ジークアクス世界の闇堕ちアムロ 作:gジェネサイコー
ガンダム世界で托卵って割と良くあることなのか?
連邦軍 ホワイトベースJr./作戦会議室
北米訓練校から到着した軍の高速艇。その中から降り立った監察部の中年士官が、会議室に通され、すでに準備されていたホログラフ通信用テーブルに着席した。部屋の中には、ホワイトベースJr.の艦長ブライト・ノア、副長のワッツ、パイロットのゼロ・ムラサメが揃っている。
テーブル上のホログラフには、ジャブローから中継でゴップ提督とブレックス准将、さらにムラサメ博士とテム・レイの姿が映し出されていた。
静寂を破ったのは、監察部士官の冷静な声だった。
「まずご報告いたします。フォルマ・ガードナー教官の私室から押収された端末および紙媒体の記録を解析した結果――バスク・オムと裏で繋がっていた痕跡を確認しました。」
「……やはりか。」ゴップが低く呟いた。眉間に深く皺が刻まれる。
監察部士官は続ける。
「さらに、バスクから横流しされた薬物――旧強化人間計画で使用されていた神経刺激剤、並びにニュータイプ誘発を狙った暗示用データの一部が見つかりました。フォルマはこれを生徒たちに対して無断で使用していた可能性があります。」
重苦しい空気が会議室を包む。ブライトは口を真一文字に結び、ワッツは険しい顔で報告を聞いていた。
「薬物と暗示が使用された訓練生は……特定できているのか?」
ゴップが問いかける。
「はい。現在のところ判明しているのは、アスナ・エルマリート、エリシア・ノクトン、エミル・フォクトレンダーの3名です。ただし、使用方法や分量には不確定な点が多いため、訓練校の全生徒に対して精密検査を行う必要があります。」
ブレックスが短くうなずいた。
「当然だ。用心に越したことはない。」
ゴップも頷くと、疲れた声で命じた。
「必要な医療部隊と検査官はすぐに手配する。北米基地と連携して、全訓練生の検査を迅速に実施しろ。」
ホログラフの向こうで、ムラサメ博士が厳しい面持ちで言葉を添える。
「この件、放置すれば訓練生の身体的・精神的影響だけでなく、連邦軍の倫理問題としても大きな問題になります。」
「わかっている……」ゴップは額に手を当て、椅子の背にもたれた。
バスク・オムを失脚させ、すでに軍の監視下に置いたはずだった。だが、そのバスクが事前に撒いていた種が、こうして別の教官を通じて芽吹いていたとは。
――目の前にいた怪物を倒しても、影は別のところで蠢いていたのだ。
(……もはや各基地に秘密警察でも配置するべきかもしれん)
そんな考えが、ゴップの脳裏をよぎる。だが、それを口に出すには、まだ時期が早い。
一方、ゼロ・ムラサメは静かに口を開いた。
「……何より、あの子たちが無事でよかった。そうでなければ、僕は――フォルマを“逮捕”では済ませなかったかもしれません。」
その言葉に、誰もが言葉を飲んだ。ゼロの背にいた“本物の戦場”が、一瞬だけ部屋の空気を冷やす。
ブライトが小さく息を吐いた。
「……この件、徹底的に洗い出さねばならん。」
誰も反論はなかった。むしろ、その言葉に強くうなずいたのは、ジャブローのホログラフ側にいる全員だった。
ブレックス准将が腕を組みながら静かに口を開いた。
「……強化措置を施されていない訓練生については、派遣中の医療部隊に任せて良いでしょう。しかし――すでに“処置済み”とされた3名、アスナ・エルマリート、エリシア・ノクトン、エミル・フォクトレンダーの3人については、どう扱う?」
その問いに、会議室の空気が再び張り詰める。
「……中途半端なやり方で薬物や暗示が施されたのだ。被害の程度が見えない以上、対応は万全を期すべきだな。」
ゴップ提督が苦々しげに言葉を継ぐ。
「いっそ、3人をジャブローに移送して、ムラサメ博士の管理下で処置・検査を行わせた方がいいかもしれん。専門家の目が最も信用できる。……構わないな、博士?」
ホログラフ越しに目を細めたムラサメ博士は、すぐに応じた。
「もちろんです。」
その声には、いつになく静かな決意がこもっていた。
「薬物や暗示に関しては、私自身が責任の一端を負う存在です。強化人間という仕組みを生み出した人間として……彼らが“副作用一つなく”今後の生活を送れるよう、全力で力を尽くしましょう。」
発言を終えた博士の横で、テム・レイも静かに頷く。
誰も口には出さなかったが、その場にいた全員が理解していた。
あの男は今、これからも、自分の罪と――彼の生んだ技術に関する“責任”の一端を、受け止め続けようとしているのだと。
数日が経った。
