何番煎じとかは気にしないで……
妹2人に嫉妬したヴィルシーナはトレーナーを少しだけ独占したい
「ねぇねぇ、トレっち~。今日はあそこのパフェを食べに行こうよ~」
「だ…ダメだよ…今日は…僕のトレーニングを見てくれるって……」
トレーナー室で俺はいつもの場所にある椅子に座り、右腕にはヴィブロス、左腕はシュヴァルグランに掴まれている。両方からやいのやいのと言い争うような形で挟まれており、俺は少し困った状況だ。
ヴィルシーナがシニア級となり、6月上旬。俺は彼女と次回に向けたレースプランを考えていた。次回のレースにはエリザベス女王杯を見据えており、生半可なトレーニング量やレースプランでは負けてしまう可能性がある。
だからこそ、今日はこうやってトレーナー室で考え事をしたかったのだが…
「シュヴァちはこの間見てもらったでしょ!今日は私!」
「そ…そういうヴィブロスだって……この間、クレープを食べにいってた…っ!」
そう、ヴィルシーナと共に歩めば歩むほどに他の姉妹と会話する機会が多くなり、それこそ3姉妹のご両親を含めて一緒に食事をするほどになっている。既にご両親からは「ヴィルシーナだけでなく…もしよければ!」ということでヴィブロスやシュヴァルグランも面倒を見始めている現状。
それだけ信頼してくれるのは正直嬉しい事なのだが、ヴィルシーナの事で手一杯なのだ。しかし、このご両親のお願いには断り切れず、そしてシュヴァルとヴィブロスからも頼られている。
ヴィルシーナ自身は「ヴィブロスとシュヴァルのことを構ってあげて下さい。きっとお兄さんのようなものが出来て嬉しいんですよ」と笑顔で言われてしまった。
彼女も俺が組んだトレーニングを1人でしっかりとこなしてくれていて、ありがたい事なのだが、これで良いのだろうか…?と思うこともある。ヴィクトリアマイルを1着で勝利したことで彼女は更に自信を持ち、気品が出ていた。
そして今日も彼女は1人でトレーニングルームに行き、上半身のトレーニングをしているのだが、さて参ったものである。この2人を納得させようと思うもいつもヴィルシーナが助け舟を出してくれ、納得する。
だけど今日は彼女が居ないため、俺が一人でなんとかする必要がある。
「わかった、わかった。2人とも落ち着いて」
そう告げると2人は腕を離しては並んで此方を見ている。
「ヴィブロスのパフェは明日行こうか。明日は学園がお休みだからその時に。それで、シュヴァルは今から行こう。今日は終わってからまだトレーナー室でやりたいことがあるからさ」
そう告げるとシュヴァルの顔は輝き、対するヴィブロスは少し不満顔。
「…トレっち…絶対?」
「絶対。明日お昼から行こうか」
「分かった!ちょ~楽しみにしてるから♡」
そう告げるとヴィブロスはぱたぱた、と浮足気分でトレーナー室から出ていく。残された俺とシュヴァル。彼女の方に視線を向けると彼女は白い帽子を深く被るようにして、視線を下に向けてしまう。
「その…お願いします…」
「先に向かっててくれ。俺も準備したら行くよ」
「は、はいっ」
シュヴァルもそのままトレーナー室から出ていき、俺もタブレットの準備をしていく。シュヴァルはまだジュニア級になったばかりであり、体の本格化も始まったばかり。だけど彼女は焦っている。
少しでも支えられるようになればいいのだが。そんなことを考えながら、俺はトレーナー室から出ていった。
**
「その…ありがとうございました」
「いいって、しっかりクールダウンしてから帰ろうな」
「はい…本当にありがとうございました…」
シュヴァルの練習を見終え、彼女は何度も頭を下げてはお礼をしてくれる。彼女は内気だが、しっかりと芯を持った子だ。このままゆっくりとだが成長を続ければいつかは大成すること間違いないだろう。
コース場を後にしては俺はトレーナー室へと戻っていく。
がらら、と音を立てながら扉を開けて中に視線を移すとヴィルシーナがソファーに座っていた。
「お疲れ様です、トレーナーさん」
「ヴィルシーナもお疲れ様。今日はどうだった?」
「少し疲れましたがこれくらいであればどうってことはありません」
