見たときに感じたあの感情。
普段の私ならあり得ない程の他人——出久への執着。
出久が、私の見える場所から消えてしまうことに対する、かつてないほどの不安。
誰にも見せたくない、誰にも渡したくないと、まるで玩具を独り占めする子供のような、出久に対する独占欲。
これらの感情の整理がまだついていない。
何故、私は出久へこのような感情を抱いたのか。
自分の心が感じたことだというのに、その理由も分からない。
私のことは私が一番理解しているはずだったのに、その私自身でも分からない、溢れ出す謎の感情に、私の心は不安定にされた。
このままでは、ヒーロー活動に支障をきたす。
ヒーローであり暗殺者であるという、ただでさえ、気の重い、血に塗れた状態だというのに、
その上、心が不安定では立ち行かない。
そう、これはあくまで私のヒーロー活動のため。
決して、出久をここに留めておきたい、出久を私が見える場所に置いておきたい、なんて純情を拗らせに拗らせた理由ではないはず。
なんだか、今思いついた言い訳をツラツラと並べているようだ。
ひとまず。
自分の感情に整理がつくまで。
きっと、今、抱いている感情の正体が分かれば、出久を警察にでも児童相談所にでも突き出せる。
だが、何故だろう。
まだ分かりきったことではないのに、出久を手放すという未来が全く想像できない。
□
出久を連れ込んだ次の日。
私の家に、1人新しい同居人が————思い出してみれば、私の巧妙な手口によって半強制的に———増えて迎えた初めての朝。
プロヒーローともなれば起きるべき時間は、一般人と比べて大分早く、公安直属ヒーローにもなれば言わずもがな、より早くなる。
少なくとも太陽が地平線よりも下にある頃に起きなければならない。
「ん……もう、朝か……」
時計を見れば、時針は時計の円盤の右下を、分針は円盤の真上を指している。
窓の外を見れば、もちろん日が昇っていないため、未だに夜の闇が見える景色全てを真っ黒に染めている。
朝というよりは、夜と言ったほうが正しいだろう。
でも、それをまだ寝ていいという言い逃れにすることはできないため、重い瞼を開けるとともに怠い上半身をゆっくりとベッドから起こす。
キシィと、ベッドが軋む音がした。
毛布を払いのけて立ち上がり、洗面台のほうへ行く。
起きて間もないせいか、脳が覚醒していない。
視界の焦点が合わず、フラフラと、まるで酔っ払いのような足取りで洗面台へ歩みを進めた。
鏡に映ったのは、タンクトップ姿の、半開きの目をした自分と、跳ねに跳ねまくって火山の噴煙のような大噴火を遂げる自分の無駄に長い髪。
だらしないという言葉がピッタリなほどに、だらしない。
近くの棚からヘアゴムをぶん取り、個性の性質上、仕方なく長髪にしている自分の髪を後頭部でまとめる。
顔を洗って、意識を覚醒させ、脳の回転を通常に戻す。
これでよし。
寝ていた体も、脳が起きたことにより、全てスイッチオンの状態になり、今度はしっかりとした足取りでリビングへ向かう。
昨日、新しい同居人を迎え入れたこのリビング。
その同居人——緑谷出久はというと、リビングにある2人掛けのソファに横になって寝息をたてている。
「こんなところで寝てやがんのか……」
起こさないようにそっと近づく。
顔を見れば幸せそうな表情をしており、15歳だとは思えないくらいの童顔も相まって、とても可愛い。
フニッ。
頬を突けば「ん……」という色っぽい声とともに、そのような効果音が聞こえてきた。
胸の奥がキュッと締め付けられる。
「と、こんなことしてる場合じゃねぇな」
あまりに夢中になっては、遅れてしまうため、出久で遊ぶのをほどほどに切り上げる。
掛けてあったヒーローコスチュームに着替えるため、その場で着ていた物を脱ぎ捨て、そのコスチュームに袖を通す。
「ぁ……レディ・ナガン……ッて、うわああぁぁぁッッ!」
突然後ろから驚きの声が聞こえた。
振り返れば、出久が布団で顔の前を覆って、私の姿が見えないようにしている。
何故、私のことが見えないようにしているのかと考えれば、答えは一目瞭然。
今の私は、ヒーローコスチュームを着るために、タンクトップの下に着ていたスポーツブラとパンツ以外の全てを脱いでいるのだ
それはそれは思春期男児にとっては刺激的だろう。
途端、私の中の悪戯心が、私を