あの、突然の――そしてあまりにも理不尽だった襲撃事件から。
あの時、私たちを助けてくれたのは「第13独立部隊」と呼ばれる、連邦軍でも最強と噂される部隊だったという。中でも、私の命を救ってくれた白と青のモビルスーツのパイロットは、「ゼロ・ムラサメ」という強化人間。あの瞬間の光景は、今でもまぶたに焼きついて離れない。
そして……その事件を仕組んだのは、フォルマ教官だったらしい。まさか、訓練校の教官が……信じられなかった。いや、信じたくなかった。けれど、私たちの命を狙ったあのゲルググが「偶然そこにいた」なんて、そんな都合のいい話があるわけない。
それは真実だったのだ。
ある日、私は呼び出された。
一緒に呼ばれたのは、エリシアとエミル、そしてヤハギ教官だった。全員、あの事件で最も深く関わった4人。
目的も言われないまま、私たちは訓練校の会議室へと向かった。扉を開けると、そこにいたのは見知った顔と、見知らぬ制服姿の人たちだった。
中央の席に立っていたのは――あの時、私たちを救ってくれたパイロット。ゼロ・ムラサメさん。
その隣には、見るからに厳格そうな、艦長服の男。そして無言で控えている監察部の職員たち。
「ヤハギ以下、訓練生3名、招集に従い参上しました!」
ヤハギ教官の鋭い声と同時に、私たちも直立不動で敬礼をする。
「……楽にしてくれていい。」
応じたのは、艦長服の男――ブライト・ノア艦長。ホワイトベースjrの艦長だと、エリシアが教えてくれた。
私たちは姿勢を崩して“休め”の体勢に移る。
「君たちに辞令を伝える。」
ブライト艦長の声は、冷静で、だがはっきりと力があった。
「訓練生3名は、現在行われている精密検査を3日目で切り上げ、連邦軍本部ジャブローへと移送されることが決定された。ヤハギ教官には、その手続きの補助に回ってもらう。」
「――ジャブロー?」
思わず、胸の奥でつぶやく。ジャブローといえば、地球連邦の中枢。なぜ私たちがそこへ?
隣で、ヤハギ教官が一歩前へ出た。
「……なぜ、こいつらをジャブローに送るのか。理由をお伺いしても、よろしいでしょうか?」
ヤハギ教官の声音には、静かな怒りと、教官としての責任がにじんでいた。
私たちも、息を詰めてその返答を待った。
部屋の空気が、ゆっくりと、重く張りつめていく――。
会議室に冷たい沈黙が一瞬流れた。
ヤハギの問いに、監察部の一人が静かに、しかし明確な敵意を込めて彼を睨む。
だが――。
「……彼の疑問は当然だ。」
ブライト・ノア艦長がその視線を遮るように口を開いた。重く、揺るぎのない声だった。
「何せ、味方の裏切りで教え子もろとも殺されかけたのだ。問いただしたくもなる。」
その一言に、監察部の男は不服そうに目を逸らした。
ブライトは続けた。
「君たちを襲わせたフォルマという男は、違法な強化人間の研究施設と繋がっていた。バスク・オムの流した薬物と暗示による方法を手に入れ、それを訓練生に施していたようだ。」
その言葉に、私とエミルは思わず息を飲んだ。
「……そんな……」
信じたくない。けれど、頭では分かってしまう。あの時、恐怖の中で見えた自分の身体の動き。まるで自分じゃないような反応。――あれは。
隣でエミルも、唇を噛んでいた。
でも、一人だけ。
エリシア・ノクトンだけは、違う反応を見せていた。
「……強化人間……」
小さくつぶやいた彼女の目は、どこか遠くを見ているようだった。
ブライト艦長は淡々と話を続けた。
「今日までに行われた検査の結果を見る限り、3人ともそこまで重篤な手術や薬物投与はされていない。だが、念には念を。ニュータイプ研究における専門家――ムラサメ博士の下での精密検査と治療が必要だと判断された。」
そして、ヤハギ教官に視線を向ける。
「――質問の答えにはなったか? ヤハギ教官。それと、今後はそんな堅苦しい言い回しは不要だ。」
しばらくの沈黙ののち、ヤハギは姿勢を正してから静かに頷いた。
「……分かりました。」
翌日、ブライト・ノア艦長は医務室に呼び出されていた。
「どういう話だ?」
短く問いながら入室したブライトを、軍医がやや緊張した面持ちで出迎える。
「こちらをご覧いただきたいのです、艦長。」
医務室の片隅では、複数の生徒たちの精密データがホログラフィックに展開され、処理中のデータが次々と分類されていた。連邦軍の医療管理システムによる、訓練生に対する徹底した健康調査の一環だったが――。
「彼らは例の訓練校から移送された3人です。アスナ・エルマリート、エリシア・ノクトン、エミル・フォクトレンダー。それぞれ、強化処置の影響や副作用を調べています。」