俺はそのままトレーナー室の奥でパソコンが机に置かれている椅子に座る。それを見た彼女はソファーから立ち上がり、此方へと近づいてきた。
「シュヴァルのトレーニングですか?」
「そう、あの子もジュニア級になるしさ。それに君のご両親からもお願いされているからね。あそこまで熱心にお願いされたら断れないよ」
俺はシュヴァルの今後のトレーニング内容を入力していく。彼女はまだメイクデビューを走っていない。適正を考えて選ばなければ。シュヴァルの将来にも関わってくる話であり、彼女の想いを無下にはできない。
そんなことを考えてパソコンと睨めっこをしていると、つんっ、と肩に触れる何か。それはヴィルシーナの指であり、俺は彼女の方に視線を向けていく。
「どうした?」
「あ…いえ…その…シュヴァルのトレーニングは順調…でしょうか?」
彼女の視線はどこを捉えるわけでもなく、きょろきょろと左右に揺れてはすぐにパソコンに表示されているシュヴァルに移っていく。自分よりも妹たちを優先する彼女、本当に妹想いだなんて思ってしまった。
「順調だよ。まだ粗削りな部分はあるけど、ジュニアだからね。これからもっと強くなれるとそう確信してるかな」
「そう…なんですね、よかったです。シュヴァルのこと心配していたので…」
ヴィルシーナは視線を一度落とした後に、此方に向けて笑顔を浮かべる。その笑顔は何処かぎこちなく、まるで無理に浮かべているような印象を感じてしまう。彼女はスカートの裾を両手で強く握りしめている。
もしかして今日のトレーニング内容に不満やそれこそレースへの心配があるのだろうか。
「ヴィルシーナ?大丈夫か?」
「えっ…?」
「いや…なんか無理してそうだから。今日のトレーニングで何かあるなら言って欲しい」
「い、いえ、大丈夫です!」
彼女は首を横に振っては否定をしていく。その様子は焦っているようにも見えてしまったが、強がっている彼女に無理強いはしたくなかった。
しかし、1人で抱え込ませて彼女自身がまた秋華賞の後のように壊れてしまいそうになる方が俺は嫌だった。俺は彼女の強い姉という部分に頼り、そして心が壊れてしまいそうになるほど追い詰められているのに気づけなかったのだ。
もし、彼女が何か心配事があるのならば力になりたい。俺は椅子から立ち上がり、彼女を見据えていく。
「ヴィルシーナ、隠し事はしてない?」
「…してません…」
彼女は視線を逸らしていく。両腕を組み、それはまるで憂い事を探られたくないような彼女の壁にも見えてしまった。無理にでも彼女から聞きたいが、ここまで頑固になられてしまうと無理に聞き出すのは逆効果である。
一旦今日の所は引いて、今度彼女の大好きな姉妹たちに聞いてみるとしよう。
「分かった。でも、いつでも言ってくれていいからな。力になるから」
「え、えぇ…ありがとうございます…。その、今日はもう帰りますね。お先に失礼します…」
「あぁ、お疲れ様。気をつけてな」
彼女は荷物を持って、がらら、とトレーナー室の扉を開けては出ていく。彼女の尻尾はぷらぷらと力なく揺れ、その後ろ姿はどこか物悲し気に見えてしまった。
□■□■□■
「言えるわけないじゃない……」
寮に帰って来てから私はカバンを置いてベッドへと倒れていく。ぽつり、と枕に顔を埋めながら独り言。まだ部屋にはタルマエさんは帰ってきていません。
むしろ今この状況で私一人だけなのはありがたい話でした。こんな恥ずかしい所を誰かに見られたくはなかった。
いつからでしょうか。妹たちにこんな感情を抱えてしまうのは。
嫉妬。
妬み。
やきもち。
シュヴァルがトレーナーさんにトレーニングを見てもらうことに、そしてそのトレーニング自体を必死に考えているあの表情。
あの表情は今まで私だけに向けてくれているものでした。ですが、今はシュヴァルに…そして次はヴィブロスに向けられるでしょう。私のトレーニングを蔑ろにしているわけではありません。今まで通りしっかりとトレーニング案を組んでくださり、そして指導をしてくれる。
ですが、その時間は日に日に短くなっていました。
