ジークアクス世界の闇堕ちアムロ 作:gジェネサイコー
原作で強化人間になってしまったエリシアさんに足らないのはこんな感じで、彼女にはニュータイプの才能があってそれを磨けばいいって言ってくれる誰かだったんではないかと。
そりゃあアムロとかカミーユには遠く及ばないだろうけど、ニュータイプ判定A-って相当高いだろうし。
訓練が一段落し、シミュレーターから降りたアスナとエミルが並んで通路を歩いていた。
「ねえアスナ、いきなり強くなったよね?」
エミルが隣を歩きながら言った。
「私、あの模擬戦の後で一緒に訓練した時のこと、ちゃんと覚えてるんだからね。あの時はまともに機体を動かせなかったのに……今じゃ完全に追い抜かれた気分だよ」
アスナは苦笑しながら、タオルで汗を拭った。
「そんな大したことじゃないよ。あの時ゲルググに殺されかけて、“やらなきゃやられる”って分かったのが一つ。あとは……」
少し間を置いて、アスナは言葉を続けた。
「いない人に縛られる必要はないって、やっと分かったことかな」
エミルは眉をひそめて振り返る。
「なにそれ。名言っぽいけどよく分かんないんだけど……」
「うん、自分でもよく分かんない。でも……気持ちはすごく軽くなったよ」
その会話の数メートル先、給水機のそばにいたエリシアは、さりげなく背を向けたまま、アスナたちの言葉に耳を傾けていた。
アスナ・エルマリート――。
彼女は、あのゲルググとの実戦のあと、まるで別人のように成長していた。以前の彼女は、引き金を引くのをためらい、迷いを抱えていた。その姿に、どこか脆さや人間らしさがあり、だからこそエリシアは彼女に“主席”の立場を脅かされることなどないと、高をくくっていた。
しかし今は違う。彼女のネモはまるで水を得た魚のように自由で、鋭さと躍動に満ちている。
シミュレーターの記録は、嘘をつかない。アスナの反応速度と回避能力は日を追うごとに洗練され、今ではエリシアの記録すら脅かしていた。
(このままじゃ……)
エリシアは、手に持っていたタオルを無意識に握りしめた。
(このままじゃ、追いつかれる。私の努力が、全部意味を失う……!)
あの会話を聞いたからこそ、彼女の焦燥は決定的なものとなった。
アスナは、いない人――つまり過去の誰かへの恐怖やトラウマを断ち切って、強くなった。けれど自分は?努力で主席を守ってきた。必死に訓練を重ねて、選ばれたはずだった。なのに――ニュータイプの「才能」だけで、自分の積み上げた全てが崩されるのか?
(違う……私は、負けない)
あの北米の森林地帯で、自分たちがまったく歯が立たなかったゲルググ――。それを、ゼロ・ムラサメ中尉は圧倒的な強さで瞬殺した。その光景を目にして以来、エリシアの中で燻っていたものが、今まさに形になろうとしていた。
――力が欲しい。
たとえその手段が、かつて否定されたものであっても。
ムラサメ博士の執務室。その重厚な扉の前に立ったエリシアは、もう迷っていなかった。
深呼吸一つ、そして扉をノックする。
「エリシア・ノクトンです。お話ししたいことがあります」
扉の向こうから返された「入りなさい」という声とともに、彼女は新たな選択へと足を踏み入れた――。
私は、深く息を吸い込んだ。
そして――真っ直ぐに、二人の目を見据えた。
「私にも、強化人間の施術を……受けさせてください」
その瞬間、ムラサメ博士とゼロ中尉の表情が、わずかに――しかし確かに、硬くなった。
(とうとう来たか……)
そう語っているかのような、諦めにも似た色が、彼らの瞳に浮かんでいた。
ヤハギ教官が何か言っていたのだろう。
アスナに抜かれそうになって焦った私は、力を求めてここへ来た。
――そのことを、二人はすでに見抜いていた。
ゼロ中尉が、静かに、だがはっきりと告げた。
「悪いが、それは無理だ」
言葉は静かだが、どこまでも確かだった。
「連邦は、二度と強化人間を作らない。……人を道具にするなど、あってはならないことだからだ」
冷たい現実が、胸に広がる。
けれど、私は引き下がれなかった。
「……好きではありませんが、私には“実家の力”を使う覚悟もあります」
ムラサメ博士が、まっすぐに私の目を見た。
その瞳に宿るのは、悲しみだった。
まるで、これから私が歩もうとしている道を、すでに知っているかのように。
「ノクトン社の力かね? 悪いが、それは無理だ」
静かな声。だが、断固としていた。
「ご両親とは、すでに話がついている。彼らは君の“治療”を望んでくれているよ。強化人間施術のために、動くことはない」
「……っ」
息を呑んだ。
――両親が……?
