ジークアクス世界の闇堕ちアムロ 作:gジェネサイコー
【場所:プラント船《ミナレット》・技術ブリーフィングルーム】
工房区画の一角。整備用コンソールと複数のモニターが並ぶ会議室で、ビダン夫妻と元キマイラの三人は、これからの機体配備に関する話を進めていた。
イングリッドが、端末の設計図を見つめながらぽつりと口を開いた。
「……艦艇の建造で忙しいのは分かるけど、できればアレックスの話の続きを聞かせてくれない?」
その言葉に、フランクリン・ビダンが軽く頷いた。
「ああ、そうだったな。アレックスはもう“連邦の象徴”ではなくなった。だからこそ――適性が高い者がいれば、君たちのために“新しいアレックス”を作ってもいいと通達が来た」
「ま、マジかよ……!」
ユーマ・ライトニングが椅子から跳ねるように立ち上がった。
「イングリッド!ジョニー!……じゃなくてレッド! 俺たちもアレックスに乗れるかもしれないってことか!?」
イングリッドはジト目でユーマを見やる。
「“適性が高ければ”って言われたでしょ、バカユーマ。それに“ジョニー”って呼ぶな。“レッド”って呼べって言ってるでしょ!」
「そうだな」
レッド・ウェイライン――かつてのジョニー・ライデンが苦く笑う。
「テレビで流れてるロリコンのエースってのは俺には関係ないからな。……で、アムロ・レイの動きを見た限り、正直言って、俺たちにあの機体を使いこなすのは無理に思えるが」
フランクリンはそれを否定した。
「そこは問題ない。“君たちが乗るアレックス”は、“アムロ・レイのアレックス”とは別物だからな」
イングリッドが不思議そうに眉を寄せる。
「どういうこと?」
するとヒルダ・ビダンが優しく口を挟んだ。
「連邦のガンダムタイプには“教育型コンピューター”が搭載されているのよ。同じアレックスでも、パイロットと長く行動を共にするほどに、その癖や反応を学習していくの。最強の三人――アムロ、ゼロ、ヤザンのアレックスは、彼ら専用機と言ってもいい」
「つまり、俺たちにはその“特別なアレックス”の後継パイロットになるのは無理ってことか……」
ユーマが、肩を落としてぼやく。
フランクリンは、静かに頷いた。
「実力としては候補だ。ただし、問題は“鍛えた環境の違い”だよ。君たちは今、連邦製のネモに慣れてはいるが、操作感の根本にはジオン式の教育・習熟が染みついている」
「……それがズレになる?」
「そう。ふとしたタイミングで、反応がコンマ単位でズレる。そのズレは、最前線の戦いでは致命的だろう?」
ユーマが悔しそうに拳を握る。
「……俺たちなら、それでも!」
その時、エイシア・フェローがユーマの肩に手を添え、やさしく座らせた。
「――あんまり突っかからないの。ビダン夫妻は、あなたたちが“元ジオン”だからって差別してるんじゃない。あなたたちが戦場で機体と息が合わなくて死ぬ、なんてことがないように言ってくれてるのよ」
ユーマは目を伏せ、しばし沈黙したのち、深く頭を下げた。
「……すまん、エイシア。フランクリンさん、ヒルダさんも……すみませんでした」
フランクリンは、やわらかな笑みを返した。
「いや、いいさ。疑問やモヤモヤは前もって話してくれた方がありがたい。もし君たちが、元ジオンということで連邦兵から不当な扱いを受けていると感じたら、すぐに言ってくれ。我々は、君たちがどれだけ真剣にこの立場を受け入れ、信頼を築こうとしているか、誰よりも近くで見ているつもりだ。だからこそ、できる限りの力を尽くすよ」
その言葉に、イングリッドが感心したように頷いた。
「ありがとうございます。……ユーマ、これが“大人”ってやつだよ。……あんたもこういう大人になりなよ。無理かもしれないけど」
「お前の方が無理だろ! 俺はなる!」
「何ですってぇ!」
レッドが素早くイングリッドの襟首を掴んで抑え、エイシアは苦笑しながらユーマの肩を再び引いた。
「……この2人の喧嘩は気にしないでくれ。いつものことだから」
フランクリンがふっと笑い、言葉を続けた。
「では、話を戻すが――君たちの適性が高ければ、新しいアレックスを建造する。その機体は最強の三人のアレックスには及ばないが、君たちの動きに応じて成長する“教育型コンピュータ”が搭載される。つまり、君たちの個性と戦闘パターンを学習し、機体の反応を助けるようになるというわけだ」
