ウマ娘小噺まとめ   作:ポンタ4

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ウイスキーボンボンを食べたエイシンフラッシュは酔ってトレーナーに近づく話

「トレーナーさん?これは…?」

 

 トレーナー室で仕事をしている際に問われる一言。黒鹿毛の彼女、エイシンフラッシュは指をさしては不思議そうに首を傾げていた。

 彼女の視線の先には黒と紫の装飾をされた、どこか高級感の漂う小さな四角い箱。箱には商品名は書かれていなくとも、ブランドのものだということだけは一目で分かるだろう。

 

「さっき取材でこっちに来ている人がいたんだ。それで協力してそのお礼に、だと」

 

 フラッシュが訪れる1時間前の話だ。トレーナーを目指す時にどんなことを意識していたのか、またトレーナーを目指すのにあたって必要なことは何か、といった珍しい取材があった。各トレーナーに取材をし、そしてその内容をまとめて1つの記事にするのだと。

 その中で俺自身も取材を受けていき、そして受けたお礼としてその箱を貰った。

 

「確か…チョコとか言ってたかな?取材に答えただけなのにこんな高そうなのを貰えるとは思ってなかったけど」

「ふむ…」

 

 フラッシュはその箱を持ち上げては不思議そうに眺めていた。中身が気になるのだろうか。

 

「いいよ、食べても」

「えっ、良いのですか?」

「勿論。そもそもここまでトレーナーとして頑張ってこれたのも君のおかげだし。そのお礼だと思って?」

 

「では…」と呟きながら箱を開けていくフラッシュ。実際自分がトレーナーとして注目されるようになったのは彼女の活躍もある。俺の頑張りというよりも彼女の頑張りでここまで来れたのだ。それならば、この箱はフラッシュが受け取るに相応しいだろう。

 

 フラッシュが開けた箱には6つほど、チョコが入っている。いずれも四角い形をしていた。

 そのうちの1つを摘まんでは彼女は口の中に放り込んでいく。もぐもぐ、と唇が動いている。そういえば普段はフラッシュは既製品の物を食べる所をあまり見たことがないな、と思った。

 

 食べるとしてもお出かけした時に食べるカフェのケーキや彼女自身が作ったお菓子のみ。どんな反応をするのかが気になっては「お味は?」なんて尋ねた。

 

「…少し甘めですが、中がとろっとしています。このとろみが仄かに苦みはありますが…深みがありますね」

「…そう聞くとなんだか…俺も食べたくなってきたかも」

「ふふっ、美味しいですよ」

 

 その箱から1つ、チョコを摘まんでいく。彼女は既にそのチョコを二つ目を手に取り、そして口に運んでいく。俺も同じようにしては口に運び、そうして噛み始めていく。

 彼女の言った通り、噛むと中からはとろみのある液体に近い何かが溢れてくる。それがチョコと混ざり合い、甘みと苦みが舌の上で広げられる。この苦み、かなり大人向けの渋いもので苦手かもしれない。美味しいは美味しいが…

 

「…ごめん、これ…苦手かも…」

「トレーナーさんにも苦手なものがあるんですね?では…もう開けてしまいましたし、残りは頂きますね?」

「あぁ、すまない」

 

 一度口の中をスッキリさせるために、ペットボトルのお茶を手に取り、流し込んでいく。ソファーに座っては平気そうに食べている彼女。なんだか負けた気分だ。

 しかし、どこかで食べたことのある味。強いてあげるなら飲んだことのある味、に近いだろうか。思考を巡らせても思いつかない。気にはなるが、どんなものだったか。その内思い出すだろう、そんな事を考えてはキーボードを叩いて資料の作成を続けていく。トレーニングについても今日はお休みであり、簡単なミーティングをするだけ。そのミーティングもこの資料を作ってから行うつもりだ。

 

 

 

 10分程だろうか、資料の作成を終えては両腕を強く上に伸ばして解していく。タブレットを手に持ち、ソファーに座っているフラッシュの元へ。なんだか項垂れるようになっているが大丈夫だろうか?

