ジークアクス世界の闇堕ちアムロ   作:gジェネサイコー

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幕間: ジョニー・ライデンの帰還11

シミュレーターテスト:交錯する思惑

 

会議室での話し合いが終わり、ジョニーたちの身分と今後の協力体制が決定した翌日。

サラミス級巡洋艦《ジャンク》艦内の一室に、アムロ・レイの呼びかけで、ジオン側の四人――ジョニー・ライデン、イングリッド、ユーマ、そしてパイロットではない医官のエイシア――が顔を揃えていた。

 

アムロは彼らを“チーム”として見極めるつもりだった。個の戦力ではなく、連携と適応力――何より、信頼に値するかどうかを。

 

「さて、みんな。今日は君たちの腕前を測らせてもらう」

 

柔らかくも芯のある声。

その背後には、カミーユ・ビダンとフォウ・ムラサメが真剣な面持ちで控えている。

 

「君たちに、どれくらいの仕事を任せられるか。そのレベルを知るためのテストだ」

 

ジョニーは目を細め、口を引き結ぶ。

 

「腕前って言ってもな……俺たち、連邦の機体なんて使ったことがないぞ? 勝手もわからねえモビルスーツで、何をテストするってんだ?」

 

ユーマも静かに頷き、イングリッドは不安げに唇を噛んでいた。

 

だが、アムロは微かに笑みを浮かべて首を振る。

 

「問題ない。君たちの機体データは、俺とカミーユでシミュレーターに入力しておいた。動作は可能な限り再現してある」

 

「そりゃまた……手回しがいいな」

 

ジョニーは皮肉めいた口調で言いつつも、内心では“それだけ注目されている”ことを理解していた。

 

「まず10分、試しに動かしてくれ。違いがあればすぐ調整する」

 

ジョニーはユーマとイングリッドに目をやり、無言で頷き合うと、3人はシミュレータールームへと向かっていった。

 

扉が閉まる。その背を見送っていたカミーユが、ひとつ溜め息をつく。

 

「俺も親父に仕込まれましたけど、いきなりシミュレーターにデータ追加とか、簡単に言わないでくださいよ、アムロさん」

 

アムロは肩を竦めてみせた。

 

「足手まといになると思ったら、最初から頼んでないさ」

 

その言葉に、カミーユはわずかに頬をかく。

 

「……そう言ってくれるのは嬉しいですけどね。でも、アルレットは? あの人ならシステム的なバックアップにも最適だったはずじゃないですか」

 

アムロは天井を見上げ、やれやれとばかりに息を吐いた。

 

「ビットの宇宙での訓練データだけのはずが、実戦データまで取れたからな。地上に戻るまでにまとめておきたくて、大忙しだ。とてもじゃないが、他のことは頼めない」

 

「ああ……技術者特有のデスマーチですか」

 

カミーユは遠い目をして呟いた。彼の脳裏には、自宅で徹夜作業に明け暮れる父と母の姿が浮かんでいた。

**

 

 

 

扉が閉まり、静寂が戻った空間で、アムロはエイシアへと向き直った。

 

「エイシアさん。君には、ここでシミュレーションのログと、彼らの生体データをリアルタイムで分析してもらう」

 

「……私が?」

 

驚いたように目を見張るエイシアに、アムロはゆっくりと頷いた。

 

「君の知識は、今の連邦にとって非常に貴重だ。強化人間の生理的・心理的傾向を把握してる医官なんて、連邦にはほとんどいない。

加えて、ジオン式のCADシステムを使える人間も、ここには君しかいない」

 

言われて初めて、エイシアは自分の手にあるノート端末に目を落とした。

そこには、自分が連邦に持ち込んだ技術――そして、かつて“兵器”として使われていた仲間たちの記録――が、確かに存在していた。

 

「……わかりました。私にできる限りのサポートをします」

 

静かに、だがはっきりとした声だった。

 

その時、シミュレーター内の3つの機影が、音もなく動き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

シミュレーターから戻ってきたジョニー、ユーマ、イングリッドの三人に、アムロが静かに問いかけた。

 

「どうだ? 君たちの機体との違いはあったか?」

 

ジョニーが腕を組みながら、やや驚いた表情を浮かべる。

 

