ジークアクス世界の闇堕ちアムロ 作:gジェネサイコー
― 《ジャンク》艦内 ブリッジ ―
ブリッジに緊張が走るなか、通信士が一つの信号を受信し、オペレーターに向けて叫んだ。
「ミナレットから通信です! 映像あり、識別コード一致。送信者は……キマイラ隊所属、第二小隊!」
「出してくれ」
ヘンケンが静かに指示を出すと、前方モニターにジオン軍の制服を着た男の姿が映し出された。精悍な顔つき、落ち着いた瞳。そこにいたのは、キマイラ隊第二小隊隊長――ジーメンス・ウィルヘッドだった。
『こちらはキマイラ隊、第二小隊隊長ジーメンスだ。……交戦の意思はない。』
その言葉にブリッジの空気がわずかに揺らいだ。
『……そちらに、“ジオンの裏切り者”がいるんじゃないかと思ってな』
その発言に、ヘンケンはゆっくりとジョニーを振り返った。
無言で頷くジョニー。そして、前に一歩進み、通信モニターの前に立つ。
「……よう、ジーメンス」
その瞬間、通信先のジーメンスの顔が一瞬だけ綻んだ。
『やはり、生きてたか。ジョニー』
「どうにかな。それで……ミナレットまで持ち出して来て、何の用だ? “交戦の意思はない”って言うが……お前らは、キシリアに“俺の追撃”を命じられたんじゃないのか?」
ジョニーの言葉に、ジーメンスは苦笑を浮かべる。
『ああ、命じられたさ。キシリア様はお前の“裏切り”にカンカンだったぜ。……まあ、あの女にしては感情的だったな』
「……聞いてくれ、ジーメンス。キシリアは、イングリッドのことを――」
『――まあ待てよ。』
ジーメンスが軽く手を上げて遮る。
『通信越しに話すことじゃない。そっちに向かう。ランチで数名だけ乗せていく。警戒はしてくれて構わない。モビルスーツを待機させててもいい。だが、俺たちを直接会わせてくれないか?』
ジョニーは、ヘンケンを振り返る。ヘンケンは黙って一拍置いた後、指揮席から立ち上がった。
「……いいだろう。ランチの接近を許可する」
そして、全ブリッジに号令が響く。
「アレックス隊、サラミスとミナレットの中間宙域にて待機。ネモ隊は格納庫にて即応待機とする!」
通信が切れ、ジョニーは小さく息を吐いた。
「……あいつら、来るな」
アムロが隣で頷いた。
「来るさ。あれが、キマイラ隊の“義理”ってやつなんだろ?」
ブリッジの空気は、依然として緊張感に包まれていたが、ほんのわずかに、その温度が変わり始めていた。
― 《ジャンク》艦 会議室 ―
ミーティングルームの自動扉が静かに開くと、そこにはすでに複数の人影が待っていた。
ジオン軍キマイラ隊からランチで降り立ったジャコビアス・ノード、ジーメンス・ウィルヘッド、そしてその妻エメ・ウィルヘッドの三人は、わずかに警戒を滲ませながらも、堂々と足を踏み入れる。
会議室の中央には長机が据えられ、その向こうにジョニー・ライデン、イングリッド・ゼロ、エイシア・フェロー、ユーマ・ライトニングが並んで座っていた。その背後には、無言のまま睨みを利かせるエコーズの隊員が7名。壁面のモニターには、《ジャンク》艦長のヘンケン・ベッケナーの姿が映っている。
ジャコビアスは一歩前に出て、会議室を見渡した。
「……裏切った全員、生きてるとはな。悪運の強さは相変わらずだ」
その口調に皮肉はあったが、責める調子は抑えられていた。
ジョニーは頭を下げる。
「……すまん、ジャコビアス」
「いいさ。聞かせろよ。お前らがなぜムサイを攻撃し、連邦に加わることになったのかを」
その言葉に、会議室は短い沈黙に包まれる。やがて、場面は語り終えたあとの空気に切り替わる――
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ジョニーは、話を締めくくるように静かに言った。
「……というわけだ。お前たちには申し訳ないと思ってる。だが俺たちは――イングリッドに“兵器か死か”なんて選ばせる連中には、従えなかった」
イングリッドの表情は固く、しかしどこか決意に満ちていた。ジョニーの言葉にうなずくように、まっすぐジャコビアスたちを見返す。
ジャコビアスは腕を組み、少しだけ目を伏せて言った。
「イングリッドが死ぬ可能性で裏切った……その線は考えていたがな。ゼクノヴァを使う兵器の“引き金”にするつもりだったとは、思いもしなかった」
エメが唇を噛んで言葉を続ける。
「でも……ジョニーの言う通りよ。あれを使えば、キシリアはきっとジオンの内乱に火をつける」
「……お前が裏切るのも、納得だな」
ジーメンスが深くうなずく。彼らの表情に怒りや非難の色はなかった。ただ、心からの理解と憂慮が滲んでいた。
ジョニーが口調を変えて問う。
「俺の事情は……話し終えた。なら今度はそっちの番だ。交戦の意思がないって言ってたな? 何しに来た?」
ジャコビアスはちらりとモニターを見やった。そこに映るヘンケンに向けて、声を張る。
「……それを話すなら、まず“通信越し”の艦長さんに聞きたい」
モニターの中で、ヘンケンがやや身を乗り出した。
「何だ?」
「ジョニーの言う通り――今の連邦は、変わったのか? 元ジオンであろうと……正しく使ってもらえるのか?」