軍医はブライトに手渡すように、一枚の遺伝子分析結果のパネルを示した。
「ですが……その中に、非常に気になるデータがありまして。」
表示されたのは、2つの人物名と一致率の高いDNA解析グラフだった。ブライトの眉が動く。
「これは……」
「はい。ヤハギ・フランジバック教官と、アスナ・エルマリート訓練生の遺伝子プロファイルを照合した結果です。これをご覧ください。」
画面上には、「親子関係の一致確率:99.998%」という文字がはっきりと浮かび上がっていた。
ブライトは言葉を失った。
「……本当か?」
「間違いありません。念のため、複数の検査システムで再確認済みです。」
静まり返る医務室。沈黙の中で、ブライトはモニターから目を離さず、深く息を吐いた。
「……ヤハギ本人は、このことを?」
「いいえ。現時点では本人にも伝えておりません。ご指示を仰ごうと思いまして。」
ブライトはわずかに目を閉じ、思案に沈んだ。
「……知らせるべきかどうか。難しい問題だな……」
そして心の中で、あの無骨で責任感の強い教官の横顔と、必死に仲間を守ろうとした少女の姿が重なるのを感じていた。
運命の悪戯は、戦場以外にもまだ息づいているのかもしれない――。
軍の書類仕事というのは、どうしてこうも無駄が多いのか。
ヤハギ・フランジバックは、3人の訓練生の転属手続き書類を手に、やれやれと肩を回した。これまで実戦部隊の編成に関わる補助ならいくつも経験してきたが、訓練校の生徒を医療目的でジャブローに送るというのは初めてだった。
しかも厄介なことに、訓練校の校長は監察部に連れて行かれ、書類承認のルートが崩壊状態。これは手間取るぞと覚悟していた矢先、受付の対応が驚くほどスムーズになった。
……いや、正確には“激変”した。
――つい先日まで、“元ジオン”というだけで書類の端に置かれるような扱いだったというのに。
「第13独立部隊のホワイトベースjrが来ている」と伝わった瞬間、受付の兵士の態度が豹変したのだ。ヤハギは苦笑しながらも思った。
(まったく……思い出したんだな。今の連邦は昔のように“ジオン”というだけで蹴り落とせる場所じゃなくなったってことを。)
誰を見て、誰の下で動いているか。それだけで周囲の態度がこうも変わるのか。現実は皮肉だが、少なくとも今回は好都合だった。
⸻
「……あの、教官。」
ふと、控えめな声が背後からかかる。振り返れば、アスナ・エルマリートが不安げにヤハギを見つめていた。
「私がジャブローに行くのは分かるんですけど……母のことは、どうすれば?」
その一言に、ヤハギの心がわずかに揺れる。
ハルカ・エルマリート。アスナの母親であり、ヤハギにとっては――かつて学生時代に心を通わせた、恋人だった。
(ハルカ……お前の娘が、あの時の子が、今こうして……)
ヤハギは一呼吸置き、努めて平静に答えた。
「そうだな。本来なら、生徒だけが対象だろうが……お前の場合は、状況が特殊すぎる。一緒に行けないか、後で聞いてみるよ。」
アスナの瞳がぱっと明るくなる。
「ありがとうございます……!」
⸻
書類を届け、ひと段落して部屋を出たところで、廊下の壁にもたれかかる影に気づいた。
金茶の髪をかき上げながら、シン・バルナックがこちらを見ていた。
「ヤハギ教官。あいつら3人が……ジャブローに行くって、本当ですか?」
ヤハギは軽く肩をすくめた。
「ああ、本当だよ。しかも俺には、その手続きの補助まで頼まれててな。……どうした? お前も行きたいのか?」
冗談半分に問い返すと、シンは苦笑しながらも、すぐに真剣な表情に戻った。
「そりゃ……そうですよ。アスナはジオン出身ってだけでいじめられてたし、エリシアは成績がトップであることだけが自分を守ってた。エミルも良いやつだけど、自分の弟妹を引き取ることが大事で、他のことに目を向けられないことも多かった」
そのまっすぐな言葉に、ヤハギは内心で舌を巻いた。
(……俺より、よっぽど教官向きかもしれねぇな)
「お前、よく見てるな。下手すりゃ、俺よりずっと“教育者”だな」
そう言って軽く笑ったヤハギだったが、ふと真顔に戻ると、まっすぐシンの目を見て言葉を続けた。
「安心しろ、シン。あいつらがジャブローで腫れ物扱いされることはない。……昨日までの受付の対応、覚えてるか?」
「はい。アスナが元ジオンだからって、受付の人が雑に対応してたの、何度か見たことがあります。でも……ホワイトベースJrが来てから急に態度が変わって、敬語で丁寧に応対するようになって……手続きも急にスムーズになってました」