「……いや、全く問題ない。俺とユーマの機体は実機があるから、まあまだ分からんでもないが――」

 

そこで言葉を切り、イングリッドに目をやる。

 

「……イングリッドの機体まで誤差がないってのは、どういうことだ?」

 

アムロは軽く肩を竦めて、当然のように答えた。

 

「前もって聞いていたからな。君たち3人の戦い方、機体特性……特に、ユーマとイングリッドの戦い方はジョニーに近い。ただ、イングリッドはより機動戦を好むと聞いていたから、そちら寄りに調整しておいた」

 

イングリッドが目を見開いて、呆れたように叫ぶ。

 

「いや、話を聞いただけでそこまでやれる“異常性”の話をしてるの!」

 

しかしアムロはあくまで涼しい顔で言葉を返す。

 

「大したことじゃない。親父はシミュレーターに一から機体データを組み込むの、だいたい一時間でやってたよ」

 

その瞬間、ジョニーたちは理解した。

まだその“親父”とやらには会っていないが、目の前のアムロ・レイも、その父も――この親子は根っからの機械オタクにして、とびきりのプロフェッショナルだと。

 

「さて……」

 

アムロは場の空気を整えるように姿勢を正した。

 

「じゃあ、次は模擬戦だ。君たち3人対、カミーユとフォウの2人――まずはそこから始めよう」

 

ユーマが驚いたように眉を上げる。

 

「おい、あんたはやらないのか? そっち3人揃えば、ちょうど3対3だろ?」

 

「ユーマ」

 

ジョニーが制するように名を呼んだが、ユーマは気にせず続けた。

 

「そりゃあ、さ。ビームをビームで撃ち落とした神技は見たよ。真似できるもんじゃねえ。だけど、それとこれとは別だろ? 最初からハンデ戦とは……下に見過ぎじゃねえか?」

 

アムロは一拍置いて、わずかに笑みを浮かべる。

 

「そうだな。だが、最初に俺が君たちと戦わない理由も――模擬戦が終われば分かるさ」

 

「……?」

 

「こうしよう。君たちが、カミーユかフォウ、どちらか一人でも落とせたら、次は俺も加えて3対3でやる。――それでいいか?」

 

ユーマはその目に火を灯し、静かに拳を握った。

 

「分かった。絶対、あんたを引きずり出してやる」

 

彼の決意は、真っすぐだった。

 

やがて3人が再びシミュレータールームへ向かおうとしたその時――ユーマの部屋の通信端末が鳴った。

 

「ユーマ!」

 

画面に映ったイングリッドの顔は、怒気を含んでいた。

 

「何考えてんの!? あの戦い、見たでしょ!? 黒い三連星がまるで相手にならなかったのに、私たちが同数で戦ってどうすんのさ!」

 

ユーマはやや気まずそうに目を逸らしながらも、はっきり答えた。

 

「分かってる。でもよ――お前だって、戦う前から弱いなんて言われたら、言い返したくなるだろ? 俺だって、やれるって言いたいんだよ」

 

通信越しに、イングリッドが詰まった。

 

その背後から、ジョニーの声が飛ぶ。

 

「まあ……ユーマの言いたいことも、分からんでもない。けどな」

 

ジョニーは腕を組んだまま、真剣な目で2人を見据えた。

 

「今回の3対2は、お前のせいじゃない。今までの訓練で、手抜きしたことあるか?」

 

「……無い!」

 

「私も無い!」

 

イングリッドが勢いよく返す。

 

ジョニーは頷き、静かに言葉を続けた。

 

「そう。訓練で手を抜いてないなら――負けるとすれば、原因は他にあるんだよ」

 

ユーマが息を呑んだ。

 

「他って……なんだ?」

 

ジョニーは腕を下ろし、ヘルメットを手に取る。

 

「……戦えば分かる。――時間だ」

 

言い終えると、彼はゆっくりと歩き出した。

それを追うように、ユーマとイングリッドも黙って続く。

 

模擬戦の幕が、今――上がろうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

模擬戦開始 ― 絶望の中の確かな手応え

 

戦闘開始の合図とともに、3機のゲルググが真空の宙域に展開した。

 

前衛を務めるユーマのゲルググは、ビームサーベルを高く構えながら、真っ直ぐに飛び出す。荒々しくも正確な軌道――強化人間としての身体反応速度が戦術を下支えしていた。

 

