ジークアクス世界の闇堕ちアムロ 作:gジェネサイコー
演習フィールドの上空に、ネモN型が軽やかな機動音を響かせながら滑り出していた。背部にはビットユニットを搭載し、肩部にはインコムランチャー。かつてジオンのサイコミュ試験ザクを操っていたヤハギ・フランジバックが、その操縦桿を静かに握る。
「サイコミュの感度、問題なし……。起動系統、全域グリーン。推力調整、良好」と、ヤハギは通信越しに報告した。
地上の演習指令所には、ムラサメ博士、リタ・ベルナル、そしてアルレット・アルマージュの姿があった。三人とも、ヤハギのモビルスーツから送られてくる生体反応と挙動データを食い入るように見つめている。
「背部ビット、肩部インコム……これはジオンの試験機とはまったく別物だろう?」
ヤハギの返答は、皮肉気味な笑みとともに返ってきた。
「ええ、雲泥の差ですよ。あれは……乗るだけでもう疲れる代物でした。終わったあと、数時間は頭痛が止まらなかった」
「やっぱり」と、アルレットが頷く。「あなたみたいにニュータイプ適性がある人でも疲れるんですね。ジオンのサイコミュは、それだけ身体と神経に負荷をかけるってことか……」
ヤハギはモニターの向こうの彼女を見ながら、一瞬無言になった。まさか、噂に聞いていたあのフラナガン機関の実験体が今ここにいて、しかも技術士官として連邦で働いているとは。現実とは思えない再会だった。
「……あくまであれは“試験機”でしたからね。まともに使えれば儲けもん、ってくらいの代物でしたよ」
ムラサメ博士が話題を戻すように口を開いた。
「ビットとインコム、君の感覚ではどうだ?」
「ビットは正直……使いやすいですね。若干ピーキーですけど、動きにストレスがない。インコムは……俺には少し動きが鈍くて枷に感じます。ですが、オールドタイプが使うには十分すぎる精度でしょう」
「そのピーキーさはね、今のカミーユ君のデータを元にすると、普通のニュータイプには扱えないとアルレットが言うものだから、あえて“彼が最初に使っていた頃”のデータをベースにしてるんだ。……それでもやはりピーキーかね?」
ヤハギは数秒沈黙したあと、低く呟いた。
「こんな機動を……最初から出来たんですか? ジオンでニュータイプがビットを使ってるのは何度も見ましたけど、こんな動きは誰もしてませんでしたよ」
「彼とアムロ・レイ大尉、それに隣にいるリタ・ベルナルが、我々が今確認している“特級”のニュータイプだよ」
アルレットとリタが小さく笑いながら前に出る。
「もっと言ってください。この人たち、数日前にはそのカミーユ君と同等の才能を持ってるアムロさんとリタさんのデータを比較データにして、各基地のシミュレーターからニュータイプを探してたんですから」
「“あれぐらい出来るニュータイプは案外いるんじゃないか”とか、本気で言ってましたからね」
ヤハギは目を丸くして、苦笑いを漏らす。
「なるほど。そんな“特級”のニュータイプしか確認できていなかったから……俺のジャブロー行きがすんなり認められたってわけですね?」
「ええ、その通りです」
「ジオンのサイコミュを使った経験があるニュータイプという点も大きいですが――何より、私たちが求めていた“現実に存在する可能性”として、あなたの存在は貴重なんです」
リタの言葉にアルレットも補足するように言葉を添える。
「ぶっちゃけて言えば……ようやく見つかったんですよ。比較対象がアムロさんやカミーユ君とリタだけって、正直、無茶なんです。あなたみたいに“届きそうなライン”があることで、ようやく今後の選定基準や訓練設計が現実に落とし込める」
ヤハギは深く息を吐き、演習空域の風に乗せるように呟いた。
「……肩にのしかかるな、それ」
「でも、今の連邦には“現実に目指せる人間”が必要なんです」
「アムロさんやカミーユ君、リタは確かに特別。でも、彼らを目標にするのは地に足をつけてからです。最初から天を目指したら堕ちます。」
ヤハギはその言葉に少し目を伏せ、やがて小さく笑った。
「……光栄ですよ。そう言ってもらえるなら」
演習空域の上で、ネモN型のバイオセンサーがわずかに光を放つ。その軌跡は、天才たちが描いた放物線とは別の――だが確かに“届く”未来への軌道を描いていた。
ジャブロー地下の実戦訓練ドーム。
演習用のネモ3機が静止し、ただ周囲の気配だけが空間に満ちていた。
「感覚を研ぎ澄ませ。背後にも目をつけるように意識を拡げるんだ。動きの気配を読め」
中央に立つゼロ・ムラサメの声が、模擬戦空間に落ちる。
それを受け、両サイドにいる訓練機――ドゥーとエリシアが、それぞれ息を整えて集中を始めた。
次の瞬間、ゼロの機体が背後に跳び、警告もなくビームサーベルを抜く。
「っ……!」
エリシアは右に跳ね、ドゥーも反射的に身をひねって回避。だが挙動はまだやや硬い。
「止まって集中してれば……何とかなるけど……」
エリシアが息を整えながら呻いた。「戦闘中にやれっていうのは、無理があります!」
「僕も……何度か読み損ねてるし……」
ドゥーも肩で息をしながら、ゼロの方を見た。
