ジークアクス世界の闇堕ちアムロ 作:gジェネサイコー
ジョニーのイメージはレッドをメインにしつつ、ユーマとイングリッドの兄兼父のような感じで書いてます。
キマイラ隊の旗艦《サングレ・アスル》のブリッジには、緊張が静かに満ちていた。
ヒュー・マルキン・ケルビン大佐は、眉間に深く皺を寄せたまま、通信モニターに映る人物の姿を見据えていた。
その人物――キシリア・ザビは、どこまでも冷たく、感情の起伏を感じさせない声音で命じる。
「ヒュー・マルキン・ケルビン」
無駄のない口調。
「ジフレドのパイロット候補、イングリッド0。お前の部隊から引き渡せ。ジオンの未来は、その子の中にある」
ヒューの胸に、鈍い痛みが走った。
内心では、思わず舌打ちしたくなる。だが、表には出せない。
イングリッド0はジョニー・ライデンにとって、娘のように可愛がっている存在だ。ユーマと共に、キマイラ隊の未来を担う逸材でもある。
……それでも。
「はっ」
彼は、軍人として形式どおりに応えた。
通信が切れると同時に、ヒューはようやく息を吐いた。
静かに立ち上がると、硬く拳を握る。
(キシリア様直々の命令とは……)
命令には逆らえない。それが、この世界で生きるということだった。
だが――あの男に、どう伝えるか。
「……ジョニーを呼べ」
数分後、ジョニー・ライデンがブリッジに姿を現した。相変わらずの赤いパーソナルカラーのノーマルスーツに身を包み、腕を組んで不機嫌そうにヒューを見ている。
「大佐、何か用か? こんな呼び出し方は珍しいじゃないか」
その口調は、直属の上官に対してとは思えないほど砕けていたが、ヒューもそれを咎めることはなかった。ジョニーがキマイラ隊にもたらす戦果と、そのカリスマ性は、彼に多少の自由を許していた。
「ジョニー。……お前に頼みがある」
「……あ?」
「イングリッド0の件だ。キシリア様が、新型モビルスーツ“ジフレド”のパイロットとして、彼女を指名された」
その瞬間、ジョニーの表情が凍りつく。
「ジフレド? なんだそれ……それに、なんでイングリッドなんだ?」
声に、怒気と困惑が滲む。
「グラナダにだってニュータイプはいるだろ? なんでよりによって俺の隊員を」
――イングリッドは、彼にとってただの部下じゃない。
「……キシリア様の命令だ」
ヒューは、それだけを告げた。それ以上の説明はしなかった。できなかった、と言った方が正しいだろう。キシリアの真の意図など、彼には知りようもなかったからだ。
やがて、ジョニーは短く、深く息を吐く。
「……分かったよ」
ジョニーは、不承不承ながらも頷いた。内心では納得していなかったが、上官の命令、そしてザビ家の命令とあっては、今は従うしかないと判断したのだ。
(新型機か…まあ、強くなるのは悪いことじゃない。イングリッドなら、どんな機体だって乗りこなしてみせるだろうよ)
彼は、まだこの決定の裏に潜む真の恐ろしさに気づいていなかった。
キマイラ隊旗艦《サングレ・アスル》の一室。
ジョニー・ライデンの私室は、装飾らしいものもない、簡素で無骨な空間だった。
その日、テーブルを囲んだのは、彼の“家族”ともいえる四人。
ジョニー、エイシア、ユーマ、イングリッド。
いつもなら笑い声の絶えない夕食の場だが、今夜は空気が重い。
ジョニーは、しばし黙っていたが、ついに口を開いた。
「イングリッド、お前に新型モビルスーツ、ジフレドのパイロットになるよう辞令が下った」
その言葉には、イングリッドを手放すことへの、抑えきれない不安が滲んでいた。
ジョニーの言葉を聞くや否や、ユーマが勢いよく立ち上がった。
「新型モビルスーツ!?何で俺じゃなくてこいつなんだ!俺の方が上手く扱える!」
ユーマの抗議に、イングリッドも負けじと反論する。
「あんたとあたしで能力差なんてたいして無いでしょうが!この間はあたしが勝ったし!」
「あんなのまぐれだ!」
二人が子供のように口喧嘩を始める中、エイシアは不安そうにジョニーを見つめた。
「イングリッドに新型モビルスーツだなんて。私たちのところにその機体が来るの?」
エイシアの問いに、ジョニーは首を横に振った。
「いや。グラナダのキシリア様の元に向かいそこで受領するそうだ」
その瞬間、エイシアの顔から血の気が引いた。
「キシリア様の……ところへ?」
呟くようなその声には、明確な不安が滲んでいた。