一方、後方からビームライフルで牽制射撃を繰り出すのはイングリッド。ユーマの動きに合わせ、相手の注意を引きつけたところで横から強襲を仕掛ける構えを取る。得意の高機動戦を活かし、機体を宙に舞わせるように自在に操るその技術は、すでに一人前のエースのそれだった。

 

その2機の中央、やや下方で動きを見守りつつ進むのはジョニーのゲルググ。鮮やかな赤い塗装を纏ったその機体は、敵味方双方の視線を奪う。仲間の動きを即座に把握し、ビームの軌道を一つ先まで読むような感覚で、即座にカバーへと動く。

指揮官にしてエース――まさに”真紅の稲妻”の名に恥じぬ立ち回りだった。

 

だが――相手が悪かった。

 

フォウ・ムラサメのアレックスが、最初に彼らの前に立ちはだかる。

元強化人間の直感力と、完全に身体と一体化したようなモビルスーツ操作。

次々と展開されるビットの攻撃は、三機を同時に追い詰める。

 

さらに――

 

「……っ! 速い……!」

 

ジョニーが舌を巻いたその瞬間、宙域の影から飛び込んできたもう一機――

 

カミーユ・ビダンのアレックスが、まるで無重力の中を“滑る”ように加速した。

 

その動きは、機体の挙動を超えて“心の意志”が先行しているかのようだった。

 

「……これが、連邦のニュータイプの力か」

 

ジョニーが漏らしたその声を、ユーマとイングリッドは聞いていなかった。すでに彼らは、死力を尽くした応酬の最中だったからだ。

 

フォウのビット数機は、イングリッドの射撃によって撃ち落とされていた。ユーマのビームサーベルは、アレックスのシールドに肉薄し、ジョニーの精密な射撃は何度かフォウとカミーユの機体を捉えかけていた。

 

だが――

 

決定打にはならなかった。

 

フォウはビットを次々と再配置し、戦場を掌握し続ける。カミーユは逆に、その再配置の瞬間に生まれた“隙すら隙ではない”という異常な反応で攻撃を捌き続けた。

 

やがて、ユーマのゲルググが両足部をビットにより破壊され、制御を失って離脱。イングリッドの高機動も、アレックスの連動制御とバイオセンサーの前には読み切られ、スラスターを潰され行動不能に。

 

最後まで戦場に残ったジョニーも――カミーユとフォウの見事なクロスレンジの連携により、機体の関節部に精密なダメージを受け、やむなく棄権信号を送ることとなった。

 

シミュレーション、終了。

 

虚空に沈黙が広がった。

 

艦内の観測ルーム。沈黙を破ったのはイングリッドだった。

 

「……あれが“才能”ってことなの?」

 

その言葉に、ユーマが悔しそうに顔をしかめた。

 

「才能で全部片づけんなよ……けど、確かに“おかしい”とは思った」

 

イングリッドはただ、呼吸を整えながら、自分の射撃ログを思い返す。何が足りなかったのか――ではなく、何が“違った”のかを。

 

**

 

アムロは、モニターを見つめながら静かに呟いた。

 

「カミーユはともかく、フォウと君たちの間に、才能差はない――本来は、な」

 

カミーユとフォウが並んで戻ってくる。カミーユは息一つ乱していなかった。

 

「でも目指してる高さが違う。俺達はアムロさんに、並びたいんだ」

 

「……!」

 

ジョニーたちは思わずカミーユを見る。彼の眼に宿るのは、野望ではなかった。使命感――アムロ・レイという男の隣に立ち、戦場を背負う覚悟の光だ。

 

「それに、機体の差もある。俺たちはアレックスやネモで訓練してきた。対して君たちは旧式のゲルググ。いい機体だが、もう一年戦争の遺物だ」

 

「……だがな」

 

アムロが、そっと補足するように言った。

 

「そのゲルググで、フォウのビットを数機落とし、俺の作った予想ラインも破った。君たちは、もう戦力として数えていい」

 

ジョニーの口元が、ようやく緩んだ。

 

「そいつは……嬉しい評価だな」

 

模擬戦は敗北に終わった。しかしそれは、戦力の“線引き”ではなく、“起点”を示す戦いだった。

 

 

 

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