ゼロは2機のネモを見渡して、ふっと笑った。
「まあ、悪くはない。けど、“無理だ”と思ってるうちは絶対にできるようにはならないぞ」
その言葉に二人は肩をすくめながら、視線を交わした。どこか、自然なやり取りだった。
(この2人、もうすっかり仲良くなったな)
ゼロは苦笑しつつ、モニターに映る2人の姿を見やる。
――それは、数日前のことだった。
ムラサメ博士との面談を終えたエリシアは、ゼロとともに廊下を歩いていた。次の訓練準備のため、シミュレータールームへ向かう途中だった。
「わかった。君にニュータイプの戦い方を教えるのは了承する。ただ……ドゥーのところには僕ひとりで向かうから」
ゼロの言葉に、エリシアは素直に首をかしげた。
「なぜ? 一緒に行って合流してから訓練に向かったほうが、効率的だと思うけど?」
「ドゥーの住居は僕の家なんだ。新人を家に連れ込んだ、なんて噂を立てたくない」
「私は気にしないわ」
「……はあ。わかったよ。後で変な噂が立っても文句言うなよ?」
そう言って、ふたりは施設の外へ出て、ゼロの車でジャブローの住宅街へ向かった。
「ここが僕の家だ」
「ジャブローで一軒家って、相当な待遇ね。さすが“最強の強化人間”……ってところ?」
「まあ、事情はいろいろと複雑なんだ」
ドアを開けて中へ入ると、玄関にはすでに別の靴が置いてあった。
「靴があるからいるな。ドゥー、客人だ」
ゼロの声に、奧から小柄な少女――ドゥーが現れた。
「珍しいね。ゼロが女の子を家に連れ込むなんて。僕出かけた方がいい?」
「連れ込んだんじゃないし出かけなくていい。どちらかといえば、上がり込まれた」
エリシアはドゥーを見て、軽く驚いた様子で言った。
「……女の子? 同棲?」
「間違っちゃいないが、想像してるような関係じゃない。俺はドゥーの兄みたいなもんだよ。君は客間で待っててくれ。ドゥー、訓練のことで話がある。僕の部屋で話そう」
「はーい。お客様、客間はあの部屋ね。冷蔵庫の中の飲み物は好きに飲んでいいよ~」
その後、ゼロは自室でドゥーに説明を始めた。エリシアが強化措置を受けていたこと。その経緯や、ニュータイプ能力があると分かったこと。自分が彼女に訓練を施すと決めたこと。そして、今後ドゥーとともに訓練をすることになるという話を。
「――というわけで、彼女も一緒に訓練することになる。ドゥーは構わないか?」
「僕? もちろんOKだよ。つまり彼女は僕にとって初の後輩ってことだね!」
「まあ、強化人間としてはほんの入り口程度の措置しか受けていないが、それでも確かに君の後輩だ」
「わーい! 一緒に訓練できる仲間だなんて嬉しいな。色々教えられることもあるよね。どんな食べ物が好きかな? 映画の趣味、合うかな~」
それからというもの、ドゥーは“先輩らしく”エリシアを誘って、ジャブローのショッピングモールに出かけたり、基地の居住区でおすすめのカフェを教えたりと、まるで姉妹のように付き合うようになった。
エリシアもまた、同じようにゼロからニュータイプの訓練を受けている先輩――しかも年下でありながら自分に敬語も使わず、臆せず話しかけてくれるドゥーの存在に、気を張らずにいられる心地よさを感じていた。
アスナは“生まれつき”に見えるほど、自然に力を使うように見えるのに対して、ドゥーは“強化人間として”力を得た身――それでも努力を重ねて前を向いている。エリシアにとってはむしろそちらの方が「共感できる」存在だった。
――訓練の数日前、ドゥーはエリシアにこんな質問をしていた。
「ねぇ、エリシア。どうしてゼロに訓練を頼んだの?」
「……どうしてって、聞かれると少し恥ずかしいけど」
エリシアは少し言い淀んでから、いつもの凛とした声で答えた。
「アスナに、負けたくなかったのよ。ずっと私の方が成績は上だったのに……あの子、ニュータイプに目覚めてから、私を追い抜きそうだった。だから、私も力が欲しかったの」
「……そっか。僕も、ゼロに教わってるけど……エリシアもだったのが、なんか嬉しいな」
「ふふっ、そう言ってもらえると安心するわ。同じ目標に向かってるって、実感できるもの。私たち、仲間よね」
その言葉に、ドゥーは胸の奥がくすぐったくなって、思わず照れ笑いを浮かべた。
家族のようで、でもそうじゃない。兄のようなゼロとはまた違った距離感――そのバランスが、不思議と心地よかった。
再び訓練場に意識が戻る。
ドゥーはそっとマイクをオンにし、隣のエリシアに小さく言った。
「……なんだかさ、僕の周りって、本当に努力家ばっかだね」
「ふふっ。当然でしょ? 才能が同じなら、怠けてたら置いていかれるわよ」
「……うん。僕も、負けない」
そのやり取りを聞いたゼロが、再び全体チャンネルに声を乗せた。
「なら続けるぞ。背後だけじゃない。『心の声』に耳を澄ませ。意識を深く、そして広く」
三機のネモが動き出す。
それぞれが、それぞれの目指すもののために――模擬戦は、再び熱を帯びていった。
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