ウマ娘小噺まとめ   作:ポンタ4

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結婚式の夢でヴィルシーナは寝不足になりそうだと思いました。

ジューンブライドだからね、仕方ない。


トレーナーと結婚する夢を見たヴィルシーナが寝不足になる話

 カーン、カーン。

 

 綺麗な鐘の音が鳴っている。まるで祝福しているようだった。

 真っ青な空。私の好きな海の色と同じほど澄んでおり、このまま空から天使でも降りてきてしまうのではないか、それほど素晴らしく綺麗だった。

 

 赤く長いバージンロードを私はお父さんとお母さんに挟まれて一緒に歩いていく。両親は私をとても大事に育ててくれました。お父さんは野球選手として会えない日もありましたが、会える日は最大限の愛情を注いだハグを。お母さんはお茶目な所がありますが、私の事をしっかりと見てくれていました。

 

 白いベンチタイプの椅子には私がお世話になった人達が座っていました。その中でも一番前で座っている私の愛おしい妹2人。2人ともいつもの私服ではなく、少しだけおめかしをしています。

 ヴィブロスが此方を振り向いては目を煌びやかせ、隣に座っているシュヴァルの肩を叩いていきました。シュヴァルも此方を振り向いては口を開けて、すぐに眉を下げては少しだけ泣き出しそうな顔をしていました。

 

 私は2人に笑顔を浮かべていく。そうすると2人も微笑み返してくれました。

 一緒にレースを歩んだ道のり。辛い事も悲しい事も…そして楽しい事も沢山ありました。その時に支えて下さっていたのは家族皆でした。

 

 そしてなにより、支えて下さっていたのは私の新郎でした。私をスカウトしてくれ、そして私の心が折れそうになったときには寄り添ってくれ、シニア級の最後まで一緒に見て下さった彼。

 彼からプロポーズをされた時に私は嬉しくて泣いてしまいました。

 いつもアピールをしても何事もないように流されてしまい、もしかして?を何度も考えてしまった。だけど、それは彼なりの照れ隠しだということを後で知った時には少し呆れてもしまいました。

 

 でも、そんな彼に惚れてしまった私も大概です。むしろ似たもの同士なのかもしれません。

 

 バージンロードを歩き終えれば両親は私から離れていきました。私は彼の隣に立ち、そして目の前にいる神父さんに視線を向けていきます。

 この会場にあるステンドグラスには太陽の光が差し込まれ、虹色の光となっており神秘的な雰囲気となっていました。

 目の前の神父さんがゆっくりと口を開いていきます。

 誓いの言葉、新郎である彼に語り掛けるように言葉が紡がれていく。

 

「はい、誓います」

 

 神父の誓いの言葉に彼は応えていきました。

 そうして、今度は神父さんは私に視線を向けていく。

 

「新婦ヴィルシーナ。悲しみ深い時も、喜びに充ちた時も、共に過ごし、愛をもって互いに支えあうことを誓いますか?」

「はい、誓います」

「宜しい。では、誓いの口づけを」

 

 私は彼の方に体を向けていく。 彼の手が私に伸びて来ては、表情を隠す白いベールを上げてくれました。

 あぁ、私は今どんな表情をしているのでしょうか?

 

 泣いている?

 笑っている?

 それともまた別のもの?

 

 唯一分かることは新郎である彼の表情だけ。その表情は優しく、いつも私に見せてくれている表情でした。

 

「ヴィルシーナ」

 

 彼の言葉が聞こえる。彼が私の名前を呼んでくれるだけで胸が一杯になってしまいます。これからは妻としてきっと沢山名前を呼ばれるのでしょう。ずっと側にいるのでしょう。

 その未来を想像するだけで感極まってしまいます。

 

 私は彼の瞳を見つめ続けていきます。そうしてゆっくりと近づいてくる彼の唇。私は瞳を閉じて、このまま自然に全て身を流そうと思ってしまいました。

 

 家族の皆。

 私、ヴィルシーナは今日──────────幸せになります。

 

 そうして次に目を開けた時───────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこは寮の天井でした。

 先ほどまでの明るいものではなく、部屋は暗くなっており、唯一の光は外から差し込まれる淡く光る月明かりのみ。どうやらまだ朝は迎えていないようです。

 

「……嘘、夢なの…?」

 

 先ほどまでのは……全て夢?

