黒蝕竜現る   作:ヒゲホモ男爵

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遅筆でした。
なので前話を覚えていなくても大丈夫な話をどうぞ。





【N/A】断章/1

 

 曇天蠢く大海原。

 高く立った波が無秩序に荒れ狂い、ついには横殴りの雨と雷が海面を打つ。

 

 およそ快晴とは程遠い、青空のあの字もない灰色一色の中を、力強く飛び続けるものがありました。

 

 黒紫色の体表。

 嵐のような向かい風をものともしない翼。

 絶えず生え変わり続ける細かな鱗を暗幕のように棚引かせ、矢よりも速く雲の下を突き抜ける黒。

 何よりも不自由で、何よりも孤独な黒。

 

 ──冠された名は『黒蝕竜 ゴア・マガラ』

 

 

 竜は「成長」と「廻帰」。

 その2つを起源とする種の生き物でした。

「成長」は言わずもがな。方々で弱者を喰らい強者を挫き、来たる脱皮に耐えられる体を作ること。

「廻帰」は原点への帰巣本能。個体の意志に関係なく種としての本能が指し示す一点、人が禁足地と呼ぶ場所へ還ること。

 

 竜の行動は一切全てにおいて例外なく、それらの起源を果たす為のもの。

 たとえ生まれた場所がどこであっても、自分という個よりも優先される本能に突き動かされ、時には引き摺られてでも、"知らない故郷に還る"という矛盾に終着する生き物。

 それがゴア・マガラというものでした。

 

 故に、本来であれば人よりも大きく、人よりも膨大な容量と演算能力を持つはずの大脳が、常として本能を叶える為だけに働かされていました。

 

 

『目的:脱皮と廻帰の成就(本能への従順)

『理由:不要』

 

 

 理性も、記憶もなく。

 個としての目的も、願いもなく。

 彼も彼女もないままに、極めてシステム的に。

 

 けれど竜が特段悲しむ事はありませんでした。だって何かが砕けたわけじゃない、元から無いものは砕けない。何もなくなっていないのだから悲しい事は何もない。

 そもそも、悲しいと思う何かさえ、持ち合わせていないのです。

 

 

 

 ───、──。

 

 

 

 なのに、空っぽの胸に走る痛みがあったのです。

 何も無いのが正しいはずの胸に、ちくちくと。

 

 

 

『───検索、──検索、────検索──』

 

 

 

 "それは明確な異常だ"

 そう本能が訴えるので、竜は痛みが何なのかを知ろうとしました。

 異常の原因を記憶の中から見つけようとしました。

 

 でもダメでした。

 異常があるのに、異常の原因が思い当たらないのです。それを何度も繰り返すうちに、ついに何が正常で何が異常なのか、わからなくなってしまいました。

 

 

『目的:本能への従順』

『理由:──不明』

 

 

 そうしていつの間にか、何も無い海の上に迷い込んでしまっていたのです。

 そして、行くあてを失い飛んでいるだけの的を見逃すほど、この時の海の主、肥大化した角を持つ海龍は寛容ではありませんでした。

 

「─────!!!!!」

 

 それは海底からの強襲。

 直下の水面、急速に大きくなる陰から飛び出してきた白鯨。名を大海龍ナバルデウス。

 後にとあるハンターに討ち取られる巨体がこの瞬間、深海から海面へ一気に飛び上がり、大口をあけ、空を飛んでいた竜をひと呑みにしようとしたのです。

 

「Gua──!」

 

 竜は身を翻し、これを回避しました。

 思考の沼に気を取られていたために動き出しが遅れ、寸前も寸前。ナバルデウスの歯が鱗先を掠めたものの、それでも胴の真横でガチン!と音をたてて閉じられる上下の歯に捕まる事だけは避けられたのです。

 

 ですが、ただ一度のやり取りで深海へ帰るほど、ナバルデウスは温和な性格をしていませんでした。

 ナバルデウスはその体躯の巨大さから浅瀬には出没せず、深海に生息する海竜種(翼なき竜)。いくら巨大な体躯に詰め込んだ筋肉からくる膂力があっても、海面から垂直に飛び上がった状態を維持する事はできません。

 本来であれば海中で狩りをするべき、空の獲物を仕損ねたなら諦めるべき──

 

 しかし、それは雑魚の思考。

 

 すんでの所で獲物に噛みつき損ねたナバルデウスはそのまま頭部を横薙ぎに振るい、横向きに肥大化した角を、未だ眼前にある獲物に叩きつけたのです。

 