勿論、シュヴァルがトレーニングを通じて強くなることは私にとってはとても嬉しい事。2人は彼の事を信頼していました。ヴィブロスにいたっては遊びにも出かける仲。ヴィブロスはまだ本格化を迎えていないため、トレーニングの時間はなく、むしろ休日を使って彼と出かけることも多くなっています。
そしてシュヴァルのトレーニングと同様にヴィブロスが遊びに誘うとなれば私と出かける時間も必然的に少なくなる。
このもやもやした感情はクラシックの時は特に感じませんでした。むしろ2人がトレーナーさんと仲良くなってくれることが私にとっては嬉しかったから。
だけど、シニアを迎えてから2人が仲良くなればなるほど、このもやもやは更に増えていってしまいます。このもやもや、きっと私はトレーナーさんのことが、彼の事が──────
だい──────
「うぅぅぅぅぅ…」
ばたばた、と脚を何度もベッドの上でバタ足をするかのようにばたつかせ、そして更に顔を枕に強く押し付けていく。
私は強いお姉ちゃん、頂点を目指すお姉ちゃん。
ヴィブロスとシュヴァルにとって私は強くてかっこいいお姉ちゃんでなければいけないの。
「……悩んでいても仕方ないわね…」
ごろん、と枕から顔を離しては仰向けになっていく。目の前に広がる天井、そして寮の四角くそこまで大きくない部屋。これがまるでどんどん小さくなって私を押しつぶしていくようにも感じてしまった。
「…気分転換で明日…1人で出かけようかしら…」
明日はトレセン学園はお休み。勿論トレーニングもお休み。トレーナーさんに会うことも出来ない。
そうだ、どうせならばトレーナーさんと明日出かけましょう。予定についてはお聞きしていませんでしたが、試しに聞くだけであれば問題ありませんね。
早速私は携帯を取り出してトレーナーさんにLANEをしていく。
【トレーナーさん。明日はお暇でしょうか】
この文字を打った後に送信ボタンを押すだけ。押すだけなのになぜか押せなかった。
今までは何事も無く押せていたのに、この送信ボタンを押そうとするだけで自分の心臓の鼓動が早まっていく。
何故?
それだけ意識してしまっているの?それとも違う何か?緊張している?
LANEのトーク履歴を遡り、この文面はいつも通りに彼を誘っている文面なのかを見返していく。
【明日良ければヴィブロスとシュヴァルのために買いたいものがありまして、一緒に行きませんか?】
【もし良ければトレーニング用品でも買いに行きませんか?気になるものがあるので…】
【明日は一日トレーナー室にいらっしゃいますか?お話したいことがあります。】
よかった、いつも通りの聞き方……じゃない。いつもは何かしらの用事で誘うことが多く、ただ暇かどうかを聞いたことは無かった。
余計に心臓の鼓動が早くなっていく。この部屋の中に居れば聞こえてしまうのではないか、それほどに早く動いていき、何故か掌に汗をかいています。
大丈夫、変に思われませんよ。普通です。
そんな言葉を自分の胸の中で言い聞かせていく。
「すぅぅ…はぁぁ…大丈夫よ」
一度大きく深呼吸。そしてその送信ボタンを見据えながら、ぽちっ、と押しては彼に送信していく。今まではこんなことが無かったのに、変に意識してしまったから…こうなったのでしょうか。
携帯の画面を見つめ、
【ごめん、明日はヴィブロスと出かけるんだ】
**
「ふぅ…ちょっとさっぱりしたわね…」
バッティングセンターにて私は1人でバットを振り、そしてストラックアウトでボールを投げていた。私は上に紺色のシャツと白色のズボンを着ては1人で体を動かしに来ていた。
理由としては単純、このもやもやをとにかく吹き飛ばしたかったから。トレーニングでは力が入りすぎてしまう為、こうやって娯楽として体を動かしています。父に教えて貰った投げ方、そしてバットの振り方。少し久々で鈍っていたらどうしようかと思いましたが、案外なんとかなるものですね。
私は少し汗をかいており、バッグからハンカチを取り出して額を拭いていく。もう少しで梅雨入り。更にここから気温と湿度は高くなっていく。トレーニングもスタミナを重視したものに変わるののでしょうか、そんなことを考えながらバッティングセンターから私は出ていきます。