 ウェディングドレスに身を包み、そして家族に祝福され、新郎である彼と口づけを交わすところで起きてしまった。夢にしてはやけに現実味を帯びており、正に本当にその場にいると錯覚しても良いほどだった。

 

 夢の中の人物を思い出していく。夢であるためか思い出せるのはあの場に私の家族と新郎の人がいたという事だけ。

 新郎である相手、あの相手はトレーナーさんだった。

 

 勘違いではない、あれは絶対にトレーナーさんだ。新郎の表情、彼の手の暖かさ。トレーナーさん以外に考えることができなかった。

 

 携帯に手を伸ばして時間を確認すると時刻は3時。このまま起きるにしても流石に早すぎました。朝のランニングまでにはまだまだ時間があるためこのまま二度寝をしようと思い、目を瞑っていく。

 あわよくば先ほどの夢の続きが見れたら、なんて考えながら目を瞑るも悲しい事に見ることはできないどころか眠る事すらもできなかった。

 

 どうやら先ほどの夢が私にとって目を覚ましてしまう要因になっていたらしい。

 

 とはいえ今起きてしまえば同室のタルマエさんを起こしてしまうかもしれない。何度か寝返りを打っても眠ることが出来ず、もやもやとしたまま。タルマエさんを起こしてしまうのも忍びない話です。

 

 少しだけ気を紛らわせようと携帯を使って眺めていく。暗い中で光を浴びてしまえばより眠れなくなるといいますが、今は気を紛らわせるために何でもよかった。

 携帯を操作しながらトレンドを追っていくとそこには【結婚特集】と書かれたページ。6月といえばジューンブライド。この月に結婚すれば花嫁は幸せになれる、といいますね。

 

 とくんっ、と自分の心臓が跳ねるのを感じてしまう。まるで先ほど見た夢に連動して出てきたかのように思えてしまった。これを押して中を見てしまえば後戻りできなくなりそうな、そんな気がしてしまったのに私は押してしまいました。

 中は数々のウェディングドレスを着た女性達の写真。結婚式のおススメスポットに所作といったこれから結婚式を挙げたい人向けの内容。

 

 そしてそこには夢占い、というものもありました。

 

 とくんっ、とまた心臓の鼓動が早くなっていく。自分の体が揺れてしまうほど心臓は強く動き始めました。

 

「違うわよ、ヴィルシーナ…これは…その…ただ気になるから…いえ、気になるのではなく…そう、今後のためよね?」

 

 一人で布団を被りながらぼそぼそ、と誰にも聞こえない小さく消えゆきそうな声で呟いていく。今後のため、なんて勝手に理由を付けてそのページを指で押していく。

 ページが開くとそこにはこう書かれていました

 

【結婚する夢を見た相手によって意味が変わります】

 

 その中には恋人、有名人、知らない人、というカテゴリーの中に1つだけ目を見張るものがあった。好きな人、又は片思いの相手との結婚。

 

 それを見つけてしまえば目が離せなくなってしまった。ゆっくりと指を動かして画面をスクロールしては内容を見てしまい────────

 

 

 

 

**

 

 

 

 

 

「…トレーニング…今日は休みにしようか?」

「い、いえ!大丈夫ですから…」

 

 トレーナー室、今日のトレーニングをするために私はそこに足を踏み入れて内容を確認しようと思っていた…のですが、体調が優れませんでした。

 トレーナー室に備え付けられているソファーに座っては彼の話を聞こうとするも、こくり、こくり、と何度も舟を漕ぎそうになってしまう。

 

 こんなことではいけない、と思い何度も眉間を指で摘まんでは意識を保とうとするも眠気を取ることはできませんでした。

 

 結局あのトレンドを眺めていた後に一睡もすることができず、目の下には隈を作ってしまいました。タルマエさんにも心配されていましたが、ただの寝不足でトレセン学園を休むわけにはいきません。

 本日の授業は何とか乗り切ることはできましたが、その集中力も既に底をつきかけている。

 

 トレーナーさんが心配そうにしており、私の対面にあるソファーに座っては今月のトレーニングにおける目的を話してくれています。ですが、その話途中で何度かぼーっとしてしまい、その度に心配されてしまう。

 彼の声が妙に心地よく、喋っているだけでまるで夢の世界に誘ってしまうほど。だけど寝るわけにはいかずに自分の太腿を指で抓っては無理矢理起こそうとする。

 それでも勝てない眠気に欠伸をしそうになってはその度に噛み殺してる所に先程の彼の言葉となる。

 

「その…すみません、何度もだらしない所を見せてしまい…」

「気にしないで。むしろそれだけ君の気を許せる居心地が良い場所だって思えて俺は嬉しいから。ただ…無理はしないようにね?」

 

 そういう所なんですよ、トレーナーさん。

 私は少しだけ頬が赤くなってしまう。こんな事を言われてしまえば私は今日見た夢も相まって余計に彼を意識してしまう。

 

 新郎として隣にいた彼。今の彼の表情は夢で見た柔らかく優しい物ではなく、心配するような表情。私の為に心配してくれる彼の表情も良いと思ってしまった自分に辟易しそうになる。

 

 そうしてまた彼が説明してくれるもやはり集中力が続かない。唇を噛み、脚に力を入れて全身を無理矢理起こそうとするもやはり無駄な抵抗でした。

 私の様子がさすがにおかしいと思ったのか、トレーナーさんは立ち上がり、私の隣に座ってきては

 

「体調、悪いとかじゃないよね?」

 

 と前屈みになりながら告げてきます。彼との距離が近くなる。それだけで私は頬が熱くなるのを感じ、腰を動かして彼から距離を取っていく。

 

「だ、大丈夫です…その、寝不足なだけですので…!」

「やっぱり。珍しいね、なにか悩みでも?」

「そ…その…」

 

