ヤンデレのヒーローになるって感じのデク、   作:んをわるりら

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ほんますんません。


クリーニング ウォッチング

火伊那に脳を焼かれてから気絶して。

時計の長針と単身が12のところで重なる寸前に目が覚めた。

朝起きたときは、まだ短針が時計の右下を指している日の出前の時間だったため、単純に考えて6時間は寝ていることになる。

 

夜寝ていた時間を含めれば、少なくとも半日近くは寝ているだろう。

 

「………はぁ」

 

ため息をつく。

体に残るのは、ほんの少しの倦怠感。

その倦怠感のせいで怠く、何故かベッドから起き上がるのも面倒くさく感じてしまう。

あんなに散々寝たのに疲れが残っているのた。

 

原因は考えなくても分かる。

 

半日寝過ごしてしまったことや、今起きたのが昼になる直前なことが、些細な問題に思えるぐらいに印象に残った朝の出来事、もとい火伊那からの僕にヤッたことに対する自供。

頭の中が未だその出来事でいっぱいになるくらいには印象に残っている。

 

『あぁ、美味しかった♡』

 

思い出されるのは、火伊那からの、この世の色気という色気を全て凝縮して詰め込んだような、一行にも満たないあの言葉。

 

頭の中が一気に真っ白になった。

 

顔が真っ赤を超えて、鼻血すら出してしまうんじゃないかと思った。

 

脳でパチパチッと電流が走ったような気がした。

 

まるで悪魔からの囁きのよう。

火伊那のあの言葉は、僕の体にこれまでにないほどの衝撃をもたらし、意識を刈り取らせるには、あまりにも過剰戦力すぎる。

 

少なくとも、ザ・クソナードの僕にとっては十分超えて、十二分すぎた。

 

「————————ッッ」

 

思い出すだけで恥ずかしさのあまり、発狂しそうになる。

 

一気に限界まで高鳴る鼓動。

耳にも聞こえるほどにうるさくなったそれを治めるため、かぶっていた毛布で頭まで包んで心の中を落ち着かせる。

光一つ入らない毛布の中、僕の心臓だけが忙しく鼓動し続ける。

 

ドクンッドクンッ、

 

あまりにもうるさい心臓の音。

そのうるささによって、自分の女性への耐性の無さと自分の中で急激に大きくなった火伊那という存在の大きさを思い知る。

 

静かになるため耳を塞げば、耳から感じるのはいつもよりかなり上がった体温。

鏡を見ていないから分からないけど、きっと僕は耳まで真っ赤に染まるほど赤面していることだろう。

 

少し火伊那のことを思い出すだけで、心臓は耳の奥に響くまでに鳴るようになり、頬から耳まで、顔の全てが真っ赤に染まり、火照ってしまう。

 

火伊那のあの言葉はあまり思い出さないほうがいいな。

 

今の、胸の高鳴りと顔の赤面でそれが嫌というほど分からされた。少し思い出すだけでコレでは、体がもたない。

 

毛布の中で、頬を数回叩き、頭の中の煩悩という煩悩をすべて掻き消す。

一旦、頭の中をまっさらな、すっからかんの状態にして、火伊那というサキュバスに荒らされた心の平穏を取り戻す。

 

やっと、胸の鼓動も小さくなり、落ち着いてきた頃。

 

自分を覆っていた毛布から這い出て、ゆっくりと上半身を起こす。

時計を見れば、正午の時間はとうの昔に過ぎていて、長針は時計の半分手前で止まっていた。

 

ようやく起きられる。

全部全部、朝の火伊那の言葉が悪いのだ。

あの言葉を言われなかったら、僕は普通に起きられていた。あの言葉を言われなかったら……

 

心の中で愚痴をこぼすが、また朝の出来事と、火伊那の興奮しきった顔を思い出してしまって赤面しかける。

 

二の足を踏まないためにも、愚痴をこぼすのをやめてベッドの上から出る。

 

足をベッドの外側へ動かし、地面に足をつけようとする。

 

ゴトっ

 

何かが足の太もも辺りに当たる感覚と共に、その何かがベッドのしたへ落ちたであろう音がした。

 

なんだろうと思って、その音のした場所を見ればそこにあったのは、0.01の数字が刻まれたピンク色の"例の"箱。

 

途端に、体中に緊張が走る。

 

しばらくその箱を見つめてから、はぁ、とため息を吐く。

 

本当は拾いたくなんてないが、落ちてしまったのを見てしまった以上は拾うしかない。

本当は拾いたくなんて断じてないが。

 

手を伸ばして、落ちてしまったそれを拾い上げる。

 

「……ん?」

 

その箱に、最初に見たときと異なり、付箋紙が貼ってあることに気づく。

 

嫌な予感しかしない。

 