私が軍学校に入った理由も、主席の座に執着している意味も、何一つ理解していなかったはずなのに。
……でも、それでも。
私はここで終われない。
「なら……私は、“フォルマ教官にされたこと”を公表します」
声が震えていた。
「今の軍では禁止されていたはずの、強化人間施術をされたって。……困りますよね? 軍としても、黙っていられないはずです。だから、そうされたくなければ――」
「構わない」
私の言葉を遮ったのは、ムラサメ博士の静かな声だった。
「私が、公式の場で頭を下げよう」
「……そんな……だって、それをやったのは、あなたじゃ――!」
私は、信じられない思いで博士を睨んだ。
「確かに、フォルマがやったことだ。だが、最初に“強化人間”という概念を現実にしたのは、私だ」
そう言って、博士はゆっくりと言葉を紡いでいく。
「命令だったとはいえ、ゼロに力を与えたのは、私の判断だった。…… たまたま、ゼロには類稀な強化人間の才能があったから死なず、副作用も今では無い。しかし、私の行動から強化人間という選択肢が生まれてしまった」
静かに、だが確かな覚悟のこもった声だった。
「だから私は、責任を取る覚悟はいつでもある。……私とフォルマに非を集めれば、軍へのダメージは最小限に抑えられるはずだ」
その言葉は、私の胸を突き刺した。
それは、私が想像していたより、はるかに重く――はるかに優しい覚悟だった。
「……どうして、そこまで……?」
気がつけば、私は膝をつき、項垂れていた。
「ゼロ・ムラサメ中尉ほどの力が得られるなら……副作用なんて、私にとってはどうでもいいんです……!」
ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。
「私たち“オールドタイプ”は……“ニュータイプ”には……未来永劫、近づくことすら許されないんですか……!?」
ゼロ中尉が、静かに私を見つめた。
「……それは、アスナ訓練生のことか?」
その問いが、私の感情の堰を切った。
「そうです!!」
私は顔を上げ、涙の中で彼を睨みつけた。
「私の方が努力してた!! 戦う覚悟だって、とうに決めてた!!」
声が震えて、怒りと焦りが混ざる。
「なのに……ちょっと気持ちが変わったぐらいで……!」
「……それだけで、追い抜かされそうになってるんです!!」
叫びが、静かな部屋に響いた。
悔しさ。焦燥。力への渇望。
それらすべてが、今の私を突き動かしていた。
「そうです! 私の方が努力してた! 戦う覚悟だってとうに決めてた! なのに、ちょっと気持ちが変わったぐらいで、追い抜かされそうになってるんです!」
エリシア・ノクトンの声が、静かな執務室に激しく響いた。言葉の端々には焦りと悔しさ、そして純粋な力への渇望がにじみ出ていた。握りしめた拳が震え、涙が頬を伝う。感情のままに絞り出した言葉が、ようやくその心に積もったものを吐き出させたのだった。
対面にいたゼロ・ムラサメは、静かに彼女を見つめていた。その瞳に映るのは同情ではない。理解と、共鳴だった。
(分かる。強化人間はみんなそう思ったことがある。アムロさんほどの力があれば──あの圧倒的な“先にいる者”に、誰だって憧れ、追いすがろうとする)
ゼロ自身もそうだった。あの頃、アムロ・レイという存在の背中がどれほど遠くに思えたか。自分には何もないと、無力にうちひしがれた日々を思い出す。
しかし──だからこそ、彼は今、目の前の少女に、安易な道を歩ませるわけにはいかなかった。
「さて……」
ようやく口を開いたゼロの声は、どこか淡々と、けれども確かな温度を含んでいた。
「こんな時、ヤザンさんがいれば君を殴ってでもこう言っただろうな。『ニュータイプを自分の力で追いかける覚悟がないなら、最初から目指すな!』『選択肢を全部試してから言え! 一人で戦うつもりか!』ってな」
唐突に出てきた名前に、エリシアが涙の中で顔を上げる。ゼロの口調から察するに、ただ者ではないらしい。だがその冗談めかした言葉の裏に、彼女は確かに何かを感じ取っていた。
ゼロは執務机から一枚の書類を手に取り、彼女の前に差し出した。
「これは……?」
「君の涙を止める理由、かな」
そう言ってゼロが見せたそれには、見慣れた自分の名前と、信じられない一文が記されていた。
エリシア・ノクトン
ニュータイプ適性A
バイオセンサー内蔵機への搭乗が望ましい
「ニュータイプ……? 私が……?」
声が震えた。エリシアは、自分には縁遠いものだと思っていた“ニュータイプ”という言葉を、初めて自分自身に向けられて突きつけられた気がした。
「そうだ」
ゼロは彼女の目をまっすぐ見て、はっきりと告げた。
「君は残念ながらオールドタイプじゃない。君自身がまだ気づいてないだけだ。そしてアスナ訓練生との差も、幼少期に訓練を受けたか否か──それだけだ」
その横で、静かに聞いていたムラサメ博士が頷く。
「その通りだ。君が感じている差は、才能の有無ではなく“訓練の環境”にすぎない。バイオセンサーは、君のような未熟なニュータイプでも適性を育てるためのものだ。君がネモでの訓練期間を終えれば、次に搭乗するのはバイオセンサー搭載型の機体になる」
言葉の意味は、エリシアの中で大きく渦を巻いた。今まで努力によって自分を形作ってきた。その努力が、アスナの才能によって否定されるように感じていた。けれど──そのアスナとの差は、環境だけだったとしたら?
