ヤンデレのヒーローになるって感じのデク、   作:んをわるりら

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投稿遅くなってすんません。
追加:5/15 加筆修正しました。


コワレモノ ツツミカイナ

まるで、壁に挟まれた細い通路のように。

 

暗い、温い、気味の悪い、まさに最悪の2文字が似合う路地裏は、先まで続いている。

光1つ入らないここは、閉塞的な雰囲気も相まって、さながら監獄のよう。

一歩、一歩と進むたびに、この先にあるものへの不安と雨の湿気にも勝る不快感が、脳と体に蓄積していく。

 

また、その路地裏の壁から床に至るまでを彩るのは、飛び散った人間の血液と思われる、赤黒い液体の数々。

 

初めの遺体を見てからというもの、いたるところに、まるでラクガキのようにして、飛び散った血液による彩色がなされている。

 

壁に付着する血液は、赤いのも相まって、さながら薔薇の花のようだ。

 

……これが本当に、茨に咲く薔薇の花だったらどれほどよかっただろう。

 

でも、鼻を刺すのは、薔薇のような花の良い香りではなく、人間の血から放たれる鉄の匂い。

雨によって爆発的に増加した湿気のせいで、その匂いは、路地裏全体に充満し、僕に蓄積する不快感を加速させる。

 

よって、壁の赤色が薔薇の花ではないことは、否が応でも分からされた。

 

「……まただ」

 

先に見えた不気味な影に、足を止める。

また、路地裏の暗闇の中に、一つの動かぬ人影を見つけた。

 

呼吸どころかピクリとも動かない。

だいたい、その人影の正体は想像がつくのだが、それでもその予想が見事に的中しないことを信じて、そっと近づく。

 

しかし、予想は的中。

案の定というべきか、その人影の正体はやはり、人だったもの————遺体だった。

 

最初の亡き骸と違うのは、壁を背にして支えられていることで、座りながら息絶えているように見えることだろう。

 

壁には、その遺体の後頭部を中心に真っ赤な血でできた、まるで赤い花のような血痕が残っていた。

 

頬の下部分が刺激され、妙に甘い液体が口の中の頬の内側から分泌される。

やがて、それは吐き気へと変わり、今までに食べて胃の中に入ったものが、食道へと逆流してくる感覚に晒された。

 

徐々に大きくなってゆく吐き気。

 

あまりの吐き気に、頭を垂れて吐きそうになる体を、持っていた傘で支えてなんとか起き上がらせる。

 

気持ち悪さに涙目になりながらも口を押さえて、どうすることもできない催す吐き気に必死で耐える。

 

「ハァッ…ハァッ…ハァッ…」

 

喉まで来た吐出物をすんでのところで飲み込む。

吐出物は再度、上がってくることはなく、通ってきた食道を逆戻りして胃に帰っていった。

 

それでも落ち着きを取り戻さない体を落ち着かせるため、何度か深呼吸する。

 

ドクンドクンと早くなった鼓動を抑えるように、何度も何度も、毛細血管の隅の隅まで血液を届かせるイメージで、血の匂い充満する空気を吸って吐く。

 

正常な速さへと緩やかに戻ってゆく心音。

やっと、心臓も落ち着きを取り戻した頃。

 

改めて、目の前の遺体を見る。

 

血痕に彩られた壁を背にして、顔を俯けながら、足を体育座りとも胡座をかいているともえない状態で座っている。

 

体には、幾つもの撃たれた跡のようなもの。

着ている服に、その跡が、赤い斑点模様となって浮かび上がり、その銃による傷の悲惨さを物語っている。

 

傷の数から察するに、今まで見てきた床や壁の血痕は、この遺体が生きていた頃に残したものだろう。

 

一体どのようなことをしたらあそこまで血痕が残るのか。

……分からない。

 

顔の部分へそっと手を伸ばす。

感じた温もりは、最初の遺体で感じたものよりも温かかった。

 

察するに、初めの遺体よりも後に殺されたのだろう。

 