 言えなかった

 寝不足の原因が貴方だなんて

 

 しかも結婚式をする夢を見て、その後の夢占いの結果で眠れなくなってしまった、だなんて

 言えなかった

 

 夢占い。それで一喜一憂をしてしまう気持ちを私は分かってしまう。

 あのサイトに書かれていた好きな人と結婚する夢の意味。それは【幸せな結婚への憧れ】でした。 しかもそれが片思いとなればもっと相手に触れたい、近づきたいという願望。そんな事をトレーナーさんに言ってしまえば困らせてしまうだけ。

 

 私が言葉にできずに口を閉ざしていると彼は離れた距離をまた近づいてきます。

 

「…もし無理をしているなら言って欲しい。君の力になりたい。もうあの時を繰り返したくないんだ」

 

 私がジェンティルさんの本気の走りを見て、心が折れそうになったあの時。トレーナーさんが両親に会わせて下さり、そして立ち直ることが出来たあの時。

 トレーナーさんはきっとそのことを仰っているのでしょう。彼の表情は真剣そのもので、私を心から心配してくださっていることが分かりました。

 だけど…!だけど…これは言えません…!

 

 ちらり、彼の瞳を見つめていく。その瞳は私の心を見透かそうとするほどにとても綺麗で吸い込まれそうになってしまう。その魔性にも感じる彼の瞳から私は視線を逸らすと

 

「……俺の事、信頼できないか…?」

 

 と弱々しくも感じる声。その声の方が私にとってもっと嫌なものでした。

 トレーナーさんの事は心から信頼しています。きっと彼もそうなのでしょう。心配してくださる彼の好意を無下にしてしまっていることが心苦しかった。

 

 私はゆっくりと大きく深呼吸をしていく。きっと伝えてしまえば彼は困ってしまうでしょう。でも、私はトレーナーさんを信頼している。鈍い所もありますが彼ならばきっと──────

 

 私は体を起こしてはトレーナーさんの方に視線を向けていきます。

 

「その……笑わないでくださいね」

「笑わないよ」

 

 

「………トレーナーさんと結婚する夢を見て……寝不足になりました…」

 

 

 全ての音が消え、変に耳鳴りがする。頬が熱く、りんごのようにきっと赤くなっているのでしょう。

 トレーナーさんの表情は驚きの表情を見せているも、すぐにあの結婚式で見せてくれた柔らかく優しい表情になっていきました。

 

「6月だもんな。そっかそっか。確かにそれはね…」

 

 うんうん、と彼は腕を組んで何度も頷いていき、まるで納得するようでした。

 もしかして…私の想いが届いたのでしょうか?私の唇が強く結ばれていき、彼の次の言葉を待っている。自分の耳を彼の方に向けては、その言葉を聞き逃さないようにしていました。

 神様というのはいるものなのですね。きっとこの夢を見たのも今日この時のためなのでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヴィルシーナがヴィクトリアマイルを連覇出来たことがやっぱり良かったんだよな!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい?」

 

 

 素っ頓狂な声を私は上げてしまいました。

 神様ではなくどうやら悪魔の悪戯のだったようです。

 

 

「だって、6月と言えばジューンブライドが有名だよね?」

「そうですね」

「夢で職場とかの人と結婚するのは仕事運アップなんだよ。ほら、ヴィクトリアマイルを連破してそれで……………な、なんで耳を絞ってるの…?」

 

 朴念仁

 唐変木

 木偶の坊

 

 まさかここまで分からず屋だとは思いませんでした。この言葉のせいで私の気だるさは全て吹き飛んでしまい、自然と力もより入ってしまう。私は立ち上がり、トレーナーさんの方を見下ろすように見つめていく。

 少しだけ、彼は後ずさりをして私から離れようとするも、私は彼の腕を掴んで逃げられないようにしました。

 

「ヴィ、ヴィルシーナ…?その……怒ってる…?」

「はい、もの凄く怒っています」

 

 怒るに決まっています。確かにトレーナーさんは凄く鈍いです。いえ、凄くという言葉で片付けて良いのか分からないときもあります。

 私自身も想いを伝えようとしてはあえて濁すような形にしてしまうこともありました。ですが、ここまで彼が朴念仁だとは思いませんでした。

 

 つまり、彼の心を掴むためにはより積極的に、そして乙女心の理解が必要になるわけです。

 私は彼の隣に腰を下ろしていき、そうして近づいていく。

 

「……きょ、今日のトレーニングは…」

「トレーナーさんの特別トレーニングです」

「えっ、俺の?どうして…?」

 

 まだ分からないようです。ここまで来れば怒りを通り越して呆れになってしまいます。

 そしてこの人の事を想ってしまっている私も余程なのでしょう。だからこそ、彼に変に逃げられないように、勘違いされないようにしなければ。

 

「では今から特別トレーニングを致しましょう」

「どんな…?」

 

 

 

「私の乙女心を知る、トレーニングです」

 

 私の眠気はもう全て無くなっていました。

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