「招待状?」
「はい」
「…僕に?」
「はい」
「僕だけ?」
「そう…なりますね。身の安全は保証します」
僕は今、洒落た…良くわからない手紙を受け取って、その中にある中々に硬い紙を見ながら話している。僕だけに招待状。しかも前の宴会で中々に親睦を深めた、と思うレミリアさんから。が、しかし。僕だけが行くとして、早苗ちゃん達になんで伝えれば?時間になれば目の前の銀髪メイド…スカートがこの季節に良く似合うロングスカートを着ている十六夜さんが案内に来るらしいが。
「…」
「御返事は今日、この場でお願いします」
「えぇ…」
「良いんじゃないか?身の安全は保証してくれるんだろうし。なんなら私の加護を与えても良いぞ」
「神奈子様はそう簡単に言いますけどね」
今は早苗ちゃんが布教活動に出かけているからこの話ができているのであって、もし早苗ちゃんがこの場にいれば怖い目で十六夜さんを追い出した上で僕に怖い目で質問を続けたことだろう。あの目はとても怖い。なので、僕としては…んー…でも断るのも気が引ける。受け取るとしよう。神奈子様と諏訪子様に早苗ちゃんのことを押し付けることにはなるけど、人脈は広げていきたいし。
「わかりました。では、本日の日没に迎えに来ます」
「はーい」
「招待状を持ってこの場に来てください。良いですね?」
「…なんかあんの?」
「それがないと館の中では襲われてしまいますから」
おいおいおい、俺殺されるんじゃないのこれ。嫌だわぁ。野蛮だ。やっぱり早苗ちゃんに…いやでも、神奈子様に任せたことだし。加護は貰わないけど。そんなこんなで日没寸前。おそらく早苗ちゃんと行き違いになるくらいのタイミングだろう、と思い少し早めに招待状を持って待機。しかしまあ、待つと時が流れるのは早く。遠い地平線に太陽が沈もうかどうかと言ったときに、それは起こった。
「っえ?」
「は!?」
招待状がどんどん広がり、そのまま僕に覆い被さる。気がつけば、赤色以外を知らなさそうな館の目の前へ。変な人いる…なんで寝てるの…?でも外で平然と眠るってことは多分、妖怪なんだよな。触れずに…ん?あ、あれ?さっきまで僕を包んでいた招待状は?…まさか、失くした?門番さんに勇気を出して伝えるか?しかしその場合僕が喰われてもそもそも招待状を持った客なんか来てませんとなるわけで…
「すみません。先日の宴会で東風谷早苗が面倒そうだから、とこのようなお迎えをさせてもらいました」
「いや、あの、…招待状…無い…」
「それが?」
「食べられる…?」
「ああ。私は人間です。人間の私が生きているのだから、貴方も大丈夫ですよ。」
「はぇ…」
「お嬢様のところまでは私が案内人を務めさせていただきます」
「はぁい」
十六夜さんの背中を歩く。門番さんはいつのまにか起きていて、なんかこう、すんごい目でこっちを見ていた。何、怖いよ。門を潜って出てきたのは、見た目よりも大きい廊下だった。疲れそう…と思いながらも歩みを進める。その間僕は十六夜さんからの質問攻めにあっていた。何が好きか、なぜ幻想入りしたのか、東風谷早苗とはどのような関係なのか。外の世界ではどう生きていたか。そんなことを。
「お嬢様」
「あら、やっぱり来てくれたのね」
「呼ばれたからにはね。それで?僕は今日何かあって呼ばれたの?」
「…話がしたいからだけど?」
「えっ」
「用と言える用事はないわね。話したいから呼んだだけ」
「…」
嬉しいのやら悲しいのやら。少し反応に困る。レミリアさんは優雅なやり方で紅茶を飲んでいる。僕はどうすれば良いのかわからないので、とりあえず目の前にある洋菓子を頬張る。洋菓子でも口の中の水分持って行くやつあるんだ、驚き。紅茶を飲む。なんというか、外の世界で良く飲んだインスタントな味ではないことがわかるくらいだ。他のことは良くわからない。全然。
「さて、先日の続きでもしましょうか。私の眷属になる話」
「うぇ」
「そう苦い顔はしなくても良いでしょ。まあ、嫌がる気持ちも…少し…少しだけは分かるけど」
「少しかぁ」
「だって…人間をやめたらメリットだらけなのよ?まあ、眷属だから多少の制限はつくけど」
「制限あるじゃないですか」
「私の意見に逆らえないとか、私が常に位置を把握できるとか、日光に当たらない限り死なないとか」
「…もしかして今メリットの方挙げてます?」
「そうよ?後、力が強くなるとか」
どうやら価値観からして違うらしい。僕としては短命の方がいいからだ。ていうか僕のメンタルで長命の方が困る。かなりの確率で無理になるはずだ。とか思ってたら、それを察したレミリアさんから無理強いはしないとだけ言われた。それならありがたい。ありがたいのでどうか僕を見つめないでもらいたい。とても気まずい。その会話が終わったなら帰ってもいい?良くない?ダメ?そう…
「夜明けまでは付き合ってもらう予定よ」
「夜明けまでこの沈黙の中…?」
「それなら貴方が話したいことを話せばいいじゃない。かずきがかー君なんて呼ばれてる経緯でも良いのよ?」
とかなんとか言ってたら、ドアが叩かれた。ノックとかではなく、こう、マジで叩かれた。壁をドンドンと、時間が経つにつれ音が大きくなって行く。レミリアさんにアイコンタクト。開けたいのならば開けても良いと言われたので開ける。夜更かししてる時の騒音ほどうるさいものはないからだ。開けたらそこには人がおらず、下を向けば吸血鬼…?今のところ判断材料が翼しかないが、その翼が歪な人がいた。金髪、白い帽子、赤い服、七色の羽。そんな感じの人。
「フラン…」
「何こいつ。私のために取ってきてくれた血液?」
「ちょっと失礼?」
扉を閉める。レミリアさんを見る。見るというよりは説明を求める情けない顔を晒すと言った方が早い。ドアがまた叩かれ始めた。今度こそ僕死ぬんじゃないの?
「アレはドンドン。私のバギッドンで、私とバァンッ吸血鬼。でもゴォンッして、貴方は私のズドォンッよ。手はガァンッないわ」
「すみません扉を叩く音でほとんど聞こえません」
「…眷属になるバァンッとして、耳がズガガガわ」
「すんませんほんとわかんないです」
言ってることの要約
貴方は私の客人だから、私の妹であるフランは手が出せないのよ