 

 ナバルデウスの全長は約60m。

 ゴア・マガラは約20m。

 その差は歴然としており、ナバルデウスの肥大化した角はそれだけで、同種の中で大型であったゴア・マガラと同等以上の大きさをしていたのです。

 それがゴア・マガラの油断──突発的な回避機動によって隙だらけになった脇腹へ直撃。

 鈍い音と鮮血を散らして、その肉を抉りました。

 

 はらわたの一部を直接ミンチにされたゴア・マガラでしたが、弱肉強食の世界において群れも番も必要としないように作られた種が、その程度で息絶える事はありません。

 自身よりも重い角に肉を抉られ乱れた姿勢を即座に立て直し、人の腹を抉っておいて颯爽と海へ戻ろうとしているその横っ腹に、ブレス(黒蝕弾)を息早に3発、叩き込んでやりました。

 

「GuOoooo!!!?」

 

 その甲斐あって、悠々と身を返して水中へ帰ろうとしていたナバルデウスは水面に叩きつけられ、それはそれは大きな水柱を立てて沈んでいきました。

 

 

 ──これにて一件落着。

 一難は去った……と言いたいところでしたが、空に残されたゴア・マガラの怪我は酷いものでした。

 横腹は鱗ごと内臓がかき混ぜられ、出血は止まることを知らず、海へ落ちまいと翼を上下に往復させる度に噴きこぼれるありさま。

 赤く染まった海面には血の匂いに誘われて肉食の小魚が集まり、その下には、未だ諦める素振りのない大海龍が影を見せていました。

 

 

『推奨:安全な陸地への移動および回復』

『優先度:高。生命維持に甚大な障害』

 

 

 ゴア・マガラは、自らに負わされたその怪我が致死性のものであると理解しました。

 今すぐにでも、これ以上の出血が起こらないように体の動きを全て止め、傷口が自然に塞がるまで血の流れを緩慢なものにする必要がある。そうしなければ先にあるのは死だけだと。

 

 ──しかし。

 未だ自分を狙っている海中の外敵にとってはむしろ好機である事も、また理解していました。

 己の牙の届く範囲にあって足を引きずっている獲物を逃す捕食者など有り得ない。

 海中から機会を伺っている大海龍の気配がそう語っているのです。この先ゴア・マガラが力を失って海に落ちてくるまで、ずっとつけ狙って待ち続けるつもりなことは明らかでした。

 

 ただ逃げるだけでは、先に自分の体力が尽きて終わることも。

 

 

 故にゴア・マガラは、海面に向かってブレスを吐きました。

 自分を狙う影の巨大な気配を頼りに、1発、2発、3発──5発──10発。

 傷口から溢れる血と痛みに耐え、赤く染まっていた海面を吹き飛ばし、集まっていた小魚を粉々にし、間髪入れずに出せるだけのブレスを寸分違わず、ナバルデウス目掛けて吐き続けました。

 

 

 

 ……そうして半刻ほどそれを続けた頃、ナバルデウスの気配が無くなっている事にゴア・マガラは気付きました。

 

 ブレスは総数にしておよそ200発以上。

 海面が局所的に蒸発し、退けられ、海面下にあった己の体表が大気に晒されてようやく、ナバルデウスは諦めたのでした。

 こんなものを狙っても、割に合わないと。

 

 

 しかしようやく静かになった海の上にあって、ゴア・マガラの体は既に限界の先にありました。

 痺れて感覚のない手足、もう次の1発も吐き出せない焼けついた喉、1度羽ばたく度に高度の落ちる翼、それでも収まらない出血。

 外敵を退けてようやく手に入れた安全の代償は、もはやゴア・マガラに払えるものではなくなってしまっていたのです。

 

『推奨:安全な陸地への移動および回復』

『移動せよ──移動せよ──移動───』

 

 それでもゴア・マガラは己の起源を全うするため、己の命を継続させるため、翼を動かして前へと進みました。

 目を持たぬが故に宛のない暗闇の中で、唯一の頼りである嗅覚が捉えた()()()()()()()のする方へ、ただ真っ直ぐ飛び続けました。

 

 

 飛んで。

 飛んで。

 飛んで。

 飛んで。

 

 

 そしてゴア・マガラが最後に感じたのは、非情なまでに冷たくて寂しい、抜け出すことの叶わない海という終着に、絡め取られる感触でした。

 

 下に落ちる感覚。

 沈んでいく感覚。

 命が消えていく、感触。

 