目元まで伸びている前髪をあげれば、そこにあるのは、最初の遺体と似たような表情の顔。

絶望の一色に染まり、目は見開いたまま、口はあんぐりと開いたままに息絶えている。

 

その表情の恐ろしさに、こちらにまでこの遺体の亡くなった時の状況が伝わってくる。

 

そして、額には、やはり撃たれてできたであろう風穴。

額のど真ん中に、寸分の狂いもなく撃ち込まれている。蒼白になった額の真ん中に赤い傷。さながら、日本国旗のようだ。

 

「うぅ……」

 

また、胃から食道を介して何かが込み上げてくるような吐き気に襲われる。

 

最初の亡き骸では、人が死んだという実感がきっと無かった。

でも、2度も同じモノを見せられると、流石に実感が湧いてくる。

 

片方の手で口を塞ぎながら、遺体の額へ伸ばしていた手をゆっくりと話す。

 

あげていた遺体の髪の毛が、重力に従ってパサリと元の位置へと垂れ下がる。

 

「あ…」

 

垂れ下がった遺体の髪と共に、ひらりと、何本かの毛のようなものの束が落ちてくる。

 

手にとってみれば、それは、紫と薄い紫の混じった、この超人社会でも珍しい2色の毛が入り混じる、髪の束だった。

 

「……………」

 

時が止まったように身体が硬直する。

感じたのはとてつもない既視感。

 

その特徴的な2色の色は、僕が何度も見てきた人の髪の色と瓜二つだった。

 

さらさらとした髪質は、ある人の、 後ろをついて行ったときに見た、歩くたびに跳ねる長い髪と似通ってならなかった。

 

暫くの間、瞬きをすることもなく、目が乾いても気付かないほどに、その紫と薄い紫でできた束を凝視する。

 

最初の遺体を見たときよりも、鮮明に、レディ・ナガンの姿が浮かぶ。

 

もはや、彼女を疑わずにはいられなかった。

 

でも、もしかしたら、違うんじゃないか、さっきの遺体も、そして目の前の遺体も別の人がやったんじゃないか、そう思った。

 

しかし、手中にある髪の毛の束を見て、心の中で、もう確信してしまっている自分がいることを悟る。

 

確信しておきながら、それを否定するという、矛盾した心情。

心の中がぐちゃぐちゃだ。

 

覚悟しよう。

 

それでも信じたい。

 

彼女は、人を殺して、なんの後悔もなしに生きていけるような人ではないから。

この1ヶ月、同じ屋根の下で過ごした僕が言うのだから間違いない。

 

と、そのとき————

 

 

 

 

『パァンッッ』

 

 

 

————僕を除いて無人のはずの路地裏に、銃刀法で取り締まられた日本では、まず聴かないであろう銃声が響き渡る。

 

突然、狭い路地裏を木霊する銃声。

 

でも、僕はその銃声の正体も、その銃声の発声源にいる人も誰か分かっていた。確信していた。

 

ならば、僕は行くしかない。

銃声の鳴る場所で待っている人のために。

 

遺体の前から立ち上がり、傍に置いていた傘を片手に握りしめ、その銃声の発声源へと駆ける。

 

一度迷えば2度と出ることは叶わないような、大迷宮のように入り組んだ路地裏。

 

その大迷宮こと、路地裏を迷うことなく、右へ左へ走ってゆく。

 

息があがる。

 

口の中で血の味がしだす。

 

鼓動が早くなる。

 

体中から湧き出る汗の量は、全力疾走と焦燥感が重なって、いつもより多い。

それでもお構いなしに全力疾走で、まるでかのNo. 1ヒーローが事件現場へすぐに駆けつけるようにして走る。

 

何回か角を曲がった頃。

 

先いたのは、紫と薄紫のポニーテールにノースリーブの上着、カーゴパンツを履いた、何度も見たことのあるコスチューム。

でも、せっかくのコスチュームも、元の色が赤と言われても違和感ないほどに、血に塗れている。

 

