ジークアクス世界の闇堕ちアムロ 作:gジェネサイコー
"時間がない。無視する。"
(今は……今は無理……)
「大丈夫。気のせい、みたい。」
そう返すと、スラスターを吹かし進路を修正した。
視界の隅に影が遠ざかっていく。
しかし胸の中にはわずかな引っかかりが残っていた。
(……気のせい、なんかじゃ、なかった……よね……)
それでも今は、クランバトルに集中するしかなかった。
マチュは目の前の戦場へ、意識を切り替えていった。
ホワイトベースJr.は宇宙を滑るように進んでいた。
目指すはサイド6。
アムロは妻・シイコが「旧友に会いに行く」という言葉だけを信じていた。
それが今になって、クランバトルに出場していることを知るまでは――。
「……なんで、そんな……一言も……。」
艦内で集められたデータが端末に映し出されている。
対戦相手はハラヘリムシ。機体は赤いガンダム。
その姿を見た瞬間、アムロの内心は冷たく波打った。
(あれを――放っておけるはずがないだろう……。)
すぐさま、エコーズから追加の報告が入る。
「念のため、彼女の動きに合わせて女性隊員2名を民間人として配置していましたが――」
と前置きされたその通信には、不穏な内容が続いていた。
「直前になって何者かの妨害を受け、二人はシイコさんと引き離されました。現在も連絡不能。……内部情報が漏れていない以上、妨害の手口から見て、諜報機関の関与の可能性が高いとのことです」
アムロの表情がわずかに陰る。
「……シイコ本人には護衛がついていることは伝えていなかった。だからこそ、彼女は自分が誘導されているとは気づいていない……。それも、向こうの計算か」
理性では怒りを抑え込もうとしていた。
だが、胸の奥では苛立ちと焦燥が膨らみつつあった。
情報収集は急ピッチで進められた。
赤いガンダムは既にビットを失い、主武装はビームサーベルとガンダムハンマーのみ。
弾薬は枯渇している公算が高い。
加えて、敵のマブのジオンの新型ガンダムらしき機体のデータも確認していた。
パイロットのマチュ。武装はヒートホークのみ、機体性能もそこまで特筆するものではない。
問題は――妻の機体だった。
アレックスはサイド6へ持ち込んでいない。
現地で手配したゲルググ改に、モスク・ハン博士がマグネットコーティングを施してはいる。
それでも、シイコが勝つ可能性は高いと、理性では分かっていた。
しかし、相手はあのゼクノヴァを起こした赤いガンダムなのだ。もしそれを使われてしまえば、腕の差など無意味になる。
「……ブライトさん、急いでくれ。……嫌な予感がする。」
艦橋奥、ブライト・ノアが頷いた。
「最大速度で向かっている。……安心しろ、クランバトルの開始10分前には間に合う。」
アムロは短く息を吐いた。
その隣、テム・レイも険しい顔で画面を睨んでいた。
「まさか、今になって“赤いガンダム”がまた現れるとはな。……二度も、あのガンダムに奪われるわけにはいかん。」
そこまで言った時だった。
「艦長!正面、戦艦4隻確認!モビルスーツ隊、16機接近中!」
オペレーターの声が艦内に響いた。
ブライトがすぐさま指示を飛ばしかけた――その時。
「……通信、入ってきます。モビルスーツ側からです!」
画面が切り替わった。
映ったのは、年若い青年のジオン軍人――ギュネイ・ガス。
「止まれ、連邦の敗者ども。」
凍りつくような低い声が艦内に響いた。
「アムロ・レイ、いるな?」
アムロの眉がわずかに動いた。
「こちらはお前の“女”が戦う場所の付近に、特殊部隊を伏せている。
……バトルが終わり、お前の女が消耗しきったところを――モビルスーツ10機がかりで襲撃し、殺せる状況だ。」
艦橋が静まり返った。
「……分かったら、アムロ・レイ。お前1人で、新型ガンダムに乗って出てこい。
ホワイトベースからは誰一人出すな。これは最後通告だ。」
画面が切れた。
「……罠だ!アムロ、絶対に出るな!」
ブライトが即座に叫ぶ。
テム・レイも顔色を変えて言葉を重ねた。
「出たら思う壺だ!あの部隊はおそらく、囮だ!……ここで我慢しろ!」
だが、アムロの目は静かに燃えていた。
「……それでも、シイコを殺させるわけにはいかない。」
そう呟くと、背を向け、ブリッジから出ていこうとする。
「待て、アムロ!今は冷静に――」
ブライトの声が背後から飛ぶ。
「……冷静だからこそ、行きます。僕しか、止められない。」
それだけを言い残して、アムロはアレックスの格納庫へと向かっていった。
(絶対に――死なせない。)
その背には、一切の迷いはなかった。
【ジオン側視点】
【キシリア・ザビ 私室】
薄暗い部屋の奥。
鋭い目を持つ女将軍――キシリア・ザビは、静かに薄く笑った。