まだ運動の熱は冷めやらぬまま、外に出れば照り付ける太陽。私は手でその太陽の光を遮るように空を見上げていく。
なんて青い空なんでしょう。私のもやもやした心とは正反対なこの空、ちょっとだけ羨ましいと思ってしまいます。
青く、私の勝負服と同じ色。こんなにも晴れやかな青空ならば、私の心を少しでも晴れさせて欲しい、そんな叶いもしない願い。
「なにをしてるのでしょうね…本当に…らしくないわ」
一人でぽつり、と呟きながら歩いていく。この後はどうしよう、かと考えながら人込みを避けながら歩いていく。お買い物、それとも食べ歩き?それとも映画や本でも見に行こうかしら。
そんな考えを過ぎらせては駅前に辿り着いていく。ここでどうやらちょっとしたイベントが開かれているようで、出店が並んでいました。
こうやってただ歩いて見つけたのも何かの運命でしょう、見て回りながら小腹でも満たすのもあり。その出店の集まりへ私は脚を運んでいきました。
回りを眺めて歩いていけば焼き鳥にラーメン、アイスに丼ものといった様々な種類が並んでいました。多くの人が既に並んでおり、これは少し迷ってしまいます。
うーん、と口元に手を寄せて考えていく。こんな時にトレーナーさんがいたら何を選ぶのだろうか、とふと考えてしまいました。
「…っているわけないわね。今日はヴィブロスと出かけて─────」
「あっ!お姉ちゃ〜ん!」
背後から聞いたことのある愛しの妹の声。まさか、なんて思いながら其方に振り向くとヴィブロスとトレーナーさんが居ました。
「ヴィルシーナ、偶然だね」
「え…えぇ…偶然ですね、トレーナーさん」
できれば会いたくなかった。確かにトレーナーさんがいたら、なんて考えてしまいましたが、いざ会ってみれば私は歯切れの悪い返事をしてしまう。
2人は此方に近づき、そして2人の手にはコーンの上に乗ったアイスクリームを持っていました。トレーナーさんはバニラ味、ヴィブロスは苺味。
「お姉ちゃんもお出かけ?」
「そうよ、ちょっと体を動かしたくて…ヴィブロスは…トレーナーさんと?」
「うん、そーなの♡トレっちと一緒に食べ歩きデート♡」
「デートじゃないぞ、ただの埋め合わせだからな?」
「えー、トレっち冷たーい」
ヴィブロスは唇を突き出しては少し不満げに応えるも、それはどこか嬉しそうに見えてしまいました。そしてトレーナーさんはそんなヴィブロスに向ける柔らかな表情。対する私は2人のやりとりを見て、またあのもやもやとした感情が出てきてしまう。
お出かけをして流石に会うことは無いと思っていましたが、まさか出会ってしまうなんて。どんな神様の悪戯なんでしょうか。
「ねぇねぇ、お姉ちゃん。お姉ちゃんも一緒に回ろうよ♡」
「え…う、ううん、大丈夫よ。折角トレーナーさんと出かけてるのだから2人で楽しんで?」
「…そう?でも…」
「本当に大丈夫よ。ちょっと疲れちゃって、丁度帰ろうと思ってたの」
ずきんと痛む心。嘘でした。本当はトレーナーさんと一緒に見て回りたかった。出来ることであれば、彼と2人きりで─────
「…お姉ちゃん?」
「だ、大丈夫!またね、ヴィブロス、トレーナーさん!」
私はヴィブロスの声を振り払うようにその場から立ち去って早歩きで、少しでも早く離れたかった。
駅の路地、日陰になって太陽の光が入らないそこに私は辿り着き、そうして膝を抱えるようにして私は座り込んでいく。
さっき考えたこと、
私は愛する2人の妹に嫉妬をしている。そして妹無しでトレーナーさんと2人きりになりたいと思ってしまった。それが何より嫌だった。
大好きな妹たちを蔑ろにし、トレーナーさんを独占したいと考えてしまった。
まだもやもやは晴れない、むしろ私の心はこの空とは反対に早い梅雨を迎えている。
「はぁ…嫌なお姉ちゃんでごめんね…」
地面に向かって放つ一言。それは誰にも聞こえず、ただ1人情けない姉の小さな慟哭だった。
**
あれから2日後、私はトレーナー室の前で立っていました。