ヒルダがうなずきながら補足する。
「それと、あなた達は“ジオン式訓練を受けた連邦所属兵”として初めてのガンダムタイプ搭乗者の事例になる。将来的には、同じ境遇の兵士のための“基礎戦闘データ”にもなるのよ。あなたたちの戦い方が、教科書になるの」
レッドが肩を竦めて言った。
「……そりゃあ、責任重大だな」
だがその言葉の奥には、確かな意志と覚悟が宿っていた。
淡く光るパネルと起動音の鳴るシミュレーター席の前に、フランクリン・ビダンが立っていた。背後にはヒルダがコンソールを操作し、モニターに映る各機体データの選択を進めている。
「……まずは説明しておこう」
フランクリンが静かに口を開く。
「レッド・ウェイライン、ユーマ・ライトニング。君たちは“オールドタイプ”だ。だから、同じくオールドタイプの“ヤザン・ゲーブル”が乗っていたアレックスを基準にした訓練用データでシミュレーターを試す」
ユーマが目を丸くして言う。
「ヤザンって……最強の三人の1人だろ? そのデータ、俺らが使って大丈夫なのか?」
フランクリンは肩をすくめて答えた。
「設計思想はな。だが安心しろ。ヤザンの動きを学習した“教育型コンピューター”は積まない。だからパーソナルデータとのズレは起きない」
彼はモニターにいくつかの図面を表示しながら続ける。
「アレックスはそれぞれのパイロットに合わせて調整されていて、いわば“個性の違う機体”なんだ。アムロ・レイのアレックスは、ニュータイプ特有の速すぎる反応に対応するため、駆動系が過熱しないよう処理速度を引き上げてある。ゼロ・ムラサメも似た傾向だ」
フランクリンの指が、別の項目を指し示す。
「だが、ヤザン・ゲーブルは違う。彼はニュータイプではない。だが……“獣の勘”のような反射で、ニュータイプと同等の対応を見せる場面がある。だからそのアレックスは、“とっさの不規則な挙動”にも反応できるように調整されているんだ」
ユーマは唸った。
「……じゃあ、それ使って試して……ダメだったら?」
ヒルダが優しく微笑む。
「その時はニュートラル――初期仕様のアレックスでやればいいわ」
その時、イングリッドが横からじとっとした目でユーマを睨んだ。
「気付けバカ……。あんたが“最強の三人のアレックスがいい”なんて言うから、手間をかけてくれてるのよ。――言うことがあるでしょ?」
「うっ……その目、やめろって……」
言い返しかけたユーマだったが、そこでふっと息を吐くと、ビダン夫妻へ素直に頭を下げた。
「……すみません。手間かけてるのは事実です。ありがとうございます。いいデータ、取れるように頑張ります」
フランクリンの口元が、わずかに和らぐ。
「いいんだ。パイロットが求める機体のために、どれだけ手間を惜しまず尽くせるか――それが技術者の役目だと、私はテム・レイの下で学んだ。君たちが“生き残るため”なら、その手間、いくらでもかけるさ」
レッドが一歩前に出て、静かに頷く。
「その信頼に、応えます。シミュレーター、お願いします」
⸻
最初に試すのは、イングリッドだった。
「私はゼロ・ムラサメのアレックスからやってみるね」
シミュレーターのコックピットに乗り込むと、仮想空間に展開されたアレックスが起動。モニターにバイザーが光り、システムが瞬時に反応速度を測定し始めた。
「うっ……! 速っ……!」
イングリッドの指が触れる前に反応するような挙動に、思わず目を見開く。だが、その反応を必死に追い、制御を試みる。やがて、次第に慣れはじめ、制御スティックと推進剤の操作に自信が戻っていく。
ヒルダがモニター越しに確認しながら頷いた。
「……慣れてきたわね。じゃあ、次はフォウ・ムラサメのアレックスに切り替えるわ」
イングリッドの挙動はさらに滑らかになり、最初の挙動と違い“思考と機体の挙動”が近くなったのが分かる。
「こっちの方が少しだけ動かしやすいかも。……ゼロさんのデータより素直?」
「なるほど、やはり傾向に違いがあるな……」フランクリンがモニターを見つめながらつぶやいた。
⸻
次にユーマが乗り込んだ。ヤザンのアレックス。
「うわっ!? なんだこれ……!」
最初の反応速度に驚き、スティックが一瞬逆方向に傾き、仮想敵との距離が大きくズレる。