もう、目の前のヒーローが誰かなんて、見る前から分かってる。

だからこそ、声高らかに、息が上がっているけど、それでも、そのコスチュームを着たヒーローの名を呼ぶ。

 

「ナガンッ!!」

 

「?!出久ッ、なんでここにッ?!……」

 

路地裏に僕の声が木霊した。

 

 

「お前…なんでこんな所にいるんだよ…ッ」

 

レディ・ナガンが、信じられない、といった様子で僕を見つめながら、秘密が見つかった子供のように、弱く震える声で言う。

 

目は見開き、体は硬直している。

冷静さを欠いているのか、ここから見ても分かるほどに呼吸が荒くなっている。

 

声色から、僕にこの現場を見られたくなかったことは容易に想像がつく。

 

誰だってそうだ。

自分の持つ秘密を見られて、悪い気を感じない人なんているはずがない。

それが、殺人ともなれば、なおさらだ。

 

「これが……公安の仕事…ですか」

 

走ったことで早くなった鼓動をゆっくりと落ち着かせながら、言葉を一つ一つ紡ぎ、レディ・ナガンへ問う。

 

一番、聞いてほしくない質問。

彼女にとって触れてほしくない内容であることは分かっていた。

 

目の前で、僕の質問を聞いた途端に罰の悪そうな顔になったレディ・ナガンが何よりの証拠だ。

 

「…そうさ……」

 

声帯も声も震わして、レディ・ナガンが搾り出すような声で話し始める。

 

「……社会のために…自分の意思なんてお構いなしに……何人も殺した……」

 

泣き出しそうな声だった。

 

でも、僕には彼女を慰めることなんできない。できるはずがない。

 

だって彼女の気持ち全てを分かってあげることなんてできないから。

 

「お前だけには…見られたくなかった……こんな私の…こんな姿……」

 

いつもの彼女からは想像できないような、小さくか細い声で、俯きながらにそう呟いた。

 

人を殺した後悔と、さらに僕に見られたという衝撃で、彼女の我慢して溜めていた何かが堰を切ったように流れ出したのだろう。

 

その流れ出したものが、後悔か、罪悪感か、どのようなものかなんて、齢20にも満たない、人生経験の浅い僕なんかには想像がつかない。

 

「許して…許してくれ……」

 

懺悔の言葉と一緒に、彼女の頬には涙が垂れていた。

 

嗚咽と共に啜り泣く声のみが場を支配する。

 

「あ゛……あ゛ぁ゛…」

 

突如、レディ・ナガンの声とは似ても似つかない、野太い声が聞こえる。

 

彼女の後ろを見れば、血まみれの男がゆっくりと、まるでゾンビのように起き上がっていた。

 

まだ死んでいないのは、レディ・ナガンが殺し損ねたのか、はたまたその男の個性なのか。

 

起き上がった男は、懐に手を入れている。

 

———ヤバいッッ

 

その懐から何が出てくるかなんて、火を見るより明らか。

 

心がぐちゃぐちゃになったレディ・ナガンは、男の存在に気がついていない。

 

今、彼女を助けられるのは、男の存在を認知している僕だけ。

ならば、助ける他選択肢はないだろう。

 

そう思ったときには、地を蹴って駆け、人すらも刺せてしまいそうなほどに細い、傘の鉄製の石突を、男の鳩尾へ一直線に構えていた。

 

公安の命令であれ、人を殺めてしまったレディ・ナガン。

 

彼女も、個性社会の被害者なのだ。

 

『ライフル』という、誰もが恋焦がれる強個性。

その個性を、本人の意思に関係なく持ってしまった。

故に、公安に利用され、自分すらも勘定に入れなくなってしまった。

 

『無個性』に生まれて差別された僕。

 

『強個性』に生まれて利用された彼女。

 

違うようで、個性という超人パワーによって狂わされた同じ被害者なんだ。

 

でも、僕がレディ・ナガンを、慰めたって、哀れんだって、同情したって。

きっと彼女は、笑わない。

 

ならばどうするか。

 

同じ立場に立ってあげるしかない。

 

