気付いたら2ヶ月が過ぎていました。
ごめんなさい。
アイデアが死んでたんですけどね、書くとなったら1日で書けました。なんなんでしょうね
昔の話が思い出せなくても分かるように書いてあるので、良かったら読んでってください。
ある日の朝。
ヴィクトリア家政、フォン・ライカン。
新エリー都において表裏を問わない代行業者、問題事解決のスペシャリストであるヴィクトリア家政の長たる男ライカン。
今日も整った身だしなみに精錬された所作、まさに紳士の象形と言って差支えのない男の顔が、苦悶に引きつっていた。
場所はヴィクトリア家政の拠点。
原因は1人の来訪者。
きっかけはその来訪者を連れてきた、ヴィクトリア家政メンバーのエレン・ジョーのひと言。
「この子、うちで働きたいんだって」
ここでまず10秒ほど巻き戻す。
ライカンは初め、拠点にて自ら茶を入れ、モーニングティーを楽しんでいた。
土曜日の朝8時。
もはやルーティンになって久しい朝のあれやこれやを済ませた上で、今日はとても珍しいことに何の仕事も入っていない完全なオフの日。
従業員たち…エレンは学友と遊ぶとも言っていなかったので多分家に居るかルミナスクエアをぶらついているのだろう、カリンは度胸を付けるなどと言い出してポート・エルピスに向かい、多分今頃はカモメとポテトの取り合いをしているだろう、リナは食材の買い出しに出ていった。
朝に自ら満足がいくまで清掃した喧騒とは無縁の空間、ライカンは満足気に尻尾を揺らしながら、これからリナの料理の犠牲になる食材達に哀悼の意を示しつつ、紅茶を口に運んでいた。
そんなところに足音が聞こえてきた。
ライカンの聴力はそれを正確に聞き取り、女性が2人、拠点に入ってきた事を理解した。
そしてなんと噂をすればというものか、片方の足音は聞き覚えのあるエレンのものだった。ライカンともなれば聞き慣れてさえいれば足音で個人を判別する事もできるのだ。なぜってすごい執事だから。
僅かな時の間、ライカンは客人を迎えるためにカップを置き、近くの椅子をこれから来る客人が座りやすいように少し引いておきつつ、もう1人の足音が誰なのだろうと考えていた。
考えずとも数秒後には顔が見えるだろうこと、分かっていても考えずにはいられないのが性というもの。
先を歩く足音がエレンのものであるならば、エレンと共にこのヴィクトリア家政の裏の顔がもつ拠点に立ち入る人物は誰であろうか。
休日気分のライカンはこの数瞬の思考ゲームが楽しかった、なんとなく探偵になった気分だ。たまにはこういうのもいいだろう。
気分はとっくに鹿撃ち帽*1を被っている。
さて探偵ライカンは考える。
"エレンが一緒に"というのがここではミソだ。
エレンはその性格からして、仕事以外で拠点には現れない。まして休日になど近寄ることもない。
そんなエレンが休日に拠点に現れた。
そこから同伴者を推察できるだろう。
ひとつは仕事の依頼人という可能性。
だがヴィクトリア家政の依頼受託方式は基本ネット、エレンが表向き従事している喫茶店のように表の顔を持ってはいても拠点自体は裏の顔のもの。
依頼を受託した後でない限り裏のヴィクトリア家政が依頼人の前に顔を晒すことはない。
それはエレンも理解し、よく守ってくれている。
ならば新規の依頼人ではなく、再びのご愛顧を頂いたリピーターという可能性。
しかしそれならば、1度依頼を受託したお客様には必ず渡している連絡先へ連絡を頂く方がずっと早い。
それこそエレンなら、「じゃあボスに電話してよ」と言いそうなものである。
やはり"エレンが一緒に"という点が大きい。
エレンの仕事に対する態度を良くも悪くも知っているライカンからすれば、あのエレンが休日にわざわざ拠点にやってくるような事だという意味になるのだから。
(エレンが拠点に連れて来そうな人、となると…)
条件は複数。
ヴィクトリア家政の裏の顔を知っていて、
エレンと関わりがあって、
なおかつエレンが休日に動くほどの関係値で、
女性。
──名探偵ライカンに電流走る。
