ヤンデレのエルフに死ぬほど愛されて夜も眠れない   作:森川林

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ヤンデレが主人公の何気ない言葉を誤解して大問題になってゆくのいいですよね


第5話

魔法協会の広大な図書室で、マティアスは集中して本を開いていた。だが、その目は活字を追っていても、心はどこか別の場所にあるようだった。この前の一件以来彼の傍にはほぼ常にゼーリエがいた。時には黙って本を読み、時には彼の研究を手伝い、あるいは単に彼を見つめるだけ。彼が一瞬でも視界から消えれば、彼女は静かに、しかし確実に彼を探し出した。

朝は彼の部屋の前で待ち、食事は常に共にし、夜は彼が眠るまで離れなかった。街に出るときも、彼女は「用事がある」と言って同行した。その「用事」が彼以外にないことは、二人ともわかっていた。

 

その日の夕暮れ、マティアスは協会の塔の一室で詩の執筆をしていた。窓から見える夕日が彼の紙を赤く染める。部屋の隅では、ゼーリエが静かに彼を見つめていた。

「明日、南の村に行こうと思うんだ」マティアスは突然言った。「詩のインスピレーションが必要で」

ゼーリエの瞳が微かに細められた。「私も同行する」

「いや、この前も言ったけど、時々は一人になりたいんだ」彼は慎重に言った。「創作のためには孤独も必要なんだよ」

「孤独?」ゼーリエの声が僅かに震えた。「そんなものは必要ない。私が全てを与えよう」

 

マティアスはペンを置き、椅子から立ち上がった。数週間の間に蓄積された疲れと苛立ちが、彼の言葉に滲み出た。

「ゼーリエ......もうダメだ。君が頭から離れないんだ。」彼は真剣な目でゼーリエを見つめる。「このままずっと、君は僕のそばにいるつもりなのか?...永遠に?」

ゼーリエは一瞬、驚いたように彼を見つめた。しかし、次の瞬間、彼女の表情が変わった。まるで長い間封印していた何かが解き放たれたかのように、彼女の顔に希望の光が浮かんだ。

「やっと分かってくれた...」彼女は小さく呟いた。

 

「何?」マティアスは混乱した。

ゼーリエは一歩近づき、珍しく柔らかな表情を見せた。「私たちの将来についだ。やっと聞いてくれたな」ゼーリエは柔らかな声で話す。マティアスが幼かったころと何ら変わらないその姿で、しかし内に秘められた感情はその時とは変わっていた。

マティアスは言葉を失った。彼女は完全に彼の言葉を誤解していた。怒りではなく、告白だと思っていたのだ。

「私はずっと考えていた」ゼーリエは続けた。彼女の声は普段の冷たさがなく、まるで夢を語るような響きを持っていた。「協会から少し離れた森の中に、小さな家を建てたい。魔法の障壁に守られた、私たち二人だけの場所だ」

 

彼女は窓際に歩み寄り、夕日に照らされる風景を見つめた。その姿は威厳ある大魔法使いというより、単なる一人の女性のようだった。

「庭には魔法で花を植えよう。季節に関係なく咲き続ける花々が、お前の詩のインスピレーションになるだろう」彼女の声には熱意があった。「書斎は東向きに作り、朝日が差し込むようにする。お前が好きなように設計していい」

マティアスは言葉を発することができなかった。ゼーリエがこれほど詳細に、このような夢を語るのを聞いたことがなかった。

 

「子供は...」彼女は少し躊躇った後、続けた。「二人か三人欲しい。魔法の才能を持った子供たちだ。私たちが教え導き、新たな時代の魔法使いとして育てよう」

彼女は振り返り、マティアスを見つめた。その瞳には、通常の鋭さではなく、何か柔らかな、脆い希望が宿っていた。

「朝は一緒に目覚め、夜は一緒に眠る。食事も共にし、研究も共に行う」彼女の声はだんだん熱を帯びていった。「四六時中そばにいて欲しい。お前が見えないと不安で...胸がしめつけられる。だから、常に一緒にいよう」

 

彼女は彼に近づき、両手で彼の頬を包むように触れた。

「私はエルフだから、お前より長く生きる。だからこそ、お前の人生の全てを共有したい。一瞬たりとも無駄にしたくない」彼女は囁くように言った。「お前が老いていくのを見守り、最期の時まで傍にいる。そして...」

彼女の声が僅かに震えた。

「お前がいなくなっても、私はお前との記憶を永遠に持ち続ける。エルフの呪いとも言える長寿を、お前との思い出で満たそう」

 

マティアスは圧倒された。目の前の女性は、大陸魔法協会の冷徹な創始者ではなく、ただ深く愛し、恐れ、希望を抱く一人の存在だった。

「ゼーリエ...」彼は言葉を探した。「僕は...」

ゼーリエは彼の言葉を待たず、指で彼の唇を優しく押さえた。

「答えは急がなくていい」彼女は微笑んだ。それは彼がほとんど見たことのない、純粋な喜びの表情だった。「私たちには時間がある。お前の人生分の時間が」

彼女は窓際に戻り、夕日が沈む様子を眺めた。その背中は小さく、ある意味で孤独に見えた。長い時を生きる者の宿命のようだった。

 

「寂しかった...」彼女は突然、小さな声で言った。「何百年も、誰も本当の私を見ようとしなかった。弟子たちも、分かり合えそうな奴は寿命で死んでゆく。でもお前は違った」

振り返ったゼーリエの目には、一筋の光が宿っていた。

「お前は私に、孤独ではない世界を見せてくれた。だから...」

言葉を途切れさせ、彼女は再び窓の外を見つめた。その姿が夕陽に照らされ、まるで炎のように輝いていた。マティアスはそれを見つめながら、返答の言葉を探していた。これは彼が予想していた会話の方向とはまったく違っていたのだから。




そういえば個人サイト以外では長年読み専だったのですが、初めての投稿で皆さんに見ていただいてとてもうれしいです。流行の文体とはずいぶん違った読み味でしょうけれども、お読みいただいている皆様には感謝しかありません。
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