ヤンデレのヒーローになるって感じのデク、 作:んをわるりら
体全体に感じる圧迫感が、僕の精神を目覚めさせる。
脳裏に色濃く刻まれたハプニングの銭湯から帰り、湯冷めと共に来る睡魔に誘われベッドに潜った昨夜。
よほど疲れていたのか、夢の一つも見ない無限ノンレム睡眠状態で眠り、寝てから起きるまでが一瞬だったような感覚だ。
そして起きてみれば、体は圧迫感に苛まれ、両手両足を動かそうにも、少ししか動かない金縛りのような状態。
横になったまま、動けないのだ。
脳は起きていて体は寝ているのか。
はたまた、誰かに拘束されているのか。
できれば前者であるほうが、身の安全的にもありがたいけど、実際に確認しないことには何も始まらない。
だから、今の今まで一度も開くことのなかった瞼をゆっくりと動かし、目を開ける。
光を帯びてゆく視界。
目を閉じて光の一つも入らない状態だったため、入ってくる周りの光に目が慣れず、思わず顔を顰める。
でも、すぐに慣れたので、改めて目と、唯一自由のきく首を駆使して状況を確認する。
目に入ったのは、2つの丸い肌色のボールと、それらを覆うタンクトップ。
2つ丸い肌色のボールの横からは腕が伸びていて、ギュッと、その2つのボールの形が変形するくらいに僕の体を抱き寄せている。
2つのボールは僕の首らへんに押し付けられていた。
なんとか抜け出せないかと体を動かす。
体を捻ったり、捩ったりして、抱き寄せる腕から逃れようとする。
「ん……んん……」
しかし、僕が動くたびに、色っぽい女性の声が聞こえてくる。
声の聞こえた頭の上のほうへ首を向ければ、そこにあるのは、よく見知った顔。
2色の紫髪に、美人と言っても過言じゃない美貌。
寝ているのか、目を閉じて、気持ちよさそうな顔をしたまま、『スースー』と寝息をたてている。
と、この時。
寝ていた頭が、体同様、やっと起きたのか、思考が加速して、考えられるようになっていく。
正常に動き出した思考回路が、目を開けてから今まで見た景色の全てを理解していく。
2つの肌色のボール。
2色の紫髪を持つ美貌。
その全てを理解していく。
しばらく、体も動かさずにフリーズした後。
「————ッ!!!」
声にすらならない悲鳴をあげた。
正常な脳で理解した結果。
首のあたりに押しつけられる、2色の肌色のボールが女性の胸部、しかもかなり豊満なものだということが分かった。
2色の紫髪を持つ美貌がレディ・ナガンであることも分かった。
つまり、僕の体は、レディ・ナガンの豊満な胸部ごと抱きつかれた状態にある、ということだ。
結果、僕の顔は相も変わらず茹で蛸のように真っ赤に染まり、心はいつも通り羞恥心でいっぱいいっになった。
なななななんでここにいるのッ?!?!
心の中で、分かりやすいくらいに焦りテンパった。
レディ・ナガンと同居するにあたって、新しく調達したベッド。
1ヶ月前から使っているけど、その時から、そして今現在もずっと1人で寝ていた。
もちろん昨日も1人で眠った、はずだった。
でも、目が覚めてみれば、目の前にいるのは別のベッドに寝ているはずの同居人。
幸せそうな顔で寝息をたて、ハリケーンのように慌ただしくなった僕の心の様子なんて知る由もない。
僕を抱き枕か何かだと勘違いしているのか、自分の持つたわわに実った胸部を惜しみなく押しつけてくる。
昨日の銭湯と同等のインパクトを持つハプニング。
できれば即刻この場から起きて逃げ出したかったが、その逃走をレディ・ナガンの強靭な腕から成る腕力が阻害し、全く動けない。
試しに動いてみても————
「ん……んん……」
————さっきみたいな色っぽい声が漏れると共に、僕を抱きしめる力が強くなるばかり。
いったいどうすればいいのか。
思案して、結局、ヒーロー稼業で疲れているレディ・ナガンには申し訳ないが、声をかけて起こすことを試みる。
「レディ・ナガンッ、起きてくださぁいッ」
出し慣れていない大声を、声帯を最大限に震わせて出してレディ・ナガンに呼びかける。
部屋に木霊する僕の声。
常人であれば、起きずとも何かしらアクションを取るのが普通だが、目の前の同居人はうんともすんとも言わない。
また、呼びかける。
でも、やっぱり何もアクションがない。
まるで、呼びかけても応じない人形のようだ。この場合、抱き締められてるのは僕だから、僕が人形になるのだが。
相当疲れているのだろうか。
何回も自分の右腕の銃声を間近で聞くうちに、耳の感覚がおかしくなったのだろうか。
どちらにしろ、依然目を開けない彼女をどうにかしなければ、僕は色々と詰む。
声量で押し通す手段はダメだ。
もっと他の方法でレディ・ナガンを起こさなければ。
頭の中で考える。
体も動けない。
首しか動かせない。
そのような状況下でレディ・ナガンという胆力の塊みたいな人を起こす方法。
考えて考えて。
やがて、一つの方法を導き出す。
昨日教えてもらった彼女の本名。
それを使えば、もしかしたら起きるかもしれないという賭け。
散々僕が声を張り上げて起きなかったのに、これで起きたら、僕は呆れるしかない。
わざわざ、自分の名前を言って欲しいがために、寝たふりをして僕を束縛していたのか、と。
揶揄い癖のある彼女のことだ。
絶対、あり得る。
本名を呼ばせるために寝たふりをすることなんて。
なるべく普通の声量になるようにして、レディ・ナガン、いや、
「火伊那さん、起きてくださ——
「——ん……もう、朝か」
……言い終わる前に起きた。
「……お、起きてましたよね?あと、離してください……」
レディ・ナガンに抱きつかれたまま聞く。
「さぁ?なんのことだか」
腕の力を一切緩めることなく、むしろさらに力を込めて、レディ・ナガンが答える。
絶対に離さない、という動かぬ意志を感じた。
「もう、朝なんですよ?いい加減起きないと遅刻しちゃいますよ、レディ・ナガン」
「……火伊那」
「へ?」
「今の私はレディ・ナガンじゃない。ただの筒美火伊那だ」
昨日まで、家でレディ・ナガンって言っても何も言わなかったのにっ!!