 

『移動せよ──』

 

『移動せよ──』

 

 

『傷を癒すために──』

 

 

『傷を──』

 

 

 

『命を、継続──』

 

 

 

『命、を─』

 

 

 

 

 

『───しにたく、ない……』

 

 

 

 

 抗えぬまま、命が終わっていく【恐怖】。

 それを初めて知覚して、ゴア・マガラの命は海の深くへと落ちていきました。

 極めて無情に、極めて冷酷に。

 

 その個体は、黒蝕竜としての起源を果たせぬまま、空の青さを知らぬまま、1人ぼっちの海底で。

【恐怖】のあとに【孤独】を知って、それを最後に終わりました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ───終わるはずでした。

 

 

 

「──いちゃん、ちょっとこっち手伝って!」

「もう半日も作業してる、いい加減休むんだ」

「休んでたらこの子死んじゃうよ!」

 

 

 不思議なことに、ゴア・マガラの命は終わっていませんでした。それどころか人の声が聞こえてきます。

 何か切羽詰まった様子の(メス)の声と、落ち着きのある(オス)の声。

 痛み続ける傷口がこれが現実であることを語ってはいるものの、人間の声がこれほど近くから聞こえるなんて事は現実ではないように思えました。

 

「…わかった、何をすればいいんだい?」

「このままだと傷口が膿んで腐っちゃう、だから傷の断面を──」

「わかった、僕に任せてくれ」

「少しだけだよお兄ちゃん!少しだからね!」

 

 それはゴア・マガラにして要領を得ない会話でした。視力を持たないゴア・マガラでは状態がどうなっているのか知る事も難しく、とにかく体を動かそうとしたその時でした。

 

 

 ジュッ──!

 

 

「GAAAAAAAAA!!!!!」

 

 

 抉れた横腹が焼かれたのです。

 

『熱い!熱い!いたい!!』

 

 意識が朦朧としていたゴア・マガラもこれには堪らず覚醒し、自分の横腹に人間が2人取り付いている事を匂いで察知、即座に噛み殺そうと動きました。

 しかし首から下が痺れて全く動かず、結果首だけで動いたものが空を噛み切るだけに終わりました。

 それでもゴア・マガラの怒りは収まりません。自分の傷口に火をあてた人間に向かってあらん限りの咆哮をぶつけました。

 

 なのにその人間達は逃げるどころか退きもせず、なのに自分が知る"ハンター"がそうするように武器を構えることすらせず、依然として自分の傷口に手を突っ込み続けるのです。

 

『人間!人間!ころしてやる!ころしてやる!!』

 

 自分よりも小さな、よりにもよってこれまで幾度となく蹴散らしてきた人間などという種に、腸を弄ばれて死ぬ。こんなものが自分の最期なのかとゴア・マガラは嘆きました。

 何度噛み殺そうとしても首だけでは横腹まで届かず、威嚇とばかりに頭を地面に打ちつけても、人間は手を止めない。

 

 食われるでもなく、朽ち果てて自然に還るでもなく、弄ばれて死ぬなどと。到底認められる終わりではありませんでした。

 ならばせめてお前達の思い通りになってたまるかと、自ら死期を呼び込むようにゴア・マガラは首だけでも暴れました。

 暴れる度に、傷口からの出血が増えるからです。

 それは尋常ではない程の痛みを伴うものでしたが、ゴア・マガラは尊厳のある終わりを選んだのです。

 

『人間!人間!人間ッ!!!』

 

 最後に人間を恨んで、あらん限りの憎しみを残して終わってやろうとして──

 

 

「もうっ!暴れないでよ助けられないでしょ!!」

 

 

 その人間()の一言に、止められました。

 止まってしまった、とも言います。

 

 大型の竜種、よってゴア・マガラの脳は高い演算能力をもちます。常であれば生存を目的とした本能と外敵への抗争にほとんどに割かれているそれが、今際の際にあって人間の不可解な言動を受け取ってしまったのです。

 そして高い処理能力を持つが故に、この時初めてまったく理解不能な事柄にぶちあたったゴア・マガラの脳は止まってしまいました。

 

『助ける…?人間が、俺を?なぜ……なぜ??』

 

 といった具合に。

 

「なんだ、言えば分かるんじゃん。いい子だから、そのまま大人しくしててよね……!」

 

 そしてゴア・マガラが混乱して硬直している間に女は傷口の深くへと手を突っ込んで、何かをゆっくりと引き抜きました。

 その瞬間から、今まで頭を打つように響いていた痛みが、嘘のように消えてしまったのです。

 

