ジークアクス世界の闇堕ちアムロ 作:gジェネサイコー
宇宙宙域──ムサイ級巡洋艦とコムサイをめぐる戦場に、白き閃光が走った。
オルテガの撃ったビームは、横から飛来したもう一本のビームと衝突し、宇宙に眩い閃光を残して消し飛ぶ。
「なっ……!?」
ガイアが驚愕に満ちた声を上げる。
「まだ仲間がいたのか!?」
オルテガとガイアがそちらへ視線を向けると、黒い宇宙を切り裂くように、一機の白い機体が高速で接近していた。
「ガンダム……だと!?」
オルテガの叫びと共に、連邦の象徴たるその姿──アレックスN型が、堂々と戦場に躍り出た。
その機体から、静かにアムロの声が響く。
「……どうにか防げたな。だが、こんな曲芸、何度もやりたくない」
「アルレットの言う通り、サイコフレームでフィン・ファンネルを早く使いたいものだ……」
アムロは視線を前へと向け、鋭く指示を飛ばす。
「フォウ!」
「はいっ!」
フォウが即座に応じる。
「すぐにあのコムサイへ接近、交信して協力体制を取り付けろ。内部に何が起きてるのか、詳細が手に入るはずだ。
成功したら、直掩につきつつビットで援護しろ!」
「了解!」
フォウのネモK型が加速し、戦意のない姿勢を明確に示しながらコムサイへと接近していく。
「カミーユは俺と来い!」
「了解!」
「まずは、あのヒート・ロッドに捕まっているゲルググを救出する。その後はコムサイまで後退、フォウと同じく援護に回れ!」
アムロとカミーユのアレックス2機が、ドム部隊の中心へと突入するその一方──
フォウの機体は、ゆっくりとコムサイとその周囲の2機のゲルググへと近づいていた。
フォウは、戦意がないことを示す信号を発信しつつ、通信を開く。
「そちらがジオン同士でやり合ってるようなので、援護に入らせてもらったわ。協力できる?」
その通信に、最初に応じたのはジョニー・ライデンだった。
「……それはありがたいが、お前たちは何者だ?」
フォウは軽く笑いながら答えた。
「《民間ジャンク商会の護衛部隊》が、《偶発的に敵艦を目撃し、対処した》……って言ったら、信じる?」
「カケラも信じられないな。お前らは連邦だろ? なぜ介入する?」
「まあ、バレるよね。うん。正直に言うけど……私たちは連邦軍。実験データの収集目的の部隊だよ」
エイシアが思わず声を上げる。
「それ……バラしていいの?」
フォウは小さく笑って、さらりと言い返す。
「駄目だね。でも、これだけ近づけば私にも分かる」
「……何が分かるんだよ?」
とユーマが問い返した瞬間、フォウの声は少しだけ真剣な色を帯びた。
「あなたたちが、あの捕まってるゲルググの子を……命を賭けて、全てを捨ててでも助けようとしていたこと」
その一言に、三人のジオン兵の動きが止まる。
「お前……ニュータイプなのか?」
と、ジョニー。
フォウは一瞬、目を伏せ、そして小さく頷く。
「……人工のね」
「連邦の強化人間」
エイシアの声に、フォウは正面から頷いて返す。
「そう。でも、今は“人間”として扱ってもらえてる。
だから、同じように“強化人間”のために命を張ってるあなたたちに、建前の嘘なんてつきたくなかったんだ」
その言葉に、ジョニーの表情が柔らかくなる。
「……わかった。なら協力させてくれ。イングリッド──あのゲルググの子は、さっきの2機が助けに行ってくれるんだな?」
「もちろん」
フォウは力強く頷いた。
そして、ほんのり緩んだ空気の中で──ずっと気になっていた様子のユーマが、口を開いた。
「あのさ……さっきのことなんだけど」
「ん?」
「ビームをビームで狙撃してたけど、あれって連邦にはそんなシステムあるのか?」