言ってしまえば、スナイパーのごとき眼光で射抜かれそうなので、食道を通って口に出かけた言葉をギリギリで飲み込む。
「か、火伊那…さん、離してください」
「まぁ、仕方ないな」
不満と満足を掛け合わせたような、腑に落ちていない様子でありながらも、腕の力を緩め、ようやく僕を解放するレディ・ナg……火伊那。
やっと得られた、数十分ぶりの自由に感動しながら、僕は起き上がった。
「人のベッドで寝るくらいなら、抱かれるのも覚悟しとくんだな」
上半身を起こした、髪がボサボサな状態の火伊那が言う。
「え、ここ、僕の部屋……」
言葉に詰まる。
火伊那の言っている意味が分からず、ここが自分の部屋だと言おうとした瞬間、周りの景色の違和感に気がついたのだ。
ハンガーに掛けてあるコスチューム。
ベッドの頭付近に置いてある可愛いぬいぐるみ。
そして、散らかった女物の服の数々。
明らかに自分の寝ていた部屋ではない。
確実に火伊那の部屋だ。
でも、何故……?
昨日はちゃんと自分のベッドに寝たはず。
ベッドのある部屋を間違うはずもないし、枕も自分のものだった。
何より、仮に火伊那の部屋に入ったとしても、周りのコスチュームやら散乱する衣服やらで自分の部屋ではないことが一目で分かるはず。
一体どういうことだ……?
分からずに辺りをキョロキョロしていると、火伊那が『ハァ』とため息を漏らした。
「まだ、分からないのか。………まぁ、昨日寝てたしな」
呆れた様子で言う。
僕としては、今の状況が分からないため、彼女が何故呆れているのか、点で検討がつかない。
そうして、ただただ頭の上に疑問符を浮かべていると、不意に火伊那が、傍に置いてあった四角い直方体の物を投げてきた。
「わッ?!」
こっちへ飛んできたそれを、おぼつかない手つきでキャッチする。
何これ……。
手に持った直方体を改めて見つめた。
直方体は厚紙でできた箱だった。
ピンク色のパッケージに、表面にプリントされているのは『0.01』という数字。
開封済みで、中には銀色の紙のようなものが幾つか入っている。そして、その内、4、5個ほどは開けられており、中身がカラになっていた。
中身まで開封済みの『0.01』と書かれた箱。
手に持ったその箱をじっと見つめる。
『人のベッドで寝るくらいなら、抱かれるのも覚悟しとくんだな』
頭の中で火伊那の言った言葉が蘇る。
————抱かれることも覚悟しとくんだな。
「————ッッッ?!?!?!?!」
抱かれるってそういうッッ?!?!
僕の頭は、今のこの状況において、僕がナニをして、僕がナニをされたのかを理解できない程に鈍感ではなかった。
「カカカカカ火伊那さんッッッ?!?!」
首が取れるのではないかというほどに、首を火伊那のいる方向べ『グルンッ』と向ける。
そんな僕の反応に、目線の先の同居人は満足したのかニヤニヤしていた。
顔は赤くなっていた。
口は、悪戯に成功した子供のような、それでいて大人な雰囲気の笑みを浮かべていた。
気分が高揚しているのか、吐息が妙に色気を発していた。
そんな彼女がらゆっくりと、静止しているこちらへと、まるで獲物を捕まえる肉食獣のようにして近づいて来る。
彼女から言われる言葉は分かっていたため逃げたかったが、僕の体は言うことを聞かず、全く動かない。動けない。
やがて、僕の顔と火伊那の顔がゼロ距離になり、彼女の顔が僕の頬を横切り、耳元へと近づく。
耳に直接息が当たる。
あまりにもドキドキと胸が高鳴りすぎて、頭がクラクラしてくる。
口の中にある唾液が、取り乱したせいでうまく飲み込めない。
そんな状況の中、僕の耳元で、火伊那はゆっくりと囁くように、吐息と一緒に声を発した。
「あぁ、美味しかった♡」
体に電撃が走る。
食べられた。
火伊那という肉食獣のいる檻、もとい彼女の自室へと連れ込まれ、そして、僕は餌として食べられた。
結果、あまりにも突然の出来事に、対処できなくなった僕の脳は、強制シャットダウン。
ブラックアウトする直前に見えた火伊那の顔は、まさに女の、恋する乙女の顔だった。
この物語書くためだけに、恋人もいないのにGoogleで『コ○ドーム パッケージ』って検索した私の気持ちやいかに。