ジークアクス世界の闇堕ちアムロ   作:gジェネサイコー

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幕間: ジョニー・ライデンの帰還9

フォウは食器を静かにテーブルに置くと、席を立ちつつ言った。

 

「……この艦の重要性も、あなたたち護衛部隊の責任の重さも分かったわ。だから――私、行くね」

 

その言葉に、即座に反応したのはコンロイだった。

 

「どこへ行くつもりですか?」

 

フォウは肩越しに振り返って、きっぱりと言った。

 

「決まってるでしょ。あなたたちが“警戒してる”ジオンの人たちのところ」

 

コンロイは一瞬、言葉を詰まらせた。

 

「それは……」

 

だがフォウは、それを遮るように続ける。

 

「あの人たちの“これから”って、まだ何も決まってないんでしょ? だったら、私たちが話を聞いてあげるくらい、いいと思うの」

 

彼女は静かにアムロを見つめる。

 

「それなら、いいよね? アムロ」

 

アムロは少しだけ長い息を吐いて、立ち上がった。

 

「……ああ。それなら仕方ないな。話す価値がある相手だ」

 

フォウはニッと笑って、カミーユを振り返った。

 

「で? 今度はちゃんと味方してくれるよね、カミーユ?」

 

カミーユはすぐに立ち上がり、微笑んだ。

 

「もちろん。俺も行くよ」

 

コンロイは一歩前に出て、制止するように手を上げた。

 

「待ってください。私たちの任務は、あなた方の警護であって……」

 

だがフォウは、軽く手を振って言い返す。

 

「だったら、一緒に来ればいいでしょ。どうせ、あの人たちにはあなたたちの隊長――ダグザ中佐がついてるんでしょ?」

 

彼女の言葉に、コンロイの眉がピクリと動いた。

 

「影みたいに張り付いてるなら、食堂で影やってるのも、会議室で影やってるのも一緒でしょ?」

 

そう言ってフォウは、さっさと食堂を出ようとする。その背中を見ながら、アムロとカミーユも後に続く。

 

コンロイは深いため息をつきながら、小さく呟いた。

 

「……まったく、どこまで手のかかる“味方”なんだか」

 

しかし、その足は、しっかりと3人を追っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

無骨な銀色の隔壁の前に、ダグザ・マックール中佐が腕を組んで立っていた。精悍な顔に刻まれた皺と、警戒心を隠そうとしない鋭い視線は、まさしくプロの軍人そのものだった。

 

そこへ、フォウ・ムラサメが先頭に立ち、アムロ、カミーユ、コンロイ、そしてエコーズの精鋭兵2名を引き連れるようにして現れた。

 

ダグザは眉をわずかに顰め、短く尋ねた。

 

「……何か用か?」

 

フォウは、まっすぐダグザの目を見て言った。

 

「ジオンの人たちと話がしたいんです」

 

その場にぴんと張った空気が走る。ダグザの鋭い視線が、フォウの後ろに控えるコンロイと2人の部下へと向けられた。

 

「……おい。お前たち、何のつもりだ?」

 

問い詰めるような声音に、コンロイが居住まいを正し、申し訳なさそうに答えた。

 

「……すみません、隊長。しかし我々の今後の警護方針を決めるうえでも、この中の者たちがどのような意志でここに来たのか、直接確認する意義はあると判断しました」

 

ダグザの口元が、わずかに歪む。

 

「……それを“警護対象”がやるのか? 本末転倒だな」

 

しかし、フォウは一歩も退かず、むしろ前へ出るようにして言い放った。

 

「あなた達は今日初めて会った人の本心がわからないんでしょ?だから警戒する。なら分かる私たちが代わりにやるって言ってるの。」

 

――さっき自分が言ったばかりの言葉が、今そっくりそのまま返ってきた。

 

横で聞いていたコンロイは、額を押さえて天を仰いだ。

 

「……あの時の自分をぶん殴りたいですね……」

 

すかさず、フォウが追撃を放つ。

 

「それとも何? あの人たちがこの艦を降りるまで、ずーっと今の護衛と警戒を続けるの? 警戒し続けて、それで非常時に万全の戦力発揮できるの? この艦がどれだけ重要か、あなたたちの方がよく知ってるでしょ?」