ライカンは想起した、つい最近お近づきになった1人の伝説と名高いプロキシのことを。
『パエトーン』ことリンのことを。
ライカンは得心した。
なるほど『パエトーン』様なら納得がいく。
特に妹君のリンの方にあってはエレンと年齢が近く、行動範囲なども近いことだろう。
するともっとも妥当な可能性としては、休日のなかでばったりでくわして、何か相談事をされて拠点に連れてきた。といったところだろう。
エレンとリン様が仲良くしている様子はそれとなく耳にしているから、2人が一緒に現れても何ら違和感はない。
謎は解けた!……なんつって。
「ふふ……」
名探偵ライカン、ひとり満足気に鼻を鳴らす。
しかし現実は非情である。
「ボスいるー?」
ついにやってきたその瞬間、エレンは部屋の扉を雑に開いて現れる。
ノックくらいするように注意しようとして、できなかった。なぜならエレンが連れてきた人物が名探偵ライカンの推理を粉々に砕いたから。
本来そこに居ていい人物ではなかったのだから。
そしてエレンの次の言葉で、名探偵ライカンは店仕舞いを余儀なくされる。
「この子、うちで働きたいんだって」
「おぉお前覚えてるぞ、ライカンだろう、前よりもふもふになったか?」
「なに、ボスと知り合い?なら早く言ってよ」
「エレンのボスがライカンとは思ってなかった」
いつも通りに気怠げなエレンと普通に会話を交わしていたのは、かの『パエトーン』の探し人。
正式な依頼こそ受けてはいなくとも唯一外見を見知っているカリンと自分とで情報を集め続け、先の『脱走事件』の前には既にH.A.N.D.に嘱託として在留している事を突き止めつつも、H.A.N.D.とあっては容易に手出しのしようがなく、解決策のない情報だけを『パエトーン』に渡すわけにもいかず、自分達が手をこまねいていたはずの人物。
新エリー都の機密そのもののはずの人物。
ゴア・マガラ その人だった。
▽
ライカンは一旦思考を捨て、体を動かした。
そうしなければ動けなかった。
兎にも角にも一応は客人。
もてなしも出来ないようではヴィクトリア家政の名が泣くというもの、手早くゴア・マガラとエレンの2人を揃って客人用の椅子に座らせて、自分と同じ茶をいれる。
本来なら仕える立場の自分と同じ茶を客人に出すことなどまず有り得ないことなのだが、平静を繕うライカンの考えはそこまで回らなかった。
それに気付く人もいなかった。
「それで?エレン、説明していただけますか」
「あー……悪かったから怒んないでよ……」
ライカンは、怒ってはいない。
しかしエレンの言葉を否定しなかったのは、怒ってはいなくても不満や文句の1つでも言いたい感情が胸にある事を自覚していたからである。
だってライカンはエレンにも、リナにもちゃんと言っていたのだ。『パエトーン』の探し人…つまりゴア・マガラの外見的特徴を伝え、見かけたらすぐに報告するようにと。
リナはともかくエレンは『パエトーン』が何であるのかというところからの説明にはなってしまっていたけれど、とにかく今後大事にしたい顧客である事と理解させ、事の優先性を理解させた、そう思っていた。
しかし少し話を聞いたところ、なんと1週間は前から面識があったのだという。
それもただの顔見知りではなく、エレンが表向き従事しているメイド喫茶の同じ従業員として。
これにはライカンの顔は分かりやすく歪んだ。
ヴィクトリア家政の表の仕事は主に家事代行派遣会社だが、喫茶店もまた隠れ蓑のひとつ。
その中でヴィクトリア家政の裏の事情を知っているのはマスターと、今のところはエレンだけ。
喫茶店自体はクリーンな職場として、従業員の雇い入れなどは全てスキンヘッドが特徴的なマスターに一任していた*2。
たらればを言うなら、せめて従業員の雇用に関してはもっとよく見ておくべきだった。
最近は真の主たる市長からバレエツインズの清掃業務を依頼されたばかりで、準備に忙しくしていたから気付けていなかった。
……が、しかしだ。
なんで報告してないの?
報連相はどうした??