動揺の色を隠せない彼女を、ゼロは見逃さなかった。そして続けた。
「つまり、君とアスナ訓練生の条件は対等なんだよ。君が勘違いしてただけだ。パイロットスキルは、今の時点で君の方が上なんだ。彼女に追い抜かされそうになってるのは、訓練環境の差。焦る必要なんて、ない」
ゼロの瞳は鋭く、真剣だった。
「……で、どうする?」
まっすぐ突きつけられる問い。
「条件が対等なのに、君は“強化人間”という下駄を履いてまで、彼女に勝ちたいと思うのか?」
その言葉が、エリシアの胸に深く突き刺さった。
静寂が満ちる室内。涙はもう止まっていた。
悔しさは、まだ胸の奥に渦巻いている。だがそれ以上に、はっきりとした“選択”を突きつけられた感覚が、エリシアの中に火を灯していた。
彼女が何を選ぶのか──その答えは、まだ言葉にはならなかったが、その瞳に映る光が、確かに変わり始めていた。
「で、どうする? 条件は対等なのに、君は強化人間施術なんて下駄を履いて彼女に勝ちたいのかい?」
ゼロ・ムラサメの言葉は、静かにしかし鋭く響いた。その一言が、エリシア・ノクトンの胸の奥に突き刺さる。プライドを逆撫でされ、彼女の瞳が怒りと悔しさに揺れる。
嫉妬していた。ニュータイプという天賦の才能を持つ者たちに。努力だけでは越えられない壁を前にして、彼女は心のどこかで“近道”を選ぼうとしていた。だが、それは今まで自分が最も軽蔑してきた「努力をしない者」と、何が違うというのだろう。
唇をかみ、エリシアは床に膝をついたまま、震える足で立ち上がった。
「舐めないでください!」
声を振り絞るように叫ぶと、涙を振り払ってゼロを睨みつけた。
「ニュータイプってだけで追い抜かれそうだったから……ゼロ・ムラサメ中尉のような力があればって、そう思っただけです。条件が同じなら、あとは努力と効率の問題です。強化人間なんて必要ありません!」
その言葉に、ゼロはふっと息を吐いた。肩の力がわずかに抜ける。横にいたムラサメ博士と一瞬だけ目を合わせ、二人は無言で頷き合った。ヤザンのような無骨な叱責は不要だった。エリシアは、自分自身で答えを見つけたのだ。
しばしの沈黙の後、エリシアが腫れた目で二人を見つめる。
「ここまで私を泣かせたんです。責任、取ってください」
予想外の言葉に、ゼロは思わず目を丸くした。
「いや、泣かせたわけじゃ……」
ムラサメ博士が楽しげに笑いながら、ゼロの方へ顔を向ける。
「そうだな。女性を泣かせたなら、責任を取らなければな、ゼロ」
「博士まで……!」
肩をすくめるゼロの様子に、エリシアの頬がかすかに緩んだ。久しく忘れていた感情が、胸の奥にじんわりと灯る。
「シミュレーターで、ニュータイプの戦い方を教えてください。強化人間はニュータイプの力を人工的に再現した存在なら、それができるゼロ・ムラサメ中尉なら教えられるはずです」
真剣な視線を受け、ゼロの顔が少し引きつる。
「……教えるのは構わないけど、俺にも軍務が──」
言いかけた言葉を、ムラサメ博士が遮った。
「いいじゃないか。ドゥーの治療も終わったし、彼女もパイロット志望だ。ニュータイプと強化人間、両方を育てる良い経験になる。私からゴップ提督に伝えておくよ」
「ありがとうございます。では、早速今からやりましょう。ドゥーという人も呼んでください」
エリシアの言葉に、ゼロが驚きで目を見開いた。
「今から!?」
「当然です。アスナさんとの差は訓練環境だけだって、言ったんですから。なら、早く取り返さないと」
一歩前に出てゼロの腕を掴むと、そのまま扉の方へと歩き出した。唖然としながら引かれていくゼロの姿に、ムラサメ博士が小さく笑った。
執務室が静けさを取り戻すと、博士は手元の端末に指を走らせ、ジャブローのゴップ提督へと連絡を取った。
「提督、予定通り。彼女はニュータイプとして鍛える道を選びました」
通信の向こうから、呆れ混じりのゴップの声が返ってくる。