ヘンケンは即座に答えた。
「もちろんだ。裏切りの可能性が残っていれば話は別だが……ジョニーたちのように、“仲間のためにすべてを捨てて戦った”者を、我々は差別しない。それが、今の連邦軍だ」
その言葉に、ジャコビアスの口元がわずかに緩む。
「そうか……では、申し上げよう」
彼は一歩前に出て、姿勢を正した。
「我々キマイラ隊の六割は――《サングレ・アスル》および《ミナレット》の戦力も含め、貴軍に降伏し、身柄を預けたい。我々は、ジョニー・ライデンとその“選択”に、同じ命を賭ける覚悟がある」
会議室の空気が、静かに、そして確かに変わった。
それは、かつて敵として戦った者たちが「同じ未来」を見つめ始めた瞬間だった。
― 《ジャンク》艦・会議室 ―
ヘンケン艦長は、慎重ながらも率直に口を開いた。
「……俺たちとしては、降伏してくれるなら受け入れる。ジョニー・ライデンと共に戦いたいというなら、それなりの便宜も図るつもりだが……君たち、本当に裏切って大丈夫なのか?」
その言葉に、ジョニーもまた椅子から身を乗り出す。
「そうだ! お前たちはともかく――キマイラ隊には、ジオン本国に家族を残している隊員も多かったはずだ。そんな奴らまで裏切りに加えたら、報復されるに決まってる!」
ジャコビアスは首を横に振る。
「いや、今ここに来てる6割ってのは……本国に家族を残していない連中だ。たとえ全てを捨てることになっても、お前と一緒に“生きる”道を選んだ奴らさ」
「……だとしても、残りの4割はどうするつもりなんだ? 6割がごっそり抜けたら、裏切りと見なされてキシリアは暴走するぞ!」
ジョニーの焦りをよそに、ジャコビアスはにやりと笑う。
「その件については、もう手は打ってある。……ところで艦長、この艦は今ミノフスキー粒子を撒いてなかったよな?」
「撒いていない。現在は通信クリアだ」
「ならグラナダからの長距離通信も、普通に届くな?」
「もちろんだが、一体何を受信するつもりだ?」
ジャコビアスはふっと息を吐いたあと、モニターに目をやった。
「多分そろそろ流れてると思うんだ。あとは、それを見ればすべてがわかる」
そして、椅子にもたれながら、後ろのジョニーを一瞥してから不敵に笑った。
「……隊長。残された部下たちの命を守るためなら――裏切り者の“汚名”がもう一つ増えたところで、構わないよな?」
「……は? 何を言って――」
― 同時刻 グラナダ居住区・一般放送モニター ―
ジオン市民たちが見守る中、突如、各所のパブリックモニターに緊急ニュースが映し出された。
映像に映るのは、キマイラ隊の制服を着たクリストバル・ラザフォード。顔面蒼白だが、どこか吹っ切れたような表情で、マイクに向かって絶叫する。
「……キマイラ隊のエース、ジョニー・ライデンはッ! 普段から連れていた幼女をキシリア様に差し出せと言われ、それに激昂して反旗を翻しました!」
「あの男、かつてから少女を部屋に侍らせていたくせに、“夕飯を一緒に食ってるだけ”とか言ってましたが! そうじゃなかったんです! 我々は許せませんッ! ジオンの名誉を守るため、我々こそが裏切り者を糾弾しますッッ!」
その告発に、会場の空気が一変した。
― ジャンク艦・会議室 ―
モニターの映像が切れると同時に、ジョニーの額に青筋が浮かんだ。
「……おい、今の何だ」
ジャコビアスは笑いを堪えるように肩を揺らす。
「芝居だよ、芝居。残った4割には“ジョニーをあえて糾弾することで、自分たちの利用価値を演出しろ”ってな。」
エイシアが目をぱちくりさせながら呟く。
「えっと……ロリコンの烙印を押されれば、彼らの命が助かる、ってこと?」
「おう。それに加えて、もう一つ」
ジャコビアスは指を一本立てて言った。
「裏では匿名掲示板経由で、“ゼクノヴァはパイロットを殺す兵器だ”って噂も流させた。もしキシリアが残った4割を始末したら――その“噂が本当だった”って証明しちまう。だから簡単には手出しできなくなるわけだ」
ジョニーは頭を抱えた。
「……お前、絶対許さんぞ、ジャコビアス」
「いいだろ? お前が汚名を背負った分だけ、あいつらの命が延びるってんなら、隊長として本望だろ?」
「本望じゃねえよ!!」
しかしその横で、イングリッドがくすりと笑っていた。ジョニーがどれだけ怒っても、本当に仲間が助かるならきっと許すとわかっていたから。
エメは苦笑しながら言った。
「……あの子たちを守るためなら、これくらいの芝居、安いものよ」
ジーメンスが腕を組み、椅子に背を預けながらぽつり。
「……まったく、俺たちの隊は――バカと天才と正義感でできてる」
そして、誰からともなく小さく笑いが漏れた。
その笑いは、確かに不器用な一団が“生きる”ことを選んだ証だった。
――こうして、キマイラ隊の分断工作は完了した。
本当に裏切った者と、表向き忠誠を装いながらも仲間を守る者。どちらもまた、「ジョニー・ライデン」という男に影響され、自分の信じる道を選んだのであった。
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