 

「フラッシュ?」

 

 彼女の隣に座り、そしてゆさゆさ、と肩を揺さぶっていく。ゆっくりと彼女は此方に視線を向けていき、その瞳はどこか蕩けていた。

 

「…とれーなーさん?」

「大丈夫か?」

 

 にへら、となんだか崩れた笑顔を浮かべているフラッシュ。そして微かに匂ってくる彼女の口内からの洋酒の匂い。

 

「…ん、待て。もしかしてこれ…!」

 

 箱を手に取り、そしてその中には小さな紙が入っていた。それを手に取って見ていくとどうやら商品説明のようだ。そこには【洋酒が入っています】と書かれた文言。これは…

 

「ウイスキーボンボンじゃないか!」

「えへへ…」

 

 彼女は腕に強く抱き着き、そして擦り寄る様にして頭を擦りつけてきている。これは失態だった。チョコと聞いていたが、まさかお酒入りだとは思わなかった。あの時に感じていた味の正体はお酒だったか。

 確か食べても大きな健康のリスクは無いと聞いたことはあるが…それにしても彼女がここまで弱いとは。

 

「ん…とれーなーさん、撫でてください…」

 

 先ほどから右腕にしがみつかれ、そして頭を撫でて欲しそうに何度も擦りつけてくる。まるで自分の匂いをマーキングする猫のようになっているフラッシュ。普段は凛々しい彼女のそんな様子が俺にとっては刺激が強すぎた。

 なんとか彼女を引きはがそうと、掴まれていない腕で肩を押そうとする。それをするり、と避けてはまた強く密着してくる。流石に色々とまずい。

 

「…嫌い、ですか?」

 

 上目づかいで見つめてくる彼女。それは流石に卑怯だろう。そんなことをされてしまえばこれ以上の逃げは傷つけてしまうかもしれない。

 彼女の肩から頭に手を伸ばし、一旦止まる。一瞬の躊躇い。意を決しては頭に手を乗せてはゆっくりと撫でていく。

 

「……ふふっ…」

 

 嬉しそうに頬を緩ませ、そうしてまた顔を擦りつけてくる。ここまで甘えん坊になる彼女は初めて見た。

 酔った時はこうなる、という少しだけ得をした気持ちとこれ以上の擦り寄りは普段とギャップがあり、変に心臓の鼓動が早まっている。

 

 というよりフラッシュはここまでお酒に弱かったことが少し驚きだった。彼女はドイツ出身だ。ドイツと言えば、とまではいかないがお酒に強い人が多いと聞いたことがある。お酒のお祭りもあるほど有名な国なのだ。その国出身の彼女が弱い事について意外だった。

 強い国とはいえ、それはそれで人によるだろう。たまたま彼女が弱いだけなのかもしれない。

 

 しかし、ここまで弱いとなるとそれこそ下戸に近いかもしれない。俺自身も強いというわけではないが、流石に下戸ではない。本当に弱い人はこうなるのか、と考えている間も彼女はずっと頭を擦りつけてきた。

 何なら、脚も近づけぴったりとくっ付けてくるほど。全身で密着しようとするフラッシュに少しだけ抵抗を見せていくも、如何せんそこはウマ娘と人間の力の差。やはり離すことができずに近づかれてしまう。

 

「んん…とれーなーさん、もっと…」

「わ、分かったから…」

 

 甘えるような声色で要求されてしまうと逆らえずに俺は彼女の頭を撫でていった。さらさらとした、心地よい手触り。それを頭頂部から後頭部に滑らせるようにして撫でている。そうすると彼女はにへっ、とまた表情を緩ませては、腕だけでなく、胸元に抱き着いてきた。

 

「ふ、フラッシュ…!?」

「ん…きもち…」

 

 これではミーティングどころではない。さて、どうしたものか。お酒が抜けるまでに数時間はかかると聞いたことがある。そしてこの状況。フラッシュに抱き着かれるようにして、胸に頭を押し付けられ、逃げられない。

 誰かを助けに呼びたくとも、殆どの生徒は今はトレーニングに向かっており、声を出したところで届かない可能性がある。仮に届いたとしてもこの状態のフラッシュを見知らぬ誰かに見せるのも、彼女の尊厳を守るという意味でしたくはない。

 

 携帯で呼ぶにしても、自分のパソコンの隣に置きっぱなしであり、当然ながら手が届くわけではない。

 

 詰んだのでは?

 

「まずいぞ…これは…」

 

 1人、呟くもそんなことは他所に彼女は両腕で、むぎゅり、と強く抱き着いてくる。

 本当によくない…!

 色々な感情が渦巻いているが、1人の大人として耐えなければいけない!