フォウは、あきれたように笑う。
「あるわけないでしょ。あれは……あの人がマニュアルでやったのよ」
「は!? そういう訓練をしてたとかじゃなく?」
「ううん。今日が初めてだったみたいよ」
「……連邦のニュータイプ、やべえ……」
思わず零したユーマの言葉に、フォウは胸を張って笑った。
「当然でしょ? あの人こそ、連邦最強のニュータイプ──アムロ・レイなんだから」
「……何ぃ!? ジョニーだってあれくらい……!」
「出来るか! あんな神業、真似させようとするな!」
ジョニーが頭を押さえて叫ぶ。
その声に、思わずコムサイの通信チャンネル内に笑いが広がった。
敵と味方の境界を越えて、たった一瞬だけ、戦場に微かな安堵が差し込んでいた。
ヒート・ロッドに囚われたイングリッドのゲルググが、黒い三連星の前で動きを封じられていた。
そこへ、白い閃光が鋭く差し込む。
「……ビット、展開!」
アムロのアレックスN型から、数基のビットが滑るように放たれ、自在に軌道を描いて敵陣を切り裂く。
そのうちの一基が、イングリッドのゲルググを縛るマッシュのヒート・ロッドへと一直線に飛び込む。
──ビシュッ!
ヒート・ロッドは、中程から裂けるように切断された。
「!? なにっ――」
マッシュが驚愕する間もなく、アムロの通信が走る。
「カミーユ、今だ。彼女をコムサイまで連れて行け!」
「了解!」
カミーユのアレックスも即座に動く。
ビットを展開し、残った片腕のビームライフルと合わせて牽制射撃を連続で放つ。三連星の連携を崩しながら、被弾で損傷したイングリッドのゲルググを回収し、後方のコムサイまで後退を開始する。
「くっ……私、まだ動けるのに……」
イングリッドが歯噛みするが、カミーユの表情は変わらない。
「まずは治してからだ。死んだら何も守れないだろ!」
背後では、三連星が新たな標的をアムロへと定めていた。
オルテガが唸る。
「まさか真紅の稲妻だけじゃなく、連邦のガンダムまで来るとはな……」
ガイアも、不敵に笑う。
「ああ。こりゃあ、もらえる勲章が今から怖いぜ」
だが、アムロの目は鋭く彼らを見据えていた。
(もう勝った気でいるのか……)
アムロは静かに息を整え、口の中で呟く。
(まあ確かに……動きは悪くない。連携も見事だ。軽キャノンに乗っていた頃の俺だったら……倒されてたかもしれない)
機体を静かに旋回させながら、彼は最後に言葉を吐いた。
(だが、今乗っているのはアレックスだ。悪いが──敵じゃない)
次の瞬間。
アムロのアレックスが、宇宙を裂くように加速した。カミーユのビットも連携して援護を入れることで、三連星の得意とする「直列連携」への切り崩しを図る。
「オルテガ、左からだ!」
「おう!」
「マッシュ、援護に入れ!」
「了解だ!」
だが、彼らの呼吸の一瞬のズレを、アムロは見逃さない。
「まずは、お前からだ」
左へ滑り込む軌道から、アムロは迷いなくトリガーを引いた。
──ズドォン!
オルテガのドムが、ビームライフルの直撃を受け、爆炎と共に宇宙に咲いた。
「オルテガ!? くそぉ!」
マッシュが怒りに任せてアムロへと突っ込む。その一撃は鋭く、重い。だが、アムロは巧みに機体を捻ると、ドムの正面を捉え、ビームサーベルを抜く。
「突っ込みすぎだ」
──ガシュッ!!
すれ違いざま、マッシュのコックピットに直撃する斬撃。断末魔の爆音が、戦場に響く。
「マッシュまで……!」
ガイアが叫ぶ。そして、怒りと焦燥のままに、猛突進してくる。
「ガンダムゥ!!」
アムロは、その突進を冷静に迎え撃つ。
「……悪いが俺にも背負うものがある」
周囲に浮かぶビットが、一斉に火を吹いた。
──ズドン!