「そういうことだ。俺が元ジオンってだけで適当にあしらってた連中が、改革の中心であるゴップ提督の直属部隊が来た途端、腰が低くなった。あいつらがジャブローで酷い扱いを受けることはねぇよ。ここにいるより、ずっと大事にされるだろうさ」
それを聞いたシンは、少しだけ表情を和らげた。
「……なら、よかった。アスナも、あの二人も、ちょっと心配だったんです」
ヤハギは少し目を細め、口調を変える。
「もし本当に心配なら――お前が首席になってジャブロー行きを志願しろ」
「え?」
「お前は数字で見れば低いが、ニュータイプ適性がある。上にいる連中は、それを見てる。今から必死で食らいついて主席を取れば、ジャブロー勤務の希望は十分通る」
シンは目を見開き、しばらく口をつぐんでいたが、やがて小さく笑った。
「……やっぱり、教官ってずるいな。そう言われたら、やるしかなくなる」
「その口があるならまだやれるな。俺はブライト艦長に呼ばれてる。お前は今から全力でシミュレーター叩いてこい」
「はい、教官!」
そう言って走っていくシンを見送ったヤハギの端末が振動する。
「はい、こちら北米中央基地・受付です。……ええ、ホワイトベースJrのブライト艦長より伝言です。艦長室にて、都合のつく時間にお越しいただきたいとのことです」
(都合のつく時間に、か……)
ブライト・ノアらしい、気遣いのこもった表現だったが、受付の兵士の緊張した声色がすべてを物語っていた。
「――つまり、“今すぐ行け”ってことだな。」
ホワイトベースJr.の艦内は、どこもかしこも緊張感に満ちていた。
ヤハギ・フランジバックは、艦長室に向かう廊下を歩きながら、感心するように周囲を見渡す。通路をすれ違う兵士たちの動き一つ取っても、ぴりりと張り詰めていた。制服の着こなし、歩く姿勢、目の鋭さ──。
(さすが“連邦最強の部隊”の母艦だな……。)
北米の基地で見かけるような、緩んだ態度の兵士は一人もいない。
(こいつら、全員が“信念”ってやつを持ってる。目の奥の覚悟が違う。ああ……こりゃ場違いだぜ、俺なんか。)
そんなことを思いながらも、ヤハギは立ち止まり、艦長室の前に立つ。
一度深呼吸をしてから、ノックを打ち、扉を開けた。
「失礼します、ヤハギ・フランジバックです。」
「入ってくれ。」
中から静かながらも重みのある声が返ってきた。
机に座っていたブライト・ノア艦長が、まっすぐヤハギを見据えていた。
「……君に、少し聞きたいことがある。率直に言おう。」
ブライトは書類に手を置きながら、鋭く言った。
「君に結婚歴はないと記録にあるが──娘がいたりするか?」
「……は?」
ヤハギは、思わず素っ頓狂な声を出してしまった。艦長室という場も、上官も、一瞬頭から吹き飛ぶ。
「申し訳ありませんが……娘なんて、覚えがありません。」
「そうか。では、君の教え子であるアスナ・エルマリートの母親──ハルカ・エルマリートとは、どういう関係だった?」
「……」
ヤハギの表情が少し固まる。
「学生時代、同じ学校に通っていたことはあります。交際……はしていました。」
その時、ブライトの目の色がわずかに変わったように感じた。鋭さというより、冷たさ。
(……何だ? さっきまでと雰囲気が違う。いったい──)
「これを見てくれ。」
ブライトは机の上に一枚の書類を置いた。
「この間、生徒たちの精密検査を行ったとき、念のため教官である君の検体も調べてもらっていた。これはその結果だ。」
ヤハギは促されるまま、机に近づき、書類に目を落とす。
数行のデータと数値、その下に簡潔に記された一文が目に飛び込んできた。
《遺伝子検査の結果、対象者:ヤハギ・フランジバックと、アスナ・エルマリートの間に、高い親子関係が認められる。》
──頭が、真っ白になった。
「……っ、これ……!」
「確認したところ、ハルカ・エルマリートはサイド3で別の男性と結婚していたようだが。」
(そうか──そう見えるのか……)
その瞬間、ヤハギはようやく理解した。
ブライト・ノアが自分を見る目が、さっきまでと違っていた理由を。
これは、そう思われて当然の状況だった。
(……ハルカが結婚していたのに、俺と関係を持って──俺はその結果できた娘を、別の男に押し付けた“托卵野郎”……そう見えるんだ。傍から見れば。)
否定したくても──ヤハギには、確かめようがなかった。
心の中で、今まで知らずにいたアスナの過去と、自分の過去が、静かに重なっていくのを感じていた。
☆9評価ありがとうございます! クレイジーレンズマンさん Suzu1202さん くまさぶろうさん 武者タイガーさん