どうしてこんな事するの?悲しいじゃん。
もう叱るしかなくなっちゃったよ。
ライカンの心情はもっぱらそんな感じだった。
しかしここにはエレンの事情もあることだろう。
故に説明してもらおうではないか、報告をしなかった理由を、先程の発言の真意を。
「……どこから話せばいいかなぁ、やっぱ最初から?長くなるじゃん…………はぁ」
エレンはため息を吐きつつも、ボスのわりとマジな顔に大人しく白状する事にした。
悪気はなかったけれど、聞いたら絶対怒るか頭を痛めるんだろうなぁ……と思いながら。
事の発端はやはり1週間前まで遡る。
1週間前といえばかの『ゴア・マガラ脱走事件』から2日後、ゴア・マガラが治安局預かりになったことをライカン達が2日遅れで知った頃のこと。
驚いたことに、ゴア・マガラは既にかなり自由の身となっていた。
H.A.N.D.地下での軟禁生活から一転、今も朱鳶治安官と同棲しているのだという。
まずその時点でライカンは色々と口を挟みたい衝動に駆られたが、努力してそれを抑えつけた。
仮にもゴア・マガラは毒性を持つシリオンであり、そうでなくても機密性の極めて高い個人。それがいくら優秀な治安官の管理下とはいえ一般に出していいものなのかと。
主に安全性と責任に観点で。
ライカンのそんな表情を察してか、かなり事情を聞いていたらしいエレンは話を少し逸らして、ライカンの当然な疑問に答えた。
「この子の毒性…みたいのは、後ろのでっかい機械が何とかしてるんだって。この子は外を見るのに毒のある鱗粉を撒いちゃうから、機械が視界を肩代わりして、鱗粉を撒かなくて良いようにしたんだって。それでも動いたりで自然と撒かれちゃう分は掃除機みたいに吸ってるみたいで」
なるほどなるほど、とライカンは頷きを返しながら件の機械を見る。
2人が部屋に入ってきた時からゴア・マガラの背後をスーッとついてきていた機械にライカンは見覚えがなく、間違いなく新型だろうと察せられる。
機械の中では大型の部類とはいえ、見るからに精密機器の塊と重装甲のマリアージュ。そんなものを自律飛行させられるのは防衛軍くらいなものだろう。
ゴア・マガラにまつわる諸研究にはH.A.N.D.とホワイトスター学会の他に防衛軍もかんでいたと聞くし、技術力を提供していてもおかしくはない。
なら安全性は確か、と見ていいだろう。
現に今、ひとつのテーブルを囲んで近くに座っているというのに、ライカンの嗅覚に狂竜ウイルスの匂いはしてきていない。
なら、だとしても責任は誰が?
万が一が起きた時の責任は誰がとるようになっている?そもそも許可は誰が?
H.A.N.D.・防衛軍・学会どころか新エリー都の表裏全てが関わる3方火薬庫な超重要人物が軽率に外で活動する許可など、そもそも許可できる立場の人物さえ限られて──
──ライカンに電流走る。
名探偵複業である。
ライカンには覚えがあった。
ライカン含めヴィクトリア家政の真の主人、メイフラワー市長が1週間と少し前に黒蝕竜案件で連日会議詰めであったことを。
ライカンは半ば確信をもってゴアに問いかけた。
「ゴア・マガラ様、メイフラワーという名前に聞き覚えはございませんか?」
「ん?あるぞ、なんだったかな、色々と
──ビンゴだった。
許可を出していたのは現市長だった。
ゴア・マガラという存在をホロウ災害に対する特効薬としてだけ見れば、自由に外に出すメリットは全くない。
ホロウ災害撲滅のために兵器と同等に運用し、H.A.N.D.や防衛軍の完全管轄下に置いておくのがベストだ。