炸裂する複数の直撃。ガイアのドムもまた、静かに爆発四散する。
黒い三連星、ここに全滅。
戦場には、静寂が戻りつつあった。
「カミーユ、彼女は?」
「無事です。あと少しでコムサイに!」
「よし。後は連邦が得意な“データ回収”と“後処理”だな……」
アムロの声は静かだったが、その中には、かすかな疲労と共に、確かな勝利の実感が込められていた。
サラミス級巡洋艦「ジャンク」艦内・会議室
艦の振動が遠のき、戦闘が終わったことを知らせていた。
しかし、会議室の空気は静けさとはほど遠い、重苦しいものだった。
中央の長机を挟んで、ジオン側のジョニー・ライデン、エイシア・フェロー、ユーマ・ライトニング、イングリッド0が座り、対する側にはヘンケン・ベッケナー艦長、アムロ・レイ、カミーユ・ビダン、フォウ・ムラサメが並んでいた。
そして、その場の空気にさらに重みを加えるように、机の横側――壁際には、やけにガタイのいい男たちが数人、直立不動の姿勢で控えていた。彼らは何も言わず、動かず、ただジオンの4人に向けて鋭い視線を注いでいる。その無言の圧力が、彼らが“ただの乗組員”ではないことを雄弁に物語っていた。
ヘンケンが、腕を組んで重々しく口を開く。
「さて……まずは確認しておきたい。君たちはジオン軍所属だったはずだ。なぜ同じジオンと戦っていた?」
その問いに、ジョニーが短く息を吐いた。
「俺たちは、キマイラ隊……キシリア・ザビの直轄部隊だった。だがある日、本部から“ジフレド”なる新型機のパイロットとして、イングリッドを出せと命令がきた」
視線をエイシアに向け、彼女が話を引き継ぐ。
「その命令を受けて、私がジフレドについて調べたんです。結果、わかったのは……ジフレドが“ゼクノヴァ”を兵器として転用するための引き金になる機体だということでした」
エイシアの表情は硬く、言葉には震えが混じっていた。
「使えば、何十万、あるいはもっと多くの人を殺す可能性がある。その中心に、ニュータイプに近い感応力を持つイングリッドが座る……。精神が無事で済むとは、とても思えなかった」
「それだけじゃねえ!」
ユーマが、少し身を乗り出すように言葉を重ねた。
「前にジフレドに選ばれたパイロットが2人いた。だが、どっちも原因不明で死んでる。なのに、キシリアは何の対応もせず放置してたんだ」
沈黙が会議室に流れる。
誰もがその言葉の重みに、思考を止めた。
ジョニーが、ゆっくりと続ける。
「つまり……何もしなければ、イングリッドはどっちに転んでも助からない。ゼクノヴァの引き金にされて精神を壊すか、前の2人みたいに暗殺されるか……そのどちらかだ」
その声音には、怒りと、決意、そして微かな後悔がにじんでいた。
「だから……俺たちは、ジオンを裏切ってでも、この子を助け出すために戦った。それだけだ」
会議室の空気が、少しだけ変わった。
敵だったはずの彼らの言葉に、確かに“守ろうとした者”の誇りがあった。
フォウが、そっと呟いた。
「……それなら、戦った理由は……よく、わかるよ」
カミーユも、静かに頷いた。
アムロの視線がジョニーに向けられる。その奥にあったのは、戦士としての敬意だった。
ヘンケンはしばらく沈黙した後、椅子に背を預け、目を細めた。
「……厄介な話を持ってきたな。だが、そういう連中の方が、信じられることもある」
続く沈黙の先で、彼の口元がわずかにほころぶ。
「状況は複雑だが……少なくとも、今の君たちが“敵”じゃないのは確かだ」