机上に広げられたモニターには、最新の情報が次々と流れている。
そこには、連邦軍の量産型モビルスーツ――ネモの初期型の詳細な解析データもあった。
「……やはり、間違いない。」
横に控える部下の諜報官が小さく頷く。
「……ゲルググなど、もう子供の遊び道具だ。」
口元が冷たく吊り上がる。
連邦は戦後、防諜に対して異常とも言える警戒を強めていた。
それでもキシリアは多くの部下を犠牲にして、旧型のネモの量産機設計データだけは手に入れた。
その性能は驚愕だった。
だが――
「……惜しいのは、そこだ。」
キシリアの指がテーブルを軽く叩く。
ネモの設計図には確かに高度な構造が記されている。
だが肝心の――ガンダリウムγ、その製造工程と素材組成の情報だけは、鉄壁の情報封鎖に阻まれていた。
「……ただの設計だけでは、追いつけぬ。」
ゲルググの骨組みをいくら改良しても、ネモの装甲強度や機動性には届かない。
ましてや、その母体たる“アレックス”など……。
「たかが量産機で……これほどの差とは。
これで“アレックス”の性能など、想像すら恐ろしい。」
ネモですらゲルググを遥かに凌駕する。
ならば、その母体となったアレックスとは、どれほどの怪物なのか。
キシリアの瞳に冷たい光が宿る。
「ならば……同じ手を使えばよい。」
――奪えばいい。
赤い彗星がかつてそうしたように。
「……赤いガンダムを餌に、“防諜の隙間”から、あの女に“情報”を届けさせた。そのために諜報部の多くを使い潰したが、その甲斐はあった。
見事に動いたな――シイコ・レイ。」
手はずは整っている。
シイコがアムロ・レイの元を離れれば――狩るのは容易い。
「伏兵は既に配置済み。
夫が妻の危機に動けば、さらに好都合。」
キシリアは薄く微笑んだ。
「……現場の者には私の名は出させていない。
全てはギレン総帥の名義で命令が下っている。
失敗しても、連邦の矛先は兄へ向かう。
私は静かに“果実”だけを頂くだけ。」
モニターに別の映像が映し出される。
近くに配置した自らの 子飼いの監視艦からの通信映像だ。
「……彼らには悟らせるな。
アムロにも、ギュネイ・ガスにも……。
こちらにすべての映像と音声を送らせておけ。」
静かに命じる。
シイコ・レイが“赤いガンダム”との戦闘後、疲弊した隙に撃墜。
アムロが来れば、そのままアレックスごと鹵獲する。
「完璧な布陣だ。全てが予定通りに進んでいる。」
指先がカップに触れる。
「……これが成功すれば、アレックスは私のもの。
兄は連邦に憎まれ、私は次の戦局の“主導権”を握る。」
全てはそうなるはずだった。
だが――この時、キシリアは知る由もなかった。
この完璧な策略を“思わぬ味方”――ギュネイ・ガスの独断が最悪の方向へと導いてしまうことを……。
しかし、その責をギュネイに求めるのは愚かだ。何故ならこれはキシリアが始めた作戦なのだから。
【宙域・ギュネイ・ガス隊との対峙】
宇宙の虚空に静かに姿を現す一機のガンダム――アレックス。
その操縦桿を握るのは、アムロ・レイ。
眼前には、ギュネイ・ガス率いる16機のビット付きニュータイプ用モビルスーツ。
濃密な殺気が渦巻いている。
通信が入った。
「通告通り……俺1人だ。」
モニターに映る若い強化兵の顔に、一瞬驚きが走った。
「……シイコの付近にいる特殊部隊への攻撃の停止命令を出してもらおうか。」
ギュネイの顔がゆがむ。
「そいつは……まだだ。」
舌打ち混じりの声。
「お前が“連邦最強”だってのは知ってる。
ここで通信だけ送ってお前に好きにさせりゃ、こっちは全滅だ。
捕虜になってもらう。武装解除が確認できたら攻撃の停止命令を出してやるさ。」
コックピットでアムロは目を細めた。
これが連邦にとってはマイナスしか生まない選択だと解っている。この機体にはムラサメ博士とリタがようやく完成させた、ジオンが兵器としてゼクノヴァを利用してきた時のカウンターとして、希望となるものが搭載されていた。父とアルレットとムラサメ博士達の総力を結集させ数日後に完成させることになる次のガンダム程ではないとはいえジオンに渡して良い機体ではない。
だが――家庭を持った今の自分には、シイコを見捨てて戦うなど、ありえなかった。
「……すまない。親父、またガンダムを――」
だがその言葉を、テム・レイの声が遮る。
「良いんだ。」
強く、穏やかに。
「お前達の命に変えられるものなど――何もない。」
一瞬の沈黙。
それを聞いていたギュネイの表情が歪んだ。
怒りと、妬みと、歪んだ誇りが入り混じった顔。
「何だそれは」
負の感情がコクピットに響き渡る。
「お前は“連邦で最強”と呼ばれる存在だろう!?