碌なことを書いていないに違いないが、それでもその付箋紙を引っぺがし、書かれている内容に目を通す。

 

『ヒーロー活動に行ってくる。

 P S,シーツ、クリーニングに出しとけ』

 

書かれていたのはいたって、事務的な連絡。

意外にも普通……かどうかは分からないが、予想よりは遥かにマシな内容だった。

 

こんな内容であれば、冷蔵庫にマグネットと一緒に貼るなり、リビングの机に置くなりすればよかったものを……。

わざわざ、この避妊具の入った箱に貼る必要はあったのだろか。

 

理由を考えてみるが、浮かんだのは某スナイパー女性ヒーローのニヤニヤした顔だけだったので、即座に考えるのをやめる。

火伊那の思考が宇宙よりも謎に包まれていることは、彼女との同居生活で身に染みて分かった。

今さら考えたって、分かることなど何一つない。

 

ただ単に揶揄いたかっただけだろう。

うん、そういうことにしよう。

 

僕は考えるのをやめた。

 

「……シーツをクリーニングに出せ、か」

 

改めて、付箋紙に書かれた内容に目を通す。

 

シーツとは、恐らく今、僕が座っているベッドのシーツのことだろう。

 

いつもはシーツを洗ってなんて言わないのに、急にどうしたのだろうか。

 

シーツを変えたくなる量の多量の汗でもかいたのだろうか。

まぁ、仮にも多量の汗をかいたとするならば、ナニをしたことで出た汗かは想像に難くないが…。

 

「………」

 

だめだ。また顔が火照ってきた。

 

そろそろ自分のウブさ加減に嫌気がさしてくる。

顔をパタパタと仰いで冷ましながら、何度か深呼吸をして、別の意味で戦闘体制に入ろうとしている体を落ち着かせる。

 

どうせ今日も暇な身だ。

 

シーツをクリーニングへ出すのも、後でやっておこう。

 

今度こそ、腰を上げてベッドから離れる。

なんだかんだ、かなり長い時間寝てしまったのでその分のロスを取り返すべく、キビキビと動くようにする。

 

「えっと、ゴミ箱は……」

 

まずは、手に持っている避妊具の入った箱を捨てるため。

今は、手中のそれを捨てることが最優先だ。

 

一刻も早く、自分の手からその箱を離しかった僕は、ゴミ箱を見つけるやいなや最短動作でその場所へと足を進める。

 

朝、僕が箱の中を見た時には、未使用のものが幾つか残っていたがそんなの関係ない。

 

要は、これ以上、使えないようにすればよいのだ。

火伊那に使わせないために、失いかけの貞操を火伊那から守るために、僕はゴミ箱に箱を入れようと、それを持つ手を上げる。

 

あとはゴミ箱に向かって投げるだけ。

 

手を離せば済む話だ。

 

でも、何故かそれができない。

 

感じるのはとてつもない違和感。

この違和感を見過ごすこともできるのだが、仮にそのようなことをすれば、何か、重大な事実を見逃すような気がしてならない。

 

この違和感の正体はなんなのだろう。

 

体を蝕むそれの正体を見つけるため、僕はゴミ箱に向かって、箱を投げようとしていた腕を下ろす。

 

違和感の発生源は十中八九、この、僕の手の中にある、避妊具の入っていた箱が原因だろう。

 

違和感の発生源であろう箱を弄って、求める答えを探る。

 

しばらく、箱を傾けたり、下から見たり、ブンブンと振ったりして。

 

やがて、僕はその違和感の正体を見つけた。

 

「……中身が入っている感じがしない……」

 

さっきから箱を振ったり傾けたりしているが、箱の中に何か入っているという感覚がないのだ。

 

朝見た時には、まだ中身が幾つか残っていた。

 

もし、その幾つかが無くなっていたとしたら、僕はまたあの紫髪サキュバスに食われたことになる。

 

恐る恐る、開封済みの箱のパッケージを開ける。

 

「————ッッ!!!」

 

案の定というべきか、予想通りというべきか。

 

僕の予想は、残酷なことにぴたりと的中し、箱の中には、朝確認したはずの残り幾つかも、全て空になっていた。

 

そして、代わりと言わんばかりに、箱の中には、これまた付箋紙が一枚。

 

『おかわり、もらったぞ』

 

「…………」

 

付箋紙に書かれた『おかわり』が何を指すのかは、どんなに国語が嫌いな人でも分かるだろう。

 

彼女は、朝、僕が気絶したあと、再度僕を食べたのだ。

 

火伊那という猛獣の目の前で、無防備のままに寝てしまった、小動物のようにか弱い僕を。

 

あぁ、僕の貞操が、ガラスのように音をたてて壊れてゆく。

 

『あぁ、美味しかった♡』と言われたときには、これまでにないほどの羞恥心と興奮を覚えた。

 