だがゴア・マガラは事実として新エリー都市民である、発行された市民カードがそれを証明している。
故にゴア・マガラは兵器ではなく個人として扱われなければならない。あくまで協力者としてH.A.N.D.・防衛軍・学会はお願いをする立場にあるのだ。
その上でも、これまではゴア・マガラを一般に生活させるには安全面のデメリットが大きすぎた。
しかしそれを新装備が解決し、責任諸問題は市長が引き受けたことにより、ゴア・マガラが拘束される正当性は失われたのだ。
だがそれはそれとして、万が一が起こった際の市長への責任追及は免れない。
市長がそれを容認したという事実に、ライカンは呆れつつも感嘆するほかなかった。
ならば話は次へと移る。
「……なるほど、ゴア・マガラ様が外に出てきている理由はだいたい理解しました。それで、なぜ
「わかってるから急かさないでよ…ちゃんと話す」
「がんばれエレン」
「あんたも手伝うの」
「まじ?」
「大マジ」
既にそれなり打ち解けているらしい2人は、代わる代わる互いがよりよく知っている方を担当する形で話し始めた。まずはゴア・マガラが喫茶店に務めるに至った経緯から。
「お金が欲しくて、バイトさがしてた」
「……なぜお金が欲しかったのですか?」
「お金返すためなんだって」
ゴア・マガラいわく。
H.A.N.D.・防衛軍・学会などが自分について研究を重ね、他者を傷付けることなく世界を見る手段を提供してくれた。そしてそこまでに沢山のお金が使われた事を知った。
誰も彼もが自分に優しく、それどころか着るものや食べるもの、住む場所を提供してくれた。
その恩を返すために、自分のために消費された金銭を補填しようというのだ。
そこにちょうど、喫茶店のバイト募集を見かけ……という経緯だったらしい。
そもそも鱗粉の研究など人類に対する多大な貢献をしている時点で、恩を返されるどころか新エリー都そのものがゴア・マガラに対してまだ恩を返しきれていないだろう。
…とライカンは思ったが、口にはしなかった。
ゴア・マガラの瞳にある意思が固かったからだ。
あとはゴア・マガラが後付け気味に「あと自立したい」と言ったのもある。年齢としてはずっと若いものの、社会を経験し自ら稼ぐこと自体は悪くない。
──ゴア・マガラが喫茶店で働くに至った経緯はわかった。エレンともそこで知り合ったのだろう。
ならばやはり表の顔たる喫茶店から裏の顔たる拠点にやって来た理由を聞く……前に、ライカンは喫茶店での話を聞きたくなった。
これは単純に、ゴア・マガラという個人に興味を抱いたからにほかならない。
ホロウに対するアンチ、災害に苦しむ世界の救世主……そんな見方をする前に、ゴア・マガラ個人を知りたくなった。
思い出すのはバレエツインズで初めて会った日のこと、あの時の絶対的強者の鋭い眼光が、今では年相応に柔らかいものになっている。
これが彼女の素なのであれば、彼女が素を出せるようになった事と、彼女が素を出している場に自分も居ることに喜びを感じる。
なにより日頃から素っ気ないエレンに新しい友人ができたことに安堵している。
親目線とでも言うべきだろうか。
名探偵から変わって、学友を連れてきた娘に話を聞くような心持ちになっていた。
日頃からライカンもリナも、それこそ親のように心配していたのだから。
「エレン」
「なに?」
「1週間、一緒に仕事をしていたのでしょう?」
「まぁそうだけど」
「話を聞かせてくれますか?」
「え、わたしなの?