 

 

 

 

 ────────そんな時である。

 

 

 

 

 こんこん、とノック音が聞こえてきた。

 

 そのノック音の後に開かれていく扉。そこに立っていたのはスマートファルコンだった。

 

「フラッシュさん、忘れ物───────────お取り込み中のようで……」

 

 扉を開いては彼女の手に持っている一枚のプリント。それを届けに来てくれたようだが、直ぐに何事も無さそうに扉を閉めようとしていく。

 

「ま、待って!行かないで!」

 

 今ここで彼女を逃すわけにはいかない。必死に声を出しては、助けを求めるようにして腕を伸ばしていく。なんだか、フラッシュの動きも鈍くなった。もしかしたら友人が来たことで理性が働き始めたのかもしれない。

 ちらり、とファルコンは此方に視線を向けていき

 

「そのー……流石にファル子、場違いかなぁって…」

「ウイスキーボンボン食べてこうなっちゃったんだよ……!」

 

「わお」と驚いた声を上げながら、彼女は近づいてくる。プリントを机に置いた後にフラッシュの顔を覗き込んでは

 

「…寝ちゃってますよ?」

「えっ」

 

 ファルコンは首を傾げていき、そして俺も覗き込む。確かに先程まで起きていたのに、瞳を閉じては安らか表情を浮かべていた。お酒のせいか、彼女の行動が読めない。

 

「と、とりあえず忘れ物を届けに来ただけなので…お暇しますね…?」

「あ、あぁ…」

 

 寝ているなら取り敢えず動かすことは可能だろう。フラッシュの両肩に手を置いてはゆっくりと退けようとするも中々動かない。抱き枕のように強く抱きしめられている。起きているのでは?なんて画策してしまった。

 

「でも、珍しいですね?」

 

 トレーナー室から出ようとしたファルコンの一言。口元に指を当てては、うーん、と唸っている。

 

「何がだ?」

 

 と俺は一言尋ねていく。

 

「ううん、フラッシュさん。ドイツに居た時にお酒を試し飲みしたことがあるって聞いたの。その時、全く酔わなくてっていう話を…聞いたんだけど…気のせいかなぁ…」

 

 ドイツに居た時、つまり彼女が日本に来る前の話だ。その時と比べて時間は経っているが…弱くなることはあるのだろうか。

 ぽつぽつ、と呟いたファルコンはそのまま頭に疑問符を浮かべながらも「でも、疲れてただけかも。ゆっくり休ませてあげてね☆」と言っては扉を閉めて立ち去ってしまった。

 

 トレーナー室に残される俺とフラッシュ。その扉が閉まった音と遠ざかる足音に反応するかのようにフラッシュは顔を動かしては此方に向けてきた。

 

「えへへ…とれーなーさん…」

「…フラッシュ──────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 酔ったふりだよな?」

 

 ぴたり、と彼女の動きは止まっていく。直ぐに視線を此方に向けずに、まるで悪い事がバレてしまったかのように視線を逸らした。

 先程まで甘えた声の彼女は動きを止め、今度は胸に強く頭をまた押し付けていく。

 

「…酔ってます」

「酔った人はそんなこと言わないと思うけど」

 

 無言の時間。彼女の腕の力が弱まっては、ゆっくりと離れていく。こほん、と1つわざとらしく咳き込んでは「さて、ミーティングのお時間ですね」と平常を振る舞い始めた。

 

「あ、逃げた」

「逃げてません、酔ってません、気のせいです」

「酔ってないのにあんな事をしてきたの?」

 

 先程までの行動について、問いかけると彼女は視線を下に向けていく。その頬は赤らんでおり、明らかに照れていることが分かった。スカートを両手で握りしめながら、ちらっ、と視線を向けた後に小さな声で呟いた。

 

「……Obwohl du dich darüber freust」

「な、なんだって?」

 

 ドイツ語だった。単語レベルなら分かるが流石に文法になってくると分からない。ちょっとそれはずるいのでは、と思ってしまう。

 

「………嬉しい、くせに……」

「う、嬉しいわけじゃなくて…!」

 

 思わず声を出してしまった。直ぐに次の言葉を出そうとしても出せず、口を閉ざしてしまう。その様子に彼女は小さく微笑んでいく。いつもの表情で、砕けたものではなく、だけどどこか、意地悪な顔だった。

 

「今度はお酒抜きで……しますからね?なんて」

 

 彼女の視線に合わせることが出来なかった。

 

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