でも、今、『おかわり、もらったぞ』という恐ろしい文字を見た時には、ただただ彼女の行動力と底なしの欲望に絶望するしかない。

 

このままでは、毎日、搾り取られてしまう。

数ヶ月後、極限まで吸い取られてシナシナになった僕と、ツヤツヤした火伊那になっている様子が浮かぶ浮かぶ。

 

何かしら、対策をとらなければ……。

 

プロヒーローをも欺ける対策を。

 

プロヒーローを欺ける対策……。

 

プロヒーローを………。

 

………。

 

………詰んでる。

 

この家に入った時点で、プロヒーローレディ・ナガン、本名:筒美火伊那を欺く方法なんてないのだ。

 

もう、色々と遅いけれど今さら気づいた。

 

「はは……ははは……」

 

口から笑い声が漏れる。

でもその笑い声には、悲壮感や疲れ、絶望が垣間見えていた。

 

 

『ありがとうございましたー』

 

定年退職したらマダムたちが、駅前の喫茶店で世間話に花を咲かせる昼下がり。

 

避妊具の箱という、センスとユーモアに溢れた場所に貼ってあった火伊那からの伝言通り、クリーニング店へシーツを届けた僕は、そそくさと帰路へつき、自宅へ戻っていた。

 

急ぐ理由は簡単。疲れたのだ。

 

朝からの度重なるハプニングで、精神のキャパはとうの昔にオーバーしている。

その上、慣れない外、あまり浴びない陽光を肌身で感じた僕の身体はあからさまに疲れを蓄積していった。

 

弱った虫の息の僕に何か外ですることなんてあるはずもなく。

 

陽光も浴びて完全に弱った僕は、精神的にも肉体的にもどっとつかれて、さながら萎んだ花のように俯きながら歩く。

 

今の天気は晴れだが、このときばかりは雨のほうが正直嬉しかった。

 

とにかく早く帰ろう。

帰ったあとは、そうだ、録画していたテレビ番組が溜まってるんだった。

それを観ながら、ゆっくり過ごそう。

 

歩道を歩いていても、意識はもう、未だ着かない家の中に行ってしまっている。

足取りは遅いけど、家に帰りたいという欲求は強くなる一方だ。

 

「………」

 

ため息はつかない。

今は幸せに別れを告げたくなんてないから。

 

遥か先にある家へ思いを馳せながら、歩く。

 

「……ん?」

 

歩いていると、どこからか、たくさんの人の歓声のようなものが聞こえてきた。

 

どこかで何かイベントでもやっているのだろうか。

 

疲れている僕は、そのくらいにしか思わず、引き続き足を進める。

 

でも、歩けば歩くほど、その歓声は大きく、聞き取れなかった言葉もはっきりと聞き取れるようになってくる。

 

どうやら,僕の進行方向でそのイベントがあるようだった。

 

一歩進むたびに大きくなる人の声。

 

そのイベントが行われている付近に近づく頃には、歓声は耳を塞ぎたくなるほどに大きなものとなっていた。

 

ここまで人を盛り上がらせるイベント。

一体、何のイベントだろう。

 

何も気にせず通り過ぎようと思ったが、人の喉から発する声量を遥かに超えた声を聴いた僕は、そのイベントが逆に気になってしまう。

 

足を進め、そのイベントの場所へ行く。

 

そこにいたのは、100を軽く超えるであろう観衆。

全員が全員、口を開けているため、聞こえてくる声が怪物の咆哮のようになっている。

 

そして、肝心の、観衆たちがそこまでボルテージを上げて見入っているイベント。

 

「……格闘技……?」

 

観衆を掻き分けて見たそのイベントは、殴る蹴るの格闘技。

 

闘技場のようなステージの上、2人の人が戦っている。

 

しかも、戦っている双方、個性を何の躊躇もなく使用しているため、無個性の僕では考えられないような、超人バトルと化している。

 

おそらくだが、戦っているあの人たち。

 

絶対、個性免許持ってない。

 

この格闘技。

いわば、小さな非合法雄英体育祭と一体ところか。

 

と、そんなことを考えていると、観客のボルテージがさらに数段上がった。

 

戦っていた2人のほうを見れば、勝負がついたらしい。片方が倒れて、もう片方が立っていた。

 

その立っている人。

よく見れば女性だ。

 

うさぎの個性だろうか、頭からこの場に似合わない真っ白な細長い耳を生やし、足の筋肉が発達しているのか、脚部の太さがすごい。

 

見た目から考えるに、個性は『兎』だろう。

 

司会の人だろうか。その人がステージに上がっていき、兎の人の腕を掴んで天に掲げながら、マイクがいらないんじゃないか、というほどの大声で言う。

 

 

『勝者ぁッ!!謎の乱入者ッ!タイガーバニーッッ!!』

 




マジすんません。
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