「貴方の口から、聞かせてください」
「えーめんどくさ……何その笑い方割とキモイんだけど、生暖かい目で見ないでよ」
「お気になさらず」
「え──………………」
エレンは自らに向けられた妙に温かい視線に鳥肌ならぬサメ肌を立てつつも、話す事はしっかりと話してくれるようだった。
ただ、話始めから気になるワードが飛び出す。
「だいぶ酷いよ」
「……うん?」
ライカンは首をかしげた。
エレンの声色には謙遜のそれは一切ない、淡々と事実を表現するように"酷い"と言った。普段の振る舞いよりもずっと気遣いが出来るはずのエレンが、キッパリと酷いと言った。
嫌な予感がした。
「皿割り32枚、ティーカップ砕いたのが12個、爪でダメにした制服が1着、お客様用のテーブル1つ、茶葉を缶ごと潰したのが1つ、窓拭きで割ったガラス2枚、一気にたくさん配膳しようとして何回か商品ダメにして……あーあと最初の頃は支給の制服だったから尻尾でスカート持ち上がっちゃってて、盗撮してた
「え、エレン……?」
「ぜんぶ力加減ミスって壊した分、このままだと3ヶ月くらい給料無しだから、ちゃっちゃとお店側にお金返せるように
出るわ出るわ不祥事の数々。
なんとゴア・マガラの返済先にいつの間にかヴィクトリア家政が追加されていた。
まさかと思って帳簿を確かめてみれば、たしかに直近に喫茶店でかなりの物損費が発生している。富なる方々から依頼を受けてもいるヴィクトリア家政にしてみれば多くない額ではあれど、確かにアルバイトでは3ヶ月経ってようやく返せそうなディニーの数。
自分で請求を確認し帳簿をつけたはずなのに、件の喫茶店は依頼人を逃がすのに使ったりと荒事の場に用いることも稀にあって、物損費を見慣れてしまっていた。
──ライカンは自らを落ち着かせる。
鉄面皮に努め、それがかえって仏頂面になっている事に気付けないまま、ひとまず話を一通り聞き終えるのが優先だとして残る問題、なぜ報告をしなかったのかという点に論点を移す。
「それは……」
「エレン、怒らないから正直に」
口どもるエレンに、ライカンはおよそ検討がついていた。きっとゴア・マガラが件の探し人だと分からなかったのだろう。
エレンという人柄を知っていれば納得できる、こと仕事の結果においてはストイックな彼女が、故意に報告を怠ったなどという事はありえない。
なら分からなかったが妥当なところ、なぜならエレンは直接探し人の容姿を見ていないのだから。口伝だけで人探しには限度があることは初めから分かっていた。
ライカンとカリンが接触し、特に長くバレエツインズでゴア・マガラの姿を見たライカンが主に伝えた容姿は5つ。
黒紫色の長い髪。
閉じきった瞼。
額から生えた一対の角。
鱗に覆われた翼腕と尻尾。
髪と同じ色のドレス。
今エレンの隣にいるゴア・マガラと一致するのは髪と瞼、尻尾くらいなもの。
角は露出していないし、翼もオーバーサイズな服の中に収納されているらしく、そして服はラフなもの。
今見える材料だけではドラゴンのシリオンとは言えず、どちらかと言うと爬虫類のシリオンという表現が近いように見える。
何より目立つ傍らの機械、この情報は無かった。
見て分からなくても責は問いようもない。
実際ライカンの推測は正しかった。
「教えてもらった外見とか、髪とかそういうのは一緒だったけど肝心の翼が無いしさ……抜けてるとこあるけど普通の女の子だったっていうか」
「私が話したイメージとは結びつきませんでしたか」
「まぁ、そんな感じ……あとカリンちゃんがこの子の制服カスタムするの手伝ってくれたんだけど、その時カリンちゃん何も言わなかったから」
「……うん?」
「実際見たっていうカリンちゃんが反応しなかったなら、じゃあ別人なんだろうなって」
「待ちなさいエレン、カリンも知っているんですか?それどころか実際会っていると?」
「うん、あとリナも知ってる」
「………………???????」
「前にリナの料理、別でお腹いっぱいで処理…食べきれなかった時に食べてくれてさ、美味しいって言っててさ。前に直接店にリナが料理持ってきた」
話が変わってきた。
リナはまだいい、エレン同様ゴア・マガラの容姿を直接目にしていないので、エレン同様に説明がつく。それでもリナであれば気付いてくれそうなものだとは思いつつも、問題はそこではない。
何をしているカリン・ウィクス。
度胸付けにポート・エルピスに行ってる場合じゃないぞカリン・ウィクス。
カモメにポテト取られてる場合じゃないぞカリン・ウィクス。
どうしてそうなったカリン・ウィクス。
わなわなと震えるライカンを見て、エレンが携帯の画面を見せるように差し出した。
ライカンは反射的に画面に映るそれを見た。
「たぶんだけど、これが原因じゃないかな」
そこに映されていたのは1枚のイラスト、おそらくゴア・マガラなのだろうか?