顔の口角が自然と上がる。
出久が私の体をそういう目で見ている。
その事実にすっかり気分を良くした私は、まるでとぼけるようにして、胸元全開のまま出久に近づく。
一歩、また一歩と近づくたび、出久から「はわっ」「わわわ…」と言った驚きの声が上がる。
ついにゼロ距離。
下着姿の私と、布団に身を隠す出久の間には、ほとんど距離がない。
私は出久から布団を奪い去る。
力のない彼からはあっさりと布団は奪い取れた。
邪魔をしていた布団がなくなったことで私の姿——自分で言うのもなんだが、豊満に育った胸——が出久から見えるようにして言う。
「顔が真っ赤だ…大丈夫か?」
「だだだだ大丈夫ですッ」
布団がなくなったため、手で顔を覆いながら答える出久。
顔は茹で蛸のように真っ赤に染まり、今にも『プシューッ』と湯気をたててしまいそうである。
「本当か?無理してるんじゃねェか?」
さらにいじめたくなった。
私は顔を覆っていた出久の手を払いのける。細い腕は、私の思っている以上に簡単に払いのけられた。
出久から直接、私の下着姿が見えるようになる。
「ヒャァッ?!」
出久が喉のどこから出たかも分からない変な声を上げる。
突然の出来事、そしてあまりにも刺激的すぎる視界。
それらが出久の思考と視界を埋め尽くし、出久の脳回路を焦がす。
ゾクゾクした。
私が優位にたてている。
私のことで出久の脳内を真っ赤にできている。
私を見てくれている。私しか見ていない。
それらがマグマよりも熱いパトスとなって私の脳内をほと走る。
全身を、毛細血管の先の先まで全力疾走するそれは、私の体に『ビリビリッ』と強い電流を走らせる。
なんという快感だろう。
体が、心が、余りの快感に耐えきれず『ブルッ』と震える。
下腹部が、熱を帯びるようになり、胸が高鳴る。
脳内でアドレナリンが、決壊したダムのように溢れ出す。
「レディ……ナガン……ッ」
すっかり顔を赤く染めた出久が、絞り出すような声と、目の端に水滴光る涙目で、私へと制止を訴える。
ふと冷静になれば、私の息も『ハァッハァッ』と完全に興奮したものになっており、このままでは一線を越えかねない。
「すまんな」
私も満足したためそこで、出久を責め立てるのをやめにする。
こんなこと、初めてだ。
下着姿で近づき、まるで責め立てるように自分の魅力を見せつける。
やっていることが痴女と変わらない。
出久に会ってからというもの、自分の知らない自分というものをよく見つけるようになった。
そして、ますます、自分のことが分からなくなった。
それはきっと、悪いことだろうけど、不思議と悪い気はしない。
顔を真っ赤に染め、心臓に手を当てて落ち着かせようとしている出久を見ながら、私はそう思った。
□
日も出ていない早朝に起きたというのに、僕の目は、かつてない程に冴えていた。
思い当たる理由は一つ。
これ以外にあり得ない。
そう、レディ・ナガンからの、控えめに言ってスタイルが良すぎるその肢体を、出し惜しみすることなく最大限に活かした猛攻だ。
起きて早々に視界に入ったのは、魅力的にもほどがある体。
そして、それを見て照れる僕を、ここぞとばかりにいじめるレディ・ナガン。
結果、寝起きで半覚醒だった僕の頭は、急激に覚醒・フル回転。
どのような目覚まし時計を活用しても成し得ないほどの目覚めを体験してしまったのだ。
「ううぅ………」
頭の中で、振り払おうにも振り払えないあの魅力に満ちた肢体。
写真で撮って保存したかのようにくっきりと記憶に刻まれたそれによって、心臓の鼓動がまた早くなる。
本当に、彼女は目にも心臓にも悪い。
胸に手を当てて、また深呼吸を繰り返す。
一回吸って、一回吐く。また一回吸って、一回吐く。
こびりついた記憶を、引き剥がすようにして、何度も何度も繰り返す。
ようやく、身も心も静まった頃。
「そろそろ、私は行く」
僕の心を唆した張本人、レディ・ナガンが声をかけてきた。
「……さ、さっきの奇行……何だったんです…?」
先ほどの、彼女の猛攻について言及する。
「私の下着姿ごときで顔を染めるお前が面白かった。だから、いじめたくなった。それだけさ」
ニヤニヤしながら、いけしゃあしゃあと述べるレディ・ナガン。
なんてサディスティックな理由だろう。
彼女は僕の反応を楽しむために、わざわざその自他共に認める肢体の魅力を全面に引き出したのだ。