 

一瞬の沈黙。

 

その横で、コンロイがカミーユにそっと小声で漏らした。

 

「……あなたの彼女さん、口がうますぎます」

 

カミーユは気まずそうに苦笑して返す。

 

「……すみません」

 

ダグザはそのやり取りを黙って見ていたが、やがて、腕を組み直して重々しく息を吐いた。

 

「……いいだろう。だが俺も入る」

 

鋭い視線のまま、ゆっくりとドアをノックした後、ドアロックの解除スイッチに手をかけた。

 

「警備を理由に同席する。いいな?」

 

その言葉に、フォウは小さく頷き、カミーユも後ろで静かに頷いた。

ドアが開き、彼らはジョニーたちの待つ部屋へと足を踏み入れる。

 

――新たな対話が、始まろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

扉が開き、フォウを先頭に、カミーユ、アムロ、そして彼らを警護するという名目で同行しているダグザ中佐と、無言のまま後ろに控える3人の兵士たちが入ってくる。

 

ジョニー、ユーマ、エイシア、イングリッドの4人は、突然の訪問者たちの姿に驚き、思わず立ち上がった。

 

ジョニーが警戒するように目を細める。

 

「……なんだよ、随分と物々しいメンツじゃねぇか。俺たち何かやったか?」

 

エイシアも、背後のダグザとその部下たちのただならぬ雰囲気に息を呑む。

 

「まさか、連邦が今さら私たちを処分しに——」

 

「違うよ」

 

フォウが、軽く手を上げて静止した。

 

「あなたたちが、これからどうしたいのか。それを聞きに来ただけ。だから、怖がらなくていい」

 

「……俺たちが今後どうしたいか、だと?」

 

ジョニーが目を細めて、フォウをじっと見つめる。

 

「そう。だって、ジオンにはもう帰れないでしょ? それに、どこかのコロニーに隠れるってのも、身元バレの危険があるんでしょ」

 

エイシアが静かに頷いた。

 

「その通りね……正直、行く宛もないのが現状」

 

フォウは間髪入れず、さらりと提案する。

 

「なら、連邦に来ればいいんじゃない?」

 

その瞬間、部屋にいた全員が硬直した。

 

「……はあ?」

 

ジョニー、エイシア、ユーマ、イングリッドが、揃って間抜けなほどに素っ頓狂な声を上げる。

 

カミーユが真剣な表情で言った。

 

「確かに、それしかないと思います。あなたたちは保護対象になるだけの理由がある」

 

ジョニーは渋い顔をして首を振る。

 

「俺はジオンのエースだった。何人もの連邦兵を撃ち落としてる。しかも最後は裏切り者ときた。そんな俺が連邦に入って信用されるとでも?」

 

フォウが、少し声を強めて答えた。

 

「私は、あなたの“裏切り”を裏切りとは思ってない。先に裏切ったのは、キシリア・ザビでしょ。あなたたちの忠誠を、イングリッドを、道具扱いしたあの女よ」

 

エイシアは、その言葉に何も言えず目を伏せた。

 

「それは……そうだが。」

 

ジョニーはため息をつきながらも言う。

 

「……仮に受け入れられたとしてだ。じゃあ俺たちは何になる? 適当に最前線送りか、最悪、実験体コースだろ?」

 

その言葉に、フォウの瞳が怒りを宿すように光った。

 

「強化人間は、もう作らない。希望してきた子がいたけど、それすら断ってる。今の連邦は、昔の私みたいな実験体をもう欲しがってなんかいない」

 

その言葉には、かつて道具として扱われてきた強化人間としての苦しみと、今の連邦への信頼と誇りが込められていた。

 

イングリッドが、椅子に腰掛けたまま言う。

 

「……でも、私はあなたと違って、今後も定期的な調整やコストがかかると思う。それでも?」

 

フォウは少し笑って、言った。

 

「大した問題じゃない。そりゃあ昔はね。あなたたちの言う通り、ジオン出身ってだけで最前線送りか、実験に回されることもあった。けど今は違うって、断言できるよ」

 

ユーマが疑わしげに口を開く。

 