「俺の意思より機体が速え……!」
だが数分後――かつてジオンで鍛え抜かれた動体視力と戦術感覚が順応し始め、機体が滑らかに敵を撃ち抜いていく。
「くっ……コツは分かってきたぜ」
⸻
そして最後にレッド。
「……さすがに、動きが全部“予想の少し外側”に来やがるな」
彼は淡々とコクピットを操作しながら、最初の違和感を分析していた。感覚が掴めると、むしろ本能に近い操作で応戦し、3分と経たぬうちに仮想敵の動きを捉えて撃ち抜く。
⸻
30分後。
三人は模擬戦訓練モード――複雑な障害物の回避と、正確なターゲット撃破を求められる「タイムアタック演習」に移行した。
照準が障害物の隙間を縫い、反応速度と機体操作の精度が求められる難度の高いコース。
「スタート!」
一斉に開始されたタイムアタックで――
3人は最初こそ戸惑うものの、持ち前の技術と戦場経験を活かし、立て続けに標的を破壊していった。
結果、全員が「最上位クラス」の基準をわずかに下回る程度のスコアを記録し、フランクリンとヒルダの顔に満足げな色が浮かぶ。
「……やっぱり、“実戦の中で育ったパイロット”ってのは違うわね」
ヒルダがそう呟くと、フランクリンも笑みを返した。
「これなら、いずれ“自分専用のアレックス”を持てる日も、遠くない」
シミュレーター室に、静かな期待と手応えが広がっていた。
再び操作台の前に立ったフランクリン・ビダンは、背後の三人に向けて静かに口を開いた。
「次は、教育型コンピュータに蓄積された実戦データを元に再現した“パイロットデータとの対戦”だ。今回は実戦ではないが、かなり近い負荷と戦術パターンで反応してくる」
コンソールに5人の名前が表示された。
『Amuro Ray』『Yazan Gable』『Zero Murasame』『Four Murasame』『Kamille Bidan』
「この5人の再現データを選んでもいいし、他にやってみたい相手がいれば申請してくれ」
フランクリンの言葉に、ユーマが前に出た。
「俺は……アムロ・レイで」
イングリッドとレッドが一瞬目を見開いた。
「いきなり行くの!?」「大丈夫か、ユーマ……」
「分かってるよ、ヤバいのは。でも、あの人に並べる気がしないままじゃアレックスを乗る資格はないと思ってさ」
そう言い残してユーマはシミュレーターへと乗り込み、コックピットを閉じた。
カウントダウンが始まり――
「開始!」
模擬戦空間にアムロのアレックスが出現し、開幕からビットが一斉展開される。ユーマが回避行動に出た瞬間、アムロのアレックスはほとんど同時に回り込み、空間の“死角”を奪う。
その次の瞬間――
《判定:撃墜》
モニターに20秒の数字と共に結果が表示された。
「……は?」
コックピットを開いたユーマが、まだ状況を理解できていない様子で呟く。
「マジかよ……もう終わってたのか……」
フランクリンが静かに補足する。
「……彼のアレックスは、“撃墜してくる”のではなく“死角を消してくる”。それが一流の域だ」
⸻
次に立ち上がったのはレッド・ウェイラインだった。
「……俺はヤザン・ゲーブルで頼む」
「アムロじゃなくていいのか?」とユーマが振り返ると、レッドは口の端をわずかに上げて言った。
「再現データであっても、“ヤバい”のは分かった。今の俺じゃ勝負にすらならん。けど……“獣の直感”ってやつが、どんなものか確かめたくなってな」
シミュレーターが起動し、ヤザンのアレックスが出現する。開幕こそ互いに距離を取り、ビームライフルで牽制し合う戦いが展開された。
「来いよ、ヤザン……!」
レッドが一気に距離を詰め、ビームサーベルを抜くと、ヤザンのアレックスも応じるように白刃を交える。
火花が走る。機体が交差する。
だが――次の瞬間、レッドのアレックスの右脇腹に横薙ぎの蹴りが叩き込まれた。
「ぐっ……!」
体勢を崩した瞬間、ヤザンのアレックスが左腕のシールドを投擲。
それを避けきれずに怯んだレッドへ、ビームライフルの閃光が突き刺さった。
《判定:撃墜》
レッドは無言でコックピットから降り、しばらく沈黙していたが、小さく呟いた。
「……“獣”って、そういうことかよ」
⸻
最後に挑むのはイングリッド。
「私は……フォウ・ムラサメに挑んでみたい。さっきシミュレーターで乗った時、なんだか動きが自分に合ってたから」