 もう訳が分かりませんでした。

 どうすればいいかも分からなくなって、唯一動く頭さえも右往左往していたところに、ふと人間の手が置かれました。生温かい血にまみれた小さな手が。

 すぐに女の手だと分かりましたが、何故そんな事をするのか分かりませんでした。

 ゴア・マガラが知る人間とはすべからくハンターであり、ハンターとは小さな体であって自分たちと牙を交える生存競争相手。何度も死合ってきた相手。

 

 それがこんな……落ち着く手をしていたなんて。

 敵意以外で満ちた手があるなんて。

 

 

「さっきは痛かったよね、ごめんね……あなたの傷を治すためにはまずこれ以上悪くならないように焼く必要があったの……それから、砕けた鱗も摘出したし、折れて神経に刺さってた骨もさっき、抜いたから…今は出血が酷くて動けないと思うけど、そのうち……」

 

 

 こんなにも、心地良い温かさをもっているなんて。

 ゴア・マガラは知らなかったのです。

 

「ごめんお兄ちゃん、もう…げんかい……」

 

 その女はそれだけ言い切ると、ゴア・マガラの骨を握りしめたまま気を失って倒れてしまいました。

 ゴア・マガラは咄嗟にそれを翼で受け止めようとしたものの体が言う事を聞かず、直前でお兄ちゃんと呼ばれた男がそれを受け止めました。

 

「まったく、顔まで血まみれじゃないか。ちゃんと洗わないとどんな病気になるかも分からないっていうのに……」

 

 ゴア・マガラには、分かりませんでした。

 どれだけ考えても、分からないのです。

 なぜ、人間が自分を助けたのか。

 なぜ、自分は咄嗟に人間を助けようとしたのか。

 人間の手から感じた心地良さは何なのか。

 

 

『わからない、わからない……』

 

 

「君たち2人とも、今日はもう休むんだ。傷口は僕のほうで塞いでおくから……

 

 

 薄れゆく意識の中で、ゴア・マガラは自分の中で人間に対する認識の変化を理解していました。

 しかし、それを表現する言葉も感性も、未だ持ち合わせていないことに言い知れない悔しさのようなものを感じたのです。

 自分の中にあった【恐怖】を、【孤独】を、まとめて消してしまったあの手の心地良さを、なんと言えばいいのか。

 

 わからない。わからない。

 けれど、

 

『わかりたい……』

 

 その気持ちが、ゴア・マガラを変えたことだけは、間違いのない事実だったのです。

 胸の痛みが、消えた気がして。

 

 

 

 ▽▽▽

 

 

 

 次の朝から、奇妙な共生生活が始まりました。

 

 

 初めの日。

 

 まずゴア・マガラが、背中に当たる日が暖かくなったことで朝を知覚し首を起こすと、傷口に大きなあて布がされていました。

 まるで舟の帆のような大きさで傷口を腹ごと清潔に覆うには十分であり……そして何故か、本当に何故か、傷口を避けてこそはいるものの、自分の腹に頭を預けて眠る女がそこにいました。

 そして少し離れたところで、焚き火を立てて寝ずの番をしていた男もいました。

 

 昨日から翼をピクリとも動かせていないゴア・マガラではありましたが、翼が動かせずとも風に乗って無秩序に散っていくごく僅かな鱗粉がそれを教えてくれたのです。

 昨日の出来事が少なくとも現実だったことを。

 

 ゴア・マガラは次に、自分の体で動かせる部分を探る事にしました。

 昨日こそ首以外が全く動かせなかったものの、昨日は周囲の温度も分からないほどに衰弱していたものが今では意識せずとも分かる程度には余裕ができて、回復している。

 六肢を万全に…とは言わずとも、せめて足1本くらいは──そう考えてそこかしこに力を込めてみましたが、反応があったのは首から先を除いて右の爪先1本だけでした。

 それ以外はビリビリと痺れるばかりで、まるで自由に動かせそうにありません。

 

 人間に何かを仕込まれたという事ではなく、シンプルに血を失いすぎた事が原因で、体のほぼ全てが慢性的な麻痺状態に陥ってしまっていたのです。

 むしろ首から先は自由に動く事が奇跡なほどに、ゴア・マガラの出血は酷いものだったのです。

 1日や2日では足りないほど、長い休養が必要であることは明らかでした。

 

 