ありがた迷惑とはこのことか。
会って1日であっても、頭脳明晰な彼女なら僕が奥手クソナードであることを容易に理解できるだろう。
それだというのに。
なんだ朝のナード殺しは……。
女性との経験が、母親以外0である身としてはとても刺激が強すぎる。
このままでは身が持たない。
頼むから、世間の平穏・平和だけでなく、ぼくの日常の平穏・平和も守ってほしい。
そうだ、一度真っ向から言ってみよう。
あなたの体は刺激が強すぎます。
どうかやめてください、と。
そうすればきっと止めてくれるはず。
やるなら今しかない。
「レディ・ナガン、お話が——
————淡い期待は、ライフルの弾のごとき速さで消え去っていった。
僕は、過去の、胸の底に閉まっておきたかった思い出もとい苦難を振り返る。
レディ・ナガンへの心の底からの切実な願いを言い届けた結果、彼女の僕への猛アタックはパタリと止む————ことはなく、続いた。
むしろ、悪化した。
『レディ・ナガン、お話があります』
『なんだ?』
『もう……その……僕を揶揄うのは、2度としないでいただけますか……?』
『どうして?』
『あなたは…僕にとって、というか男性全員にとって……魅力的というか、刺激が強すぎるというか……とにかく、危ないんです…』
『ふ〜ん、そうか……』
僕の懇願に対し、彼女は含みのある言い方をして普通に出勤した。
そして、普通に帰ってきた。
ここまでは、普通だ。
このまま、普通にレディ・ナガン宅での2日目を終えてを過ごして、日の出を迎えるはずだった。
しかし、実際はそうなることなどなく、心穏やかに過ごしたい僕に、またピンチが訪れることとなった。
時は僕が来て次の日の夜。
『帰った』
気怠げな声と共に、レディ・ナガンが玄関から帰ってくる。
ヒーロー活動とは、やはり激務なようで、疲労困憊といった様子だった。
『おかえりなさい』
暇だったこともあって掃除をしていた手を止めて、そんな彼女を迎える。
帰宅したレディ・ナガンは、コスチュームから部屋着に着替えるために、まっすぐ自室へ向かった。
そして、着替えて出てきた。
そこまでは良かった。
ただ、彼女の服装が良くなかった。
豊満な胸を支える黒いスポーツブラに、丈の短い黒い短パン。
男どころか老若男女全員もれなく凝視してしまいそうな出で立ちだ。
布の面積よりも肌の面積のほうが圧倒的に多い服装。
今から海に行く、と言われても違和感がないくらいには、肌の露出が激しい。
当然、それを見た僕は
『なななな、なんて格好をしてるんですかッレディ・ナガンッ!!』
これまでにないほど動揺し、未だかつてないほど慌てふためいた。
顔は『ボンッ』と一瞬にして赤に染まり、心臓の鼓動は瞬く間に速く、そして大きくなった。
『あ?普通の部屋着だろ?』
僕を見ながら、口を三日月状に歪ませて反論してくるレディ・ナガン。
絶対にわざとブラに短パンといった破廉恥な格好をしている。
証拠に、昨日の夜は普通の服を着て寝ていた。
本当に心臓に悪い。
完全にライン越え。僕以外の異性であったら何をされてもおかしくはないし、文句も言えない。
本当にこの人は………。
ちなみに何故、そのような格好をした、と聞けば、『自分の気持ちを知るため』の一点張り。
本当にこの人は………。
しかも、これだけに終わらない。
僕の悩みの種は、彼女の私生活にもあるのだ。
まず、風呂に入らない。
帰って寝る前に必ず入浴することは、日本国民であれば誰もがやっていること。
だというのに、彼女はシャワーすら浴びない。
それでいて、清潔感を維持できているのだから本当に不思議だ。美人だから、というご都合主義が効きすぎているのではないだろうか。
さらに、自分の脱いだものをそのままにすることがある。
たまにブラジャーも紛れているため、僕の心臓の平穏が保たれることが少なくなってきている。
個性黎明期の社会並みに混沌としているレディ・ナガンの私生活。
ズボラの三文字は彼女のために作られたのではないだろうか。
波瀾万丈。
まさにそのような言葉を言うに相応しい、レディ・ナガンとの生活。
その生活も、あの朝からこの日まで数えて1ヶ月ほど経った。
そう、それは曇天の日。
僕と彼女の関係が大きく、転換した。
誤字報告等あれば、遠慮なく、容赦なく教えてください。