……俺たちは!!」
言葉が途切れ、拳が震える。
「……俺たちは力を得るために……体を切り刻まれたんだぞ!?
それ無しで、何も切り捨てずに、普通のままで……お前は最強になったってのか!?
それでいて今は……組織を裏切るような真似してるのに許されるのか!?
そんな事、あって良いわけがねぇ!!」
怒りのまま、ギュネイの機体が前へ出た。
ヒートロッド――電撃を纏う長鞭状の武器が繰り出され、アレックスの右腕に絡みつく。
「……何のつもりだ?」
アムロの声は冷静だった。だがその奥に静かな怒りがあった。
「い〜や……女のことが気になるようだからな。」
ギュネイの瞳が狂気を帯びる。
「すぐに“武装解除”してやるよ。
お前が気絶したら通信を送ってやるってことだ!!」
――放電開始。
ヒートロッドから強烈な電撃が流れ込む。
アムロのアレックスが瞬間的に動きを止めた。
その光景を遠くの子飼いの船から――そしてキシリアの元へ、リアルタイムで映像が送られていた。
【キシリア・ザビの私室 / 秘匿観測艦内】
巨大なホロスクリーンには、今まさにギュネイ・ガスの機体がアレックスの腕にヒートロッドを絡め、放電している光景が映し出されていた。
その様子を見た瞬間――キシリア・ザビの眉間に深い皺が寄る。
「……ギュネイめ!何をやっている!!」
苛立ちがこもった声が室内に響いた。
(殺すなら――鹵獲してから、艦内で適当な理由をつけて殺せば良いものを!)
紅い爪の指先が肘掛けを軽く叩く。
「今すぐ止めさせろ! ここでアムロ・レイを殺せば、面倒なことになる!
奴は今や“連邦の希望”――殺しては英雄を作り上げるだけだ!」
だが、冷静な声で参謀格の部下が答える。
「……しかし、そのためには奴らに通信を行う必要がございます。
そうなれば、この観測艦が存在を知られ、キシリア様の関与が露見する恐れが……。」
「――!」
キシリアは低く舌打ちした。
「やはり……強化人間など使い物にならぬか。」
吐き捨てるように言い放った。
その言葉を聞きながら、側に控えていた参謀は心の中で小さく冷笑する。
(その“強化人間”にニュータイプへの劣等感を、これでもかと植え付けたのは――他ならぬあなたでは?)
だが、その思いを表に出すことは決してなかった。
沈黙のまま、キシリアの次の指示を待っていた。
ホロスクリーンの中で、ギュネイの暴走は続いていた――。
【ホワイトベースJr. モビルスーツ格納庫】
格納庫に響くアラーム音の中――ゼロ・ムラサメはアレックスのコクピット内でモニター越しに戦況を睨みつけていた。
「……っ、俺たちを出してくれ艦長!」
咆哮のような声が艦橋へと飛ぶ。
「奴らがアムロさんを捕虜にして、無事に返すはずがない!」
同じく出撃準備を整えていたカミーユ・ビダンが、操作パネルを叩きつけるように拳を落とした。
「……艦長……っ」
だが、通信からはブライト・ノアの苦渋に満ちた声が返ってきた。
「分かっている! ……しかし、シイコが人質に取られている以上、こちらも動きが取れん!」
その刹那。
ホロモニターに映し出されたのは――
ギュネイ・ガスの機体がアレックスの腕をヒートロッドで絡め、強烈な電撃を流している光景だった。
画面の中、アムロのアレックスが震えていた。
「あいつ……!」
カミーユの声が震える。
「気絶なんかで済ませるはずがない!
アムロさんを“殺す”までやる気です!」
ブライトが叫んだ。
「……くっ……すまん、アムロ……お前を死なせるわけにはいかん!
モビルスーツ隊、発進!
アムロを助けることを第一にせよ!」
その言葉に、ゼロとカミーユの声がほぼ同時に重なった。
「ゼロ・ムラサメ、アレックス発進し――」
「カミーユ・ビダン、アレックス発進す――」
……しかし。
2人の口は、その瞬間、ぴたりと止まった。
理由はただ一つ。
ニュータイプの感応。
今、遠くから――知っている“女の人”の声が飛び込んできた。
名前も、姿も――誰かは分かっている。
シイコ・レイ。
だが、何を伝えたのかは、自分たちには分からない。
分かるのは――その声を本当に受け取るべき存在――夫である、アムロ・レイただ1人だ。
次の瞬間。
――アムロの怒りと絶望と悲しみの叫びが、2人の脳裏に響き渡った。
ゼロは息を呑み、カミーユは目を見開いていた。
「……アムロさん……」
それは、2人がこれまで一度も聞いたことのない――深く、激しい声だった。
☆9評価ありがとうございます! 大淵 蒼夜さん
女を人質にしてガンダムを奪うのはやっぱりこの男しかいないでしょの精神でカミーユと同じく年齢調整されて登場させたギュネイです。