 出血自体は、今は止まっていました。

 それというのも、今に自分の腹を枕にして熟睡している女のおかげだというのですから、ゴア・マガラは動かない手で頭を抱えました。

 

 相も変わらず不可解な事実を理解できず、回復しきっていない体は首を上げていることにも疲れて、どさりと顎を地面におろしました。

 首の下には砂の感触、鼻を働かせれば潮風の匂いと少し離れたところに土の匂い。それから男の傍にある焚き火の匂い。

 自分の体が島の砂浜に寝かされていることが、新しく分かりました。そして自分と同じくらいのモンスターが全くいない事も。

 

 血の匂いも、縄張りを主張する匂いも全くしてこないのです。ゴア・マガラがこれまで訪れてきたどこよりも平穏な島だと言えるでしょう。

 ひとまず外敵を警戒する必要は無さそうだと鼻を鳴らしたところ、男が気付いて近づいてきました。

 

「やぁ、目が覚めたみたいだね。とは言っても君には目が無いようだけれど……よかった、周りのことは分かるみたいだ」

 

 男はそれだけ言うと、ゴア・マガラの頭の横にどっさりと腰をおろしました。

 いくら生きてきた時間の短いゴア・マガラであっても、それがおかしい事くらい分かります。何よりそこまで近付かれれば流石に男の(シルエット)はハッキリと視えるのです。

 男がハンターと同じ武器を腰にさげていることも。

 

 ゴア・マガラにとってハンターとは、人間(小さな命)の中でもとりわけ力の使い方が巧く、ハンターが言うモンスター(自分達)を狩らんとする者のこと。

 つまりハンターとはモンスターと狩り狩られの生存闘争相手。にも関わらず弱った自分に牙を振り下ろさない事が、全く理解できませんでした。

 それは自然の世界では目の前にこぼれてきた食糧を無視するが如き愚行、明日に食える確証もない世界での自殺行為。あまつさえ自分のような捕食者が被捕食者に成り下がることなど本来命の最期にしかない絶好の機会だというのに。

 

 ハンターが片手剣と呼ぶ得物に手をかける事すらせず、自分の横で呑気にあぐらをかいている男が、自分を助けた女のお兄ちゃんでした。

 

「ん、これかい?君を傷つけることはないよ、安心してほしい」

 

 ゴア・マガラの疑念が伝わったようでいて、男はくつくつと笑いました。

 まるで自分でもおかしいと思っているように。

 

「昨日は酷い嵐でね、風も強くて波も高く立っていたから、ここから西の崖にある洞窟…キャンプで大人しくしていようって言ったのに、妹が黒い影が飛んできていると言って聞かなくてね。飛び出して行ってしまったんだ」

 

浜辺(ここ)まで追いついてみれば、妹がもう君を海から引っ張り上げてるところでね、我が妹ながら行動力がありすぎる。編纂者なのに僕よりも先に行くんだから」

 

 ──男の声色は、優しいものでした。

 手のひらほどの呆れが含まれてはこそいるものの、それをまるごと包み込んで余りあるような親愛が、言葉を紡ぐ一音にまで溢れていたのです。

 ただ純粋に、聞き心地の良い声でした。

 

「……まぁ何であれ、妹は君を助ける事を選んだ、僕が武器を抜かない理由はそれだけだ。君が全く未知のモンスターであるとしてもね」

 

「なんて、モンスターの君が僕が言葉を理解してくれてるかは分からないけれど、ここまで大人しく聞いてくれてるなら期待しても良さそうだ」

 

 男はそれだけ言い終えると立ち上がり、果実をひとつゴア・マガラの口のそばに置きました。

 それから尚もゴア・マガラの腹部を枕にして熟睡している妹を抱き上げ、キャンプに帰ろうと西を向いたところで、あぁ自己紹介がまだだったね。と振り返りました。

 

 

 

「僕はアキラ、こっちは妹のリン」

 

 

「これからよろしくね、真っ黒なモンスターさん」

 

 





ゼンゼロのマルチイベント楽しいですね。
ストーリーがイベントで済ませていい内容じゃないことを除けば。

ブラザー、どんな女(男)がタイプだ?

  • 邪兎屋
  • ヴィクトリア家政
  • 白祇重工
  • 防衛軍・シルバー小隊
  • 防衛軍・オボルス小隊
  • 特務捜査班
  • カリュドーンの子
  • スターズ・オブ・リラ
  • モッキンバード
  • 怪啖屋
  • 雲嶽山
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