ジオンにおいて、ザビ家の命令は絶対だ。それは、彼女もよく理解していた。しかし、キシリア・ザビという名前が、エイシアの胸に言いようのない不吉な予感を呼び起こした。娘も同然のイングリッドが、ザビ家の中枢に引き渡されることへの、漠然とした不安が彼女の心を覆い、沈黙が部屋に満ちた。
エイシアの悲しそうな表情を見て、ユーマとイングリッドは、それまでの口論が嘘のようにぴたりと止まった。二人は顔を見合わせ、エイシアを安心させようと言葉を紡いだ。
やがて、ユーマが気恥ずかしそうに口を開く。
「……大丈夫だよ、エイシア。イングリッドだってジョニーの教え子だし、ジョニーに恥をかかせるような事はしないって」
イングリッドも、それに続いた。
「……ユーマに同意するのは癪だけど。うん、大丈夫。私ならできる。だから、心配しないで」
二人の言葉に、エイシアの目に光が戻る。彼女は、嬉しそうに微笑むと、二人の少年少女を力強く抱きしめた。
「向こうでも無理しちゃダメよイングリッド。何かあったらすぐに連絡してね」
エイシアの優しい声が、部屋に響いた。ジョニーは、その光景を複雑な表情で見守っていた。エイシアの不安も、イングリッドとユーマの健気さも、すべてが彼の胸を締め付ける。まだ、この時は彼もエイシアも、目の前の小さな喜びの裏に潜む、巨大な陰謀に気づいていなかった。
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夕食のあと、エイシアは静かにジョニーに声をかけた。
「ジョニー。大佐に……私もイングリッドと同行できないか、聞いてくれないかしら?」
「イングリッドは確かに安定してるけど、新型サイコミュを使うならこの子の体を一番知ってる私がいた方がいいと思うの。何かあったら…」
ジョニーもエイシアの気持ちは痛いほど理解できた。イングリッドは強化人間であり、デリケートな部分もある。専門家であるエイシアが側にいるのが一番だ。しかし、今回の命令が「キシリア様直々の」ものである以上、一筋縄ではいかないだろうという予感があった。
ジョニーは、少し考え込んだあと、頷いた。
「分かった。……伝えてみる」
ジョニーは、その日のうちにヒュー大佐の元へ向かった。サングレ・アスルのブリッジには、いつものようにヒュー大佐が座っていた。
「大佐、エイシアからの願いなんだが…」
ジョニーは、エイシアの要望をヒューに伝えた。ヒューは、眉一つ動かさずにジョニーの言葉を聞いていた。
「駄目だ」
ヒューの返答は、簡潔にして絶対的だった。
「辞令が下ったのはイングリッド0だけだ。」
ジョニーは食い下がろうとしたが、ヒューの有無を言わせぬ雰囲気に、言葉を詰まらせた。
「次の定時連絡の時に聞いてくれるだけでいい、頼む。」
エイシアから託された、せめてもの願いを伝えるのが精一杯だった。ヒューは、一瞬だけ沈黙し、やがて短く答えた。
「分かった」
その言葉に、ジョニーは僅かな希望を見出した。しかし、その希望はすぐに打ち砕かれることになる。
数日後の定時連絡の後、ヒュー大佐からジョニーへ伝えられたのは、予想通りの返答だった。
「エイシアにはそのままキマイラ隊での任務を続行せよ。イングリッド0についてはグラナダにも対応できる医師がいるので問題ないと断られた」
一見、筋が通っているように聞こえる。グラナダはジオンの重要拠点であり、最新鋭の医療施設が整っているのは当然だ。しかし、エイシアの心には、拭いきれない不吉なものが渦巻いていた。娘同然のイングリッドが、たった一人でザビ家の中枢に送り込まれることに、彼女の胸はざわめいた。
(なぜ、こんなにも頑ななの…?)
エイシアは、ヒュー大佐の言葉の裏に何か隠されているのではないかと感じた。彼女の直感がそう告げていた。
その日から、エイシアは狂ったように情報の収集を始めた。キマイラ隊の内部ネットワークはもちろんのこと、自身の持つ個人的なコネクションを全て使い果たした。同期の軍医や技術部の先輩・後輩、さらには裏の情報屋にまで接触し、キシリア派の動向、新型モビルスーツ「ジフレド」に関するあらゆる情報を漁った。彼女の睡眠時間は削られ、食事もろくにとらなくなった。ジョニーやユーマが心配するほどに、彼女は情報収集に没頭した。
そして、数日後。エイシアの努力は、恐るべき真実に突き当たった。
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