「良かったよ。君が“いざとなれば公の場で頭を下げる”と言い出した時は、本気でどうするか悩んだぞ。君は今やサイコミュ研究の第一人者だ。君の首は、安くはないんだからな」
「その上で、いざという時は地位を全て捨てたとしても、サイコミュの発展に協力するという条件で、公式の場で頭を下げることを認めていただきありがとうございました」
穏やかに笑いながら端末を閉じる。
数え切れない犠牲の上に築かれた研究。その罪と向き合いながら、ムラサメ博士は思う。ゼロやエリシアのような次代の者たちが、過去を無駄にせず、新しい時代を切り拓いてくれると。
博士の視線の先には、静かに未来へと歩き出す若者たちの背中があった。
加速する才能
ジャブローの訓練施設では、ネモの稼働音が絶え間なく響いていた。
ヤハギ・フランジバックは管制室の椅子に腰を下ろし、モニターに映し出される訓練生たちの動きを、鋭い眼差しで追っていた。
最近、アスナ・エルマリートは急速な成長を見せ、エリシア・ノクトンの主席の座を脅かすほどになっていた。
だが今、シミュレーターの中で繰り広げられている模擬戦では、エリシアのネモが明らかにアスナを凌駕していた。
「っ……くっ、避けられた!?」
アスナの放ったビームサーベルによるフェイントを、エリシアのネモは無駄のない動きで回避し、すかさず反撃に転じる。
「次はこっち。読めてるわよ、アスナさん!」
鮮やかなスラスター移動とともに、エリシアのネモが右斜め後方から一撃を叩き込んだ。アスナの機体がよろけ、バランスを崩す。
管制室の横で、それを見ていたエミル・フォクトレンダーが口をあんぐりと開けて、ぽつりと呟いた。
「アスナがいきなり強くなったと思ったら、今度はエリシアがさらに強くなっちゃったよ……。あたしの周り、天才しかいないのか……」
「聞こえてるわよ、エミル!」
スピーカー越しにエリシアが即座に反応した。
「だって事実じゃん!」
エミルが肩をすくめ、ふてくされたように続ける。
「アスナはあの事件で目覚めて一気に才能開花したと思ったら、今度はエリシアまで別次元に突入って……。こっちは毎回1分で落とされてんだよ?」
「努力してるのは知ってる。でも、だからって甘えないこと。さあ、まだ終わってないわよ、アスナさん!」
エリシアの機体が回り込むようにアスナに迫る。
その動きには、以前のような力任せな粗さはなく、しなやかで精密な判断に満ちていた。
(ニュータイプの自覚が出たのと、力の使い方が分かってきたか……)
ヤハギは静かに目を細めた。
ムラサメ博士とゼロ・ムラサメ中尉から、アスナとエリシアのニュータイプ適性について聞かされたとき、正直驚きを隠せなかった。
しかし今、エリシアの戦いぶりを見れば、それも納得だった。
(あのフォルマの野郎……やっぱり、あの模擬戦は最初から仕組んでいたってわけか)
フォルマ・ガードナー。
かつて訓練校にいた教官でありながら、生徒を命の危険に晒してニュータイプの覚醒を引き出そうとした男。
各基地に設置されたシミュレーターのデータを操作し、アスナとエリシアの兆候を本部に提出せず、自らの成果にしようとした。
(くそっ……! あの野郎……!)
ヤハギは怒りに任せて拳を握る。脳裏に浮かぶフォルマの顔を、数発殴り飛ばしてやれなかったことを後悔していた。
だが今、彼にできるのは、過去を悔やむことではない。
アスナ、エリシア、そしてエミル。彼らの未来を見守り、正しい道へ導いてやること。それが教官である自分の責務だ。
「エリシア……」
モニターの中、エリシアのネモがアスナを追い詰めていく様子を見ながら、ヤハギは呟いた。
彼女が自らの力で掴み取った才能。それがどのような未来を切り拓いていくのか。
期待と、そしてわずかな不安を抱きながら、その背中を見つめていた。
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