そう思ってしまうほどに一瞬分からなかった。
服装などはたしかにバレエツインズ当時のものだが、顔があまりにもアニメチックにデフォルメされている。ぺろりと舌までキューティに出していて、とても当時のゴア・マガラは想起されそうにない。
言うなればカリン画伯の絵。
「まさかこれを元に、探していたと……?」
「たぶん」
ライカンは座っているはずなのに立ちくらみがした。クラっときた。
……いや、カリンの事は責められない。
バレエツインズでゴア・マガラと初めて出会った時、ライカンは自身の判断ですぐにカリンを撤退させたのだ。
つまりカリンがゴア・マガラを見ていたのはかなり僅かな時間のみ、時間が経てば記憶が劣化してしまってもおかしくはない。
おかしくはないが……いくらなんでも変化しすぎだろうと思わずにはいられなかった。
「……なるほど、なるほど」
ほとんど自分に言い聞かせていた。
もう全部過ぎてしまったことで、ゴア・マガラは自分の前に現れてしまったのだからと。
自分が今すべきはゴア・マガラへ仕事の斡旋。
そして散らかった手元を整理したのち、可及的速やかに『パエトーン』の2人へゴア・マガラの所在を報告するこ──
椅子から立ち上がろうとした矢先、ライカンに
「どしたのボス、ぎっくり腰?」
「なんだライカンは歳なのか?」
「断じて違います」
少女2人からの老体発言を流し、立ち上がり動作を再開し、携帯で手早くメールを打つ。
送り先は多忙で電話には出られないであろう主人。
内容は、ゴア・マガラの存在を『パエトーン』に紹介してよいかという確認のもの。
主人たる市長は既にライカンがバレエツインズで後のゴア・マガラと接触した事を知っている。
2人から聞いたこれまでの経緯を交えつつ、その時の協力者パエトーンがゴア・マガラを探している事を伝え、両者の再会に介入してもよいかという。
あえて確認をとる事にしたのは、これがかなりデリケートな問題だからだ。
思ったよりも返信は早くに返ってきた。
『──他ならぬ君が判断した事なら私は基本的に君を信用し、任せたいと思っている。
しかしこの件だけは拒否させてほしい。
君も、かの協力者パエトーンも裏稼業の人間、それらと彼女の接点が今露呈する事は避けたい。
今も会議中でね、彼女を前線に引き戻す派と自由を確約するべき派で争っている。
もっとも後者は彼女をどうにかして手中に収めたい連中で、彼女が自由にしている方が都合が良いだけらしいから、結局どちらも私としては敵なんだが。
他意はないが、後ろめたい立場の人間との接点は弱点になる。そこから強引に許可を出した私への信用問題へこじつけられかねない。
市長という立場は失うに惜しい、君達の土台を支えてあげる事が難しくなる。
タイミングは……市長選が終わったあとにでも。
その時にはパエトーンとも連絡をとりたい。
説明が遅くなりすまない。』
ライカンは携帯を閉じ、深呼吸をする。
休日は終わりを告げたのだ。
「ゴア・マガラ様…いえ、ゴアさん、貴女に仕事を依頼します。ここから先は他言無用です」
「たごん……?」
「秘密という意味です、それから今後貴女の事は
「分かった」
保護者の朱鳶から見て覚えたのか、手だけでピシッと敬礼して答えるゴア・マガラ。
「エレン、前にブリーフィングをした件は覚えていますね?」
「え?まぁ少しは……って、マジで言ってるの?」
「大マジです、彼女の実力は私が保証します」
エレンはライカンの言葉の意味を理解し、そのうえで理解できないと目を開く。
エレンが求めていた仕事というのは、おそらく別のバイト先の紹介などを求めていたのだろう。
しかし実のところヴィクトリア家政としても人手が、特に荒事に長けた助っ人が欲しかったところなのだ。それというのも市長から依頼された
かつてライカンが少女と初めて会った場所。
「バレエツインズホロウに、同行していただきます」
ゴア・マガラ、ヴィクトリア家政の臨時アルバイトになる。
Tips:
ちなみに朱鳶はゴア・マガラと同棲しているため、割れた皿の数はヴィクトリア家政の比ではない。
皿を山のように買ってくるぐらいの事はやってのける。
毎日力加減の修行中である。