「なんでそんなに自信満々なんだよ。あんた達がそう思ってても、上の連中は違うかもしれねぇじゃねぇか」

 

 

フォウは真っ直ぐにユーマを見つめ、静かに、しかし確信を持って語る。

 

「だってね――“もう強化人間の実験はしない。君たちには今後、副作用が起きないように治療するから、好きに生きていい。そのためのサポートもいくらでもするから、何でも言ってくれ”って」

 

ジョニーたちがその“セリフ”を聞いた瞬間、部屋の空気が変わった。

 

あまりにも生々しく、具体的な口調だった。

 

そして彼らは気づいた――

 

それが、目の前にいるフォウ・ムラサメ自身の過去の話であることを。

 

フォウは、静かに言葉を継いだ。

 

「ここまで研究所の人間に言わせるくらい、“強化人間として”じゃなく、“人として”成果を出してくれた仲間がいて……。その背中を見て、本気で上層部に訴えかけてくれる、優しくて強い先輩達がいて……」

 

その声には、どこか懐かしさと尊敬が混じっていた。目を伏せ、静かに息を整えながら、フォウは続けた。

 

「そして、その訴えを、ただの意見としてじゃなく“未来のために必要な声”だって受け止めてくれる上の人たちがいた。だから今の連邦があるの」

 

一言ごとに、フォウの中で噛み締めるような熱がこもっていく。

 

「そんな奇跡みたいな流れで、ようやく手にした救いのチャンスだったのに――それすら信じきれなくて、いじけて、嘘ついて、自分から悪い研究所に“実験体として”戻っていったバカたちまで、あの人たちは助けてくれた」

 

目を伏せていたフォウが、ふいに視線を上げた。

 

その瞳には、迷いのない光が宿っていた。

 

「だから……あなたたちが“本心で戦う”って言ってくれるなら、連邦はきっと、それを信じてくれるよ」

 

静まり返った部屋に、フォウの言葉だけが、柔らかく、けれど芯を持って響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

通路の扉が静かに閉じる音と共に、フォウ、カミーユ、アムロの3人はジョニーたちの部屋を後にした。

 

フォウは少し足を緩めながら、後ろを振り返らずに口を開く。

 

「……あの人たち、連邦に来てくれるかな?」

 

声には、ほんの少しの不安と、どこか祈るような響きがあった。

 

カミーユがすぐに応じる。

 

「まだ分からないけど……フォウの気持ちは、ちゃんと伝わったと思うよ」

 

彼女の歩調に合わせながら、カミーユの表情は優しく穏やかだった。

 

アムロも静かに頷いた。

 

「そうだな。俺たちには言えないことだった。強化人間の過去も、今の人間としての未来も――両方を知る君だからこそ言えた」

 

フォウは少し肩をすくめながら、冗談めかして言う。

 

「でもさ、私より同じジオン出身のアルレットの方が、話が通じたんじゃない?」

 

アムロはふっと笑って、首を横に振る。

 

「いや、君にしかできないことだったよ。」

「それと、あの件はムラサメ博士の前で言わないように。また仕事が手につかなくなるからね。」

 

その言葉にフォウは照れたように口を引き結び、何も言わずに前を見た。

 

そんな3人の背後で、ダグザ中佐は無言で見送っていた。そして、その背中を追おうとするコンロイと、カミーユ・フォウの護衛として同行しているエコーズの精鋭2人に声をかけた。

 

「おい、お前ら」

 

振り返る3人に、ダグザは静かに命じた。

 

「今後はアムロ・レイだけじゃなく、他の2人の要望も、護衛に支障のない範囲で聞いてやれ」

 

コンロイは少し困ったように眉を寄せながら返す。

 

「……いいんですか? 食堂で『トレイ持ってきて』とか言われかねませんよ?」

 

ダグザは淡々と答えた。

 

「この艦には、クルーとして働いてるエコーズがまだいる。やつらの目が届く場所なら――多少のことは許可する」

 

コンロイは肩をすくめて苦笑しつつ敬礼する。

 

「了解しました、中佐」

 

そして再び足音が響き、フォウたちの背中を追って彼らは歩き出した。

 

その後ろ姿を、ダグザはしばらく無言で見送っていた。まるで、彼自身もまた何かを確かめるように。

 

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