今日は休日明けのトレーニングであり、そしていつものように一人でトレーニングを終えて帰ってきては報告。ですが、この扉を開けるのが怖かった。
中から声は聞こえません。きっとトレーナーさんがいるのでしょう。ですが…もし本当に誰もおらず、彼が2人の妹に構っていると考えてしまうとこの扉を開けるのが怖くなってしまう。
とはいえ、このまま扉の前で立って、ただじっとしていれば変なウマ娘と思われてしまいます。意を決して扉の引き戸に指を引っかけてそして開けて中を確認していく。
いつも彼が座っている場所。そこには人影はなく、代わりにソファーで1人佇む様に腕を組んで座っているトレーナーさんが居ました。
扉を開けても此方に視線を向けることは無く、ただ机の上を眺めるように項垂れている。私はゆっくりと彼へ近づいていき、そして前屈みになって顔を覗き込んでいく。
「…寝てる…?」
トレーナーさんは目を瞑り小さく寝息を立てていました。その表情は穏やかな表情ではありましたが、目の下には隈が出来ていました。
視線を机の方に向けると広がっているトレーニングメニュー。それは私のものでした。スタミナのトレーニング方法にスピードを上げるトレーニング。来るエリザベス女王杯に向けたレースプランが机一杯に広がっていました。
そしてトレーニングメニューの隅には”打倒、ジェンティルドンナ!”とギザギザのマークで囲って強調されているそれ。少しだけ私は笑みが零れてしまいます。
私はバッグをソファーの上に置いていき、トレーナーさんの隣に座っていく。窓から差し込む夕日の光がソファーを暖かくしていました。
とくん、とくん、と心臓の鼓動が少しだけ早くなってしまう。今はシュヴァルもヴィブロスも居ない2人きりの時間。誰にも邪魔されず、彼の時間を独占できるこの瞬間。
トレーナーさんは私をちゃんと考えてくれている。でも、言葉で言って欲しかった。だけど疲れて寝ている彼を起こしてしまうのは忍びありません。
ちょっとだけ、本当にちょっとだけ…独占させてください。
ヴィブロスやシュヴァルに見せている表情、言葉、声、体温。
私にも同じように見せてくれますが、それでは足りません。
私はトレーナーさんに体を近寄らせていき、そして肩に頭をぽすんっ、と乗せていく。
─────暖かい。
彼が呼吸をするたびに上下に肩が動き、そして体温が伝わってくる。欲を言えば本当はもう少し近づきたいですが、これ以上は優等生である私自身のプライドが許せませんでした。
ただ、2人でこの部屋の中で静かな時間を過ごす。私の小さな小さな彼の独占。もやもやとしていたものは少しずつ晴れていき、暖かな夕日のせいか、私もゆっくりと瞼が下がりそうになってしまう。
良くありませんね、ここで寝てしまえば彼に迷惑をかけてしまいます。今日のトレーニング報告はLANEでしてこのまま彼を寝かせて私は帰りましょうか。
そう思って頭を彼から離そうとすると────────
彼は私に頭を寄せて、そしてそのまま動かなくなりました。
「─────っ!」
声の出ない悲鳴。悲鳴は悲鳴でも、嬉しい悲鳴でした。更に早くなってしまう心臓の鼓動。口から心臓が飛び出そうになるとはこのことでしょう。
「…とれー…なーさん?」
私は顔をゆっくりと動かしていく。
近い、彼の顔が今までの中で一番近く、余計に意識をしてしまう。もしかして起きているのではないかと思い声をかけても、彼から反応はない。
トレーナーさんの肩と頭に挟まれるようにされてしまい、余計に温もりを感じる。
そして…私自身もこの温もりを求めるように服の袖を掴み、そして尻尾が近づいてしまう。
やっぱり今だけは優等生ではなく、悪い子になります。誰も見ていないこの状況を良い事に、私はずるい子になります。
しゅるり、と彼の腰へ尻尾を巻き付かせ、そして服の裾を掴んでいた指はそのまま腕に絡ませていく。あぁ、より彼の体温が感じてしまうと嬉しくて、そして少しだけ頭を彼に擦りつけてしまう。
ごめんなさい、シュヴァル、ヴィブロス
今だけ、この瞬間だけ私はカッコ悪くてずるいお姉ちゃん
でも──────それだけトレーナーさんが欲しいの