「了解。実戦データの再現パターンでセットする」
フランクリンが操作を終えると、模擬空間にフォウのアレックスが現れる。開始と同時に、互いにビットを展開。ビットの軌跡が交差し、空中を縫うように撃ち合いが始まった。
「……すごい。まるで感情が伝わってくるみたい……!」
イングリッドもビットを展開し、丁寧に軌道を重ねながら対応していく。
だが――フォウのアレックスは、ビットで牽制しつつ、間断なくビームライフルを撃ち込んでくる。さらに、死角からの回り込みや間合いの読みも見事で、イングリッドが“主導権を握った”と感じた瞬間には、もう次の手を読まれていた。
やがて――
《判定:撃墜》
コクピットを開いたイングリッドは、わずかに唇を噛みしめながら呟く。
「……私より強いことは知ってたけど……データにも負けるのは……ちょっと、ショックだわ」
⸻
訓練室には静寂が戻った。
だが、それぞれの胸に残ったのは、“負けた悔しさ”ではなく、“戦場を知る者の真剣さ”だった。
そしてそれが、次の戦いへの――確かな糧となっていく。
大型スクリーンには三人のシミュレーション結果が表示され、周囲にはフランクリンとヒルダ、エイシアの姿。そして、コックピットから戻ったイングリッド、ユーマ、レッドが揃って立っていた。
フランクリンが手元のデータパッドを確認しながら口を開いた。
「まずイングリッド。こちらから見る限り、君には“フォウ・ムラサメ仕様”のアレックスが最も合っているように見えたが……実際に乗ってみて、どう感じた?」
イングリッドは即座に頷いた。
「うん。私が乗るなら、フォウのアレックスが合ってると思う。ゼロのは確かに機体性能もサポートも凄いけど……パイロットスキルが高すぎて、そっちの反応についていくのに思考のリソースを取られちゃって、ビットの操作が雑になる」
「ふむふむ……なるほど。そういう感覚なのか。参考になる。ありがとう」
フランクリンは真剣にメモを取りながら頷いた。
その隣で、ヒルダが次の話題に移った。
「じゃあ次は、あとの二人ね。ヤザンのアレックスはニュータイプじゃない分、手動操作が多くて……ある意味では“ニュータイプ仕様”より過敏に反応するけど。どうだった?」
ユーマはやや困ったように頬を掻きながら答えた。
「アムロの再現データに挑んだ時は、20秒で終わったからなんとも言えないけど……模擬モードの時の動きと感触からすると、ヤザンの機体は慣れれば、確実に強くなれると思った」
「良い判断ね」とヒルダが微笑む。
ここでレッドが、話を一歩進めるように問いかけた。
「……先に聞かせてくれ。俺たち3人のアレックスに対する適合値――どうだった?」
ヒルダは即答した。
「問題なし。3人とも、設計適性も反応も十分。今の数値なら、正式にアレックスの新造計画を始められるわ」
それを聞いたレッドは、わずかに考えてから言った。
「……なら、俺の機体は“ニュートラルなアレックス”で頼む」
フランクリンとヒルダが同時に眉を上げた。
「ニュートラル? ヤザン仕様でも、君なら十分に使いこなせそうだったが……」
レッドは少し肩をすくめるようにして微笑んだ。
「イングリッドとユーマは、それぞれ元となるアレックスが明確に合ってそうだろ? なら、1人ぐらいニュートラルなアレックスから始めるやつがいた方が、運用や調整のベースになるだろうと思ってな。そっちも、扱いやすいだろ?」
ヒルダはふっと柔らかく笑った。
「……ええ、その通りよ。現場の負担も調整も少なくなるし、他のパイロット向けのデータ収集にもなる。ありがとう、助かるわ」
レッドは短く頷いた。
「このアレックスの開発は、俺たちだけのためじゃない。後に続く者のためにも、最初から設計されてる方がいいさ」
エイシアがその言葉に頷きながら、小さく微笑んだ。
「……そうね。あなたらしいわ、ジョ……レッド」
ユーマがこっそりイングリッドに耳打ちする。
「なあ、今“ジョ”って言いかけたよな、今」
イングリッドは肘で黙らせた。
「フン!!」「ぐは!」
レッドは聞こえていないふりをしながら、視線をスクリーンへと戻していた。
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