僕も、人を助けるために、人の命を奪って。

 

 

出久に見られた。

 

一番見られたくなかった私の、血に塗れた部分。

 

それを有象無象の一般市民でも、知人でもなく、よりによって、出久に見られてしまった。

 

頭が真っ白になる。

声がうまく出せなくなる。

呼吸が激しく乱れる。

 

————プツン

 

頭の中で、何かが途切れる音が聞こえた。

 

それを皮切りに、溢れ出す涙。

 

涙なんてとうの昔に枯れたと思っていたのに。

もう泣くことなんてできないと思っていたのに。

 

「許して……許してくれ……」

 

惨めにも懺悔の言葉を吐きながら、嗚咽し、啜り泣く。

 

出久はどんな顔をしているのだろうか。

幻滅したか。それとも呆れたか。

 

見たくても怖くて見れない。

体が、涙で前が見えないことを言いわけにして、見ようとしない。

 

俯いて、ただただ、今の天気のように、目から水を垂らすことしかできない。

 

何も言わない出久の前で、小さく泣いた。

 

「————ッ?!」

 

突然、目の前にいた出久が駆け出し、私の隣を通り過ぎる。

 

一瞬しか見えなかったが、手に持っていたのは、私の傘。

 

一体何故、急に走り出したのか。

 

不思議に思って、出久の通り過ぎた先を見れば、そこにあったのは、私が予想だにもしなかった光景。

 

私の傘を持った出久が、私が殺し損ねたであろう(ヴィラン)の鳩尾を突き刺しているのだ。

 

「ガハッ………」

 

血液が逆流し、口から血を吹き出す(ヴィラン)

 

鳩尾から溢れ出る血液が、汚れ一つなかった、出久の顔を、服を、全てを赤一色に染めてゆく。

 

(ヴィラン)は暴れる体力がもう無いのか、鳩尾に刺さる傘を引っこ抜くことも、出久を殴ることもせずに、なすがままになっている。

 

その状態で暫く経った頃。

 

鳩尾から溢れる血液の勢いもなくなり、ついに男は、その場にひれ伏した。

 

あまりに突然の出来事。

 

私はただ、黙って見ていることしかできなかった。

 

「…ナガン」

 

出久がふいに私に声をかける。

 

「僕も……人を守るために…人を殺しました…これで、あなたと同じですね…」

 

(ヴィラン)のほうを見ていた出久がこちらへ振り返りながら言った。

 

「!……」

 

なんて甘美な言葉だろう。

 

今まで、慰めてくる奴もいた。憐れむ奴も、同情する奴も、挙げ句の果てにはご機嫌を取って擦り寄ろうとしてくる奴もいた。

 

正直、不愉快だった。

 

でも、目の前の少年はどうだろう。

 

初めて、同じ立場に立ってくれた。

 

私のことを理解してくれた。

 

嬉しかった。

終わりのないこの仕事に、一つの光が差したようなそんな気がした。

 

気がついたら、私は出久の元へ駆けていた。

 

両手を広げ、私よりも一回り小さい出久を抱きしめる。

 

私よりも10近く年下。

それだというのに、ここまで気を張って。

 

抱きしめた出久の体は、まるで小動物のように、小さく震えていた。

 

当たり前だ。

初めて人の命を奪ったのだ。

 

私を(ヴィラン)から守るために、ここまで体を張ってくれたと思うと、今度は、それがただただ嬉しくて、涙が出そうだった。

 

だからこそ、

 

「ありがとうッ……ありがとうッ…」

 

何度も何度も感謝の言葉を重ねる。

 

誰のともわからない、わたしの服についた鮮血と出久の服に付いた鮮血が、服越しに混じり合う。

 

あのとき、出久を手放したくなかったのは。

 

あのとき、出久を無理にでも家に連れて行ったのは。

 

出久がこうしてくれることを、待っていたからかもしれない。

 




レディ・ナガンは救われましたがヤンデレは救われてないです。
やっと、次回からいいのがヤンデレ書けそう♫
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